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『しーちゃんと記憶の図書館』第29話
会ったことのない人へ
押し花のそばにしゃがみ込み、
小さな手でそっと触れている少女がいた。
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しーちゃんが声をかけると、
少女は少しはにかみながら言った。
「この花……おばあちゃんが好きだった色かもしれない」
—
少女は、生まれる前に亡くなった祖母のことを、
母から時々聞かされていた。
やさしい声と、花を編むのが得意だったこと。
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机に向かい、
少女は便箋を開いた。
“おばあちゃんへ。
私はあなたに会ったことがないけれど、
きっと笑顔が私と似ていると信じています。
この押し花を見て、
あなたの指先のぬくもりを想像しました。”
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書き終えた手紙は、
封筒に「いつか会えるおばあちゃんへ」と書かれ、
押し花の隣に置かれた。
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その手紙を見た来館者たちは、
自分も「まだ会ったことのない誰か」へ手紙を書きたくなった。
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記憶の図書館には、
過去も未来も、会ったことのない人への想いまで
静かに息づきはじめた。




