第六十七話 ア、ア、ア、アブラアゲブロ!?
グラたん「第六十七話です!」
数時間して霊夢たちはメンタを元に戻すべく陰陽寺院へとやってきており、理事長と面会していた。事情も概ねを説明し、理事長は書類に判子を押した。
「そういうわけだからシンは連れて行くわね」
「止むを得まい」
「それで、メンタは?」
「あいつはあいつで元に戻って貰わないと困るからね。腐って貰うわ」
霊夢の真面目な姿勢に理事長は書類を傍に放り、冷たくなった緑茶を口に含んだ。
「本当、そのやる気を何でいつも持ち合わせてないのか……」
「五月蠅いわね……。用件はそれだけよ。ついてくるなら勝手にして」
シンが来るのであれば枢も来るのだろうと霊夢は予想し、傍で書類を整理していた枢が頷いた。
「此方の心情も把握済みか」
ドサッと段ボールを置くのはフールエンリルたちだ。式神ということなので枢も遠慮することなく荷物持ちをさせている。
「たっくよぉ……何が悲しくてもう一度赤毛を腐らせにゃならんのだ」
「全くよ」
「あのままでよいのに……」
「くぅぅ……」
四者四妖の返答を聞き流しつつ霊夢と枢はメンタがいるだろう教室へと向かった。
教室では同士たちがこぞって集まり薄い本から厚い本までかき集めて総出でメンタを腐らせていた。
「で、どうなったの?」
「あと二時間もあれば完全に元に戻るはず」
「こ、こんな破廉恥なの……ううっ……あ、頭が……」
「さあ、思い出して!」
「裸エプロンこそが正義よ!」
「もっと、もっと腐って!」
薄い本と下着と露骨なエロに囲まれて一人の少女を無理やり腐らせて治す、というあまりにも残酷な行為に枢はそっと視線を逸らした。
「この世の終わりを見ている気がする」
「同感。戦闘技術さえ元のままなら良かったんだけどね」
「ううう……」
縁側ではパルから逃げてきた萃香と星熊勇儀もおり、薄い本を片手に酒盛りをしていた。
「ほほー。ぐびっ」
「ごくごく……案外悪くないねぇ」
「正気とは思えない構図ね……」
鬼もかくや。やはりメンタには腐女子を増やす才能があるのだろう。
一方、紅魔館では風見幽香を筆頭に各所から呼び寄せた妖魔たちを前庭に集め、レミリアたちはミーティングを行っていた。
「フラン、美鈴」
「――はい」
「何か嫌な感じがするね」
レミリアは上空に指を差した。空は赤黒く染まり、紅魔事変を彷彿させるような不気味な光景だ。
「ええ、異変よ。空を見て分かる通り、隕石が落ちてくるわ」
「あれを潰せば良いの?」
フランがじっと見つめる先にあるのは隕石。レミリアも念の為確認してみるがフランの一撃必殺技が決まる『眼』――具体的には『命』は無い。
「いいえ。アレに『眼』は無いわ」
「ちぇー」
ちょっと残念そうなフランに苦笑いしつつ、ようやく到着したらしい三人に眼を向けた。
「お待たせしました」
「こっちも良いわよ」
「いつでも」
レミリアが今回呼んだのは風見幽香と射命丸、さとりたち地底勢だ。
「上出来よ。そして幽香、射命丸、さとりたちもよく来てくれたわ」
「ふふふ、隕石を落とされたら華が散ってしまいますからね」
幽香はやる気満々だが今回の事を記事に出来ない射命丸は二割増しでやる気なさそうにしている。
「あんまり気乗りはしないけど」
さとりたちはレミリアとパルのために地底から駆けつけてきており、背後の荷台には大量の食糧が詰まれていた。
「他ならない貴方の頼みだからね」
「それにパルお姉ちゃんは私が助ける!」
「あの料理を!」
「もう一度食べるまでは死ねない!」
『サー、イエッサー!!』
その背後にはパル姫新親衛隊と書かれた横断幕と旗を掲げた妖魔が待機しており、ちょっと苦笑し、一度眼を瞑って翼を大きく広げた。
「一部お呼びでない奴等もいるけど……まあ良いわ。これより守矢神社に攻撃を仕掛け、事変の収拾を図る。――出陣」
『おおっ!!』
吸血鬼らしく牙を剥きだしにして敵意のままに号令をかけ、妖魔はそれに呼応する。
ちゃんとしていればあるはずのカリスマが今ようやく発揮されていた。
一方で永遠亭も戦支度を整え、魔理沙、アリス、妖夢もそこに合流して待機していた。
「つーわけで、準備良さげか?」
「はい」
「頑張るっ」
『イー!』
モブ兎たちは揃って覆面を被り、オマケで付けられた妹紅もノリで右手を上げた。
「いー!」
「ふ、フフフ……今度こそ役に立ってみますよ」
そこには覆面姿の霖之助の姿もあり、背中には天下無双剣を装備していた。
「無理」
アリスに一刀両断され、地に伏した。
「ぐはっ!?」
「そのくらいにしてやれ、アリス」
「……魔理沙がそういうなら」
少し離れたところでは妖夢が精神統一をしており、好き勝手に騒ぐ彼女たちを視て里からの援軍である慧音は呆れていた。
「全く、遠足ではないのですよ」
「呼びかけに応じたのはこれで全員ですか?」
輝夜が聞くとあらかたを見て永琳が頷いた。
「そうですね」
「おっし、何人か足りねぇけど行こうぜ!」
『おー!』
まるで遠足にいく子供のように彼女たちは地を蹴り、空を駆けていく。
守矢神社では明かりが焚かれ、哨戒していた椛が戻って来た。
「スルトさん、来ちゃいましたよー!」
中指と人差し指で駒を挟み、パチンと音を立てて将棋をしているのはスルトと魅魔だ。その片手間でスルトは篝火を量産して辺りに浮遊させている。
「ふむ、左様か。飛車取り」
「ぐわああああ!?」
致命打を食らわされ、魅魔が発狂する。
前庭ではパルと早苗が神衣を練習しており、先程から絶え間なく気合いの声が響いている。
「はぁぁぁ!!」
パルは依姫とだけ神衣をするが、早苗は神奈子、諏訪子もしくは両方と同時に神衣をするため疲労はパルよりも多い。
その疲労もスルトの魔法術式によって緩和と急速回復しているので少し息をつけば回復することが出来る。
「くっ――」
「そろそろ休憩する?」
「まだまだこれから!」
早苗のスペルカード、緑符「スカイサーペント」小さな直線流星弾幕がパルを襲う。
「それっ!」
それをパルは打ち返し、鮪包丁を五本に増やして投げつける。
「なんの!」
見切り、躱してズレを調整していく。
遠目に見ていたスルトは口元に手を当て、少し考えた後でスルトは作業の手を止めて思考している魅魔へ告げた。
「今少し時間が必要みたいだな。どれ、時間を稼ぐとしよう。魅魔」
「待て! 後一手打ってからだ!」
その魅魔が角を動かして銀を取り、してやったり顔でスルトを見た。
「……」
スルトは数秒間もなく飛車を王から数マス横の位置に置く。
「詰みだ」
「ま、まだだ!」
「無駄だ。このまま続けても四手で終わるぞ」
「勝負は終わるまで分からない!」
「……好きにしろ」
その四手の合間、椛は二重にハラハラしながら対局を見守っていた。
時間にして五分後の四手後、スルトが王の左斜めに銀を置き、完全に詰んだ。
「終わりだ」
「ぎゃぁぁああああああ!!」
思いっきり頭を掻き、魅魔は絶叫する。
「あのぉ……もう階段付近まで来てますよ」
椛の心配にスルトはようやく腰を上げ、頭を撫でた。
「案ずるな、入り口前には神奈子と諏訪子の結界がある。彼女たちと言えども早々突破は出来んよ。魅魔も行くぞ」
「もう一回! 次は勝つから!」
「事が終わったらな」
「約束だかんな!」
はぁ、とスルトは溜息を吐き、前庭で戦っている二人に待ったをかけた。
「やれやれ……。ともかく、パル、早苗」
声をかけられて一旦動きを止め、神衣も解いて言葉を待った。
「なぁに?」
「何でしょうか?」
「もうすぐ奴等がここに来る。全力で阻止して見せよ」
パルたちが肯定するよりも先に諏訪子、神奈子たちがダダを捏ねた。
「えー」
「めんどー」
次いで紫と幽々子も容貌を口にし、
「油揚げ食べたいー」
「スルトさんを食べたーい」
「はいはい落ち着こうねー」
「離してください! フカー!」
早苗もパルに抑えられる。
「……仮に阻止出来た場合、何でも一つ願いを叶えてやろう。限度はあるが、な」
それを聞いて真っ先に手を上げたのは紫だ。
「はい! 私たちには?」
「ふむ……では紫は油揚げ風呂を用意しよう」
油を煮立たせた風呂、ではなく狐にとっては文字通り夢のような油揚げを敷き詰めたお風呂のことだ。
「ナァ!? ア、ア、ア、アブラアゲブロ!? よっしゃーやります!」
次に魅魔も手を上げる。
「私はスルト特製の串焼き!」
――串焼きか。ならば酒に合う定番、焼き鳥やつくねが良いだろうな。
今から案を練りつつスルトは手持ちの食材を確認する。
「私はチーズフォンデュ!」
神奈子は意外な要望を口にし、諏訪子も同じと首肯した。
一口にチーズと言っても種類は多い。特に地球産と幻想郷産では味も質も全く変わるためチーズを作るのは非常に大変だ。
幽々子は性欲オーラ全開でスルトをウェルカムする。
「私の女体盛!」
「よかろう……」
スルトは一瞬言葉に詰まり、別に自分が指定されていないのであればメンタやてゐに食わせれば両方とも泣いて喜ぶだろうと考える。
「ちょっとスルトさん!?」
慌てる早苗の思考を手で制し、考えがあると止める。
「案ずるな。三人は何が良い?」
「全力の手合わせ!」
パルの提案に大陸が半分消えるだろうと考え、
「デートしてください!」
早苗もここぞとばかりに妄想を爆発させる。
「パルの女体盛!」
最後に依姫が人物指定までしたので渋々頷いておく。
「……お前も、か……」
――じゃ、夢で良いか。
「夢落ちは無しで!」
思考を先読みされ、スルトは内心で舌打ちする。料理を作るのは一向に構わないがパルが協力してくれるかといえば否だろう。
――作るだけ作って丸投げすればいいか。
「私は添い寝でお願いします!」
ついでに椛も尻尾を激しく左右に振ってアピールし、スルトは赤い空を見上げた。
「――よかろう。……著しく貞操が危険な気がするが……」
好意を向けてくれるのは嬉しいが、それ以上の関係にはあまりなりたくないし浮気は厳禁である。
パルたちは喜んで練習を再開し、スルトと魅魔は足止めに向かった。
守矢神社の入り口。守護石獣である二体の狛犬を爆砕して階段にたむろしていたレミリアたちは霊夢たちが来るのを待っていた。
そも、守矢神社は単純面積でも博麗神社の三倍はあり、入り口以外は傾斜の山だ。神奈子たちの結界もあり入り口以外からは入れない仕組みとなっている。階段は早苗が清掃しているが若干苔が残っており、鳥居もつい最近ペンキを塗り直したかのような新品状態だ。
レミリアとフランはダブルグングニルでも結界を破砕できなかった腹いせとしてそこらかしこに粘着スプレーによる落書きを開始し、妹紅やてゐ、モブ兎たちもこぞってスプレー缶を手に取って暇を潰していた。
美鈴は永琳とイナバの協力の元に紅蓮隊の旗を掲げ、石垣を貫いて差し込んでいく。
そんな、すっかりと変わり果てた守矢神社にやってくる人影があった。
「ハイ! やってまいりました守矢神社!」
右手にロケット花火、左手にロケット花火を搭載し、腰にはダイナマイトを何本も携えた危険な赤毛、メンタとその一行が合流した。
「ようやく貴方たちも来たのね」
落書きの手を一旦止めてレミリアは満足そうに振り返る。
「あんたたちも……その、よくまとまったわね」
霊夢の問いにレミリアはどや顔を決め、腰に手を当てて薄い胸を張った。
「これが私のカリスマよ」
『違う』
総じて突っ込みを食らい、カリスマブレイクしたレミリアが急いで咲夜に泣きついた。
「うわあああああん!!」
「よしよし」
その頭部を撫でて慰め、コッソリ能力を使って脅しネタを写真に収めておく。
一方で慧音は藍や橙の方へ寄って賄賂を忍ばせる。
「藍さんが動くなんて珍しいですね」
「ウチのお馬鹿様をさっさと取り返さないといけませんから」
「からー」
「橙も久しぶりですね。にぼし食べますか?」
リュックから煮干し袋を取り出して開け、橙に持たせる。
「わーい! 良いよね藍様?」
二本の尻尾が揺れ、一応藍に伺いを立てるが手は既に袋の煮干しを一掴みしていた。
「ええ。……油揚げはありますか?」
「勿論、どうぞ」
油揚げ5枚1袋を渡され、藍も満足気に手を忍ばせた。
「ありがとうございます」
栄養補給、油揚げを食べ、煮干しを食べ、お茶を飲む。
「はふはふ」
「もぐもぐ」
「お前等のんきだな……」
魔理沙が突っ込むと同時くらいに階段を降りてくる人影があり、周囲にはゆらゆらと手作り篝火を浮遊させている。
「随分と騒がしいな」
「おーおー、すげぇことになってんな」
片や着流し、片や浴衣姿。全員が『お祭りかっ』と内心で突っ込む。
「あ、スルトさん」
「あ、てめ! それに魅魔様も!」
「まさかそっちから出向いて来るなんてね」
藍もここぞとばかりに指を差し、片手は口に手を当てて宣言した。
「はふはふはふはふ!(意訳:覚悟は出来ていますよね!)」
「まずは食べてから話せ」
その通りだ、と藍は急いで咀嚼して惜しいと思いつつも飲み込む。
「はふはふ…………ゴクン。覚悟は良いですか!」
が、子供の手本としては不合格点だ。
「今のを無しには出来ないよ?」
「口に物を入れたまま喋っちゃ駄目なんだよー」
フランと橙に突っ込まれ、藍は羞恥と後悔に顔を赤くして毛を逆立たせる。
「くっ!?」
「さぁて、挨拶も終わったことだしドンパチやろうぜ!」
魅魔がぐるりと回りを見渡して概ねの人数を確認し、八卦を片手に構えた。
「結局そうなるのかよ!」
魔理沙に続いて霊夢、レミリアたちも臨戦態勢に移行し、先んじてスルトが手で制した。
「そう焦るな、魅魔。それに魔理沙も」
「元凶に言われたかないやい!」
「良いじゃねぇか、スルト。魔理沙をちと貸してくれや」
ふむ、とスルトは思考し、念の為確認を取る。
「元の目的は忘れておらぬだろうな?」
「勿論だ!」
ならば良い、と制していた手を外す。魅魔が空中に飛翔し、魔理沙だけを指定して指で挑発した。
「来な、魔理沙。それと、あたしを倒せたら今回の事変は終わりだ。なにせスルトの馬鹿が術式を全部押し付けやがったからな」
「上等だ! やってやるぜ!」
魔理沙だけ指名されたのであれば他は無粋だろうと誰も追いかけず、二人は早速空中戦闘を開始した。
見送り、視線を戻すと霊夢が弾幕を手に構えて尋ねた。
「それで貴方が一人で私たちを相手にしてくれるのかしら?」
スルトが何を言うよりも早くフランがレーヴァテインを片手に前に出た。
「この間のリベンジしたい!」
次いで萃香と勇儀も酒を片手に舌なめずりした。
「というより飲み勝負しようぜ」
「賛成!」
「串焼き食べたい!」
「じゅるる」
「……貴方たちも来てたのね」
萃香たちだけでなく、さとりたちの姿も確認し、視線をスルトに戻した。
「話は一通り聞いてたから言わなくて良いわよ。でも、これだけのことをわざわざしてくれたのだから相応のお礼がしたいんだけど?」
空から降って来る流星を一瞥し、半眼を向ける。対してスルトは余裕な態度で右手を返し、若干イラつく態度で応えた。
「そう焦らずともまだ数日は落ちない。博麗神社で昼寝でもしてから来ればよかろう」
「生憎、事変を解決して寝た方がよく眠れるのよ。空もこんな真っ赤じゃ日向ぼっこを出来ないわ」
「そうですよ! 気が付いたら事変が発生していてめぼしいキャラクターがオールスターしている胸熱展開とか聞いてないですよ!」
スルトの記憶上、パルはともかくとしてもメンタは完全に壊れた――元に戻った――筈だった。腐の要素など一切ない美少女として生きていけるはずだったのだ。
「……何故あのままにしておかなかった」
「……言わないで」
霊夢も同様の想いであることが分かり、スルトはそれ以上何も言えなかった。
代わりに妖夢が刀を向け、敵愾心を向けた。
「とにかく、幽々子様を返していただけますか?」
「ウチの馬鹿主人も」
「何よりもパル姉を!」
スルトとしては無駄無意味な会話は時間稼ぎに持って来いだったのだが、やはり戦闘は避けられないか、と腕を組んだ。
「交渉は無意味そうだな。……ならば、スペルカードルールで勝負するとしよう」
霊夢やレミリアであれば鷹揚に頷き戦闘開始となっただろう。だがここには腐ったメンタがいる。
「何言ってやがりますか! スペルカードルールは乙女にのみ許された戦いです! 野郎の介在する余地はありません!!」
確かにスペルカードルールは少女たちが華々しく戦うために設けた制限ではあるが、別に男性もやってはいけないという決まりはない。ただ、幻想郷では女性の方が感性に優れ、綺麗な弾幕を造れるため男性が参加しても効率重視や威力重視で華がない。
スペルカードルールは『綺麗さ』『美しさ』『完成度』を最重要視するのだ。
「あながち間違ってはいないけど……別に特権扱いするつもりはないわよ」
「言い方が悪かったな。余が使うのは式神だ。言い方を変えれば陰陽道勝負と言えよう」
袖から一枚の式を手にし、そこで妹紅が首を傾げた。
「いや、そもそも総員でかかれば良い話だろ」
「それもそうですね」
メンタもそれに乗ってしまい、それでは時間稼ぎにならないと考えたスルトは数秒間だけ邪気を解放し、威圧する。
『――っ!』
まずは一番距離が近かったメンタが弾幕を放った。
「――先手必勝! 速符「音速不可視の援護!」」
スルトは必要最低限だけ絶対防御を発動させ、弾幕を弾く。
「無駄だ。その程度では一万年かかっても突破は出来ん」
「それなら――」
バッと三百枚近い弾幕を両手に持ち、投げつけようとして霊夢が手で制した。
「止めなさい、メンタ。弾幕じゃアレは突破出来ないわ」
メンタは無言で弾幕を仕舞い、スルトも威圧を消し、周囲を一瞥した。
「では、しばらく余の手駒と戦ってもらうとしよう」
式を一枚だけ宙に放り、召喚の魔法陣が発動される。その隙に霊夢は背後で待機しているレミリアたちに指を動かして指示を飛ばす。
まずは指を二本立て、人差し指を大きく振って先を促す。
――二手に分かれるわよ。一つはここでスルトさんと戦う組、一つは強行突破して事変を止める組。
するとレミリアは小さな雷を発生させて霊夢の足元の地面に紋様を描いて返答する。
――了解。ただ、一度だけ全員で総攻撃して突破を図るわ。
霊夢は拳を握り、小さく首肯して提案を肯定する。
「全員、回避です!!」
が、前線に居たはずのメンタが大声で叫び、何事かと思いつつも適当に散開してその場から避ける。
何本も空中から白い閃光が降り注いだ。
霊夢は思わず空を見上げ、誰もが口を開けて唖然とした。
守矢神社のやや後方の空中から赤い雲を分けて神々しい太陽の輝きの中から現れたのは巨大な庭園。直径は守矢神社を軽く上回り、堅固な城塞を思わせるような城壁が円柱を描き、周囲には長方形の石板が浮いており蒼電を纏っている。外側から中央に向かって五本の金柱が伸びており、中央の下部は球体で出来ている。上部は岩盤で覆われていて見えない。
幻想郷でも見た事の無い超巨大な浮遊要塞。その答えは当人の口から語られた。
「ククク、余の空中庭園ダーインスレイブは気に入ってくれたようだな。数年かけてコツコツ制作してきた甲斐もあったというものだ」
長方形の石板から蒼電が収束し、拡散レーザーを放ち、メンタたちは間一髪で避けながら会話する。
「霊夢さん、あれって数年作れるものなんですか?」
「知らないわよ! 空中兵器って流石にズルいわよ!!」
「でかいのが来るぞ!」
勇儀の声にメンタは顔を上げ、中央の球体に収束されていた紫電の砲撃が発射される。恐らく最大威力の攻撃だろうと判断した霊夢はレミリア、咲夜と視線を躱して頷き、上はメンタに任せて声を上げた。
「全員、守矢神社の中へ逃げなさい!」
「正面の障害には全力攻撃!」
「倣符「完全無双の模倣」! って俺は置き去りですか!?」
メンタの悲痛な叫びも虚しく、各自が我先にと守矢神社へ強襲をかけた。
「5、6……このくらいで良いだろう」
スルトは数人だけ中へと入れ、残りは風圧による押し返しで弾いた。
「……誰が行けた?」
レミリアは左右に視線を送り、いない人物だけを脳内で換算する。
「フラン、美鈴、イナバ、射命丸、萃香、幽香の六人みたいね」
「結果的には上々。後は……」
霊夢は視線を上げてスルトを睨み、上空を一瞥した。
「どっちが正解かしらね?」
「普通に考えるならスルトを倒す方が良いとは思うけど。時間稼ぎが目的ならもうちょっと踊ってあげましょうか」
霊夢が飛び出そうとした所でスルトが手を前に出した。
「ふむ、思っていたよりも早い仕上がりだな。霊夢、メンタ、先に進むが良い」
「あら、どういう風の吹きまわしかしら?」
レミリアの不遜な態度にスルトは不気味に笑った。
「ククク、行けば分かる」
思わせぶりな態度に顔を引き攣らせながらも霊夢はメンタを一瞥し、顎で促した。
「本当に良いのね?」
「うむ」
一応警戒はしつつ、二人は守矢神社の中へと入って行く。
「さて、他の者はもう少し余と遊んでもらおうか」
言い終わると同時くらいに蒼電が降り注いだ。




