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『しーちゃんと記憶の図書館』第50話

海を見られなくなった日



「それは……高校二年の夏でした」

海斗は、ゆっくりと日記のページを閉じた。



その年の夏休み、海沿いの町に暮らす彼は、

毎朝のように防波堤に腰かけ、スケッチをしていた。

波の形や光の反射を、飽きもせず鉛筆で追いかけていた。



けれど、その日は違った。

突然、遠くからサイレンの音が響いた。

港の方角から、ざわめきと人の叫び声が混ざって流れてくる。



海斗は走った。

港に着くと、そこには……

見慣れた釣り船が、横倒しになっていた。



「その船に、父が乗っていたんです」


短く告げると、海斗は言葉を止めた。

しーちゃんは黙ってうなずき、彼の沈黙を守った。



事故のあと、海斗は港にも、防波堤にも近づけなくなった。

海を見るたび、胸の奥が締めつけられたからだ。



「だから、この日記の後半は……

 海を描いた絵も、言葉もなくなっていきます」



しーちゃんは、そっと言った。

「でも、こうして話してくれたから……

 海の物語は、また続けられるかもしれませんね」


海斗は初めて、小さく笑った。


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