57/104
『しーちゃんと記憶の図書館』第57話
帰る場所の名前
⸻
最後のページを閉じた女性は、
しばらく何も言わなかった。
—
海斗は、胸の奥で心臓の音ばかりを聞いていた。
—
やがて女性は、
やわらかく息を吐き、
ゆっくりと海斗を見つめた。
—
「……この絵、本当にあなたが描いたの?」
「はい」
—
「じゃあ……」
女性は微笑み、そっと言った。
—
「おかえり、海斗」
—
その言葉は、
海斗がずっと探していた“鍵”のようだった。
—
肩の力がほどけ、
視界がにじんでいく。
—
「……ただいま」
—
ふたりの間に、
静かで確かな帰り道ができていた。




