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『しーちゃんと記憶の図書館』第31話
しーちゃんの会えなかった人
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母娘が押し花の前で手をつなぐ姿を見ながら、
しーちゃんの胸の奥にも、
そっと波紋が広がっていった。
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あの日からずっと、
心の引き出しの奥にしまっていた記憶。
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まだ若かった頃、
しーちゃんには手紙だけを交わした人がいた。
会う約束をしていたのに、
その日が来る前に、その人は遠い国で亡くなってしまった。
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「もう会えない」と知った瞬間、
しーちゃんは手紙の束を机の奥に押し込み、
二度と開かなかった。
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でも今、目の前の母娘を見て、
その手紙たちもまた、
「読んでほしい」と待っているように思えた。
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閉館後、
しーちゃんは倉庫の棚から、
古い箱を取り出した。
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中には、色あせた封筒と、
まだ香りの残る便箋がぎっしり詰まっていた。
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しーちゃんは、
ひとつ深呼吸して封を切った。
そこには、
「会える日が楽しみです」と書かれた文字が、
あの日のまま残っていた。
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静かに目を閉じると、
会えなかったはずのその人が、
図書館の奥で本を読んでいる気がした。




