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光明4

 一般論からすると女は子供を産み育てることを夕紀は考えるが、男はそれより自分は何をしたいのか考える。その接点の中でお互いがこの人と居れば、と先ず考えるところから愛は(はぐく)まれるはずだ。

「失踪した後も、その想いが持続していたと考えれば、二人の取った行動に合点が行くでしょう」

「だから夕べも言ったようにそこが解らない。それならどうして道子さんは来てくれるかも知れないと謂う痕跡を残さなかったのだ」

「だから会いたいけれど、その想いだけで生きられたのよ」

 三千院から真っ直ぐ帰らずにちょっと寄り道をする。そのはずれ道に在るからこそ、そんな想いを抱えた人が、この店にやって来られると父は言っている。

 そう言えば最後に俺たちは滝川さんと一緒にあの店へ寄った。先ず入り口のカウベルからして牧歌的で(なご)ましてくれる、と滝川さんはいたく気に入っていた。そしてあの絶妙にブレンドされた珈琲はあそこでしか味わえない、と遠い初恋に想いを託しているようだった。

「あの珈琲はお父さんが五年も掛かって作り上げたのよ」

 父はあの場所で店を開くには、恋に疲れた女が浸れる味は何だろう、といつも試行錯誤して開店にこぎつけた。

「あのはずれ道で飲むから味わえるのよ。あの珈琲は」

 夕紀は更に父の想いを伝えた。

「そうか」 

「そうよ、処で桜木君は三千院の山門は潜ったことがあるの?」

 美紀までがあの珈琲を絶賛した。

「この前、初めて行った」

 ウッソーと美紀が感嘆の声を上げ「それはないでしょう。じゃあ如何(どう)してその時は何も思はなかったの」と続けた。

「あの寺院は本やネットでよく知ってるから、第一に市内から遠すぎて半日も潰せないよ」

 日がな一日あそこは終日(ひねもす)ように佇める。だから恋に疲れた旅の人が寄り道するらしい。それで桜木が、じゃあ二人の恋を知るためにもまた行くかとなった。


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