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『しーちゃんと記憶の図書館』第5話
波打ち際の老人
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海の町に着くと、
潮の香りが一層強くなった。
港では漁船がゆっくり揺れ、
波の音が穏やかに響いている。
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少年は絵と封筒を抱えたまま、
きょろきょろと辺りを見渡した。
「誰に渡せばいいんだろう…」
—
そのとき、
波打ち際に腰を下ろす老人の姿が目に入った。
麦わら帽子をかぶり、
網の手入れをしている。
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しーちゃんと少年が近づくと、
老人は顔を上げ、
少し驚いたように目を細めた。
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「…その絵と手紙、どこで見つけた?」
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しーちゃんは、図書館での出来事を静かに話した。
老人は何も言わず、封筒を手に取る。
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封を開け、中の手紙を読むうちに、
その手がかすかに震え始めた。
「これは…私の姉が書いたものだ」
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少年としーちゃんは、思わず息をのんだ。
老人は海を見つめたまま、
ゆっくりと話し始めた。
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「姉は、絵を描くのが好きな人でね。
この海の景色を“ある友だち”に届けたかったんだ。
でも、その友だちは…港を離れてしまって…」
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潮風が、老人の声をやさしく包んでいく。
しーちゃんは感じた。
この出会いが、きっと物語の“扉”を開く、と。




