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東方幻想腐女録  作者: グラたん
第一章
67/119

第六十一話 D;YourWriteOnline 2

グラたん「第六十一話です!」

グラたん「どうでもいいことですが、タイトルの『D;』はデスゲームの意味です」


 パルがスライムたちに連れて来られた先はちょっとした虐殺の現場だった。


「えへへへへぇぇぇぇええええええ!」

「あぐっ!」

「も、がっ! やめ!」

「ほらほら頑張れ頑張れ~」


 そこでは一人のエルフの少女が数名の男性プレイヤーを足蹴にしながらその背を短刀で何度も突き刺している光景だった。

 エルフの少女は赤い髪に赤い目、服も赤と黒が入り混じった狂気的な配色をしている忍者のような服装で腰から下は太ももの半分くらいまでしかないスカートを装備していた。


「ひぅ!?」


 当然、こんな現場に一度も遭遇したことのないパルの反応は至って普通だ。


「ぴぎぴぎ」


 あれがこの世界の当然の光景だ、と言わんばかりにスライムたちは頷いた。


「死~ぬ~な~」


 しかしそのギラつくような鋭い視線とは裏腹に虐殺を行っている赤いショートヘアの少女言葉は何処か悲しみを孕んでいることにパルは気が付く。


「あっ」


 少女が声を上げると男性たちのHPが完全に消えてしまい、その体を爆散させた。


「あ~、また加減ミスっちゃいましたねぇ」


 そしてその独特のテンポのある口調。

 もしかして――とパルは少女に近づいた。


「あの……」

「ハァイ!? 何でございやがりますかねぇ?」


 その異常なまでのテンションの高低にパルは驚きつつも言葉を出した。


「水玉?」

「ふぁい?」


 少女の動きが固まった。それもそのはず、何せその少女の本名はまごうことなき『水玉』なのだ。しかしアバターネームは『メンタ』となっている。その由来は苗字と本名の捩りである。

 ただしその経緯が『古爪水玉』、水玉から連想されたのが眼球――つまり眼玉めだまであることから呼び名を可愛くして『古爪メンたま』。それでは語呂が悪いからと『フルーツメンたま』に落ち着いて、最後は『メンタ』に至る。

 それを捩ったペンネームが『フルーツ・レイン』であり、日本ではかなり有名な作家でもある。

 しかしその独特とも呼べるあだ名が浸透したため彼女の本名を知って驚く者は少なくない。


「水玉……だよね?」

「ええそうでございやがりますですよ。何方イカ野郎様でございますかねぇ?」

「い、イカ!? いくら何でもそれは酷いよ!」

「ええそうでございやがりますですよ。ケッ、何が悲しくてこんなクソ世界にいなきゃいけねぇんですかねぇ? ペッ」


 もはや人違いなのでは? とパルは疑問を隠せずにいた。しかしコレがもし当人であればパルは何が何でも助けなくてはいけなかった。


「か、確認! 君はボクの妹の水玉で良いんだよね?」

「ファッツ? へっ、今度はそういう設定でやがりますか!!」


 メンタは勢いよく短刀を引き抜いてパル目掛けて飛びかかった。


「うわぁ!? なんで攻撃してくるの!」


 パルにしてみれば何でメンタが急にブチ切れたのか分からないのだ。


「何処で仕入れた情報か知らねぇですけどね! オレの! 唯一の! 可能性を! 騙りやがったんですから眼玉くり抜いて鼻に詰めてから殺してやりますよ!!」

「怖いんだけど!?」


 あまりにも理不尽かつ意味の分からないメンタの言葉に対してパルは恐怖を憶えた。しかし、ここで引き下がれば次のチャンスがあるかどうかも分からない。


「やるしか……ないんだよね」


 一度大きく距離を取り、パルは大剣を抜いて両手で持った。


「アッハハッハッハ! そんな鉄クズ担いで何しようってんですかねぇ? レベル差も分からないルーキーとはギャギャギャゲラゲラゲラ!!」


 もういっそ別人かもしれない、とパルは思い始めていた。

 普段の、パルが知っているメンタは相手を挑発させるような言葉は使わないし、言葉遣いも丁寧な少女だったはずだ。しかし今の彼女はまるで心を壊された獣のようだった。


「教えてやりますよ! この世界はレベルが全て! ステェェタスが全てなんですよ! ニュービー如きにレベル88のオレが負けるわきゃねぇぇんですよぉぉ!!」


 それは一瞬の事だった。メンタはただ前方に跳躍して短刀で切り付けただけなのだが、それだけでパルは宙に舞った。


「うっ!」 

「アハッハッハハハハハハ!!」


 カタカタカタカタと壊れた笑い声が空中に響き渡る。

 それからメンタは肉食獣が得物を見つけたように舌なめずりしながら跳躍した。


「ニードルスパイク!」


 そしてスキルエフェクトを纏った短刀を振り下ろした。

 せめてもの抵抗とパルは大剣を盾にして防ぐが、所詮は初心者だ。STRもそこそこでしかなく、大剣を弾かれ、パルの体を短刀が貫いた。


「――ッ!」


 その衝撃に押され、パルの落下スピードは速まった。地面に激突し、更なる追加ダメージを受けてしまう。

 今までに感じたことのない激痛を胴体から感じた。あまりの痛みに声は出ず、もがいた。


「ど~ですかねぇ? 痛いですよね? 痛いですよね? 腐腐腐……そりゃそうですよね。だってこの短刀は()()()()()()()()()()()んですから」


 メンタはまるで大好きな物を食べたような恍惚とした表情でパルに語り掛ける。

 そしてパルの体を仰向けにしてその上に飛び乗った。


「うぐっ!」


 傷口を抉られ、悶絶するような痛みが奔って来る。


「腐狒々……さぁてまずは宣言通り眼玉を――」


 と言いかけ、メンタの視線はその薄紫色の髪の毛に向かった。


「水玉……」


 ふと、メンタの脳裏に現実世界の春の姿が幻視された。


「ッ!」


 メンタはいきなり飛びずさり、地面に手を付いた。


「なんで……春姉の姿が……」


 次いで今の現実に気付く。


「違いやがりますです! アレは、春姉じゃねぇです!」


 パルは、今しかないと思った。今しか自分の言葉はメンタに届かないと叫んだ。


「水玉!」 

「――っ!!」


 パルの叫びを受けてメンタは顔を上げた。

 パルは傷を必死に抑えつつも立ち上がり、メンタの方へとやってきた。


「――違う」


 メンタの理性は理解している。こんなクソッタレの場所に姉がいるはず無いと。春は現実にしかいない。VRなどデスゲームと化した以上入ることすら敵わないと。


「違う違うちがいまぁぁぁぁぁぁす!! あり得ないです! 春姉がこんな所にいるわけねぇのです!」


 メンタはそう叫び、短刀を強く握り締めて前方に突き出した。

 それはパルの心臓に深々と突き刺さり、一撃で僅かに残っていたHPバーを消し飛ばした。 

 だが、奇跡とは起こる物だ。

 パルのHPはたった1だけを残して残っていた。

 無論激痛は先程の比ではない。今にも白目を剥いて倒れたい衝動が全身を駆け巡るが、それ以上にやるべきことがあるとパルはメンタを抱きしめた。


「違わないよ。ボクはここにいる」

「えっ?」


 あまりにも優しい言葉とYWOではまず聞かない『ボク』という一人称。

 それらはメンタの耳を抜け、脳へ刻み込まれた。

 そしてメンタは現状『ボク』という一人称を使う女性は一人しか知らない。

 同時にパルも『オレ』を遣う少女は一人しか知らない。


「まさか……本当に春姉?」


 同時にメンタの理性は違うと呟いている。

 でも本能は本物で会って欲しいと願っている。


「……本当に、春姉なら……」


 ――また裏切られますよ? と理性が嘯く。


「信じたい……」


 ――裏切られ、見下され、捨てられる。四回も経験してまだ信じたいのですか? と理性が訴えてくる。


「信じて良いよ」


 と、耳元で優しい言葉が呟かれる。

 メンタはそう呟かれて何度も裏切られた。その光景がフラッシュバックし、反射的に右腕は高く振り上げられていた。


「そのためにボクは死にに来たんだから」


 その腕はパルの心臓をもう一度刺す寸前で止まった。


「えっ……?」 

「……」


 だが、パルの意識もそこで途切れている。あまりにも痛みが強すぎたため脳が負荷に耐え切れなくなったのだ。


「――――」


 メンタは戸惑い、そしてインベントリから低位の回復薬を取り出してパルにかけ始めた。ある程度傷が治ったところでパルを背負い、最初の町へと向かった。

 メンタに縋る物はもうたった一つしかない。だからこそこれが最後の信用だった。裏切られればそれこそ彼女は完全に壊れ、自身の心臓が止まるまでプレイヤーを刈り続ける悪鬼となるだろう。



 宿屋の一部屋を借り、パルを寝台に寝かせる。

 メンタは基本的に眠らない。眠ったとしても悪夢以外は見られないからだ。


「春姉……」


 メンタはパルの顔を覗き込んだ。確かに春と容姿はどこまでも似ていて一人称や言葉遣いも懐かしさを感じられるものだった。

 ――そういえば昔は一緒に寝たこともありましたっけ。とメンタは思い出を振り返った。そして気が付けばパルの手を握りながら眠りに落ちていた。



 メンタは、最初は悪夢を見た。

 最初はこのYWOに入る所から始まる。夢と希望の詰まった世界へ飛び込んでいく自分を酷く恨めし気な視線でメンタは見ていた。

 最初の木々の高い森が目立つエルフ領でメンタはテンション最大値のままフィールドへ走っていく。魔物を狩り、武器を強くし、笑顔が弾けている。

 しかし突如としてそこは地獄へと変わった。

 自発的ログアウト不可及び現実の横たわっている体が何時殺されるか分からない恐怖に怯えることになった。メンタはすぐに行動を起こした。


「パーティー組みましょう!」


 誰かに助けを求めたのだ。当然、通常時であれば手を差し伸べてくれるプレイヤーたちは一瞬にして疑心暗鬼のまま、お互いを利用し捨てるという思考に陥った。

 メンタは……食いつぶされた。

 一回目はモンスターから逃げる囮として殺害された。そして蘇生するとパーティー自体が解消されていて彼らを探し回って走り続けた。

 やがて諦めて別のパーティーを組むことにした。だが、次はPKと遭遇してしまい、装備品と所持金を全て奪われて殺された。

 それでも何とかめげずにいられたのはメンタ自身がポジティブな性格だったからだろう。そうして三回目、装備一式を買い直したメンタは最前線へと来ていた。この時の最前線は中央大陸であり、ノアの箱舟の辺りにはパーティーを組もうとする人たちで溢れていたため組むことは容易だった。そして――。

 メンタはその時最前線にいた強そうなプレイヤーたちを見つけ、レイドを組んで貰えるように頼み込んだ。しかし常軌を逸したプレイヤーはメンタたちをボロクソに傷つけ、更にはPKを呼んで組伏したのだ。


「ヒィ……ご、ごめんなさいぃぃ!! 二度と関わりませんので許してください!」


 メンタは自分の全財産を捨てて逃げた。フレンドも、パーティーも、情報さえも何もかも捨てて逃げたのだ。

 それから一か月は無心でレベル上げをした。怖くて町や村に戻れなかったということもある。そうしてレベルも60台になった時、メンタは一度町に戻って来た。

 そして四度目。メンタはまたパーティーを組むことになる。メンタが組んだ相手は素人の二人だ。二人のレベルを上げるために森へと出かけた。しかしそれは手の込んだ罠だった。二人はPKギルドに所属するPKでメンタを吊ったのだ。無論、メンタは酷く抵抗した。何人も道連れにしたがやがて力尽きた。

 そしてメンタはPKのギルドに連れて来られ、生きながらにして地獄を見た。

 最初はただ殺されるだけで済んだ。殺されては生き返り、殺されては生き返った。YWOのデスペナルティは重い。殺されるたびにメンタのレベルは下がり続けた。そしてレベルが最低の1になっても殺害は続いた。その殺し方は何千通りにもおよび斬殺、焼殺、魔法殺害などザラに行われていた。幸いなのはデスゲームと化しても論理コードが正常に働いていたということだろう。それがなければきっと彼女はもう立ち直れていない。

 メンタの心は黒に染まった。何故こんなに運が無いのだろうと自問自答した。

 そして一つの答えにたどり着く。とても簡単な事だ。もっと自分に素直になれば良いと思った。感情の赴くままにやれば良い事に気が付いた。

 事実、彼らはそうしているではないか。

 そうなれば話は早く、メンタは蘇生した瞬間、待ち構えていたPKにドロップキックを食らわせて逃亡した。無論ステータス差はあるため逃げに徹した。ただ逃げることだけであれば町中ならレベル1でも以外と逃げきれてしまう。 

 そうしてメンタは半獣人領へと逃げ込み、まずはレベルをひたすらに上げた。

 武器、防具、その他諸々を手にした後は町へと向かった。町ではまだまだ低レベルのプレイヤーたちが助けを待ち望んでいる。メンタはそれらに手を差し伸べ、彼らの心を粉々に打ち砕いた。

 メンタは誰も信用しない。利用するだけ利用して捨てることはもはや普通だと考えていた。しかしそんなメンタを最も苛立たせたのが希望や友情を大切にする連中だ。まだ希望はあるとか俺が守って見せると言った言動はメンタを酷く不快にさせた。

 メンタはそんな奴等の不屈の精神を圧し折ることに長けていた。かつて自分がやられたようにすれば良い。あの頭のイカレたトッププレイヤーのやっていたことは実に効果的でメンタはそれを自分のモノにしていた。

 そんなどす黒い感情の中でメンタは惰性の様な日々を送っていた。プレイヤーを刈っている間だけは心が満たされていた。


「どうしたの?」


 何処からかそんな声が聞こえてくる。

 気付けばメンタの目の前には春がいた。メンタは何も話すことが出来ない。夢の中で誰かに口を塞がれているのだ。そこに春がいるのならば、とメンタは必死に手を伸ばした。だが、それらを抑え込む手が伸びて来た。

 背後を振り返ればそこにはメンタが今まで殺してきたプレイヤーと裏切ったプレイヤーと自ら捨てたモノがメンタを抑え込んでいた。何故自分だけ助かろうとしているのか、というように悪の手はメンタの全身を掴んでいた。

 いつもであればそこで夢は終わり、起きると共に悪態を付く。

 だが、今日は違っていた。


「せーのっ!」


 いつもならそこにいて何もしない春が急に動いて初期装備の大剣をぶん投げて来たのだ。その大剣はメンタの顔面すれすれを飛んで背後に突き刺さった。


「は、春姉?」

「大丈夫! 水玉のことはボクが守るよ! なんたって大事な妹だからね!」


 両手を胸の前で握り、春が力強く頷いた。

 そしてメンタの伸ばした手を取って引っ張り上げた。

 背後からは悪夢が逃がすまいと手を伸ばしていた。メンタは酷く怯え、代わりに春がメンタを強く抱きかかえていた。


「大丈夫。見てて」


 春が手を伸ばすとその手には白い光が集っていた。

 そしてその光が悪夢に伸びると不思議なことに悪夢が一つ残らず消え去ってしまった。


「ね?」


 何がでしょうかね、とメンタは春の説明不足に首を傾げた。

 春は優しく微笑み、メンタも気が付けば少しだけ笑っていた。


 

 凄く久しぶりに寝覚めの良い朝を迎えたメンタは目を開けて起き上がった。

 そして少しだけ呆けてから隣の寝息に気付いた。


「春姉……」


 いつもなら一人の部屋にパルの姿があった。


「くー」


 その寝顔には邪気一つない。手は繋がれたままであり、いつの間にかにメンタもベッドの上に寝かされていたのだ。それもパルがこっそりと自分の横にメンタを寄せて抱きしめて寝ていたからだ。


「……ありがとうございます、春姉」

「はふぅ」


 そんな姉の寝言に小さく微笑んだ。

 そしてメンタはこの女性は間違いなく春姉であると確信した。


「こんなことしてくれるのは春姉以外にいませんからね」


 そう呟いてから昨日のことを思い出し、メンタの表情は苦笑いへと変わった。



 しばらくするとパルも目覚め、起き上がった。


「ふぁぁ……おはよ~」

「おはようございます、パル姉」

「パル? ボクは春だよ~?」


 まだ寝ぼけているのかパルは目をこすりながらもベッドから起き上がった。

 そして見慣れない部屋にいることに気が付いて叫んだ。


「何処ここ!?」 

「YWO内部、半獣人領最初の町の宿屋です」

「そうなんだ…………あ、そうか。YWO……」


 寝起きから目覚めたパルは全てを思い出し、次いでメンタに抱き着いた。


「!?!?」


 パルの突然の行動にメンタは驚いて全身を硬直させた。


「会えたんだね、ボクたち」


 その言葉を聞いてメンタもおずおずとパルの背中に手を伸ばした。


「はい」

「じゃー、水玉……っと、リアルネームは禁止だったね。えっと、メンタ、で良いのかな?」

「はい、パル姉!」

「うー、なんか慣れないね……。それで、メンタ」

「何でしょうか?」

「せっかく会えたんだし、何かして欲しい事ってある? 何でもしてあげるから言ってね! いくつでも良いよ!」


 瞬間、メンタの精神は宇宙の彼方へと飛び去った。こんな魅惑の言葉があるのか、何でも、いくつでも良い。それはメンタの危うかった精神を完全に崩壊させる威力を誇っていた。


「じゃ、じゃあ裸エプロンをお願いします!」

「うん、良いよ――って、え? は、裸!?」


 メンタは思わず自分の欲望、長年の望みを口走って我に返り、恐る恐るパルを見上げた。きっとあり得ないといった表情をしていることだろう――それは間違いでは無く、パルは驚愕していた。

 メンタは自殺を決意した。今まで培ってきた全てを捨てて死にたくなった。大好きだった姉に間違いなく嫌われたと考えた。


「――っ!」


 パルはメンタを放りだし、宿屋の扉を開け放って出て行ってしまった。

 メンタはショックのあまり気絶した。それほどまでにメンタの精神は余裕を失っていた。


「……」


 メンタは目を開けるのが億劫だった。人生で最も最悪の目覚めだった。

 目の前に、寝床にパルはいない。自分のYWOに入って以降に目覚めた性癖が自分を地獄のどん底に叩き落としたのだから。


「あ、起きた?」


 声がする。その方向を向けば、そこにはパルがいた。


「ぱ、パル姉?」


 メンタは遂に幻覚を見ているのだと思考した。自分の脳裏に刻まれたあの一瞬がリフレインしているのだと結論付けた。


「や、宿屋は貸し切ったから……その……」


 パルの言葉はたどたどしい。顔は羞恥に赤くなり、猫耳は力なく下がっている。

 メンタは暗いハイライトの失った視線をパルの全身に向け――急に光が宿った。


「は、裸エプロン、なったからね!!」

「ブバァ!?」


 そしてパルの壮絶なるカミングアウトに、メンタは顎にアッパーを食らったボクサーのように、空中を舞い、鼻血をぶち蒔いてベッドに後頭部から倒れた。


「うわあああ!? メンタぁあああああ!!」


 それはまさしく天から落ちて来た蜘蛛の糸のように神々しい救いの手だった。

 ――オレ、もう死んでも良いです。

 メンタはこの世で最も満足した表情で気絶した。



 メンタが気絶したすぐ後、パルの傍に五人の女性が現れた。


「お待たせしました……パルさん?」


 無論、ティアールと愉快な四人の仲間たちだ。しかしパルはメンタにすがりついて泣いており、ティアールは怪訝そうな表情のまま、パルの際どい臀部に視線を向け、素早くそこらにあった長いローブをパルに巻き付けた。


「な、なななな何しているんですか!? 実は痴女だったんですかパルさん!?」

「んなわけねーだろティアール」

「ふぇ? あ、ティアール……と、そっちの人たちは?」


 パルが聞くと待ってましたと言わんばかりにAI共が自己紹介を始めた。


「あたいは管理端末Aことエーコだ! 種族は獣人! よろしく頼むぜ、姫!」

「わたくしは管理端末Bことハチと申します。種族はハーフエルフで掃除洗濯鍛冶家事料理お召し換え雑務から戦闘暗殺まで幅広く活躍出来ます。今後ともよろしくお願いいたしますね、姫」

「わ、私は管理端末Cことシイと言います。種族は人間、役職は奴隷です……その、なんでもしますのでど、どうか捨てないでくださいませ!」

「そして私が管理端末Dことディルメアですわ! 種族は人間、姫の為ならそこらの豚共から様々な物を巻き上げて差し上げますわ! オホホホホホ!!」

「ティアールです。種族は見ての通りエルフです。これから一緒に頑張りましょう!」


 パルは困惑した挙句、一言。


「こ、個性的、だね」


 彼女たちは豪快に笑い、微笑み、落ち込み、腹を抱え、微笑した。  

 


 まるで天に昇るかのような清々しく気持ちの良い目覚め。朝日が立ち上る朝の光を全身で受け止めながら意識を浮上させると何処からかパンの焼ける良い香りとコーヒーの苦い香りが鼻孔を突いて心身ともに最上の寝起きを呼び起こした。

 メンタはYWOに来てから始めて気分よく起きた。それに凄く良く寝た気がする。まるで何十年も寝ていたような感覚と柔らかい温かさがメンタの傍にあった。


「春姉……」


 半獣人の薄紫色の毛並みを持つ可愛い猫耳の少女、パル。彼女が隣で寝ているだけでメンタは幸せを感じていた。そして――


「なんで裸エプロンで寝ているんですかねぇぇ!?」


 驚愕。絶対にあり得なさそうなその姿にメンタは絶叫した。


「ヒャッホイ! これは夢なんですよね! じゃぁ揉んでも良いですよね! やったー!」


 そうしてまた布団の中に潜り込み、パルの体の上にのしかかって体中をまさぐり始める。彼女は腐っている。例え実の姉だろうが関係無い。


「腐腐腐の腐は腐女子の腐腐腐腐~」


 実に酷い歌を謡いつつ、メンタの手は止まらない。


「う……ん?」


 パルが起きたことにも気が付かず、その毒牙は獣人種が弱い耳へと向かっていく。


「はふっ。ンペロペロペロ」


 まるで毛繕いするようにメンタはパルの猫耳を舐め始める。


「ひ、ひゃぁぁあ!?」


 その感覚はパルが今まで感じた事のないようなゾクゾクしたものであり、しかし気持ち悪いとは思わなかった。

 メンタの毒牙はそれだけにとどまらずパルの細く、綺麗に整えられた尻尾へと伸びていく。そして優しく握り、引っ張らないようにモフモフし始めた。


「ぁ……んんっ!!」


 途轍もない快感と耐え切れない程の欲情がパルの中に溢れだして行く。獣人の女性アバターは特に尻尾を触るもしくは撫でられると発情する。耳は然程ではないが、それでも気持ちの良さは感じてしまう。そのため、男性アバターが獣人女性の耳に触れるとハラスメントコードと呼ばれる、言わば痴漢防止の設定が発動する。

 しかし尻尾は違う。こちらは触れる素振りを見せればそれだけでアカウントが一時凍結されてしまう。人間でいうところの胸や臀部を直接触るような行動だ。女性同士であってもハラスメントコードが出現するくらい尻尾は弱点なのだ。

 現にパルの目の前にはハラスメントコードが表示されており、YESボタンをタップすればメンタのアバターは約二週間前後凍結されることになる。そうなるとパルは知らなかったが、このボタンを押せばメンタに会えなくなると直感したパルはNOの方をタップした。その画面は不可視モードだったが、正気に戻ったメンタにも見えていた。どちらをタップしたのか――それは画面が消えた数秒後に判明した。

 メンタは戸惑った。一時の感情に流されてやってはいけないことをやってしまった背徳感が背筋を駆け巡って異様な興奮に包まれていた。


「あ……ふぅ……」


 メンタが動けずにいると、表情が恍惚になっているパルが起き上がり、そのままメンタを押し倒した。


「う、わっ!? ぱ、パル姉!?」


 まさか押し倒してくるとは思っていなかったためメンタの頭の中は真っ白に染まった。唯一考え付いたのはこの後のとても危険な展開くらいだった。

 同姓ではあるものの、メンタの仮想心拍数は否応なく高まっていく。

 そしてメンタの上に覆いかぶさり、その長い耳をパルは甘噛みした。


「うにゅぅ~」

「――――――――っ!!」 


 メンタはあまりにも高い声で絶叫した。獣人が耳と尻尾が弱いように、エルフは耳と羽が弱い。特に羽は尻尾と同じように一発BANもあり得てしまう。

 メンタの全身に快感が奔った。しかし、このままでは何かの間違いでパルを凍結させてしまいかねないと思ったメンタはすぐさまハラスメントコードのNOボタンを押して、その後はもう憶えていない。   

 後にメンタは誓った。もう二度とパル姉の尻尾は触らないと。

 


 朝食を食べた後、パルも元の初期装備を身に纏い宿屋のラウンジにて紅茶を飲んでいた。その隣には管理AIであるティアールたち。そしてメンタがいる。


「えっと、まずはティアールたちの紹介だね」

「初めまして、ティアールです」

「エーコだ」

「ハチです」

「シイと、も、申します」

「ディルメアよ」


 その彼女たち特有の雰囲気を見てメンタは叫んだ。


「超個性的ですね!? あ、オレはメンタって言います。よろです」


 するとハチが首を傾げた。


「理解不能。何故女性のメンタさんの一人称はオレなのでしょうか?」


 その問いは人によっては気分を害するものだが、幸いにもメンタは気にすることはなかった。


「それはパル姉が僕ッ娘だからです! ならばロールプレイングらしくオレッ娘でキャラを立てようと思ったからです」

「なるほど。……キャラを立てる……」

「とりあえず、今後の方針を立てましょうか。パル姉の目的は一年以内にこのゲームを脱出且つ、月間で更新されるワースト十位に入らないようにすること、で良いんですよね?」

「うん、そうだね」

「そのリストって見れますか?」


 ちょっと待ってね、とパルが言ってメニューを開き、とある箇所で指を一度止めた。


「これのことかな?」


 タップし、可視化モードにしてメンタたちに見せた。


 

 月間更新ランキング

 一位クロッサス 1090p

 二位クロネル  1080p

 三位ポリンクス 1010p


「百二十人ですか……それでワースト十位且つ一年……」


 こういう時のメンタの思考速度は速く、とても少女には見えない。

 更にスクロールしてワースト十位を見る。


 百二十位パル  30p


『ガッデム!!』


 メンタだけでなくティアールまでもが絶叫した。

 しかしそれも一瞬の事でティアールとメンタが手慣れた手捌きで画面をタップし、スクロールしていく。


「……そうなると、ポイント制の条件はこれですね」

「それに現段階では百位までならすぐに追いつけそうですね」

「うん?」


 疑問を持つパルに対し、メンタたちは今見ているディスプレイをパルに見せた。


 ポイント獲得条件

 1、自分のレベルと同等以上の魔物を狩ること。一回の戦闘に付き10p。

 2、パーティーの総レベル÷10。

 3、此方の印象ポイント。最大二十人且つ一人頭100p。

 4、各地のボス撃破。初回撃破1000p。二回目以降100p。


 それを見てメンタたちはニヤリと笑った。


「第一と第二なら今すぐに出来ますね」

「パル、パーティー申請を下さい」

「う、うん」


 メンタたちの言う通りにパーティー申請を飛ばし、ティアールたちはすぐに受諾した。自身の視界の右上に名前とHPMP、そしてレベルが表示された。


※ネタです。お付き合いください。


――――――――

 血肉が焼け落ち、火炎が舞い上がる。――その先にあったのは次の戦場だった。

 戦いを終えて帰還したメンタたちを待っていたのは冷徹な視線と弱肉強食の猛獣が済む世界。

萃香「もう一枚だ!」

勇儀「ガッハッハ! カブだ!」

さとり「ぐっ!? 三連続カブですって!」

咲夜「フフフ、恨むなら己の能力を恨みなさい」

諏訪子「私のトレードマークがぁぁ!?」

神奈子「くそっ! 守矢神社が……!」

 勝負師ギャンブラー。イカサマ、トレード、結託、能力使用、その全てが許可された無法地帯。

 そこで勝利できる者こそが生き残れる場所である――。


メンタ「次回、Fight・Gamble・Order。絶対無法地帯コウマカン――いや、なんでフ〇イトネタなんですか!」

グラたん「やってみたかったんです!」


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