第四十九話 もぎたてのパイナップル
グラたん「第四十九話です!」
グラたん「ちなみに今回はR18相当です。グロ苦手な方は閲覧しないでください」
※グロ=東京〇種が大丈夫な方はお読みください。
霊夢は少し沈黙し、意味を理解してから頷いた。
「優先順位は?」
スルトは『道真』と答えた。
「道真ね。了解」
通信が終了し、ルールを聞き終わった魔理沙が驚いた表情で試合の内容とルールを見直していた。
「はっ? どういうことだ?」
霊夢は比較的冷静に答えた。
「どうもこうも、今回の闘技大会の内容がそれってことよ」
「いやいや……そりゃ分かるけどよ。そんなことしたら――」
魔理沙の懸念は当たっており、観客たちの行動は大きく分けて三つに分かれた。
一つは今回の試合に関する詳細な報告と試合の中止を呼び掛ける人々。
一つは確実に人が死ぬということを漫然と理解しつつあり、しかし茫然と自体を眺める人々。これは少数派で全体の一割程度だ。
そして最後は殺し合いと化した試合を狂気的に興奮して見続ける人々だ。選手たちがどのように行動し、裏切り、殺し合い、破滅するのか手に汗を握って見守っていた。
魔理沙は、まずは自体を把握することに勤めた。その上で今すべきことを考え出し、的確に行動することが大切だと考える。
霊夢はスルトに言われた通り道真の抹殺に注視し、同時に観客たちの動向にも注意を向けた。
早苗は地球から来ているためデスゲームが何を意味しているのか分かっているため、口元に手を当てて恐怖した。
諏訪子と神奈子は眉間に皺をよせ、試合会場を眺めていた。
この中で唯一メンタの心配をしているのは姉のパルだけだ。
「……デス……ゲーム?」
真っ先にパルの異変に気付いたのは隣に座っていた早苗だ。
早苗自身もパルとメンタの経歴を少し知っているため気付くのが早かったのかもしれない。
「パル? どうしたの?」
早苗が声をかけるがパルには届かない。
「なんで……また? またなの? またメンタだけそっちに行っちゃったの? 駄目だよ……」
その表情は青ざめ、手が酷く震えていた。
「パル、大丈夫? 顔色悪いよ?」
「ヤダよ……なんでまたそんなことになってるの? ボクだけ置いて……」
パルの表情から伺えるのは恐怖。再びデスゲームになったという絶望。
魔理沙も霊夢もある程度は紫から聞いているためこうなってしまったことに溜息を吐きたくなる。
「こうなるだろ?」
「そうよね……。でもそうしたのが陰陽師のルールなら私たちが出る幕は無いわ」
「お前なぁ……」
いつも通りマイペースな霊夢に魔理沙は半眼しつつ、早苗の手を振り切って立ち上がったパルの方を剥いた。
「――行かなくちゃ」
「そうなると思ったわ。悪いけどルール上それは禁止されているから行かせられないわ」
ルール上、パルが会場に飛び込んで暴れればそれでメンタたちの負けが確定してしまう。パルがもう少し冷静であれば霊夢の言葉も聞き届いただろう。
立ち塞がった霊夢に対し、パルは酷く冷たい目で睨んだ。
「退いてよ。ボクは、ボクがメンタを助けなきゃいけないんだから」
それはパルが生きる上での絶対的な前提。『メンタと一緒にいる』ことが出来なくなった場合、彼女の理性は簡単に崩壊してしまう。
「落ち着いて、メンタさんたちならきっと大丈夫だから――」
早苗の抑えに対してもパルは酷く取り乱して今にも泣きそうなくらい喚いた。
「……そんなわけないよ。早苗はアレを知らないからそんなことが言えるんだよ!!」
流石に見かねたのか魔理沙が動き、仲裁しようとする。
「おい、パル……」
一つ言う前にパルは霊夢たちを退けようと手を払う。
「退いて。早く」
「さっきも言ったけど無理よ。それにメンタは助けがなくても生き残るわよ」
霊夢が言っていることは正論だ。どう足掻いてもメンタの有利性は揺るがない。
パルは残っている理性で霊夢の言葉を理解し、首を傾げつつ告げた。
「……ああ、そっか。ごめんね、言い間違えてた。『ボクがメンタを助けないと皆死んじゃうからどんな手段を使ってでもボクが助けに行く』だったね。それか『ボクが助けたいからメンタを迎えに行って助けてあげるんだ』」
「――えっ?」
もはや支離滅裂を通り越した『助けたい』という気持ちだけが先行し、霊夢たちは一瞬理解が遅れるが重要な部分だけ理解して応答する。
「何を言ってるの? 確かにあの娘は色々と異常だけど皆殺しをするような娘じゃないわよ」
「違うよ。間違ってるよ。メンタは皆殺すんだ。だから退いて。手遅れになる前にボクが殺されてでも助け出さなきゃ」
そこでようやく霊夢たちはパルの理性が崩壊したことに気付く。
「イマイチ嚙み合って無いわね。あんたも平常心じゃないわね」
「むしろトラウマを抉られた状態で平常でいるほうがおかしいぜ。……尤も、もうパルには聞こえてなさそうだけどな」
そうね、と霊夢は答え、力づくでもパルを取り押さえようと弾幕を手にした。
同時に何時まで経っても退かない障害を力づくで退かそうと、パルは排除を決意した。
「……退かないから殺すよ? 良いね?」
言うより早くその手を固めて霊夢に接近し、胴体深くを貫いて吹き飛ばした。
「ぐっ――!」
霊夢は軽々とふっ飛ばされて前方の観客席に激突し、パルの姿すら見えていなかった魔理沙は轟音のする方を向いた。
「れ、霊夢!?」
見れば霊夢が血反吐を吐き出して立ち上がっている最中であり、早苗もそれを見て止めようと一歩踏み出した。
「パル!」
その腕を諏訪子と神奈子が掴んで止めた。
「はいはい早苗ちゃんはこっちね」
「流石スルト。こうなること分かっていたんだね~」
まるで予見していたかのような対応に早苗は困惑する。
「ど、どういうことですか? というより知っていたんですか?」
「まあね~」
諏訪子の首肯に早苗は苛立ちを感じつつも視線を右往左往させる。
「な、なら早くパルを止めないと――」
続く言葉を諏訪子は首を振って否定した。
「残念だけど無理。私たちが参加したらこの辺り一帯がぶっ飛んじゃうからね」
「それを見越してスルトも霊夢に連絡したのだろう」
現状で一番被害を少なくパルを止められるのが霊夢しかおらず、早苗たちが加わると中央都市自体に酷い傷跡を残すことになってしまう。
「でも……」
早苗は抵抗し、諏訪子は力を強めて更に否定した。
「私たちに出来ることは何もないよ。今は、ね」
「むしろ後の方が大変よ。早苗の力をいっぱい使ってもらうから」
神奈子の気休めの言葉に、早苗は唇を噛んで我慢し、頷いた。
「……分かりました」
一方、立ち上がった霊夢は腹部に手を当てつつ額に青筋を浮かべて叫んだ。
「う……がっ! 魔理沙! やるわよ!」
「お、おい良いのか? まだ観客が――」
普段なら人払いの結界くらいは張ってから戦うのに、そんなに余裕がないのか、と魔理沙は周りを見わたして激突された人間たちは全く気付かない様子で会場の方を見続けている。
「馬鹿な……気付いてないのか?」
いくら何でもそれはあり得ない、と魔理沙は考え直しつつ札を構えて霊夢と合流する。すると霊夢は先程聞いた内容を思い出して魔理沙に伝えた。
「スルトさんの策よ。あの人、こうなることを見越して事前に魔法空間を作っていたらしいの」
「そういうことか。ってことはなんだ、私たちは汚れ役を押し付けられたのか?」
物は言い様だ。魔理沙は悪い方に意味を取り、霊夢は逆に良い方の意味を口にした。
「馬鹿ね。あの娘を足止め出来るのが私たちしかいないってだけよ」
「幽々子とかレミリアを連れてくることも出来ただろ?」
「レミリアたちは万が一、道真が逃亡した時の処理係よ。今回の目的、忘れたわけじゃないでしょ?」
要は霊夢たちが仕留めそこなっても会場の何処かには妖夢や永琳たちがおり、最後にはレミリアたちもいる。そこで魔理沙はようやく自分たちの真の役割に気付かされた。
「ちっ、そうだったぜ。で、もう一回確認するけど魔法空間内なら被害はないんだな?」
「一応は、ね。でもパルに突破されたらアウトよ。特に覇斬の方角には気を付けて」
パルの攻撃のほとんどはスルトの作った魔法空間を貫通することは無いが、絶対防御を破壊する覇斬だけは注意しなければならない。
「タイムリミットは?」
「抑えられればそれで良し。制限時間は――メンタたちが自力で脱出するまでよ」
「……出来るかねぇ、パル相手に」
思ったよりもハードな内容に魔理沙は顎を引いて正面にいるパルを睨む。
「大会の事後処理が終わったらスルトさんが来てくれるらしいわ」
「なるべく早く頼みたいぜ……」
と、そこで今まで動かなかったパルが口を開いた。
「話、終わった?」
わざわざ待っていたのは対人する時のパルなりの礼儀だ。どれだけ狂乱していようとも体に沁みついた動きはそのまま直感となり、必然的にパルの行動を止めることとなっていた。
「こんな時までクソ真面目でありがとよ!」
魔理沙の罵声を開戦の合図と受け取り、パルは気を鮪包丁に込めた。
「じゃあ……死んでね。覇斬」
覇斬は基礎モーションが無いためノーモーションから発動されると先読みが出来ない。加えて鮪包丁を振り回せば覇斬も振り回せるため魔理沙は素早くしゃがんで避けかけ、先の霊夢の言葉通りであれば避けることが出来ない状況化に立たされていた。
「オォイ!? 開幕ブッパは反則だろ!!」
涙目で叫び、弾幕を一斉放射することによってパルはステップを踏んで弾幕を切り裂き、避けて対処する。だが覇斬は残っているため霊夢は必殺を持ってパルを攻撃した。
「夢想封印!」
パルは己の直感のままに夢想封印に向けて覇斬をぶつけ、メンタでさえ避けるしかなかった夢想封印は真っ二つに切断されるという現象に霊夢は発狂した。
「ギャー! 私の夢想封印がぁぁ!!」
「落ち着け、霊夢!」
魔理沙が霊夢にビンタを一発かまして冷静にさせ、その合間にパルは鮪包丁を振り上げて宣言した。
「……罰符「十六夜の桜月見酒」」
これは咲夜をイメージした弾幕で、増やして飛ばしたナイフを桜の花びらに変化させ、舞い散らすように対象を切り刻む対個用の弾幕だ。
「うぎゃああああ!! 死ぬ! 死んじゃう!!」
霊夢と魔理沙は縦横無尽に動くナイフから急所を守るのが精いっぱいで、霊夢は切り札を切った。
「夢想空間!」
霊夢の能力を最大限活用したチート技で自分以外の全てを拒絶する無敵の空間を作り出して自分は中から攻撃できる技だ。そのため弾幕ごっこでは使用禁止されている。
「あー! 汚ぇ! 自分だけ安全地帯に籠りやがった!」
「だって死にたくないもの!」
魔理沙が入れろと騒ぎ、霊夢はそれを冷たくあしらう。
だが霊夢だけが切り札を持っているわけではない。特にパルが決めた事に関しては全肯定する同居人がいることを霊夢たちは知らない。
「それがパルの選択なら僕は力を貸すよ。――――神纏・紫」
綿月依姫。その能力を行使し、紫の能力を纏って右手を霊夢に向けた。
「スキマ」
空間が裂け、口のような空間の内部には凶暴な牙がいくつも立ち並んで食い殺そうと殺気を放っている。
当然ながら紫の能力をパルが使える筈もないため、霊夢たちはスキマを見て思考を停止させた。
「――えっ?」
「それ……まさか、紫のスキマか?」
先に思考を動かしたのは霊夢だ。
――だ、大丈夫。驚いたけどそれだけよ。この夢想空間は絶対無敵でどんな攻撃も受け付けない。そしてこっちから攻撃し放題の私の切り札なんだから。
根底にあるのは絶対の自信。破られたことがない上に紫ですら手出しできなかった最強の技だ。その技を維持し続けるのに必要なのは絶対の自信。これに関して霊夢は他の何よりも信じ、一番強く想いこむことが出来る。
だがそれは同時に敗られたという前例がないことでもある。
その理不尽な概念を覆すのは決まって『勇者』の役割だ。
「神纏・アスト。付与『零の領域』、『衝動の解放』」
依姫が右手に鮪包丁を持ち、左手でその峰を叩くとキィン、という甲高い音が聞こえた。そして零の領域を付与されたスキマが夢想空間を無効化して解除してしまう。
夢想空間が敗れられた理由は依姫が使った二つ目の技、『衝動の解放』にある。
『衝動の解放』は生物の感情を強制的に揺さぶり発狂させる効果を持っており、今回の場合であれば霊夢の『自信』を揺らがせることが出来る。これが攻撃であれば夢想空間が防いだのだが、夢想空間は精神攻撃への耐性がないことが唯一の弱点だ。『衝動の解放』でそこを突かれた形となり、スキマと『零の領域』で能力を解除されたことで未だ発動してる『衝動の解放』が霊夢を激しく蝕んでいく。
「――う、うわあああああああああああああ!?」
「霊夢の切り札が破られた!?」
魔理沙も、霊夢自身も夢想空間が砕けた所を見たことは無かったため酷く動揺してしまい、主導権が戻ったパルは思うがままに鮪包丁を霊夢の頭上に振り下ろした。
「じゃあね」
霊夢は混乱する最中で不意に昔のことを思い出した。目の前で起きていることがやけにスローに感じ、脳裏には今まで生きて来た中で起きた事柄を幻視していた。
俗にそれは走馬燈と呼ばれる死亡寸前に起こる記憶の回顧だ。
「あっ――」
一言だけ言葉にし、魔理沙は札を前に出しながら二人の間になんとか割り込で防ごうと走る。
「霊夢!」
――ヤバイ! 間に合わない!
腰が抜けている霊夢は躱せず、魔理沙も間に合わない。
やがて走馬燈が終わり、霊夢の意識が急激に元に戻っていく。眼前の光景を知覚すると同時に感じたのは死の恐怖とパルの光無き眼の恐ろしさだった。
今まで自分が屠って来た妖怪と全く同じように霊夢は頭蓋を割られようとして――。
剣戟音が鳴った。
「間一髪だったな」
霊夢の頭上には銀色に輝く剣があり、火花を散らしつつも鮪包丁を受け止めていた。
「す、スルト!」
「あ……はぁ……」
魔理沙は驚き、霊夢は覚悟していた死が遠ざかったことに安堵してしまった。
「邪魔しないで」
パルがスルトに眼を向け、剣を跳ねて距離を取った。
「すまないがしばらく付き合って貰うぞ。次元斬」
スルトは右手に持っている聖剣でパルの背後の次元を切り裂き、その中にパルを押し込んで二人ともに消えた。
スルトがいなくなったことによって魔法空間が途切れ、人々の喧騒が耳に入って来る。
「霊夢! 大丈夫か?」
腰の抜けている霊夢に魔理沙は駆け寄り、無事を確認する。
「う、うん……多分、ね」
「ホッ。なら良かったぜ」
心から安堵し、霊夢は魔理沙を見上げた。
「ねぇ、魔理沙」
「なんだ?」
「手、貸して頂戴。足が動かないの」
見れば足がくじけており、若干失禁しているのを見て魔理沙はさりげなく風魔法で片付けて霊夢に背を向けてしゃがんだ。
「しょうがないな」
霊夢は言葉に甘えて背中に乗り、全身を震わせる。
――今まで霊夢の切り札を破った奴はいなかったからな。しょうがないよな。
魔理沙は幻想郷内では霊夢こそが最強だと信じて疑わなかった。技も弾幕も霊夢は強く、物理最強と言われるレミリアとさえ肉弾戦で互角に戦える。加えて夢想空間という最大の切り札まで持っている存在だ。
その不敗神話が今日閉ざされた。
――同時にパルの危険度は跳ね上がっちまったけどな。
霊夢を席に座らせ、早苗がその肩に手を当てて能力を発動させる。
その間も霊夢はずっと体を震わせていた。
さて、いよいよ魔法空間内部で行われているデスゲームに眼を向けてみよう。
しかし忘れてはならないのがメンタだ。パルですら発狂した過去の出来事に当事者であるメンタが二度目を耐えられるかと言えば答えはノーだ。
「……ですげぇむ、DES!!」
ゴギッ!という人体から鳴ってはいけない音と共に首を左横90度に曲げて戻す。
「メンタが壊れた!?」
元から壊れているのにもう一度壊したら一体どうなってしまうのか、てゐは気になってはいるが今はメンタから距離を取って様子を見る。
「愛に哀に挨に報いなければァァいけませんねぇぇ!!」
ゴギッ!っと首を右横90度に曲げて戻す。
「がくがくブルブル」
「こいつマジで壊れやがったぞ」
その様子を間近で見させられたシンと枢は思わず後退ってメンタから距離を取った。
その反対方向からは今回のメインターゲットである道真とその御伴三名がメンタをそっちのけで騒いでいた。
「み、道真様!」
「デスゲームってなんですか?」
道真は恰好を付けてポーズを決めつつレリミアに振った。
「デスゲームとは――何だ? レリミア」
普通ならメンタ以外は知る由もないのだが、ここには体験者であるレリミアがいる。そこでもデスゲームという名称は使われておりレリミアは知っていることをそのまま伝えた。
「デスゲームとは文字通り、自分の命をチップにして行われる遊戯のことです。この場合はここにいる十六人全員が残り四人になるまで戦い、殺し合います」
正にルール通りの説明だが、彼女たちを恐怖させるのには十分だった。
「ひっ!? じゃ、じゃあ殺し合わなくちゃいけないのか!?」
「そうなるわね」
レリミアが頷くと聞き耳を立てていた北の陰陽生たちが喚き出した。
「い、嫌だ! 俺は死にたくない!」
「なら先手必勝! 死ねぇぇぇ――」
同時に起こした行動は二通りだ。一つは狭い空間の中を逃げる者。一つは棒立ちになっているメンタに襲い掛かった者だ。この中では比較的メンタは倒しやすいだろうという恐ろしい誤解のまま彼は殴りかかる。
そこでメンタの顔が人体の骨子を無視した超音速でぐりんと彼を視界に捉え、右足に重心を傾けて左足を前方に蹴り出した。
「ドーン」
擬音にするならプチッという何かの糸が切れたような音がして、彼の首が容易くもげて転がった。
人間というのは首が取れても実は数秒ほど声が出せる。彼はその数秒を理解と絶叫に費やした。
『ぎゃあああああああああああああ!!』
他の生徒たちもデスゲームの開幕が切って落とされたことを否応なく理解させられ、枢は真っ先に南の陰陽生数人に向かって術符・火炎を放ち顔面を焼いて視界不良にさせる。そしてその首と心臓を貫こうと手套を構え、空中を蹴って跳躍してきたメンタが両手で首を抑え絞め殺した。
「お前人間だよな!?」
人類的にはあり得てはいけない跳躍の仕方に枢は驚愕する。
「折れた! 絶対首折れた!」
「ひ、人殺し!」
「こ、殺しやがった! 拓海を殺しやがった! この人でな――」
メンタは再度駆け出し、彼の顔を顎下から掴んで上に向かって薙いだ。
ブチン、と勢いをつけ過ぎたせいで返り血がメンタの顔面から全身にかけて浴びせられる。
「もぎたてのパイナップルみたいですねー」
捥げた首の肉がプルプルと蠢き、メンタは興味無さそうに首を地面に捨てて返り血をペロリと舐めた。
そうして残った彼らはあるべき行動を起こした。
「殺される! に、にげ――」
「無駄だ! 殺されるくらいなら殺してやる!」
迎撃だ。彼らは誰ともなくこの中で一番危険な人物をメンタと共通認識し、暗黙で共同戦線を張った。
「こ、こいつ! 術符、火!!」
「術符、水!」
「術符、雷!」
一斉にメンタに向かって術符が放たれ、それをメンタは発動寸前に素手で掴んで握りつぶした。
「あはは! 蹴り行きますよー!」
兎の如く地面を蹴り、彼らの足を文字通りに刈り取っていく。
「ぐぁぁああああ! 骨ェェ! 折れたぁ! 痛い痛い痛いィィ!!」
「ま、まだまだァァ! こいつさえ殺せば――」
そこで諦めていればまだ楽に死ねただろう。西の陰陽生の一人は足を掴んで食らいつき、メンタはポーチから鋏を取り出して逆手に持ち、彼女の顔面に何度も振り下ろした。
「ああ――っ! 鬱陶しい鬱陶しい鬱陶しい鬱陶しい鬱陶しい鬱陶しい鬱陶しい鬱陶しい鬱陶しい鬱陶しい鬱陶しい鬱陶しい鬱陶しい鬱陶しい鬱陶しい鬱陶しい鬱陶しい鬱陶しい鬱陶しい鬱陶しい鬱陶しい鬱陶しい鬱陶しい鬱陶しい鬱陶しい鬱陶しい鬱陶しい鬱陶しい鬱陶しい鬱陶しい鬱陶しい鬱陶しいのDEEEEESUUUU!!」
鋏で付き終わると本当に鬱陶しそうに片足を上げて放送自粛程度には危険な彼女の顔を踏みつぶした。
次いで、メンタを背後から羽交い締めにしようとした女性徒たちに抱き着いて首を掴んで頸動脈を食い千切った。首からは勢いよく流血し、彼女たちは何をされたのか分からないまま死んだ。
「んっ! ぺっ、不味いですね。まるで腐った魚の腸に白ワインかけてゴルゴンゾーラを挟んで食べているような味ですね。というかそもそも人肉が美味いわけないんですよね……ねっ?」
ポーチから取り出した鉄串で近くにいた男子生徒に笑みを向け、眼玉を抉った。一瞬で視界を奪われて目に熱が奔り、次いで壮絶な痛みに彼は悶えた。
「あ、ああ、アアアアアアアアア!! 目ぇ! 目がァァ!! 痛い! が、返して! 僕の眼ェェ!!」
「良いですよ。EAT・INでよければ」
メンタは眼玉を口に突っ込み、そのまま鉄串で彼の喉笛を突き刺した。
彼はそのまま窒息死で死んでしまうのだが、メンタは狂気の笑みで彼の頭部を掴んで耳元で囁いた。
「大丈夫ですよ。人間は眼玉抉られただけじゃ死にましぇんから。キコエテマスカネー? ケタケタケタケタケタ。あ、もう良いんで乙です。DETH!」
メンタの中では死んでいないため、確実に死ねるように彼の脊髄を引っこ抜き、そのまま背骨まで剥いでしまう。
「っ――!」
メンタならそこまでしないと思っていたシンはあまりの残虐な光景に嘔吐した。
「シン!」
枢は駆け寄り、シンの背を擦って持って来ていた水をシンに渡して口を注がせる。
――あの常軌異常者め……。だが……俺ではどうすることも出来ん。
枢もその光景を見ても動く事は出来ない。下手に動いて自身やシンに眼が向いたら交通事故よりも酷い死に方をするのは間違いなった。加えて道真を逃がすわけにもいかないため傍観するしかない。
そしてメンタの視線は生き残っている道真たちに向けられた。
「てゐ、椅子くださァい!」
「へいお待ちどう!」
「へ?」
てゐは阿吽呼吸で椅子を用意し、陰陽生の一人を椅子に括りつけて爪で衣服を剥いて全裸待機させる。
「いやぁ! 道真様助けて!」
羞恥よりも恐怖の方に傾き、彼女は道真に助けを求めた。その道真は至って真面目な表情で残された二人に告げた。
「……レリミア、ソラフィー」
「はい」
「な、なんでしょうか?」
「良いか、落ち着いて良く聞いてくれ」
二人はゴクリと生唾を飲んで道真が語るであろう決死の攻防戦に備えた。
「逃げるぞ!!」
「はい!」
「はい! って、えええ!?」
彼は見捨てた。彼が大事なのはルイミーと呼ばれた彼女ではなく自分の命なのだ。
「嫌ァァアアアアア!!」
捨てられた彼女は大声で泣き叫び、ソラフィーは道真の袖を掴んで止めた。
「道真様! ルイミーを見捨てるのですか!」
「無理! 怖い! お家帰る! バイバイ!!」
あまりにも非常識な発言だが、この場で彼を非難出来る者はいないだろう。何故と問われてもそれは正しい感情なのだから。
だが枢は思わず叫び、シンも召喚符を取り出して空中に投げた。
「クズ野郎ォォォ!? いやそれよか逃がすかぁ!!」
「来て。式神召喚!」
「待ってました!」
「全員捕えれば良いのね!」
「お安い御用!」
「吸血、吸血!」
四匹を見て、見慣れているはずの道真は絶叫した。
「うぎゃあああ! 妖怪ィィ!!」
「え!? 何してんの貴方たち!」
対してレリミアはフールエンリルたちを見て驚き、フールエンリルたちも召喚符の内部から外側を見ることは出来ないのでレリミアがいることに驚き留まった。
「お嬢!?」
「良し、お嬢確保! 皆、逃げるぜ!」
フールエンリルは自身の直感に従ってレリミアを抱き上げ、そのまま狭い空間を逃げようと一歩踏み出した。
その背後では赤毛の悪魔が鋏をカチカチ鳴らして笑っていた。
「オーイ、犬ッコロさァんやぁいDES! 逃げたらケツに接着剤ぶっこんだ後にモツ引き出して口からモグモグさせますからね~。モツぱぁてィーデスヨー」
ゾッと四匹は冷や汗を掻いた。今までも斬殺されたり臓腑を抉られたり■■■■されたりしてきたが今の口調を聞いて四匹は『動いたら殺される』と感じた。
「皆、言うこと聞いた方が良い。今のメンタは、マジ」
シンが手招きし、フールエンリルは大人しく端によってレリミアを降ろした。
「……はい」
「ちょ、ちょっと! 確かに身の危険は感じるけど、このままだと道真様が!」
レミリアの言葉をバインパイアは達観した表情で止めた。
「お嬢、時には残酷な決断をするしかないのよ」
そうでなければあの毒牙にかかるのは自身でありレリミアだからだ。
「で、でも!」
それでも食い下がるレリミアを見てインアンドセクトはその懐に拳を埋めた。
「御免!」
「うっ――」
よく狙ったため一発で気絶し、倒れる彼女をバインパイアが支えた。
「後でいくらでも罵って良いわ。だけど私たちにはお嬢が必要なのよ」
四匹が今生きている理由はレリミアに仕えるためだ。そのレリミアがいなくなったら四匹は存在している理由がないのだ。
「気に病むことは無い。それは我ら四人が同じ思いだ」
ガシャポンドクロが締め、バインパイアたちが頷いた。
「さてと、今のうちに式神の更新をしておかねばな」
それを見越して枢が再契約を申し出るがフールエンリルはおどけて見せた。
「オイオイ契約はもう終わったはずだろう?」
ここからは敵同士でありシンに従う理由は無い。無いのだがシンたちには今の状況を最大限利用できる口実があった。
「フールエンリル、ここで契約更新しないとメンタの能力で洗脳された道真に■■■■■■■される。もしくはレリミア嬢が■■■■させられる」
概ね間違いなくそうなるだろうとシンも枢も確信しており、フールエンリルたちも容易に想像できるため吐き気を催した。
「げぇ!? き、汚ぇぞ! こっちに選択がないのを良い事に利用しやがって!」
「というより私の正式の式神になって欲しい。断ったら――」
シンが椅子に括りつけられている西の陰陽生と周囲で集るメンタとてゐを指差して無言を貫いた。シンとしてもここでフールエンリルたちを式神に出来ればそこらの陰陽師よりも強くなれるのは間違いないし辛いけど楽しい非日常が続くのは間違いなかった。
「ひ、卑怯な……」
「流石はあの赤毛の教えを受けただけあるわ」
「……否定できないのが実に心苦しい」
枢は視線を逸らして頷き、言葉を続けた。
「まあ……悪いことにはならないだろうがな」
それも間違いではない。フールエンリルたちは唸り、視線を向け合った。
「どうする?」
「……お嬢はどうなる?」
ガシャポンドクロが一番の問題点を聞き、シンは率直に答えた。
「皆で一緒に暮らせばいい」
そうか、とガシャポンドクロは呟いてインアンドセクトとバインパイアに顔を向けた。
「お前等は――」
「私たちはともかく、お嬢の柔肌が赤毛とクソ兎の餌食になるのだけは避けたいわね」
「こうなればもう腹括って死ぬまでついて行くしかないわね」
ならばもう決まったも同然だろう、とガシャポンドクロは頷いた。
「総意で良い?」
一応フールエンリルにも視線を向ける。
「ああ、構わねぇぜ」
全員が了承したことで枢も追加の召喚符を取り出して促した。
「決まったようだな。では儀式を始める……が、少し場所を移動しよう」
何時、巻き添えを食らうかもわからないため場所を移動し、枢の主導の元にフールエンリルたちと新たにレリミアがシンの式神となった。




