三千院・起点と終点2
この男はどこまで恋に疎いのだろう。
「それって失意のドン底って言うんじゃあないの」
じれったそうに夕紀が言い出すと、
「早く言えばそうか」
早く言わなくてもそうに決まってる。本ばかり読んでないで真面な恋をしろって言いたい。
「ここで二人は一体何を話したんだろう」
呆れる夕紀を無視して桜木は、滝川と道子に思いを馳せている。
「それは二人にしか解らないわよ。第一、桜木君は恋をしたことがないんでしょう」
「いや、滝川さんがこの前に言った片思いも入れる恋なら、それはあるけど」
「それって、相手は全く気が付いてない完全無視ではなくて、多少は相手も振り向いて文句を言われたってことか」
「嫌にハッキリ言うなあ。まあそれで一生懸命に恋愛小説を片っ端から読破していったんだ」
ハッキリ言う、それは恋ではない。世間では失恋と言うんだ自覚しろ。
「そうか、それで桜木君は文学部を志したのか。でもそこでは本当の人間は知り得ないからあたしが専攻した文学の講義で、あたしを知って紛れ込んだのね」
「でもあたしは桜木君を一度も大学内で見かけなかったけど……」
紛れ込んだのかどうかは怪しいが美紀は訊ねた。
「美紀が専攻してない科目があったのよ」
そうかと残念がる美紀を尻目にして、さあ思い詰めて高まった処でいよいよ阿弥陀仏様を拝みに行くかと三人は腰を上げた。
辺り一面は苔むす緑に覆われているが、正面の往生極楽院へは十メートルほど切り開かれたように、一本の砂利の道が阿弥陀如来に導くように延びている。そこだけ靴に履き替えて渡り、中に安置された阿弥陀三尊像を拝観する。これが何度見ても飽きないと寺院を紹介する雑誌には書いてあったが、あの二人もこれを見ていたのか。




