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『しーちゃんと記憶の図書館』第53話

見せたい人



夕暮れ時、図書館の窓からオレンジ色の光が差し込んでいた。

海斗はスケッチブックを胸に抱え、しばらく迷っていた。



机の上には、描きあげた港町の絵。

それはただの風景画ではなく、

彼が心の中で何度も歩き直した道だった。



しーちゃんが本を閉じて顔を上げると、

海斗は少し照れくさそうに近づいてきた。


「……この絵、見せたい人がいます」



しーちゃんは微笑んだ。

「それは、ここに来る人?」


海斗は首を振った。

「違います。……でも、きっと会いに行けると思う」



窓の外では、風がやさしく木の葉を揺らしていた。

それは背中を押すような音だった。



彼はスケッチブックをリュックに入れ、

扉の方へ一歩踏み出した。


しーちゃんは小さく声をかけた。

「行ってらっしゃい。絵は、言葉より遠くまで届くから」



海斗は振り返り、

「……帰ってきたら、また見てください」とだけ言って笑った。


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