66/104
『しーちゃんと記憶の図書館』第66話
遥さんの物語
⸻
「これは、私がまだ十代だった頃の話よ」
遥さんは、川を見ながらゆっくり語り始めた。
—
「海のそばの町で育って、
毎日、波の音を聞いていたわ。
でも、心はいつも…
遠くの何かを探していた」
—
ある日、港町に小さな古本屋ができた。
その奥に、誰も入らない薄暗い一角があった。
そこに一冊のノートが置かれていた。
—
表紙には、
“これはまだ終わらない物語”
とだけ書かれていた。
—
「そのノートを読むと、
登場人物が…私の心の奥で息をし始めたの。
そして、続きを書きたくなった」
—
遥さんは、微笑んで海斗を見た。
「だから私、ずっと物語を書き続けてきたの。
でも、その原点が“記憶の図書館”にあったなんて…
今日初めて知ったのよ」
—
海斗は、胸の奥が熱くなるのを感じていた。
それは、まるで自分の人生の始まりと
遥さんの物語が、
一本の糸でつながったような感覚だった。




