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『しーちゃんと記憶の図書館』第43話
返事を書く日
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奥の部屋の机に、
新しい便箋とペンが置かれた。
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女性は深呼吸をして、
水色の封筒を横に置く。
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「……何から書けばいいんだろう」
声にならないつぶやきが、
紙の上に落ちていく。
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震える手で、
最初の一文字を書いた。
『お兄ちゃんへ』
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そこからは、
言葉が止まらなかった。
「心配かけてごめんなさい」
「私もずっと会いたかった」
「帰ってきてもいい?」
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文字は涙でにじんだけれど、
それも全部、この手紙の一部になった。
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書き終えると、
しーちゃんがそっと封筒を差し出した。
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「この部屋の手紙は、必ず届きます」
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女性はうなずき、
封を閉じた。
その指先は、
少しだけ震えていたが、
もう迷いはなかった。




