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『しーちゃんと記憶の図書館』第63話
会いに行ってもいいですか?
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翌日。
海斗は、描きかけの夕焼けを抱えて図書館にやってきた。
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「……思い出しました」
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しーちゃんが顔を上げると、
海斗の目は少し赤く、でも澄んでいた。
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「名前は、遥さん。
僕より十歳くらい年上で、
毎日公園のベンチでスケッチしてた人です」
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「どうして忘れちゃってたんだろう?」と
海斗は自分に問いかけるようにつぶやく。
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「でも昨日、あの夕焼けを描いてたら、
声まで思い出したんです。
『色はね、気持ちで混ぜるんだよ』って」
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しーちゃんは微笑んだ。
「きっと、その言葉がずっと心に残ってたのね」
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海斗は少し間を置き、
意を決したようにしーちゃんを見る。
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「……会いに行ってもいいですか?」
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その瞬間、
しーちゃんは静かにうなずいた。
「会いに行くことは、
きっと“絵”に色を戻すことになるわ」
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海斗の手の中の夕焼けが、
ほんの少し明るく見えた。




