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『しーちゃんと記憶の図書館』第40話
胸を突く言葉
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ある午後、
雨を避けるように図書館へ入ってきた男性がいた。
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傘から落ちるしずくを拭いながら、
ふと奥の部屋に足を運んだ。
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棚の一番手前、
水色の封筒が目に留まった。
なんとなく手に取り、
中の便箋を開く。
—
『私はここにいます。
ずっと待っています。
だから、いつでも帰ってきて』
—
その瞬間、
胸の奥がきゅっと締めつけられた。
—
自分もまた、
誰かを置き去りにしてきたことを思い出したのだ。
—
遠く離れた街にいる妹。
最後に会ったのは、
もう10年以上も前だった。
—
男性は手紙をそっと封に戻し、
棚へ返した。
だが、その足は出口へではなく、
電話コーナーへ向かっていた。
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震える指で番号を押し、
耳に受話器を当てる。
—
コール音の向こうから、
懐かしい声が聞こえた。
「……お兄ちゃん?」
—
図書館の外では、
雨がやんでいた。




