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『しーちゃんと記憶の図書館』第56話
ただいま、と言えたなら
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買い物袋を抱えた女性は、
驚いたように海斗を見つめた。
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「……海斗くん、よね?」
その声は、ずっと心の奥で響いていた音に似ていた。
—
「……はい」
海斗の声は震えていた。
—
女性は袋を地面に置き、
ゆっくりと近づいてきた。
—
「こんなところまで……どうして?」
海斗はリュックからスケッチブックを取り出す。
ページをめくると、
一枚一枚に詰まった時間が、夕日の光を浴びてきらめいた。
—
「……これを、見てほしくて」
—
女性は何も言わず、
ゆっくりとページをめくり続けた。
海斗はその横顔を見つめ、
心の中で何度もつぶやいていた。
—
(やっと、帰ってこられた)




