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東方幻想腐女録  作者: グラたん
第一章
62/119

第五十六話 KTKR!

グラたん「第五十六話です!」

 VR内部でメンタは青年が用意したデータの空間に移動させられており、目の前にある巨大な扉を眺めていた。


「あれですね。真っ白な空間と正面にでかい幾何学的な紋様が書いてある扉って完全に錬金術師のアレですよねー。門番がいたら完璧だったんですけれど。……いっそ作ってしまいましょうか」


 いや、それをやったら我が身が危ないかもしれないと考え直し、作りかけた手を引っ込める。


「ともあれ! アバター再現は完璧です! 見てくれる人がいないというのが実に残念なんですが仕方ありませんね。幻想郷にはVR機器はありませんから」


 そこへピコンとアイコンが表示されてチャット機能が立ち上がった。



@魔理沙

『今、スルトが来てVR機器持って来た。そんでもってVRの中に霊夢とパルが入って向かっているぜ』



 本来であればあり得ない情報を得たメンタは驚いた。


「マジですか!? え、スルトさんマジリスペクトです!」


 そんな会話文を見たパチュリーが疑問をそのまま投稿した。



@パチュリー

『VR? どういうこと?』


@魔理沙

『VRっていうのはゲーム内に直接入れる機械のことらしい』



 紅魔館の私室でパチュリーは思わず音を立てて立ち上がった。



@パチュリー

『ゲーム内に……本当に? え、嘘でしょ?』



 魔理沙が嘘を言うとは思えないが、それはあまりにもオーバーテクノロジーな物体だ。確かにパチュリーも実際そう出来たらいいなとは思っていたし、その研究も平行して進めてはいる。



@魔理沙

『いやマジで。それと紫がスキマで一台送るらしいから解析してみてくれ』


@パチュリー

KTKRキタコレ!! 私今日から守矢信者になるわ!』


@魔理沙

『テンション上がるのは分かるが送られてもインするなよ。リアル側で経過見られるの私とパチェしかいないんだからな』


@パチュリー

『ぐっ……う……こmmなのみえsrあえrて画マン出kill訳無いで塩!!』

※意訳:(こんなの見せられて我慢出来る訳無いでしょ!!)


@魔理沙

『文字乙』



 文章からでも悔しさは充分に伝わり、メンタたちは揃って苦笑いする。


「何してるんですかねー……というよりオレはどうなってるんですか?」



@魔理沙

『原因は不明だ。今てゐが永琳を連れてくるらしいからちょっと待っていてくれ』



「了解です」


 返答を返すとほぼ同時くらいにメンタの側面に現れる薄紫色の毛並みのケモ耳娘の影。そして霊夢を模した巫女服の少女の姿があった。


「メンター!」

「ひでぶっ!」


 ダメージこそないが、人一人分が全力でのしかかれば潰れもする。

 そののしかかったパルの耳がパタパタと動き、フカフカな毛並みの尻尾が左右に激しく揺れ動き、喜びを表現している。


「ふぅん、これが電子世界の中なのね」

「おぉう、霊夢さん、パル姉、お久しぶりです!」

「メンタが意識不明の重体だって聞いて飛んできたよ! でも意外と大丈夫そうだね。あ、そのアバターってYWOの時のやつだ」

「はい! そういうパル姉もあの時と同じ半獣人のアバターなんですね」

「一番気に入っているからね」

「で、此方のクソニートさんはクソ巫女衣装ですか」


 霊夢はそれはそっちのけで巨大な扉の方に執心していた。


「これは何かしら? 扉? 悪趣味ね……」

「聞いてないでやがりますよ。それよりもパル姉、ちょっとモフモフして良いですか? その薄紫色の耳とか毛とか腐狒々狒々狒々……ヒャッホイ!」

「え、ちょっ、待っ――」


 モフモフモフモフ、とかつてのような触り心地にメンタは内心で涎を垂らしてパルにじゃれついた。


「モフイ! モフイですよ!」

「やぁぁ! くすぐったいよー!」

「猫耳……尻尾……」


 霊夢としては尻尾の方が気になり、ちょっと触ってみる。人体的に尻尾は生えていないため気になるのも仕方がないだろう。


「――――――ッッ!!」


 毛並みを撫でたり、軽く握ってみたり、指先で弄ってみたりする。


「確かにモフモフね」


 霊夢の感想など耳に入らず、顔を羞恥で真っ赤にしたパルは背負っていた大剣の柄に手をかけた。


「尻尾は――」

「ん?」

「触っちゃ駄目っ!!」

「ばぶんっっ!!」


 顔面を強打され、二転、三転と霊夢が吹っ飛んでいく。謎の扉に激突してようやく止まり、メンタは気まずそうな顔をして告げた。


「モフモフ……言い損ねてましたけど獣人系のアバターは尻尾を触られると性的な興奮を感じる様になっているらしいです。耳とか顎なら気持ちよいだけで済むらしいですよ」


 もっと具体的に言えば性感帯を直接触られているような感触に近く、そういう行為になれた者でも時には意識が飛ぶこともあるらしい。


「それを先に言いなさいよ……ってかあんたは触らないの?」


 痛みは無いが、霊夢は強打された顔面を抑えつつメンタに問う。


「それやって発情させたことあるんですけど、発情状態のパル姉ってかなり見境いなくなるんで滅多にやりません」

「えっ……」


 霊夢の脳裏に目の前のパルが誰彼構わず襲っている薄い本的な光景が浮かび、全身が硬直する。パルに限ってあり得るのか? と思わせるくらいだ。


「あ、ちなみに見境なくなるといっても女性アバターとか可愛い物に見境いなくなるという意味です。野郎には見向きもしませんでした。恐らく製作者さんたちが百合好きだったのか、非リアが多かったのかの2択だと噂されてます」


 だったら後者だろうと霊夢は予想する。


「……それでその時はどうなったの?」

「オレが餌食になりました」

「具体的には?」

「ほら、オレのアバターってエルフですから耳とか甘噛みされたり羽触られると弱いんですよねー……そこを集中的に……。挙句レベル的差のおかげで俺自身ほぼ無傷のままパル姉のスキルで物理的に装備破壊されるという数万回に一度起こるか起こらないかと言われるバグテクニックを見せつけられ下着姿に…これ以上は18R以上の規制があります故、その後の展開はご想像にお任せします」

「耳と羽ね」


 そう言って日頃の仕返しも兼ねて霊夢はメンタの羽や耳を触り始める。


「うひぃ!?」

「へぇ、面白い反応するわね」

「く、ひっ! なんか凄く背徳感あってゾクゾクします!」


 自分がやる分にはやれるがやられることは少ないため、メンタの新しい扉が今正に開かれようとしていた。



@魔理沙

『お前等何してんだ……』





 電子空間内部で百合が炸裂している一方で、博麗神社にはてゐに連れられてきた永琳が出張用の医療鞄と白衣を着てやってきていた。


「連れて来たぜー」

「てゐが血相抱えて来たので何かと思えば意識不明の重体とか言ってたから霊薬持って来きましたよ」

「おう、来てくれたか。メンタの事を見てやってほしいんだ」


 二人を居間に促し、永琳はメンタの隣で寝ている二人を見て首を傾げた。


「霊夢さんとパルさんは? 頭に変な物を被って寝ていますけど」

「電子世界という場所にいくために必要なものらしいですよ」

「電子……機械の中、ということですか?」

「理解が早くて助かるぜ」


 理解とは言っても月の科学力でもそんな非現実的なことは難しい。何故そんな物体がここにあるのか科学者として凄く気になったが、てゐの言葉に遮られた。


「師匠、それよりもメンタの奴を!」

「焦っている時こそ冷静に、何時も教えているでしょう? どれ……」


 永琳が鞄の中から謎の怪しい機械を取り出して、その先端をメンタの脳付近に刺した。そこから必要な情報を得るため身体全体へのアクセスしていく。


「……精神攻撃による脳への深刻なダメージ。神経系統の接続が強制的に断絶されている? だとすれば効力が切れるまで……」


 しばらくして永琳が顔を上げ、難しそうな表情をした。


「どうなんだ?」


 魔理沙の問いは集中している永琳には届かず、不意に視界に例の機械が映った。


「いえ、それだと肉体的不可と損耗が激しくて生命の危険までも……ならばいっそのこと…………ん? あれは――」


 VR機器の方を見て、魔理沙は答えが得られないことを知り、黙った。


「聞いているだけでも相当酷い状態みたいだな」


 と、呟くと永琳が二人の方を向いた。


「……てゐ、魔理沙」

「ん?」

「おう」

「少し…………いえ、かなり大きな仕事になりそうなので手伝って貰いますよ」


 永琳の答えに対し、二人は鼻を鳴らして首肯した。


「フッ」

「無論だ、師匠!」

「では、診断の結果から言いましょう。彼女の脳は壊死している状態と言っても過言では無く植物状態の人間と言えます。長年生きていますが植物人間を直す方法は大きく分けて四つ。一つは精神的ショックを引き起こして目覚めさせる方法です。しかしこの場合は脳が死んでいるという前提が治っていないため確実に障害が残ります。それこそ、目覚めさせない方が良かったと後悔するくらいに思うこともあります。二つ目は何もせずに目覚めを待つ方法ですが、基本的には死んでいるのと何も変わらないため仮に早苗さんの奇跡を使ったとしても目覚める可能性は非常に低いです。そして三つ目、これは植物人間になったほぼすべての遺族が取る方法です……」


 ざっと聞き、必要な情報だけを紙に纏めて要点を掴む。その中から出てくる答えは一つ。


「安楽死、か」

「はい。事実上その方がお互いに楽になれてしまいますから……」

「だが、四つ目があるんだろう?」


 魔理沙の問いに永琳は強く頷いた。


「この幻想郷限定ではありますが、可能性としてはこれが最も最適な手段です。ただし実際に行った事は一度たりともありません。てゐは何故か分かりますよね」

「事実上無理な話だったからな。机上の空論も良い所だ」


 二人で通じ合っても魔理沙には分からない。


「どんな方法なんだ?」

「現実側で物理的に脳を直して精神側で対象者の精神に入り込んでたたき起こす」


 というてゐの短慮な答えに永琳が補足した。


「具体的に、現実側では脳を手術し、断絶している場所を繋ぎ直します。精神のショックで脳を死なせないためにも補強をしておく必要があります。それを成すにはいくつかの素材を調合した薬が必要となります。具体的な素材は今は省略しますね。それで、一番の問題はどうやって対象者の精神世界へと行き、叩き起こすかでしたが……見た所アレはそれを可能にしているようですね」


 それで……と魔理沙はVRの機器を見た。


「なるほど、VRか。確かに可能ではあるな。つってもどのくらいのショックが必要なんだ?」

「そりゃー叩き起こすんだぜ? 必殺級のトラウマを抉るくらいしないとな」

「……げぇ……」


 魔理沙の脳裏には先の陰陽大会で行われた残虐非道な行いがフラッシュバックしており顔を渋めた。


「抉らずとも酷似した状況を作り、乗り越えられるほどの精神力があれば問題ありません。条件のクリア時に紫様の能力で精神世界と現実世界を繋ぎ、幽々子様の能力で彼女の精神を引っ張り上げます。レミリア様の運命や早苗さんの奇跡等があれば成功する確率はもっと高くなるでしょう」


 それなら幾分か良いだろうと思い、首肯する。


「やってみる価値はありそうだな」

「というわけなのですが、ご協力いただけますか?」


 永琳の問いに紫が頷く。


「博麗神社の貴重な看板娘を失う訳にはいきませんからね。やってみましょう」

「決まりですね。魔理沙、霊夢たちを現実世界に起こしてください。役割を分担します」

「了解!」

「てゐ、死ぬ気で働いて貰いますよ」


 今度こそ、てゐは鼻で嗤って返した。


「友達のために走ることに理由がいるのか、師匠?」


 永琳も珍しく気合いの入ったてゐの様子に心から笑んだ。


「ふふっ、いつもそのくらいの気迫があってくれれば良いのに。さて、貴重な不死薬も準備しなくてはいけませんね……。お代は博麗神社にツケて置きますよ」

「……メンタには戻ってきたらたっぷり働いて貰わないといけませんね」


 ひらり、と一枚の請求書が机に置かれ、紫の顔が苦渋に満ちた。

 


 数分後、VR世界からログアウトしてきたパルたちに対して再度同じ説明会が開かれていた。


「で、急いで戻ってきたからには進展あったんでしょうね」

「勿論だ」


 と、魔理沙が頷き、ホワイトボートを持って来て永琳がペンを取った。


「メンタの容体はどうなの?」

「まずは――」


 端折り。

 説明を終えると霊夢とパルは真剣な表情のままホワイトボードから視線を外した。


「ということになります。協力して貰いますよ」

「うん、メンタを助けるのはボクの役目だからね。どんなことでも言ってよ!」

「やれやれ……手間がかかるわね」


 今回は紫が取り仕切り、ホワイトボートに点を三つ打った。


「では、これより三つの班に分かれて行動を開始します。一つは素材収集、一つは博麗神社にて手術環境を整える班、一つはVR内部にて精神的ショックを行う班です。絶対条件としてメンタに精神的ショックを行うことを伝えてはいけません」

「どうして?」

「事前に伝えると精神的ショックが半減してしまいかねないからです」


 永琳の言葉は端的だったが、迂闊に告げれば全てが台無しになりかねないという視線を受け、パルも察して頷いた。


「……分かったよ」

「と言ってもここにパルを置いていても辛くなるだけだ。パルは素材収集班に行ってもらった方が良いぜ」


 その方が良いだろうと紫も判断し、パルの目を見た。


「そうですね。良いですか? パルさん」

「うん、そっちも重要だもんね」


 次いで手を上げたのは霊夢だ。


「なら私も行くわ。どうせここに居ても暇だし」

「安心しろ、始めからそのつもりだぜ」

「二人に向かってもらう先は地底です。他に海洋にも行ってもらう必要があるのですが、海洋はニトリに声をかけて見ます」


 それを聞いて、てゐは露骨に嫌そうな顔をする。


「げぇー」

「てゐは海洋へ行ってもらいます。何せ縁があるのが貴方だけですので」

「りょーかい」


 確かにそうなのだが、陸の常温動物である自分を海に放り込もうというのは如何なものか、とてゐは思うがこれもメンタのためと思えば多少は気を張ることが出来た。


「魔理沙は紅魔館からパチュリーを連れて来てください。咲夜も一度紅魔館に戻り、レミリア様を連れて来た後、ここに待機して設備を担当して貰います」

「分かったぜ」

「はい」


 各自の行動も決まり、紫が扇子を閉じて前に突き出した。


「では、各自行動を開始してください」


 おおっ! と声が上がり、一斉に立ち上がった。



 一方で庭の隅では妖怪たち――パル姫親衛隊の斥候――が待機しており、パルが何処に行くのか聞くが早く通信符を手に取った。

 情報が行き渡れば行動は誰よりも迅速に、遠征の準備が行われた。


「聞いたど聞いたど」

「やろーども、出陣だ!」

『オオオオオオオオオオオオオ!!』


 一部を地上に残し、残りの兵力全てが地底に向けて進軍を開始した。





 地底。イメージとしては薄暗くて乾燥しており溶岩が流れている、というのが一般的な見解だと思われるが実際その通りだ。

 しかし違いもいくつかあり、地底には地底の生態系があり、植物や動物が闊歩していることだ。そして地底の環境に合わせ、人間も妖怪も進化を続けている。

 地底世界には大きく分けても町は3つしかなく、小規模な村は多い。その理由は地底の統一者である魔王・古明地さとりが人魔ともに納めているからだ。しかし納めていても管理はしない。そこら辺は総督府を作り、優秀な人間たちに任せている。


「そういえばここに来るのも久しぶりね」


 溶岩が煮えたぎる傍を歩きつつ霊夢は常用装備のまま腰には水の湧き出る水袋を装着し、パルも空間からボトルを出しては水分を補給しながら会話していた。


「地底だっけ? どんなところなの?」


 パルは地底という場所が始めてくるため、霊夢に概ねの概要を聞く。

 霊夢は少し沈黙し、考えてから告げた。


「んー、一言で言えば妖怪の巣窟ね。鬼、吸血鬼、死人、烏、骸骨、妖怪……まあ全部が全部害があるわけじゃないから駆逐はしなくても良いんだけど――」


 と、言っている間にちょうど説明を省いてくれる妖怪たちがそこらから飛び出てきた。その手にはトゲトゲのこん棒に腰巻、髪や毛はモヒカンスタイルという世紀末風味だ。


「ゲヒャヒャヒャ!」

「地獄の入り口へようこそお客様ァァ! しっかり食べてやるぜぇぇ!」

「おい、チッと待て。あいつ……まさか……」

「こういう馬鹿もいるから気を付けて。龍符「陰陽玉」!」


 霊夢は素早く袖口から弾幕を取り出して投げる。札が巨大な玉の形に具現化し、妖怪たちを一思いに押しつぶしていく。


『ギャババッバババババアアアアア!!?』


 決着は一瞬で付き、霊夢は何事もなかったように歩き出した。


「さ、行くわよ」

「う、うん……」


 そっとパルは妖怪たちに手を向けて肉体の時間を巻き戻して傷を治し、すぐに霊夢の後を追いかけた。

 その後の道中でも妖怪はたくさん沸き、そして圧殺していく。


「父ちゃん母ちゃん――俺、いくよ!」

「龍符「連弾奏」!」

「ぎゃあああ!」

「ブラザー! くっ、お前のことは忘れな――」

「龍符「破魔法陣」!」

「ぐああああ!」

「ジョニー! おのれ、連邦の白い――」

「龍符「岩石砕」!」

『ぬわあああああ!』

「ジィン、デニム! くそ! 撤退だ!」

「霊符「夢想封印」!」

『ゲバァァァアアア!!』


 無双。それ以外の言葉は当て張らないほど快勝と進撃を続けていた。


「ざっとこんなもんよ。パル、そっちは?」

「終わってるよー」


 パルの方を見ると、倒してはいるが半殺しに留めていた。


「殺してないのね」

「だってこの妖怪たちの攻撃に殺気が無かったもん」


 地底の妖怪たちは大体が飢えているが積極的に人間を食べようとは思っていない。むしろ人間同様の食料を求める傾向にあり、道を通る人間や村を襲って食料を得ている。

 余談だが人間を食料とするのは地上の妖怪であり、地底の人間は食べても皮が固かったり肉があまり無かったりとデメリットの方が多いため襲うに値しないのだが餓死しかけている妖怪はそんな事言っていられない。食えるモノなら何でも食う。

 だがそんなことを霊夢が知るはずもなく、妖怪は大体悪理論の元に駆逐されていた。


「あっそ。別にあんたが殺さなくても他の奴等が討伐するわよ」

「それは……」

「気に病むことは無いわよ。いつもの事だし――ん……あれは――」


 ふと霊夢が見た先には小さな洞窟があり、注視すると小さな妖怪と大きな妖怪が数匹いるのが見えた。


「妖怪かな? いっぱいいるね」

「小鬼に鬼犬……害種ばっかりだし殺しとくわ」


 特に何の感情もなく霊夢は言い、札を取り出して構える。


「げひっ!?」

「霊夢!?」 


 パルは思わず間に入り、その手前に妖怪数匹が駆け入った。


「言ったでしょ、あんたがやらなくても他の誰かがやるって」

「や、やめてくれ! あそこには家族と妹が!」


 霊夢はどこまでも冷たい視線で妖怪たちを見下した。


「悪いけど妖怪の言葉に、それも害種の言葉は聞かないようにしてるの。同情はするけど……じゃ、滅符「放火一斉乱波」!」

「皆、にげ――」


 妖怪の一匹が叫ぶより早く弾幕は背後の洞窟を狙って発射され、パルを避けるようにして散弾状態で発射された。


「――っ!」


 パルは鮪包丁を反射的に振るい、弾幕を切り裂いた。

 視線で妖怪たちを洞窟の方に向かうように促し、妖怪たちは急いでパルを通り過ぎて駆けていく。


「……パル、悪いけどこれは感情論じゃ済まさないわよ」


 霊夢が次の札を取り出し、同様に冷たい視線をパルに向けた。だが、パルも霊夢を睨み返した。


「霊夢こそどうしてそうまでして妖怪を殺したがるの?」


 パルが妖怪を助けた理由は『家族と妹』の二言だった。パルにとって家族は何よりも大事なものであるし、妹は、それこそ命よりも優先される対象だ。加えて先程霊夢がやろうとしたことはかつて自身が味わったものと類似するものだった。

 霊夢は少し黙り、パルの視線を見てから答えた。


「――私は妖怪退治専門家よ。事変とか依頼とかそれ以前に、妖怪がそこらにいれば人間に害をなす前に倒す仕事をしているの。だから言ってあげる。あんたがやっていることは偽善よりおこがましいことよ。大体、あんただって防衛戦の時に散々殺してる。それを今更――」

「矛盾してるのは解ってるよ。でも……」


 霊夢の微妙に論点をずらした答えを聞いてパルは言葉を被せた。確かにパルは妖怪を何匹も屠っているし、言い訳は出来ない。偽善だ。


「解っているなら退いて頂戴」

「ううん、退けないよ」


 霊夢の問いにパルは刀剣を構えることで返答した。


「先に聞いておくけど、あんたは何であんな奴等のために戦おうとしているのかしら?」

「……霊夢がやっていることはボクが味わった苦痛と同じだから。そんなの、例え妖怪だったとしても味わってほしくないから」


 それも今までしてきたことを考えれば矛盾しているが、今のパルは引く気は無かった。


「どうしても退かない気?」

「うん」


 即答。

 ――パルと戦ったら妖怪は倒すことが出来る。でも私も無事じゃすまないし、パルも痛い目を見る。こんなところで消耗するのも馬鹿馬鹿しいわね……。

 霊夢はどんなに感情的になっても根底にあるのは損得勘定だ。時には損得を無視した答えも出すが、余裕がある内は考える方を優先している。故に、霊夢は脱力して札を仕舞った。


「はぁ……情にやられたのね。ったく……今回だけよ」


 霊夢の交戦意志が無くなったのを見てパルも鮪包丁を仕舞う。


「うん。ありがと、霊夢」


 ――そんな笑みで言われたら攻撃なんて出来ないっての。

 半分苦笑い、半分は呆れてパルの笑みを横目で流し、近くで震えていた妖怪を一瞥した。


「ほら、あんたもさっさと行きなさい。パルに死ぬほど感謝して、人間とか人里なんて襲わないこと。良いわね?」


 小鬼は激しく泣きながら頷き、洞窟の方へ駆けていく。

 そんな様子を見て、霊夢は一度溜息を吐いて気分を切り替え、歩き出した。


「……さっさと行くわよ」


 一方でパルは上機嫌に霊夢の隣へと駆け寄って来た。


「うん! 町に着いたら何か奢ってあげるね!」

「そ、そんな手で懐柔なんてされるわけ……ないんだからね!」


 ツンデレもしくはチョロインの素質を見せつけながら、二人は歩いていく。

 眼前には地底で一番巨大な町、古明地の町が見えてきていた。

 



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

――第二部・地底のナカマ――


 ちょっと視点を妖怪に向けてみる。

 時は戻り、パルたちが地底で初戦を終えると同時くらいに親衛隊の面々も地底へと進軍してきていた。


「ぐ……げげげ……」

「己ェェクソ巫女ォォ」

「知ってんなら先に言えェェ……」


 そこへ地上の妖怪が現れ、妖怪たちを取り囲んだ。


「パル姫親衛隊参上!」

「我ら姫の剣なり!」

「な、なんだこいつ等……」

「姫?」

「如何にも! あの薄紫色のポニーテールの女の子こそが我らが姫!」


 メジェドが背の高いミノタウロスの肩に乗って叫ぶと親衛隊諸君等が復唱した。


『我らが姫!』

「可愛い! 美しい! 優しい!」

『素晴らしい!!』

「しかし手ェ出そうとした輩は粛清!」

『粛清!!』


 一斉に取り囲まれて濃密な殺気に包まれる。


「げげっ!?」

「しかし諸君等もパル姫様に命を救われた身!」

「姫に忠誠を!」


 一時の猶予が与えられ、彼らは相談する。


「ど、どうしやす親分?」

「俺ァ良いと思うぜ。どうせ地底でのさばっても満足な食事エサにもありつけねぇ」

「……確かに」

「ところがネッチョリ! 我々親衛隊に入ると一日三食おやつが付いてい来る!」

「その分、自分の命張る仕事多い!」

「でもパル姫様のためなら死んでもいい!」

『さー、いえっさー!!』

「あい分かった! 俺たちも傘下に入るぜ!」

「仲間!」

「仲間増えた!」

「でもまだ仲間がいる、そいつらも仲間入れて欲しい」

「忠誠を誓うならば良し!」


 妖怪に案内されて近くの住処にいくと炎の焦げ跡や戦闘らしき跡がいくつもあり、鬼は駆け足で洞窟へ急いだ。


「戻ったぞ! 何があった!?」

「兄ちゃん! 兄ちゃん!」


 彼に駆け寄って来るのは先程の小鬼。顔を酷く泣きはらして兄鬼に抱き着いた。


「おー、そんなに泣いてどした?」

「博麗の巫女が来て家族皆殺されそうになって! でも薄紫色の髪の女の子が助けてくれたんだ!」

「……マジで?」


 マジマジ、と小鬼が頷くと背後では親衛隊たちの男泣きが聞こえてきた。


「くっ……流石パル姫様……!」

「一体何処までお優しく……!」

「俺、俺あの人みたいになりたい! もう人間襲わない!」

「それが良い。俺も人里降りるのは止める」


 そして先の事情の一連を家族に話し、一家ごと親衛隊に入隊することになった。


「うんうん!」

「仲間!」

「仲間増えた!」


 何処からか仲間が増えたBGMが流れ、親衛隊の面々は各自思い思いに行動を開始した。


「じゃー素材あつめるぞー」

「メモと割符持ってけー」

「いくどー!」

『さー、いえっさー!!』


 ワーっと各自散開し、素材の収拾を始める。リーダーや幹部格は兄鬼の案内の元、近くの村に行き、話をつけ始める。

 数日かけて村という村を周り、町とも連携体制を取ってから古明地の町へ戻ると地底の雑魚妖怪から上位妖怪までパル姫親衛隊に入団しており、大規模な軍勢となって地底の治安が改善されていくことになる。


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