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東方幻想腐女録  作者: グラたん
第一章
72/119

第六十六話 天に輝くは星々の光

グラたん「第六十六話です!」

 突如としてパルたちの姿が消え、それを成した張本人に全員の視線が集まった。

 

「師匠!」

「スルトさん!?」

「おまっ! こんな状況で何してんだ!」

「ククク……このような面白い余興に一つ波紋を起こそう」


 スルトの周囲に見た事もない魔法陣が展開し、()()が開始される。


「天に輝くは星々の光。流星になるは神の涙。涙は怒りとなりて地に振り落とさん」


 歯車のように詠唱が混じり合い、徐々に噛みあっていく。ゆっくりと回転していた魔法陣がカチリと音を立てて霧散し、詠唱が終了する。

 空は西側から赤に染まり、太陽を遮って広がっていった。


「な、何!?」

「空が……赤く……」


 その空には見覚えがあり、レミリアは強く身構えた。


「まさか夜を引き起こそうというの!?」

「しかもこれって――!」

「紅魔事変の時の奴じゃねぇか!!」


 紅魔事変。要約するとレミリアは太陽が苦手なため幻想郷を夜だけの世界にしようとした。ついでに世界征服もしようと思っていた。その企みは霊夢の手によって叩き潰されて今に至る。


「さあ試練の時だ。乗り越えて見せよ、博麗の巫女」


 しかしスルトが本当にそれだけで済ませてくれるのだろうか、と考えて急いで外に出て空を見上げた。そして瞠目する。


「――ッ! やってくれたわね!」

「な、何がだ?」

「あれを視なさい!」


 霊夢に促されて各自外に出て空を見上げ、空から赤い流星が迫って来ているのが見えた。この距離からでは流れ星のようにしか見えないが、滞空する流れ星などあってはならない。小粒のように見えても着弾すれば想像を絶する規模の破壊跡が残るのは誰が考えても同じだろう。


「げぇ!?」


 そして魅魔も驚いていた。


「まさか、流星か!? ってか何でお前も驚いてるんだよ!」

「こんなになるなんて聞かされてねぇよ!! 畜生!」


 スルトはその反応で満足したのか漆黒の外套を大きく広げ、両腕を大きく広げて魔王の如く高笑いした。


「ククク……ハハハハハ! 毒を食らわば地獄までだ」

「てめぇぇぇぇこの野郎ぉぉぉぉ!!」


 霊夢はこの反応から魅魔とスルトは結託しているわけではないということを判断する。次いで、結託はしていないが何かしら共通する事象に片足を突っ込んでいると推測した。

 まあそれよりも現状をどうにかしなければいけない。


「ああもう最悪! 何てことするのよ! 幻想郷を滅ぼす気なの!?」

「滅ぶならそこまでだ。タイムリミットは一週間。魅魔の術式を壊せば其方たちの勝利、破壊できなければ魅魔の勝利だ。ではな」

「待ちなさい!」


 霊夢が手を伸ばすが掴む寸前で転移され、空振りに終わった。ついでに魅魔も連れていくあたり推測は確証に変わった。


「くそっ!」

「どうするんだよ、コレ! なぁ!」


 魔理沙とてゐが悪態を付き、霊夢は比較的冷静に指示を出した。


「――やるしかないわよ。魔理沙は香霖堂に行って里人がパニックにならないようにして。途中でアリスを拾っていきなさい。レミリアたちは守矢の事変を解決しに行って。何なら紅魔館総出で動いて頂戴。可能なら幽香たちも動かして。てゐはイナバ、輝夜、妹紅、妖夢たち、さとりたちに協力して貰って住民の避難を最優先して」

「了解!」

「分かったわ」

「冗談言ってる暇はなさそうだな」


 そうなると、と魔理沙は問う。


「霊夢は?」

「私はメンタを荒療治した後、守矢に急行するわ。ついでに射命丸でも連れて行きましょうか。あのブンヤ共なら絶対食いついて来るわ」

「了解。こっちも終わり次第向かうぜ」

「なるべく早くね。……きっと、総員で当たらないと今回は解決出来ないわ」

「その心は?」

「紫、パル、永琳を連れ去った上に魅魔までいる。そして恐らくは幽々子、神奈子、諏訪子を確保しているはず……もしかしたらさとりも確保されているかも? いや、その可能性を考慮するなら――」


 ――要するに総力戦ってことだろ。

 霊夢が結論を出しつつも思考の壺に入ったため魔理沙は概ね了解して箒に跨った。


「悪いがあまり時間ないから先行くぜ!」

「あ、ちょっと!」


 魔理沙が飛び去り、レミリアたちも動き出した。


「事は一刻を争います。レミリア様」

「ええ、行きましょう」

「急げ私!」


 そういえば美鈴もいたなぁ、と思って見送ると全員出払っていることに気付き、残されたのは純美少女になったメンタだけだ。


「……どっちが得なのかしらね」


 ボソリと呟いてメンタの方を振り返った。





 魅魔を連れて転移したスルトは守矢神社へ戻って来ていた。

 ただ、全く予定外のことをされた魅魔はスルトの両肩を掴んで激しく揺さぶりながら怒声を浴びせていた。


「おーまーえーなっ! 何でわざわざあんな真似した!? これじゃ当初の予定が狂っちまったじゃねぇか!」

「ククク……知ったことではない。そもそも其方が早苗の住まう守矢神社に術式を仕掛けたのが悪い。報復だと思って死ぬ気で奴等の遊び相手をしてやれ」 


 守矢神社の本殿には魅魔が仕掛けた異変の魔法陣が仕掛けられており、スルトはそれを知って魅魔への報復として今回の事変を拡大させていた。


「出来るかぁぁ!! 明らかに人数連れてくるだろうが!」


 そんな怒声もどこ吹く風、本殿に張られていた魔法陣を取り外して流星の魔法陣も組み合わせて魅魔の背中に擦り付けた。


「えっと、スルトさん、その人は一体どなたなのでしょうか?」


 守矢神社にいるということは当然神奈子、諏訪子もいる。気絶から立ち直った早苗は魅魔と先程会っているが、詳しいことは知らなかったりする。


「魅魔だー」

「霊夢と魔理沙の元里親と言ったところだ」


 二柱からの説明を受けて早苗はなんとなく納得した。


「……納得しました。何処かあの二人に似てるなーって思いました」


 だろうな、と諏訪子たちも頷く。スルトも頷き、視線を外した。


「うむ。さて――」

「……なに?」


 スルトが辺りを見渡してみるとまず目があったのがパル。次に連れてきた幽々子と紫。永琳は居ても居なくても良いためアフターケアに備えて永遠亭に返した。


「スルト~」


 スルトに逢えると分かって上機嫌で和装に着替えてトテトテと駆け寄って来るのは幽々子だ。その合間に入るのは早苗。


「離れて下さい!」


 渡すまいと正妻感を出しつつ幽々子を牽制し、魅魔も紫も苦笑いする。


「見事に協調性の欠片も無いですね」

「そりゃ、スルトが無理やり連れて来たからな」

「しかも逃げられないように能力制限までして……」


 はぁ、と紫が制限を解除して背伸びした。


「しかし彼女たちの強化はそろそろ行うはずだったのだろう?」

「それはそうですが……」


 紫も霊夢と早苗は巫女であり、巫女は幻想郷の天秤のためどちらが強すぎても弱すぎてもいけないと考えている。


「それに早苗の強化は必須になろう」


 そこはスルトも同様で、自然と視線が早苗に集まる。


「へっ? 私、ですか?」

「元からその計画は在ったんだよ。早苗の能力は強力だけど、まだ神域に至ってない」

「神域?」

「要するに巫女の必殺技『神降ろし』だよ~」


 幻想郷に到着した時に与えられる能力にもよるが、巫女は能力を使い続けるとやがて神域と呼ばれる領域にまで達することがあり神の一部の力を其の身に降ろして使うことが出来るようになる。それが所謂『神降ろし』と呼ばれる技術だ。


「その点、パルは依姫がいるから問題はなかろう」

「依姫……?」


 とはいえ今までの事情を知らない早苗にしてみれば何を言っているのだろうと思っても仕方がない。スルトも説明不足だったと思い頬を掻いた。


「……最初から説明した方が良さそうだな」


 ふと、何処からか風を切る音がする。


「おまたせしました~!」


 上空から白い翼を羽ばたかせ、頭には白毛の犬耳がある少女がまっすぐスルトに向かって突撃してくる。


「ふむ、ちょうど来たようだな」

「スールートーさーん!」


 そんな抱き付き攻撃に対してスルトも優しく受け止めて支える。すると隣にいた早苗が鬼も唖然とする形相でキレ、素早く袖に手を入れて弾幕を取り出した。


「弾幕発動! 緑符「スプライトレーザー」!!」


 薄緑色のレーザービームが曲線を描いて飛翔し、彼女に突き刺さろうと迫る。


「おっと」


 対し、スルトも絶対防御を発動させて間一髪レーザーを防いだ。


「退けて下さい! そいつを殺せない!」


 スルトは苦笑いしつつブチ切れている早苗をなだめようと試みる。


「殺すな。彼女は犬走椛、余の忠実な――」

「奴隷です♪」


 椛の容赦ない一言で場の空気が固まった。


「……」

「……」

「……死ねばいいのに」


 それどころか女性陣から冷ややかな視線を頂き、スルトは不利を悟りつつも否定する。


「誤解だ。彼女は余の情報網だ」

「そうですよ。私はスルトさんの生活から下着まで全て管理しているだけです」


 それを世間はヒモニートと言う。

 スルトも流石に椛を離し頭を抱えた。


「要らぬ誤解を与えるな。面倒だ」


 椛も満足したらしく元気良い返事を返した。


「はーい! あ、ちなみに早苗さんが懸念していることには該当しないのでご安心を~」


 言外に『正妻の座は狙っていない』という宣言を頭の中で描いた早苗はケロっと普段の顔に戻りホッと息を吐いた。


「そう? なら良かった」

「うむ。……それと」


 今度はスルトが鋭い視線をパルに視線を向けた。


「な、なに?」

「そろそろその口調を止めて貰おうか。依姫」


 もうそろそろ必要無いだろうと視線で告げると、依姫も応じて口調を変えた。


「――なんだ、気付いてたんだ」

「それだけの力があるのに治療に手間取ることもあるまい。中でパルも嫌そうにしているぞ」


 依姫が霊体化してパルの中から出て、やけに嬉しそうにしている。


「それがまた可愛いんだって!」

「うう……ごめんね、皆」


 代わりにパルは気まずそうな表情で落ち込んでいる。


「……って、おい! 姫!?」


 返り、依姫を見るなり魅魔が飛びかからん勢いで詰め寄った。


「あー……魅魔ぁ……」

「お前っ! いるならいるって言えよ! 超心配したんだぞ!」

「それは……悪かったよ」


 その態度にはスルトも意外そうに眉を上げた。


 ――ふむ。依姫の友人関係は完全に一人というわけではなさそうだな。


「そっかそっか! この嬢ちゃんに憑いてたんだな」


 バンバンと背中を叩くと依姫は嫌そうにしつつも答えた。


「ちゃんと契約しているからね。それで魅魔は何故ここにいるの?」

「とある人から霊夢たちを鍛えてくれって頼まれてさ。ま、この馬鹿のせいで色々台無しだがな」


 スルトを親指で指差し、口をへの字に曲げる。依姫はスルトを一瞥し、ちょっとだけ目を細めた。


「ふぅん……」

「案ずるな。流星あんなものを幻想郷には落とさんよ。紫との契約もあるのでな」

「契約?」


 パルが問うとスルトは不敵に笑んだ。


「ククク、それは言えんよ」

「き、気になる……」


 人というのは言えないと言われると余計に気になるものだ。それを察してか諏訪子が縁側から飛び降りて早苗に近づいた。


「さて、と。そろそろ修行を始めよっか」

「そうだね」


 神奈子も頷いたところでスルトは魔法陣を展開し、一度に多重の魔法を行使した。


周囲対物理防御エル・エンスパイア・ガード周囲対魔法防御エル・エンスパイア・ウォール周囲防音エンスパイア・スニーク、空間拡張、時空拡張、時間圧縮、疲労回復時間短縮アレイジ・アレイル肉体疲労回復範囲拡大ディス・アレイル精神耐性付与メンタルエンハンス


 主に周囲に迷惑をかけないようにするための魔法と疲れを軽減する魔法を使っている。それを見た魅魔は本当に苦々しく顔を渋めた。

 幻想郷において魔法を行使できるということは特殊な才能に恵まれていることを意味する。陰陽師院はその集まりだが、魔法式を短縮することは出来ても無詠唱は魔法の質を落とすと考えられているため詠唱しないというのは良くないことだ。魅魔も魔理沙と霊夢にそう教えているし、霊夢もメンタにそれを良く言い聞かせている。

 人間が最大で使える魔法は3個。それ以上は脳に異常をきたすため禁止されている。加えて魔法の同時行使をした場合、いかなる魔法であっても魔力反発による相殺が起こる。そのはずなのだがスルトはどうやってか無詠唱且つ同時行使をしている。

 魅魔も大概は『化け物』と呼ばれるのだが魔法は一つずつしか使えないし無詠唱は出来なくはないが魔力の質が著しく落ちるため滅多にやらない。


 ――この……化け物め。


 魅魔は内心で悪態を付き、得体のしれない真に化け物を見るように怯える。

 余談だがメンタも魔法を使うことは出来るが、術式に書き込んで良いということを知っているため詠唱全てを書き込んで発動させ、無詠唱のように見せている。 


「いつもありがとね」

「この程度お安いごようだ。代わりにしっかりと鍛えてやってくれ」

「勿論!」

「おう!」


 早苗の元には諏訪子と神奈子が付き、スルトは椛に偵察を頼む。


「椛は結界の外に出て霊夢たちの動向を探り、集めた戦力と策を報告してくれ」

「はーい!」


 椛は翼を広げて博麗神社の方へ向けて飛んで行く。


「さて、此方も始めようか」


 パルたちの方に振り返り、その前に依姫が立ちはだかった。


「むっ、パルはやらせないよ」

「お姉ちゃん……」


 スルトは軽く手を横に振って決戦を否定する。


「案ずるな。パルにしろ其方にしろ勝てる者は早々いない。しかしパルが依姫の能力を自由に使えるようになれば今後の戦闘が捗るのではないか?」

「……それは」


 スルトの提案に依姫は少々迷う。確かに戦闘は捗るし強くもなれるが、果たしてパルを強くした場合守る必要があるのか、と考える。その時、自身は必要なくなるのではないかとも考えるが――パルが先に答えてしまい余地は無くなる。


「やってみようよ、お姉ちゃん。ボク、もっと強くなりたい!」


 ――ま、僕も強くなればいい話か。

 そう前向きに考えることにして依姫は頷いた。


「分かった。パルが決めたのなら僕も協力するよ」

「ありがとう。でも具体的には何をするの?」


 うむ、とスルトは頷いてスキマから立脚しているホワイトボードとペンを取り出す。


「まずは現在の状況について説明しよう。前提として、依姫は元々月の巫女であり持前の能力は『神を降ろす程度』というものだった。これは巫女の奥義とでもいう攻撃方法であり、幻想郷では最強の攻撃手段だ。しかし、依姫はその上の『神を纏う力』を得ている。パルは巫女で無いため扱えないのだが……依姫がいれば話は別だ。それに精霊契約は出来ているようなので後はパルが使いこなせるようになるだけだ」

「使いこなす?」


 スルトは肯定し、ホワイトボードに人型と霊体を描いて頭部に丸印を書き込んだ。


「其方は気付いていないかもしれないが、依姫の能力は強すぎるためパルの意識全てを乗っ取って使用される。肉体も該当する」

「そうなの?」


 依姫の方を向くと、依姫は頷いた。


「うん。パルが危険に晒された時限定で使用可能になるけどね」


 主に幻想郷に来た時やフランドールに殺されかかった時、地球で魔族にやられかけた時等々記憶が飛んでいる節は多々ある。


「それを自力で使えるようにするのが目標だ」

「分かった!」


 パルが大きく頷き、スルトが説明を続けようとする。


「差し当たっての説明だが――」

「それは僕がするね。やり方は簡単、合体するだけだよ!」

「合体……」


 パルの脳内ではロボットが合体するイメージが真っ先に浮かび、同じくパルの思考を見られる依姫は手を振って否定した。


「違う違う。僕がパルの全部を支える感じ……えっと、例えるなら――」

「『神衣かむい』と言えば通じるだろう」 


 神衣かむいとはチェイルズオブゼステリャの必殺技で人間と聖霊が融合し、力を何倍にも高める技だ。しかし使えるのは主人公のみに設定されており使用後は能力値が下がることから使い勝手は悪いが強力な技となっている。

 スルトの分かりやすい説明にパルは納得する。


「――なるほどね」

「くっ……!」


 代わりに依姫は恨めしそうな視線でスルトを射抜き、スルトはスルトでニヤリと笑った。


「勿論、最初は余も補佐をする故、気を楽にして失敗すれば良い」

「失敗が前提なんだね」

「其方のポテンシャルがあってもそれだけ難しいことも意味している。後は……相性だが、これは問題ないだろう」


 ――問題はパルたちよりも早苗たちの方がだがな。

 横目で早苗を視認し、戻す。既に実力がある二人とは違って化け物勢の中では早苗はあまり強くない。弾幕を使えるとしても中の下くらいの戦闘力でしかなく、戦闘モードの霊夢にボコされるくらいだ。


「うん! 僕とパルは相性バッチリだからね!」

「そういうことだ」

「よぉし、早速やってみよう! 合言葉を決めておくとやりやすいかもね」

「じゃぁ、やっぱり『神衣』が良いよ。分かりやすいからね!」

「オッケー! それじゃ、行くよ!」

「うん!」

『神衣!!』


 依姫がパルの中に入り、神纏の要領でパルの全身を包む感じで感覚を広げていくが――パルの方が違和感に耐え切れずに依姫が追い出されてしまう。そも、神衣かむいは二人の人格を強制的に一つにしようとしているのと同じことなのだ。


「んっ!」

「わっと!」


 弾かれるようにして二人ともに地面に倒れる。


「まあ当然だな」

「う~、だるい……」

「そう簡単に成功はせんよ。そもそも人間と精霊――と言って良いのか分からんが、元は相容れない存在だ。『神衣かむい』自体も両者に多大な精神負荷をかける」

「それは分かってるけど……」


 う~、とパルが悔しそうに歯噛みしつつ立ち上がり、時間をかけ過ぎると霊夢たちが来てしまうためスルトはヒントを与えることにした。


「ヒントをやろう。……何故得意の数字を弄らないのだ。肉体的波長を合わせれば成功率は上がるはずだ」

「あ……!」


 そういえばそうだった、とパルは思い出し依姫も背後に待機した。


「そうだね。やってみよう」

「うん。何時でも良いよ」

『神衣!』


 同時にパルも能力を発動して依姫を受け入れるための態勢を整えていく。常々咲夜に言われていた実数ではなく感覚調整のため難易度は高い。

 先程までは輝いていた光も徐々に落ち着き始め、薄い青色になっていく。パルの背中から対の羽が生え始め――そこでパルの調整がズレてしまい失敗してしまった。


「ううっ……」


 またしても弾かれてしまい、依姫も悔し気に呻いた。


「ふむ、波長も相性も問題ないとなれば後は慣れだな。……早苗、少々此方に来てくれ」


 恐らくはパルたちの方が先に習得するだろうと思いつつ、早苗を手招きする。


「はい」

「早苗にも神降ろしを習得してもらう。パルと依姫も客観的に見てみた方が分かることもあるだろう」


 早苗の背後に寄り、その肩に手を置く。


「まずは依姫がパルを乗っ取った状態を見せよう」

「えっと……」

「すまないが少し体を借りるぞ」


 早苗が困惑するのにも関わらず憑依し、うす暗い邪気を体から漂わせる。


「と、こんなものだ」


 スルト自身はそこから動いておらず早苗の意識だけ無い状態だ。


「スルトさんも早苗さんと精霊契約しているの?」

「無論だ。それに早苗が知らない間に神奈子と諏訪子も契約している」

「それは言ってあげた方が良いと思うけど……」

「無論、後に言おう」


 憑依を解除し、早苗の体から力が抜けてガクンと膝を付いた。


「――はぁ、はぁ……」

「今のが今までのパルと依姫だ。早苗、辛いか?」

「い、いえ、まだ大丈夫です」


 長時間は無理か、と考えつつも早苗がやるというのであればやることに決め、手を貸して立ち上がらせる。


「無理はさせんよ。波長は余が合わせる故、早苗は気を楽にしてくれ」

「はい……」


 2度深呼吸させ、今度は背後から両肩に手を置いて告げた。


「では――神衣」


 スルトの全身が早苗の中へと吸い込まれ、早苗の波長に合わせたまま神降ろし状態を発現させる。早苗自身も感覚の違いに気付き、全身から溢れ出る邪悪な力と気配に戦慄する。


『こ、これは――』


 容姿や髪型はそのままに、衣服が再形成されて全身黒ずくめのドレス姿へと変化する。肩は大きく露出し、ドレス自体も膝上7cmと中々際どい。胸部もV字のため露出が非常に多く、女性でも目のやり場に困る衣装だ。

 しかし一番違うと分かるのは手足が猛禽類の爪のようになっていることだ。額からもチョコンと二本の角が生えている。


「早苗が何か禍々しくエッチな感じになってる!」


 パルの思わず出た感想に早苗は驚愕する。


『パル!?』


 しかしスルトがやっても強制解除は免れず、時間が来ると大きく後ろに飛び退かされた。


「ぐっ……!」

「きゃっ!」


 そうすると早苗が前のめりに倒れ、


「わっと!」


 前に居たパルが受け止めることになり、


「ふふん」


 背後待機していた依姫が役得する。


「……持って三秒か……」

「あう……力が入らない……」


 今度こそ足腰立たなくなって座り込んでいる早苗の方に寄り、だいぶ疲弊した様子でスルトは続けた。


「早苗、余を纏った感覚は説明できそうか?」

「えっと……具体的に、の方が良いですか?」

「可能ならな」


 早苗は果たして言って良いものか、と考えつつも言わなければ先に進まないと考えて言葉を選びつつ続けた。


「そ、その……スルトさんの力って凄く冷たいんです。それに邪気と悪意が多くてまるで大妖怪を相手にする、みたいな感覚でした」

「大妖怪……」


 ふと思い浮かぶのはレミリアやフラン、はたまた紫やさとり、萃香等々。


「その点、僕は善良な精霊さんだからね!」


 依姫が腰に手を当てて勝ち誇ったように笑う。


「否定はしない。余の力の大半は『絶対悪』だ」

「ぶっちゃけるならまんま邪神だからね」


 諏訪子の容赦ない指摘にパルはちょっと後退る。


「案ずるな、余とて常時邪気を振りまいているわけではない。姿を変えてみようか」


 普段の姿とは打って変わり、仮面を外して衣装も黒のローブから白のローブに変える。邪気を聖気に変え、手には宝石の嵌った長い杖を持った。

 すると辺りに精霊や魔力蝶が寄ってきてスルトの周りに溜まり始める。


「むぅ~」

「温かいね」

「これは……?」


 依姫は拗ね、パルは宥めつつも辺りを見渡し、早苗はその力を問う。


「余の半分を占める力だ。恐らくは此方の方が相性が良いだろう」

「でも、両方使えたら大きな戦力になりますよね?」


 早苗の何気ない質問にスルトは笑みながら仮面をつけ、聖気を消した。精霊たちも邪気に当てられて散ってしまい何処かへ飛んで行く。


「ククク……可能ならな。さて、続きだ」

「はい!」

「負けてられないね!」

「うん!」


 早苗が立ち上がるとパルたちも練習を再開しようと立ち上がった。

 今度は諏訪子たちが早苗の傍に付き、神衣かむいを発動させようとする。それを遠目に紫は幽々子とお茶を飲みつつ見学している。


「『大きな戦力』ね」

「まあ若いということでしょうね」


 ふふふ、と笑い声が響き幽々子は扇子を広げて口元を隠す。


「ったく、当人の気も知らないで良く言うぜ」


 そこへ魅魔も熱湯を片手に縁側に座った。


「あんな力の何が良いんだか」


 スルトを見ると、魅魔の視界には底知れない悪意の塊が映っている。幽々子の細めた眼には死霊と憎悪に塗れた血の手足が浮かび、紫には後悔と怨念が渦巻いてみえた。

 神衣かむいの影響もあり今のスルトの周囲はいつもより邪気が多い。元凶とはいえそれを全て自身に取り込んでいく辺り、性格の良さが分かろうものだ。

 だが、一体どれだけ生物を殺せばああなるのか――魅魔は分からなかった。


「あの気配、良いですよね~」


 魅魔が半眼で幽々子を見ると、ゾクッと全身の毛が逆立つくらいに暗くて恍惚とした笑みを浮かべており、そっと視線を正面へ戻した。

 飲んだ熱湯の熱さはイマイチ感じられなかった。


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