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『しーちゃんと記憶の図書館』第69話
境界にある場所
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しーちゃんは、ゆっくりと語り始めた。
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「その場所はね、海沿いの丘にあったの。
灯台のような形だけれど、光は出さない。
代わりに、夜になると中から“声”が聞こえてくるのよ」
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海斗が、息をのんだ。
遥さんも、ページをめくる手を止める。
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「その声は、風が運んでくるの。
遠くで泣いている人の声、
忘れられた歌、
まだ誰にも語られていない物語……
全部、その塔が受け止めていた」
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しーちゃんの瞳が少し揺れた。
「私はね、そこで一冊の本を見つけたの。
それは、まだ“書かれていない”本だったのよ」
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海斗が小声でつぶやく。
「…書かれていない…?」
「ええ。ページは白いのに、開くと心に言葉が浮かぶの。
それを誰かが“書き記す”ことで、はじめて物語になるの」
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しーちゃんは、二人を見て微笑んだ。
「だから、今あなたたちがやっていること…
もしかしたら、その本の続きを書いているのかもしれないわ」
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その瞬間、図書館の窓から吹き込んだ風が、
机の上の原稿をふわりとめくった。
そこに、二人の書いていないはずの一行が現れていた。
──海沿いの丘で、三人は再会する。




