52/104
『しーちゃんと記憶の図書館』第52話
白いページに波の音
⸻
バスから戻った翌日。
図書館の奥の席で、海斗は静かにスケッチブックを開いた。
—
白いページが、陽の光を受けて淡く輝いている。
しーちゃんは遠くからその様子を見守っていた。
—
鉛筆が紙をかすめる音が、
波の寄せては返すリズムに似ていた。
—
最初に描かれたのは、
水平線の向こうに漂う、小さな光。
次に現れたのは、港町の赤い屋根。
そして、そこへ続く細い坂道。
—
海斗は一度手を止め、
深く息を吸い込んだ。
「……描けるかもしれない」
—
その声は、誰に向けたものでもなく、
自分自身への小さな宣言だった。
—
ページの上で、波が形を持ちはじめた。
それは、昨日の海そのものだった。
—
しーちゃんは心の中でつぶやいた。
「記憶は、描きなおすことができる」




