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三千院・起点と終点1

 午後の二時前にはバスで三千院に着いた。いつもなら此処で三人は国道から参道を避けて脇道に入るが、今日はバスを降りた観光客の後に続いた。

 桜木は夕紀とは大学内とその近郊で会ってはいたが、三千院は道子さんの本の整理で呼ばれるまで足を踏み入れてない領域だった。ましてこの参道に至っては、今日は三人がそろって初めて歩く道だ。それだけに桜木が今までの認識をどれだけ変えられるか、彼女たちは気を揉んで一緒に歩いている。

 小さな川沿いを登りつめて左へ曲がると、直ぐに中央で石垣が切れた辺りに、少し勾配のある石段の上に山門がある。冬は特に注意を要するが、この季節は苦もなく登れる。

 高い石垣に続く土塀が、まるで城郭のようだと桜木が言えば、郊外の寺院は石垣の高さに変化があるが皆同じようだと夕紀が解説する。それに頷きながら受付を済ませて屋内へ上がり込んだ。

 先ずは中書院から客殿を抜けて宸殿に入る。そこから右に開け放たれた観音開きの扉から回廊に踏み出すと、軒先まで続く五段ばかりの板張りの階段を降りると、辺りを覆い尽くす苔を割り裂くように往生極楽院まで砂利道が続く。ここで一旦手持ちの履き物に替えるが、三人はそのまま階段に腰を下ろした。

「あの往生極楽院の中には慈悲深い阿弥陀三尊像があり、失恋当時の滝川さんはここでこうして物思いに(ふけ)る処を道子さんが見つけて声を掛けた。その時は阿弥陀像に想いを託しているようだったらしいですよ」

 夕紀は宇田川さんの説明をここで引き継いだが、前回も桜木からは何も聞き出せなかった。今日はじっと座り込む桜木に、美紀がその後姿に語りかけた。

 ーーなにか悟りましたか。

 ーー……。

 ーーどうしました。

 ーー今は言葉が浮かばない。

「ここで何を思ってよいか解らないが、無情の恋に執着心は取り除けない。かと言って押しかける気持ちも失せて、それを彼はどう表現して良いか解らない時に、道子さんが声を掛けてくれただけだろう」


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