70/104
『しーちゃんと記憶の図書館』第70話
海沿いの丘へ
⸻
机の上の一行を、三人は黙って見つめていた。
—
「……行くしかない、ですね」
海斗が、静かに言った。
遥さんも頷く。
「ええ。きっと、その場所が私たちを呼んでる」
—
しーちゃんは、少しだけ迷うように目を伏せたが、
やがて小さく笑った。
「じゃあ、準備をしましょう。
海沿いの丘は、そう簡単にはたどり着けないから」
—
三人は、それぞれ鞄を用意した。
・しーちゃんは、図書館の鍵と古い地図
・海斗は、書きかけの原稿とペン
・遥さんは、スカーフと、あの栞
—
出発の日の朝、
図書館の扉を閉めると、
不思議なことに、風の向きが変わった。
まるで、彼らの行く先を示すように──。
—
丘までの道は、
舗装もされていない細い小径だった。
左右に咲く野花が、足元で揺れる。
遠くに、海と、
その先に小さな塔の影が見えた。
—
「……あれだ」
海斗の声に、二人も足を止めた。
塔は、夕陽の中で金色に縁取られていた。
そこから、かすかな“声”が、確かに聞こえていた。




