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『しーちゃんと記憶の図書館』第79話
干潮だけの島
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早朝、港はまだ眠っていた。
海斗が借りてきた小さな木の舟が、波間でゆらゆらと揺れている。
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「今が一番潮が引く時間だ」
海斗の声に、しーちゃんと遥さんは頷いた。
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海の上は、朝焼けの光が薄く広がっていた。
水面は鏡のように静かで、オールの音が小さく響く。
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やがて、沖合に白い砂の帯が見えてきた。
それは地図にない、小さな島だった。
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舟を降り、足を踏み入れると、砂の下に固い感触があった。
海斗がスコップで掘り起こすと、古びた木箱が現れた。
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錆びた金具を外すと、中からは海色の布に包まれたものが出てきた。
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布をほどくと、中には手書きの航海日誌と、古い写真。
写真には、若い頃の遥さんの父が笑顔で写っていた。
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「これ……父の船だわ」
遥さんの声が震えた。
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航海日誌には、島や海の物語がびっしりと記されていた。
そして最後のページに、こう書かれていた。
“この島を見つけた人へ。
どうか、海の記憶を次へ渡してください。”
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しーちゃんは、胸の奥で何かが灯るのを感じた。
ここには、誰かの想いが確かに生きていた。




