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東方幻想腐女録  作者: グラたん
第一章
63/119

第五十七話 『鳥は何故空を飛ぶのだと思う』?

グラたん「第五十七話です!」

 古明地の町。地底最大規模の町であり、第一次地底大戦を圧勝という形で終わらせた魔王が滞在している場所。

 ここには妖怪だけでなく人間や半魔も住み着いており、商通の町としての側面もある。また総督府と行政府も並んでおり割と治安が良い場所として知られている。

 一番目立つのは町の中央に聳え立つギルドと呼ばれる機関。剣と銭湯の旗と湯煙が立ち昇っている場所だ。中央通りから見て東側が男湯、西側が女湯となっており、特に女湯側は厳重警備かつ対地対空兵器まで用意されている。

 町の至る所に宿屋や宿場があり、敷居の高い場所から最低限寝泊まり出来る場所まで多彩にある。その付近には対妖怪用の武装や対人兵器などが売られており、中にはオーダーメイドも出来る施設がある。

 そんな活気あふれる町の城門を潜り、霊夢はメモ用紙を広げた。


「着いたー!」

「とにかく素材を探すわよ。基本的には素材屋とか骨董品屋がメインね。欲しいのは――えっと、エリエレ草、地底の溶岩液、爆弾磐の欠片、ボーンバットの頭骨と小鬼の角、マグマラグーの尾ひれ、キャノンシザーの鋏、魔王の爪……一番入手が難しいのは魔王の爪ね」

「魔王……魔王ってあの?」


 パルの脳裏には小柄で薄緑色の髪をショートヘアで整え、いつでも子供のような笑みを浮かべる天真爛漫な少女が出てきており、霊夢は手を左右に振って否定した。


「地底の魔王って言ったら『さとり』一択よ」

「さとり……?」

「古明地さとり。……あいつだけは苦手なのよね……」


 どうにも本当に苦手そうに霊夢は視線を地面に向けた。


「会ったことあるんだ」

「まあね。……能力は人の心を読む程度。そのせいで引き篭もりになって自宅からさっぱり出てこないからまずは家に居れてもらう所から始めないとね」


 面倒くさいなぁ、と思っているとパルが微笑みつつ言葉の剣を振り下ろした。


「霊夢みたいだね」

「……NEET同盟の一員だからね」


 それを間一髪で受け流し、霊夢は内心で安堵した。

 町の中を歩いていると食欲をそそる良い香りが漂ってきて、その方向に視線を向けると甘味処酒場と書かれた場所があった。


「そういえば霊夢に御馳走してあげる約束だったよね。ちょっと寄って行こう?」

「……ま、ちょっと寄り道しても怒られないわよね」


 甘言に流されて甘味処に立ち寄り、チリンと風鈴の音が鳴って扉が開かれる。

 二人が適当な席に腰駆けると気性の良さそうな女主人が注文を取りに来た。


「いらっしゃい! 何にする?」

「うーん……ボクは地底小豆チーズのかき氷にしよっかな。チョコアイス乗っけで!」


 超甘いと書かれているにも関わらず注文するパルを見て他の客が少し静まってパルを見た。地底は年がら年中暑いためアイスは人気商品の一つだがそこに甘さを求めるのはまた別の問題だ。確かに甘い物を好む者はいるが、胸灼けが止まらなくなるほど甘い物を食べたいとは思っていない。


「私は地底地酒の岩石アイス。中辛で」


 霊夢は前に食べて気に入っていたアイスを注文し、女将さんはそれを見て陽気に笑った。


「お客さん、地底に来た事あるんだね」

「ええ、美味しい物は何度でも食べたいのよ。あ、それと地酒はロック割にしてこっちにも」

「あいよ!」


 女将さんが注文を奥に流し、氷を擦る音が鳴り響き始める。

 待っている間にパルは辺りを見回し、面白そうに彼らを観察する。


「色んな人がくるんだね」


 ここに来るお客のほとんどが半妖であり、角があったり獣耳があったり、はたまた尻尾が生えていたりと見ていて飽きない。


「地底では人間の方が珍しいわ。一番多いのは半妖種で次に甲殻種が多いわ」

「半分妖怪と言ってもボクみたいじゃないんだね」

「あんたとか霖之助はまた別格だからね。ここらだと妖怪の血の方が濃く出るらしいわ」

「地域の違いなのかな?」

「さて、どうかしらね」


 霊夢もそこまで専門的に知っているわけではないためはぐらかした。


「へいお待ち! 地底小豆チーズのかき氷チョコアイス乗せと地底地酒の岩石アイス、それと地底地酒ロック割りだ!」


 ドンっと山のように盛られたアイスと酒精のあるアイスが置かれ、更にロック割りされた地酒が机に置かれる。

 地底小豆チーズのかき氷チョコアイス乗せは山のように擦ったかき氷の上に地底で取れる豆を黒糖で甘く煮て一晩寝かし熟成させた小豆を乗せ、その上に口直しのチーズをのせてある一品だ。地底の中でも割と有名な品であり、来たらコレを食えと言われる一品でもある。

 地底地酒の岩石アイスは地酒を凍らせて酒精を強め、バニラエッセンスを加えて甘くした代物だ。酒精があるため好き嫌いはあるが好む人はとことん好きになる一品だ。

 地底地酒ロック割りは甘口、中辛、辛口の三種類があるが、甘口は岩石アイスと同様の製法のためまもとに飲むのであれば中辛と相場が決まっている。使われているロックの氷は地底で最も寒い『深層』と呼ばれる場所で作られており、飲んでも飲んでも溶けないことで有名で飲み切れずに持ち帰る人もいる程だ。


「じゃ、ありがたく頂くわね」

「うん! いただきます!」


 早速スプーンを手に取ってアイスの山を突くとシャクっという良い音と共に一山盛られ、それを口に運んで舐める。


「ん~! 甘くておいしい!」


 思わず手を頬に当てて蕩けるような笑みをし、そこらにいた奴等を魅了する。

 不意に黒い影がいくつか動き、彼らはお勘定を置いてその場から消えた。


「前より腕上がってるわね」


 続いてパルが地酒を手にして飲み――固まった。


「……ねえ霊夢」

「なに?」

「これお酒だよね」

「そうよ。地底に来たらこれ飲まなきゃ」

「飲んだら素材集め出来ないよね?」


 パルも今を楽しむことは忘れないが、一番はメンタだ。可能な限り急いで集めたい気持ちもあり、お酒は出来るだけ控えたかった。

 霊夢もそう言われると予想していたため予め説得できそうな言い訳を考えていた。


「そんな肩に力入れても見つかる時は見つかるし、見つからない時は見つからないわよ。それに地底の環境にも慣れておかないといけないから今日明日は里を見て回るつもりだったし」


 確かに不慣れな場所でいきなり探すよりは慣れてから探した方が早いかもしれない、と純粋にパルは考えて頷いた。


「……分かった。霊夢にもちゃんと考えがあるんだね」


 騙しているみたいで気が引けつつも嘘は言っていないと自答し、霊夢はロック割りに手を呷る。


「んなわけねーだろ。酒飲みたいだけだろぉ、霊夢」


 不意に誰も居なかったはずの隣の席から声がして、パルは腰を浮かした。


「にゃふっ!? 誰か隣にいる!」


 そんな人物の心当たりは一人しかおらず、霊夢はアイスを食べつつ横目で彼女を見た。


「あんたはあんたで飲んだくれは変わってないのね、萃香すいか


 霊夢に呼ばれて姿を現し、彼女は陽気に笑った。


「あはは! 私は私だ。今も昔も未来も変わんないよ! でぇー、こっちの可愛いのは?」

「私の連れよ。それと酒臭い」

「えっと、ボクはパル。君は霊夢の友達なの?」


 パルが眼を向けた相手、萃香は頭のこめかみより少し後ろくらいからは長い対の角が生えており、一目で鬼の種族だと分かる。来ているのは動きやすい袖なしの服に膝丈のスカート姿だ。


「にゃはは! そんなまもとな呼び方されたの久しぶりだね! 私は伊吹萃香、霊夢とは――ま、酒飲み友達?」

「あながち間違ってないわ」


 パルは少々意外そうに霊夢を見た。


「へぇぇ、霊夢に魔理沙以外の友達がいたんだ」

「ちょっと失礼ね! 私にだっていっぱいいるわよ!」


 怒る霊夢とは対照的に萃香は爆笑し、持っていた酒蟲の入った瓢箪を出してパルが飲みほしたロック割り注いでいく。


「あははははは!! 傑作! 気に言ったよ、パル! ほら飲め飲め!」

「え、ちょ! それお酒だよね!?」

「私の酒は美味いぞー!」

「もー……」

「――あっ……」


 霊夢が待ったをかける前にパルがロック割りに手を伸ばし、香りを楽しんでから一気に呷った。

 飲むと清涼感のあるのど越しと同時に少し痺れるような灼けつくような快感が喉を通り、胃に滴ると体全体がほんわりと温まる気がした。


「あ、美味しい。でもちょっと辛口かな? 後味がしつこくないから癖になりそうだね」


 余談だが酒蟲という物は実際に虫ではなく小さなビー玉のようなものだ。魔法的な力によって注いだ水を酒に変える魔法を自動的に使い、水が入っていない間は行使されない特徴を持つ。また、萃香の持っている瓢箪も魔道具と呼ばれる魔法が付与された道具であり、瓢箪の内部を瓢箪型のまま拡大させる魔法が付与されている。

 内容量はおよそ300tも入り、その水は地底にいくつかある大水道とよばれる滝から持って来ている。

 更に余談だが萃香は大酒飲み――悪く言えばアル中――のため月に一回は大水道に向かい、酒の補充をする。


「……ちょっと霊夢、私の酒を普通に飲んで気絶しないってどういうこと?」


 度数80度。常人だけでなく妖怪が飲んでも酔っ払うような酒を飲んでも倒れないパルを見て萃香はちょっとだけ酔いが覚めた。


「……そりゃあ、パルは月見酒を飲んで死なないんだからあんたの酒飲んだくらいで気絶なんてしないわよ」

「うへぇ……マジで?」


 月見酒は癖が強いため萃香でも二、三本飲んだら記憶が無くなる類の代物だ。そのため余程の時意外は飲まないと決めている酒の一つでもある。


「現にあんたの酒飲んでいるのがその証拠でしょうが」


 へー、と萃香は笑い、パルの方を見た。


「なぁに?」


 そのパルの顔は若干赤くなっており目も少々蕩けそうになっている。


「いんや、月見酒飲めるんだったら今日はいっぱい飲めそうだと思ってな! 最近は付き合ってくれる人がいないから暇でさー――――」

「はふーっ」


 パルの酒癖は絡み酒だ。それも問答無用で抱きつくという人によっては御褒美、人によっては迷惑な癖だ。今も無遠慮に萃香に抱き着いて頬ずりしている。


「へわわっ!?」

「うりうり~、柔らかい~」

「れ、霊夢! ど、どうなってんのコレ!」

「パルは酔うと女子の誰かに抱き着くみたいなのよ。特に肌が柔らかい人が好みみたいだから……一回掴まったら当分逃げられないわよ」

「へっ……?」


 萃香の肌は柔らかく、酒が入っているとはいえ女子は女子である。毎日手入れもするし頬を抓んで伸ばせるくらいには柔らかい。


「にゃ~」


 べたーっとパルが萃香を抱き上げて膝に乗せようと試みる。


「わ、私が抱き付く分には良いけど、抱き付かれるのはちょっと……霧散!」


 萃香も悪戯で人に抱きつくことはあっても抱きつかれるのは慣れていない。萃香の持前の能力で体を霧と化し、逃げる。


「あれ? 萃香~?」

「萃香の能力は密度を操る程度よ。今は霧になるまで密度を下げているみたいね」

「むぅぅ」


 そこらに手を伸ばしても感触がなく、パルは少し頬を膨らました。


「神纏・アスト。零の領域」


 パルが手を高く上げ、その掌から零の領域が散布され、辺り一面の能力が無効化される。それを見て霊夢はそっと視線をアイスに戻し、気付かないふりをした。

 一方で萃香は少し距離を取って冷静さを取り戻していた。

 ――はぁ……びっくりしたー。いきなり抱き付かれると緊張するなー。さーてと、やられた仕返しはどうしてやろうかなー。とりあえず背後から抱き付いてみたり――。

 厭らしい手つきのままに萃香はパルの背後へと周り、仕返しをしようと近づく。


「にゃっふぅ~」


 が、突然パルが振り返って萃香の胴体を掴み、抱きかかえた。


「ん?」

「捕まえたーうり~」


 ぬいぐるみのように抱きしめられ、頬や腕を抓まれ、やりたい放題にされる。


「何で能力消えているの!?」

「アハハハハハハ!!」


 隣で霊夢が爆笑し、片手は机を叩き、もう片方はお腹に手を当てていた。


「や、やめ、止めて! くすぐったい! ってか力強いんだけど! 私が逃げられないんだけど!!」

「にゅ~」


 仮にも鬼の四天王の一人。力だけであれば地底最強の一角とも言われてる萃香がもがいても動かない様子を見て周囲は青ざめ、当の本人は泣き眼で助けを求める。

 それを助けようと思う勇者はいなかった。


 

 結局その日は酒盛りで終わってしまい、萃香は夜更けまでパルに弄られて心身ともに疲れ果てていた。宿は近くの場所を取り、一部屋を借りて寝ることにした。

 地底に太陽も月も無いため朝昼晩の概念は無く、起きたらそこから一日が始まるということが普通だ。酷くルーズだが何故か時計はある。しかし地上の12時間単位ではなく24時間単位のため一つ一つが巨大だ。

 現在は8時を差しており水と朝食を取ったパルたちは外に出て背伸びをしていた。


「……すっかり飲んで寝ちゃったね」

「あー、昨日はよく笑ったわ。萃香のあんな困った顔初めて見たわー」


 萃香はパルから一刻も早く逃れたいがために宿には止まらず何処かに逃げてしまった。パルとしてはちゃんと話して見たかったのだが何処にも姿が見えないため仕方ないと諦めた。

 代わりに昨日できなかった素材集めをしようと気合いを入れて天井高くに拳を掲げた。


「今日からはちゃんと素材集めするよ!」

「えー……二日酔いで頭痛いし、里を観光したいんだけど――」

「色々見てみたいとは思うけど優先事項を間違えちゃ駄目だよ。メンタが待ってるんだから! 行くよー!」

「おー……」


 霊夢はただの飲み過ぎた。

 町を歩き、素材屋や雑貨屋が集中している南区へ向かっていると城門の前に何やら大きな人だかりが出来ており、パルたちも気になって其方へ歩いて行く。 

 南門の周辺にはこれでもか、と集められた素材と下手な字で書かれた板が置いてあった。内容は『ぱるサマのためにあツめた。わたセ』。

 当の本人は引いた。


「……なに、これ……」

「……これあんたのせいよ。絶対ね」 


 パルは知らずとも霊夢はこれをやったのが誰なのか心当たりがあり、パルを半眼で見た。


「え?」


 ただ、秘密裏の部隊であることも知っているため下手に教える必要はないだろうと考えて黙る。


「いや、何でもないわ。知らぬが何とやら……。ともかく素材は集まったわけだし、数日くらい遊んでも――」

「それなら最後の所にいこう! 誰だか分からないけどありがと!」


 パルがお礼を言って素材を空間にしまい、城壁の外でお礼を聞いた親衛隊たちは心から感激して霊体の何名かは綺麗な魂となって昇天していった。

 


 さて、素材もいきなり大詰めとなり、霊夢の案内の元でやってきたのは地霊殿と言う場所だ。町の最北にある白塗りの屋敷であり、騒がしくならない範囲まで遠ざかった結果、町と地霊殿の間には長い通路が出来ていた。

 通路はよく整えられており、周囲には隔絶するように白い壁が連なっている。色が白一色なのは防壁としての役割と魔法による対防音対策のためだ。

 地霊殿そのものは縦30m横200m奥行き100m程度の三階建てだ。前庭が広いため入り口から最奥までは1km近くもある。


「ここ?」

「そうよ。さとり、いるなら出てきなさい!」

「ええ……」


 そんな方法で出てくるのだろうか、とパルは思うが以外にも扉が開き、しかし中からは誰もおらず小さな足音だけが響いた。


「扉は開いたけど……」

「こいしかしら……」

「こいし?」


 パルが聞き返すと霊夢は地霊殿に近寄りつつ答えた。


「さとりの妹。だけど無意識にしか存在しない能力を持っているから見えないのよ」

「それって何か不便だよね?」

「そうでもないわ。こいしも元々は心を読む妖怪の一人だから……まあ、要は人の心を読むのが嫌になって悟りの能力を閉ざしたのよ。代わりに無意識能力に目覚めたんだけど……さとりの方は開いたままなのよ。だから大抵のことはこいしがやるし、お空とお燐も色々やってるわ」

「お空とお燐って?」

「人面鳥と半獣人よ。人妖問わず仲良く出来る子たちだから心配しなくても良いわよ」


 本名は火炎猫かえんびょうりん霊烏れいうじ路空うつほ。お燐は化け猫の妖怪でお空は妖力を込めることで手が御柱砲に変形する烏の妖怪だ。


「そうなんだ~」

「まぁ、会ってみれば分かるわ」

「うん。それでこいしってこの子のこと?」


 ひょいっとパルが見えない何かを抱きかかえると彼女は知覚することが出来、霊夢は少々唖然とした。


「きゃ~! みつかっちゃった!」


 こいしは緑を基調とした服とロングスカートを着用しており、唾の広い帽子を被っている少女だ。胸元には垂れ下がるように眼をぶら下げており、パルの胸に抱えられて上機嫌だ。


「どうやって見つけたのよ」

「視界感覚を360度に変更して感覚全開にしただけだよ。それなら無意識なんて無いからね」


 気功術の一つに『連気方位』という技がある。強引ではあるが全方位に気を張り詰めていればこいしを捉えることも出来る。


「なんて荒業を……」

「……代わりに凄く疲れるけどね」


 一度知覚するかこいしが自分から存在を露わにしていればそこからいなくなることはないためパルも感覚を元に戻して脱力する。


「でしょうね。まあいいわ。こいし、さとりに会わせてくれる?」

「勿論いいよ! さ、入って入って!」


 パルの腕から降り、地霊殿の扉を開けてこいしが中へ促し、その後に続いてパルたちも内部へと入って行った。



 地霊殿のとある部屋ではピンク色を基調としたこいしと同じような服装を着た人物がいる。違うのはこいしがロングヘアであり、彼女はセミショートヘアだ。少しくせっ毛なのか毛先がくるりと丸まっているのが特徴的だ。

 そして机に置かれている目が開いたままなのもこいしとは違う点だ。


()()()()()()()()()()()()()()()……。せっかく面白くなってきたところだったのに」


 億劫そうな表情で読んでいた本、チェイルズ・オブ・ベルセリャ4巻にしおりを挟み、彼女――古明地こめいじさとりは溜息を付いた。次いで、ドタバタと駆け足が聞こえて部屋の扉を勢いよく開いた音がした。


「お姉ちゃーん! 霊夢たちが来たよー!」


 さとりはこいしを見て、一瞬だけ注視した。


「お姉ちゃん?」


 こいしが首を傾げると彼女は立ち上がった。


「分かった、すぐ行くわ」

「うん!」


 普段は人前に出ることは無いが誰かと会うのならば身嗜み程度は調える。洗面所に行って顔に水をかけて目を覚まし、髪と梳かしてくせっ毛を直す。服も皺を直し、一度我が身を見直して変な所がないのを確認してさとりは客間へと足を向けた。


「待たせたわね」


 客間へと来るとソファーには知り合いと見知らぬ薄紫色のポニーテイル少女の姿があった。


「久しぶりね、さとり」

「ええ、久しぶり。そっちは?」

「彼女はパル。紅魔館に住み込んでいるメイドで、今回は理由ワケあって同行して貰ってるのよ」

「初めまして、ボクはパル。よろしくね」


 パルが立ち上がり、スカートの裾を抓んで優雅に礼し、さとりは少々意外そうに眼を開いた。

 ――流石は紅魔館というべきか……。

 美少女なのはともかくとして、メイドとしての教えが充分に生かされている上に存外戦闘力(ただし胸部戦闘力)の高い少女を送り込んだものだ、とさとりは戦慄した。

 さておき。さとりが対面するように座り、お燐がカップに紅茶を淹れてソーサーに置き、いつも通りのダージリンの香りを楽しんでから口に含んだ。


「多分聞いていると思うけれど、古明地さとりよ。魔理沙と一緒じゃないのは意外だったけど……それで今日は何の用?」


 一呼吸おいてカップを置き、胸の前に垂らしている目を開いた。

 それを見て霊夢も表情を真剣なものに変えてさとりに向き直った。


「あんたの爪が必要なの。頂戴」 


 端的かつ分かりやすく言ったのは、さとりが心を読む妖怪だと知っての事だ。さとりに対しては表面だけでなく深層の感情や思っていることも筒抜けるため騙しや嘘をつくことは出来ない。

 ――あんたの爪が必要だからさっさと寄越せ。帰って酒飲みたいから早く寄越せ。

 さとりは絶句した。


「……久しぶりに心から欲望全開でストレートな発言を聴いたわ」

「で、どうなのよ」

「嫌よ。生爪剝がすの痛いんだから」


 必要な魔王の爪というのは文字通り古明地さとりの爪に含まれる魔力成分だ。能力を使用するにしろ、魔法を使うにしても指先に魔力を溜めて発動することが多い幻想郷では百年以上溜め込んでいる爪は霊薬の素材となる。

 さとりが断ると霊夢は内心で舌打ちした。

 ――チッ、こうなりゃ押さえつけて手ごと捥いでいくしかないわね。どうせ妖怪なんだしその内再生するでしょうし。

 下手をすれば腕ごと捥がれるため、そんなことになるくらいなら爪を渡した方が良い。相手が霊夢であれば断るという選択肢は元から無いに等しい。


「怖っ!? ホラー小説より生々しくて怖い!」


 さとりは思わず身を引いて、それを見たパルも何となく察して霊夢を注意した。


「霊夢、物騒なこと考えてるでしょ」

「そんな事無いわよ。対価が必要なら払うわ、パルが」


 霊夢の言葉から爪を必要としているのはパルだということを知り、さとりはパルの方を向いて言葉を続けた。


「……とりあえずそっちの事情を聞かせてくれる? 理由もなしに渡せないから」


 ――霊夢も一緒だから変に嘘つく人じゃなさそうだけど一応……。

 第三の目を向け、その能力を知らないパルは今回の概要を説明し始めた。


「うん。実は――」


 事情を説明し、その言葉に一切の嘘偽りもなく洗脳されている様子もないため、さとりは信頼できる人物と判断して張り詰めていた気を抜いた。


「なるほど。嘘はついてないみたいね」

「メンタを助けるためにどうしても必要なんだけど、ダメかな?」


 さとりは少し迷ったが、姉が妹を助けたいという感情はよく分かるし霊夢にもいつぞやの借りがあるため清算するには丁度良いだろうと考える。


「……良いわ。霊夢には恩があるし、同じ姉として助けてあげたい気持ちは痛い程分かるもの」

「ありがとう、さとり」


 パルがお礼を言うとさとりは少々照れくさそうにしながらも手を前に出して告げた。


「でもその前に一つ質問させて」

「良いよ」

「勿論、霊夢にも答えてもらうわ」

「良いわよ」


 二人が頷いたのを見て第三の目を二人に向けてから尋ねた。


「それじゃ……『鳥は何故空を飛ぶのだと思う』? よく考えて心で答えてね」


 とは言ってもノーヒントで答えられるような問いでは無いし、哲学的な質問でも無い。ただ単純に知っているか否かの問いだった。

 ――……()()()()()()()()()()()()()()()、ちょっと意地悪だったかしら?

 チェイルズ・オブ・ベルセリャ第4巻に出てくる『導師』と呼ばれるキャラクターの問いだ。チェイルズシリーズは幻想郷でも比較的有名になっているライトノベルのタイトルであり、さとりがここ数年で読んだ中でもトップクラスに面白い内容だった。

 まずは霊夢の思考を読む。

 ――取って食われるため一択でしょ。特に地底の溶岩鳥のモモ肉が旨いのよね。地酒のつまみにすると尚良いんだけど、さとりはお酒飲まないのよねー。でも唐揚げにするとこれまた絶品でマヨネーズにつけて食べると良いんだけどシンプルに塩コショウだけで食べるのも通の食べ方の一つ。あー、本当に食べたくなってきたわ。他にも青椒肉絲とか麻婆豆腐に入れると美味しいんだけど最近は麻婆カレーが一押しね。あの丁度良い辛さが病みつきになりそうで付け合わせのピーチグミと一緒に食べると一気に味が引き締まるのよ。さとりも地霊殿から出てくれれば里でご馳走してあげられるんだけど。それか食材集めてパルに作って貰うのも一つの手かもしれないわね。

 それを聞いて霊夢もチェイルズシリーズを呼んでいることが分かり、この時点でさとりは爪を渡そうと思った。結局の所、さとりは話題を共通できる人が欲しかっただけだ。ちなみに霊夢はチェイルズシリーズを読んではいるが漫画版の方に注視しているため中々進んでいない。

 それとは別に朝から食べていないためお腹が鳴り、さとりは全身を硬直させて動きを止めた。


「お腹空いたねー」


 こいしの言葉に危うく頷きかけ、何とか自制する。


「ちょっと待ってて、先にパルたちよ。さて……」


 次にパルの思考を読む。

 ――う、うーん……どうしよう。その答え知っているんだけど本当のこと言っちゃっていいのかな? あの本読んでいるなら答えは言わない方が良いんだけど、でも答えずにメンタを助けられなかったらそれこそ本末転倒だからね……。うん、仕方ないよね。えっと確か『鳥が空を――』。


「ぎゃああああああああ!! 止めて止めて悪かったからネタバレだけは絶対止めて! 爪くらい無料タダで上げるからお願い止めて――――っ!!」


 普段から人の心が聞こえてしまうさとりにとって本は貴重な心の癒しだ。ネタバレは絶対に厳禁であり、それが誰であっても止めて欲しい事柄だ。


「えっ、あ、うん」

「ちょっとパル、さとりに絶叫させるなんて何思ったのよ」

「問いのネタバレだよ。ボクも地球に居た時にその本読んだからね」

「で、答えは?」

「さとりも読んでるみたいだし言わないでおくよ」


 そう、と霊夢は呟いてさとりの方を見る。


「はい! これで良いでしょ!」


 さとりが自分の爪を抜いて霊夢に渡し、それを袋に入れて霊夢は立ち上がった。


「よし回収完了。帰るわよ」

「……目的は達成したんだし少しのんびりしても罰は当たらないよ?」


 パルがそう言うと霊夢は目を細めてパルに向いた。


「……行く前と言ってること逆なんだけど」

「ここに来る前は終わって無かったからね。終わったら話は別だよ」


 そう言うとさとりも指に絆創膏を張りつつ援護する。


「私としてはパルの手料理が食べてみたいわ。溶岩鳥の料理」

「うん、良いよ! 霊夢も、ね?」


 パルに問われ、手料理が食べられるならということで霊夢は折れた。


「分かったわ。それじゃ食材を買いに行ってくるわ」

「私も行くー!」

「私も!」

「行くー!」

「好きにしなさい」


 霊夢の後に続いてこいしとお燐とお空も退出し、パルも立ち上がって空間からエプロンを取り出して身に付ける。


「台所借りるね~」


 そう言って足を向けるより早く、さとりがパルの前に立ちはだかり一冊の本を見せた。


「その前に……この続巻、何処にあるか知ってる?」


 さとりの私室にはチェイルズ・オブ・ベルセリャ4巻以降は無く、地底の何処の書店を見ても入荷待ちとなっており予約も埋まっている状態だ。ネタバレが出来るということは続刊を持っていてもおかしくはないということを思いつき、パルもそこに思い当たって空間から続きの5巻を取り出した。


「幻想郷の地上でも最新刊売ってたよ。続巻なら揃ってるから読む?」


 現在発売されている最新刊までの続巻を机に出し、さとりは目を輝かせた。


「貸して!」

「良いよ~!」


 パルも爪のお礼もあるが、チェイルズ仲間が増えるのは嬉しいため、喜んで本を貸した。さとりが喜ぶ声を背中で聞き、台所へと向かって行く。

 歩いて行くと、不意に別室の隙間から中が見え、剣やら鎧やらはたまた衣装が見え隠れしている。まさか、と思って覗き込むと歴代チェイルズシリーズの武装であり、かなりの愛好者だ、とパルは思った。

 そういうパルもノフミンなる謎の猫人形を作っては傘に括りつけたりしており、同じく咲夜やパチュリー、フランドールとレミリアも読んでいるため紅魔館内ではひそかにチェイルズが浸透している。 


さとり「ネタバレ、ダメ、絶対」

グラたん「そうですね。答えは自分の目で確かめた方が良いです」

メンタ「それならpixivとかwiki先生とか見れば良いと思います」

さとり「……自己責任で、ね?」

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