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東方幻想腐女録  作者: グラたん
第一章
53/119

第四十八話 食事領域【フードレンジ】

グラたん「第四十八話です!」

チルノ「イェェェガァァァァ!!」

 不意に辺りから視線を感じ取ったパルが周りを見るとそんなことはなく、首を傾げた。


「……? 何か今、視線を感じたような……」

「気のせいですよ」


 メンタは親衛隊の存在に気づき、とても良い笑顔でパルを前に促した。


「美味そうな人間共がいるぜぇぇ!」


 てゐが怪しい手つきで住民を脅し、永琳が無言の笑顔でその頭部を無造作に掴んで歩いて行く。


「あががっ! 耳! 耳もげるぅぅ!!」


 都市を歩いて行くと巨大な建物を見上げると諏訪子は走って向かっていく。


「おおー、ここが例の場所かー」

「広い場所ね。ここでやったら相当信仰心が得られそうね」

「ちなみに補足しますと、夏コミもここで行われる予定です!」

「予定しているブースはあれだ。建設も大詰めみたいだな」


 建物の高さは200m、横幅は2km程度、奥行きは2.5kmという幻想郷でも巨大なブースとなっており、階層は一階のみでお客の安全性や地震対策を重視している構造になっている。

 建設現場の骨子はもう完成しており、現在は塗装や内装に取り掛かっているようだ。


「わぁ! 大きい~」


 パルも両手を広げて見上げ、早苗はふと前に来た時のことを思い出す。


「あれが会場……でも、前に来た時はまだ工事も始まってなかったような……」

「ちなみにどれくらい前とか分かりますか?」


 メンタが聞くと早苗は時系列を頭の中に思い描き、首を傾げた。


「確か……一か月くらい前かな?」

「そうなのだー」


 それを聞いてメンタや妖夢は顔を引き攣らせた。


「一か月であそこまで完成させるなんて……一体どんな魔法を使ったのか気になりますね」

「どういうことですか?」


 早苗の問いには妖夢が答えた。


「普通、人間が何かを建築する場合は入念な下準備と素材を必要とします。確かメンタさんたちが企画したのが三か月ほど前だとしても、従来であればまだ建設の地ならしの段階です。これだけの巨大建築物を建設するとなると、この段階まで行くのには一年以上の時間が必要になるはずなんです」


 地球にしろ幻想郷にしても人力という点ではどうしても計画に支障が出たり、天候のせいで工期が伸びることは多々ある。例え魔法を使ったとしても天候を左右するほどの大魔法は禁止されているし余程の事でなければ分身系の魔法も禁止されている。

 その理由は職を多々の人に渡すことと大人の深い事情が関わっている。

 そのためスルトが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことは知識のある者からすればかなり異常なことだ。


「それじゃあ……」

「スルトさんや紫様が余程大人数を集めたのでしょうか?」

「本人に聞いてみてはいかがですか?」


 こういう時はパルに回すのが正解だとメンタは知っている。


「それもそうだね。スルトさん!」


 スルトも意図をくみ取り、頷いて答えた。


「うむ、聞いていたぞ。早苗の言う通り、紫たちの力を借りて人手を集めたのだ。思ったよりも成果が上がっていて何よりだ」

「やっぱりスルトさんは凄いんだね!」

「うんうん」


 パルや早苗からは無垢な笑顔を向けられ、諏訪子たちも感心して眼を細めた。


「ククク……」


 女性、女子からチヤホヤされて嬉しくない男性はいない。スルトも例にもれず恰好だけつけて不敵に笑い、仮面の奥では若干冷や汗を掻いていた。

 ――……言えない。まさか死霊とか屍兵とかを働かせているとか……言えないな……。

 現に会場の看板には『神でも立ち入り禁止』と書かれており内部では死霊や屍たちがカタカタと動き続けている。これが人間であれば人件費や昼食休憩等々が必要な上に幻想郷では一日最大6時間という労働基準があるため工事は遅々となるのだが一日中働き続けられる屍であればその辺は必要ないため安上がりにもなる。


「へぇぇ……」


 その脳裏をメンタは読み取り、スルトは鋭い視線で制した。


「言うなよ?」

「言いませんよ。大事なスポンサー様ですからね」 


 メンタにとってスルトは大事な大楯であり夏コミをする上で欠かせない存在だ。わざわざ自分から下手を打つ真似をメンタはしない。


「何の話?」


 不審げな二人を見たパルが問うとメンタは完璧な笑みで答えた。


「夏コミに使う人事の話ですよ。何せたくさんの人や妖怪が集まりますので特に人食いの妖怪退治のために陰陽師の警備とかも雇っておかないと危険ですからその打ち合わせです」

「――其方も大概自然に嘘を吐くものだな」


 スルトが小さく呟くとメンタは一転して黒い笑顔を作った。

 そんな話をしつつ建築ブースを後にし、陰陽大会が行われる会場へとやってきた。


「おっ、見えて来たぞ」

「あれが会場……大きい」


 大きさは夏コミの会場と同等で現在は売店も点在しているため熱気があり、陰陽師同士の戦いはそう見られないため一般人や子供たちも多くやってきている。


「オレたちは登録を済ませたらそのまま会場入りですので、パル姉たちと会えるのは優勝後になりますね」


 メンタが告げ、パルはメンタの頭を撫でた。


「分かったよ。頑張ってね!」

「はい!」


 元気よく答え、メンタはシンたちの方に駆け寄って行く。

 枢とシンたちも理事長と打ち合わせ、メンタに強制されたてゐも永琳に注意をされていた。 


「では理事長」

「行ってくる」

「てゐ、くれぐれも迷惑をかけないようにしなさい」

「おうさ!」

「お前たちの実力ならば大丈夫だろう。だが、万が一の時は……」

「大丈夫。私は、勝つ!」


 シンの力強い宣言に理事長は頷き、枢も太鼓判を押した。


「この一週間みっちりやったんだ、道真以外は敵じゃないだろうさ」


 その道真も余程のこと――例えばメンタが面白半分で寝返る――がなければ勝てるだろうと枢は確信している。


「そうね。それとメンタ、分かっているわね?」


 霊夢に問われてメンタは首肯した。


「勿論です。デットオアキルですよね」


 殺す以外の選択肢は彼女たちに無い。


「分かっているなら良いわ。会場外に逃げたら私たちが殺るから安心して殺ってきて良いわよ」

「それに関係者等々は此方で洗い出しますので」


 と、藍が言うと続いて妖夢、美鈴、輝夜の三人も頷いた。


「はい!」

「うん!」

「こくり」


 藍たちはメンタたちが合戦している最中に裏手から南陰陽師院の連中および北と西の陰陽師院も絞め上げていくつもりだ。


「それに南の陰陽師一門にはパチュリー、イナバ、咲夜が当たっています」


 だがそれだけの人数が別々のことをしているということを確認し、残ったメンバーを良く思い出して欲しい。

 全員が少々沈黙し、ふとパルが呟いた。


「……あれ? それじゃあ今は誰がレミリア様たちを見ているの?」

「――あ、そろそろ登録の時間みたいですよ」


 メンタが闘技大会の会場門に設置されている時計を見上げ、話題をすり替える。


「露骨に避けたわね」


 霊夢は呆れ、魔理沙とパルは目を見開いて驚愕した。


「おいおいまさか――」

「え、まさか放置!?」


 ゴーン、ゴーンと本選の受け付け開始の鐘が鳴り、魔理沙にとっては、まるで晩鐘のような音がしていた。





 その残された紫、幽々子、レミリア、フランの四人はフードコートにて予算を無視したフードファイトを繰り広げていた。


「ガツガツムシャムシャ」

「モグモグモグモグ」


 特に幽々子に対しての大食い対決(負けた方が全額支払い)を挑む者は後を絶えず、周りの客も幽々子が勝利する度に湧き上がる。


「フラン、美味しい?」

「うん! おかわり!」


 レミリアたちは上品に食事を進め、紫はそれを微笑ましく見つめていた。

 この四人はあくまでも道真を逃がさないための最終防衛ラインだ。そのため普段なら拝謁する機会さえ無い里人や町人たちは騒めいた。


「……なあ、今日ここで戦争が起こるのか?」

「知るかよ」

「でもなんだよこの酷い布陣は……」

「何を狩りに行くんだよ」

「世紀末の間違いだろ?」

「隕石が落ちてくるとか?」

「流石にそれは飛躍し過ぎだろ」

「いや、だが、それくらいあってもおかしくない面子だぞ? これ」

「怖いなぁ……俺だったら絶対逃げるね」

「俺だって怖ぇよ。つーか、余程の馬鹿じゃない限り逃げるからな?」


 レミリア一人でさえカルリスを世紀末に出来るというのに一体これから何が起こるのだろうと人々は興味本位で推測を重ねていく。


「もぐもぐ」

「ゴクゴクゴクゴク」


 だがまあ、何処にでも馬鹿な奴はいるものだ。


「あたい参上! 妖怪は駆逐してやる、一匹残らず!」

「さ、参上!」

「見るがいい! このスーパーでスペシャルでハイパーで一万回で模擬戦なこの立体機動! 目標、超大型女狐!」


 名前をチルノ・イェーガー。御伴はダイヨウセー・イェーガー。

 その手にはチルノが作った二本の細い氷柱を持ち、氷の羽を広げ、はためかせるのは『パル姫親衛隊』とロゴの入ったマント。

 彼女たちは自由と解放を求めて今日も女狐と戦う。


『馬鹿だ!! 馬鹿がいるぞ!!』


 人々は一斉に距離を取り、これから起こるであろう壮絶なる虐殺に身構えた。


「大ちゃん、左右から同時で仕留めるよ!」

「うん! 縦10cm横30mm!」


 羽を広げ、二人は空を飛んで氷柱を構え、女狐を急襲する。


「イェェェェェェガァァアアアア!!」


 しかし忘れてはいけない。彼女たちはあくまでも喰われる側の存在であることを。そして未だ幽々子がフードファイトしていることを。


「もぐもぐゴクン。あーん。んむ?」


 状況を説明すればチルノが回り込んだ方角には幽々子がおり、チルノは紫に集中するあまり幽々子の食事領域フードレンジに自ら飛び込んでしまったのだ。

 竜の骨すら噛み砕く幽々子の強靭な顎に囚われたチルノの胴体には犬歯が容赦なく食い込み、チルノは絶叫した。


「っぎゃあああああああああああああ!!」

「んむむむ。むっ!」


 生の牛筋も秒間200回を超える摩擦で嚙み切る幽々子はチルノの胴体を真っ二つにし、大妖精はそれを見て一目散にチルノの救出に向かった。


「チルノちゃぁぁぁあああん!」

「く、駆逐してやる、一匹のこら――ごふっ…………」


 助けられたのは上半身だけで残りは幽々子の胃袋の中に納まってしまった。それでも生きていれば再生できるため大妖精たちは撤退していった。


「筋かしら? ま、いいわ。もぐもぐ」


 幽々子はそんなことも露知らず次のフードに手を伸ばした。

 それを遠巻きに見ていた子供たちが馬鹿にしあう。


「馬鹿だねー」

「馬鹿だよねー」

「お前等、間違ってもああいうことするなよ?」

「神様相手にやるわけないよ」

「罰当たりだ」

「子供ですら分かることをやる、それが妖精だ」


 大人や陰陽師諭され、子供ですら分かることを敢えてやるのが妖精という生き物だ。






 一方で会場の裏へとやってきた藍たちは美鈴を先頭に立たせて無双させていた。

 陰陽師教師たちもむざむざやられはせず幾度も術符による抵抗をしているが美鈴は素手のみでそれらを迎撃して彼らを追い詰めていた。


「げげげ!」

「く、くそぉ! 化け物め!」

「無駄無駄無駄ぁ!」


 拳打、蹴り、気功波の三コンボで大抵は沈み、後から後から湧いて来る陰陽師たちを根こそぎ叩いていく。


「ぐはっ!」

「こ、こいつ本当に人間か!?」

「くっ、流石は黒い噂と赤い血が絶えない紅魔館の化け物め!」


 美鈴は普段の生活内容と戦闘狂の側面から阿保と弱者扱いされるが、実際は素手で妖怪を殺せるくらい強い。そんな美鈴が人間相手に殴り込みをすれば無双にもなろう。


「冒頭メイン! 冒頭メイン! このあたしが冒頭から出てるなんて素敵! 張り切っちゃうぞー!」

「……メタい」 


 後から追いかけてくる輝夜は溜息を吐きつつも美鈴が気絶させた陰陽師を片っ端から締め上げていく。

 丁度これで最後だったらしく、咲夜たちが反対方向から合流した。


「こっちに来てる南の陰陽師一門はこれで全部ですね」


 藍と妖夢も合流し、情報の共有を図る。


「北の制圧も終わったわ。こっちは情報は無しよ」

「それなんですけれど、こいつを引っ叩いたら色々吐いてくれましたよ」


 咲夜が手際よく尋問、拷問した輩は南の陰陽師院の教頭であり、最終的には自白剤を飲まされて今は意識を失って簀巻きにされていた。


「何でも、今回のメインイベントに南の陰陽師一門が関わっているらしく、試合そのものをデスゲーム化しようとしているらしいんです」

「デスゲーム?」


 藍が首を傾げ、咲夜も首肯した。


「良くは分からないのですが、道真を含めた大会出場者全員を閉じ込めた試合らしいですよ。しかも脱出できるのは四人だけという話です」


 その理屈だと、とても危険なことになるのではないかと藍は思い、通信符を取り出した。


「……一応、紫様たちに連絡しておきますね」

「お願いします」


 が、そこで本選の試合開始のドラが鳴り、藍は驚いて通信符を落としてしまう。


「わふっ!?」

「わわっ! な、なんですかこの馬鹿でかい音は!」


 妖夢も少々慌てるが、この中で最も音に弱い藍はそのまま地面に倒れてしまう。


「うわぁ!? 藍さん! 藍さん!! しっかりしてください!」


 妖夢がすぐに駆け寄り、輝夜たちの力も借りて急いで医務室へと運んでいく。通信は咲夜が行い、現在の状況を確認していく。


「ひゃっはー!」

「ぐはっ!」


 その中で美鈴だけが忘れ去られ、未だ裏手を走って周回していた。





 時間は少し戻って大会の会場。観客席には霊夢、魔理沙、パル、早苗、諏訪子、神奈子の六人が飲み物やポップコーンを抓みつつ試合開始を待ちわびていた。


「どんなもんかと思っていたけど結構広いのね」


 会場は古代の闘技場を模したように円形になっており、席は階段状になっている。無論、席方面に被弾することも多々あるため東西南北の善良な陰陽師教師たちが協力しあい被弾しないようにしている。また、観客席の中には医者や一人前の陰陽師が待機しており、万が一の時は迎撃や救護出来る体勢を整えている。

 闘技場の中央円は普段は闘牛や闘羊、レスリングや総合格闘技などに使われる。模擬戦や演習では空間拡張や魔法部屋が展開され、土魔法などで地形変化をして戦える。

 前席以外の観客席からは内部が見えにくいため巨大ディスプレイや子機ディスプレイが配布されて見られるようになっている。

 パルたちは魔法や能力で内部が見られるため中段席に座っている。


「だな。それにしても本選はあんな狭いリングで戦うのか?」


 狭いとは言うが直径600mもあれば一般的な戦闘には充分だ。しかし魔理沙たち魔法使いは魔法や空中で戦うため2km前後の広さがあった方が戦略が立てやすい。


「いえ、パンフレットによると選手が全員登場した後に特殊な魔法部屋の方に転移してから戦うそうです」


 早苗が言うとパルは首を傾げた。


「普通に戦えば良いと思うんだけど……」


 その普通がいか程なのか早苗は疑問に思うが言うことは無く、代わりに前回の大会で起きたことを伝えた。


「そう思うかもしれませんが、前回は観客席から大量の支援魔法がかかって一方的な試合になってしまいました。それを防ぐための措置だと思います」

「そっかぁ……」


 妖怪ならば純粋な肉体勝負のため見ごたえも迫力もあるのだが人間という生き物はかなり姑息なため卑劣な手段を厭わない連中が多い。


「パルは正々堂々の勝負が好き?」


 早苗が問うとパルは笑みを浮かべて頷いた。


「勿論! その方がお互い良い勝負が出来るからね!」


 それが戦闘狂の思考であり、パルと互角に殴り合える化物はそう多く居ないということを思い、隣で聞いていた魔理沙は何ともしがたい表情で言葉を飲み込んだ。


「あっと、そろそろ始まるみたいよ」


 霊夢が会場を指差すと、入場門付近で待機していた音楽隊の音楽が鳴り響きながら東門からメンタたちが入場してきた。西、北、南も同様に入場し、その中には道真やレリミアの姿もあった。


「霊夢」

「分かっているわよ。確かに出場しているわね」


 魔理沙と霊夢は目ざとく見つけ、神奈子たちも視認した。


「……大丈夫かな?」


 魔理沙が不意にそういうと霊夢は自身あり気に頷いた。


「心配いらないわよ。あんたの見立てでもメンタの能力は道真の能力より上。年期は道真が上だけど総合の実力はメンタの方が上よ。負ける要素が無いわ」


 メンタの能力は進化したこともあり精神系能力者の中でも指折りの強さを持っている。更に霊夢たちにみっちりしごかれていることもあり現在出場している誰よりも強い。

 それは魔理沙も分かっているため心配しているのは全く別のことだった。


「あ、いやそっちじゃなくてだな――」


 魔理沙が心配しているのはメンタが戦闘後に腐腐腐をやらかしかねないかどうかだったのだが、そこで通信符が鳴り、相手がスルトなのを確認して魔理沙を手で制した。


「あ、ちょっと待ってね」


 通信符を起動して耳に当て、周囲の声援が煩いためもう片方の手を耳に当てた。


「はい、もしもし。何の用かしら?」


 いつも通りのぶっきらぼうな口調にスルトは苦笑いしつつ応答した。


『うむ。選手の中に道真がいることは確認したな?』

「ええ、居るわよ。視認出来ているわ」

『では、偵察用の式神で内部の様子を見よ。開戦前に魔法空間を発動するため以後は終了まで内部との干渉が出来ない状態になる。また、干渉した場合はメンタたちが失格となるため式神以外は飛ばさぬようにせよ』

「式神? 良いわよ」


 スルトに促されるままに式神放出し、メンタたちの近くや地面などにも飛ばして待機させる。少しすると会場の周囲に魔法空間の術式が発動し、メンタたちを魔法空間の内部に転移させた。


「あとは?」

『通信はこのままに会場のルール説明を聞いてくれ。その後に指示を送る』

「分かったわ」


 通信符を一度離して膝に置き、予鈴が鳴ったところで会場内も静まり返り、巨大ディスプレイに紫とスルトの顔が映し出された。



『さあ、今年も始まりました。東西南北の陰陽師たちによる門閥争い。壮絶なる死闘の末にトップに輝くのは何処の一門なのでしょうか? 実況は幻想郷の管理人こと紫と守矢の三大神の一人スルトさんでお送りします』


 まずは紫が開口をきり、一般人の大半は紫に対して拝礼をし始める。

 ある程度見計らった後に紫は説明を続けた。


『さて、今回の大会の試合内容なのですが前回優勝者である南の陰陽師のバルキエル理事によって考案されています。スルトさん、ルール内容の解説をお願いします』


 マイクを向けられ、スルトは一つ頷いてから話を始めた。


『うむ。ルールを説明する前に今年の会場について解説しよう。前年度は会場からの多大な支援による術式の圧殺で決着してしまったことを鑑みて今年は外部からの攻撃及び支援は一切届かない魔法空間での戦いとなる』


 去年の戦いの様子が映し出され、南の陰陽生たちが開始と同時に北、西、東の陰陽生たちに向けて術符をぶつけて物量で押し勝ってしまう酷い映像が映し出された。

 それを踏まえた上で陰陽師院の各理事長が事前に協議し、今年はそうならないように南陰陽師院の提案を決議していた。


『さて、試合内容なのだが今回は魔法空間内によるデスゲームを採用している。観客になるための前提のルールは三つ。一つ、殺害の禁止。二つ、内部の人数が四人以下になるまで解除不可能。三つ、外部からの支援行動が認められた場合は運営側で適宜対処する。以上だ』

『殺害禁止、ですか? そんなこと今まで聞いたこともありませんね』


 前回の反省点を生かし、理事長たちは選手を事前に暗殺する等々の殺害行為を禁止している。これが破られた場合、破られた側が有利になるように試合が組まれるが自作自演対策として『紫が監視している』と彼らには言い聞かせてある。

 実のところ紫の名前だけでも十分な効果があるため幻想郷内でわざわざ破る者はいなかった。


『無論これはあくまでも観客へのルールだ。それだけ今回の内容が過激になっていることをご了承願いたい』

『では始めからそんな内容にしなければよろしいのでは?』

『そう思うかもしれないが、大会の伝統ルール上の事では仕方がない』


 格式のある陰陽師には伝統ルールがいくつかあり、闘技大会においては選手たち及び教師たちがやる気を出せるように『大会で優勝した一門が次回の大会の内容を決められる』権利を優勝と同時に授与する。

 前回は南陰陽師院が優勝しているため今回は南の理事長が試合内容を決定していた。


『ではデスゲームの内容について解説しよう。デスゲームというだけあり、基本的には何でもありだ。それこそ殺害や人身売買なども可能となっている』


 余談だが選手も観客も今そのルールを聞いているため南陰陽師院には恐ろしいほどのクレームと試合中止の申し出が殺到している。


『そんなことをしては次回の大会に支障が出るのでは?』

『うむ、余もそう思って何度もバルキエル理事に言葉を重ねたのだが聞き入れてはくれなかった。次回はそうならないよう提案して貰いたいものだな』


 スルトも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()として溜息を吐いた。


『やけに他人事ですね』


 紫の半眼と言葉はスルーし、スルトは再度ルールをディスプレイに表示した。


『さて、もう一度内容を纏めると――』


――闘技大会のルール――

1、観客同士の殴り合いや殺害の禁止

2、デスゲームは四人以下の人数になるまで終わらない

3、外部からの支援や攻撃があったら内部にいる人たちが痛い目を見る

4、内部の選手たちは相手の殺害可能

 

 単純でいくつも穴がありそうなルールだが観客も選手も狂乱している最中、それに気付く者は少ない。


『さて……現場を見て見ようか』


 スルトは立ち上がって通信符を手にし、少し離れた場所で霊夢に繋いだ。



『以上がルールとなる。余はこれから南陰陽師院の後始末に向かう。霊夢たちは引き続き道真の監視と観客の監視をしてくれ。観客が万が一暴れ出した場合は周囲に魔法結界を張ってあるため強引に沈めてくれて構わない』


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