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『しーちゃんと記憶の図書館』第37話
忘れ物の部屋
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ドアを押し開けた瞬間、
ふわりと甘い紙の香りが漂った。
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部屋は小さく、
窓からの光が柔らかく差し込んでいる。
壁一面に、
色とりどりの封筒が貼り付けられていた。
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「……手紙?」
少女がつぶやく。
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それはすべて、宛名も差出人もない手紙だった。
一枚一枚の封筒に、
小さく数字が書かれている。
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しーちゃんは、
一番古いと思われる封筒をそっと手に取った。
中には、たった一行だけ。
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『ありがとう』
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別の封筒には、
『ごめんなさい』とだけ書かれていた。
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少女は、息をのんだ。
「これ……誰かに伝えたかったけど、
伝えられなかった言葉、なのかな」
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しーちゃんはうなずく。
「きっと、そうね。
ここは“忘れ物の部屋”じゃなくて──
“言えなかった想いの部屋”」
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二人はしばらく、
封筒を手に静かに読み続けた。
読めば読むほど、
その言葉たちは、自分の心の奥にも響いてきた。




