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『しーちゃんと記憶の図書館』第68話
物語が走り出す
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古い机の上には、
二人が書き始めた新しい物語が広がっていた。
海斗は、夜空を駆ける少年のシーンを書き、
遥さんは、その少年を待つ少女のシーンを描いた。
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二つの視点が交わった瞬間、
物語は一気に走り出した。
まるで誰かが耳元で続きを囁いてくるように、
ペンが止まらない。
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しーちゃんは、その様子を奥からそっと見守っていた。
けれど、ある一行に目を止めた瞬間、
思わず声が漏れた。
「…あら? その場所、私も知ってる」
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海斗と遥さんが顔を上げる。
「え? 本当に存在する場所なんですか?」
「ええ。ずっと昔、私もそこへ行ったことがあるの」
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静かな図書館の空気が、
一気に物語の中と外をつなぎはじめた。
その場所は、どうやら現実と物語の境目にあるようだった。




