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『しーちゃんと記憶の図書館』第28話
君がいた季節へ
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過去への手紙の棚の前に、
背の高い老紳士が立っていた。
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ゆっくりと棚を眺め、
一枚の便箋とペンを手に取る。
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しーちゃんが声をかけた。
「どなたに宛てますか?」
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老紳士は少し笑い、
遠くを見るような目で答えた。
「妻が生きていた頃へ──
まだ、春の花が咲いていた季節へ」
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便箋に走る文字は、
時に震え、時に止まりながらも、
丁寧に続いていく。
“あの日の君へ。
君の作ったスープの香りを、今も覚えている。
あれから何十年経っても、
あの味を越えるものはないよ。”
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書き終えると、
彼は封筒に“197X年の君へ”と書き、
棚にそっと置いた。
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しーちゃんは、手紙の横に
小さな押し花を添えた。
春の記憶が、封筒の中からふわりと広がるように。
—
その日から、棚には「誰か」への過去の手紙も並び始めた。
それはもう、自分だけでなく、
大切な人の記憶をたぐり寄せる場所になっていった。




