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『しーちゃんと記憶の図書館』第72話
未完の物語
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しーちゃんは、封筒の糊をそっとはがした。
中から出てきたのは、数枚の古びた紙。
角は少し丸まり、インクはかすれている。
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最初の一行を読んだ瞬間、
三人は同時に息をのんだ。
『この物語を読み終える人が現れたら、
どうか続きを書いてほしい』
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内容は、海辺の小さな町を舞台にした、
少女と旅人の出会いから始まっていた。
しかし、ページの半ばで文章は途切れていた。
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「……ここで終わり?」
海斗が紙を裏返すが、
そこには何も書かれていない。
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遥さんは、ゆっくりと紙を抱えるように見つめた。
「この続きを……私たちが書くのかもしれない」
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しーちゃんは微笑んだ。
「ええ。でもきっと、この物語はただの話じゃない。
誰かの記憶が、形を変えて眠っている」
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塔の窓から差し込む光が、紙の文字を金色に染める。
海の音が、まるで拍子のように響いていた。
その瞬間、三人は感じた。
この旅は、物語を完成させるためのものになる──と。




