第四十六話 天は荷物を与えん
グラたん「第四十六話です!」
01大隊。彼らは至って普通に練習を重ねて来た陰陽生であり、メンタたちの舌戦……というよりは脅しを聞いて大将の顔はやや青白くなっていた。
「正直に言おう、怖い」
彼は前にメンタの手によって川流しされた一人であり、先の舌戦において『人の肉は喰える』という文言がずっと頭から離れない。恐らくは本当に血肉を喰らったのだろうと思わせるくらいにアナプロたちの顔は真剣だった。
「大将がそれでは示しがつかんだろ」
と、部下の一人が言うと他の者たちも大将を元気付ける。
「相手があの赤毛であっても勝つしかないわ」
「……な、一つ聞いて良いか? あいつら何処で何してたんだろうな?」
「分からん。が、俺たちだって通常の三倍近い練習量をこなして来たんだ。早々負けはしない」
そうだな、と誰もが頷いて作戦会議が始まる。
「序盤はどうするんだ?」
「基本通り正面、左右に陣を広げて構えて迎え撃つ。此方の陣地には可能な限り斥候を飛ばして敵兵を一人も通さないようにする」
「堅守陣ってことね」
見る人が見れば怯えている、縮こまっていると思われるような陣形だが相手がメンタであれば比較的正解だろうと彼らは共通の認識を持っていた。
「ああ。赤毛が敵では何をしてくるか想像が付かん」
「分かった。これで行くんだな?」
「おう!」
彼らは意気揚々と陣形と整え、メンタたちを待った。
02大隊。そんな彼らの様子を山の山頂から双眼鏡で見ているのはメンタとアナプロだ。メンタたちの本陣は山中深くに配置されており、シンたちには迎撃用の罠を造らせている。
「敵、正面、左右に広がって陣を構築しています」
「行軍制限がある以上、背後は取れない横陣ですね」
戦場は縦1km横1.5kmとなっておりその範囲を指し示すように杭とロープが張られている。そこから一歩でも出れば失格となるため、大隊01はそのラインギリギリに旗を立て、横陣を敷いて待機している。
「そうなると正面衝突は避けられませんね」
メンタはよく目を凝らし、正面は薄く、左右の方が人員が厚いのを見て脳裏で策を打ち立てた。
「……いや、左右の陣が厚いですね……。挟み撃ちを対策していますか。それならば話は簡単です。戻りましょう」
本陣に戻るとシンたちは罠を仕掛け終えており、メンタの指示一つで出撃出来る体勢を取っていた。
「総員に作戦を伝えます」
メンタの一言で全員が立ち上がり、敬礼する。
『ハッ!』
「今回の敵陣を見た所、横陣を敷いています。それも挟み撃ちを警戒して左右が強化された陣形です。前面にも強く押し出す形で軍が配置されています。では、我々が取る行動は一つです」
メンタは地面を指差し、悪魔の如く笑った。
「地中に制限はありませんので、掘って背後から急襲しましょう」
『サー・イエッサー!』
誰も異論は無く、彼らは術符を片手に地面を掘りだした。
それから数十分が経過した敵陣前衛。彼らは最初こそ緊張していたがメンタたちが何もしてこないのを見て警戒を解き、軽口を叩きあう。
「来ないな」
「やっぱりビビってんのか?」
「そろそろこっちからも動きたいんだけどね」
「大将も警戒し過ぎじゃねーの?」
「違いない。ハハハ」
警戒さえしていれば結果は違ったのかもしれない。音を最小限にして掘り進めていてもやはり完全には消せない。それを自身等の声でむざむざ聞き落とすのは阿呆だ。
術符・土。主に土を飛ばして攻撃する術符だが、メンタの調教のおかげもあってか大隊02の全員がイメージトレーニングで土を掘ることの出来る術符を開発することに成功した。これは主に雪山で訓練していた賜物であり、空中からの爆撃を避けるために地面に穴を掘るという作業を繰り返して得た成果だ。
地中からの強襲は意外にも功を奏することが多く、彼らの得意攻撃の一つにまで昇華されている。
本陣の真下までやってくるとアナプロは手で全員を制し、メンタに指示を仰いだ。
「進軍、終わります」
「総員、武器構えです」
メンタが指示を出すと半数は魔導ライフルを構え、半分はコンバットナイフと拳銃のロックを外して両手に装備した。それを見てメンタは右手を上げ、降ろした。
「急襲!」
本陣の真下に穴が開き、土煙と共にメンタたちの姿が現れる。
「なっ!?」
「ち、地中から!?」
充分に警戒していたはずの敵大将は驚き留まり、部下のほとんどを囲いに回しているため本陣に残っているのは寡兵だけだ。
『殺せ!』
手当たり次第に敵兵へと襲い掛かり、喜々として彼らは級友を殴打し、敵本陣に火を付けて行く。
制圧はあっという間に終わり、敵大将もあっさりと降参して戦闘終了のサイレンが鳴った。
『戦闘終了。第02大隊の勝利とする』
理事長の声が響き、しかし敵兵たちは現状を理解出来ない。
「……ん?」
「なんて?」
「戦闘……終了!? え、ど、何処から!?」
背後を振り返れば本陣が落とされており、火の手が各所から挙がっていた。彼らが本陣に駆けつけると敵将と副将、寡兵が生け捕りにされて縛られ、正座させられており、周囲には圧し折られた自陣の旗が薪にされて踏みにじられていた。
「お、俺たちの旗が……」
「やめろー!」
敵の旗に火がつけられ、輝かしいばかりの装飾は燃え上がっていく。それだけに留まらずメンタの魔手が伸びる。
「楽しいですね!」
「燃えろ燃えろ!」
「ヒャッハー! 敗者に人権は無ぇ!」
戦争とは怖いもので一度出かければ人格は容易に変わる。例えば今まで腐で無かった人が腐ることもあり、大人しかった人が加虐趣味になって帰ってきたりする。それを止める者が居なければ尚更加速し、それを肴に酒を飲む者だっている。
恐怖。ほんの少し前までは友人だった人間がまるで違う化け物になってしまったかのように彼らは恐怖し、逃げ惑う。
教師たちもモニタリングを終え、一息ついていた。そこにメンタたちの蛮行は映っていないため後で大変な処理をさせられるのだが今は知る由もない。
「……まともだ」
「今回は、ですが」
「堅守陣は立派だったが地中から来るとは思ってなかったのか……」
安心と呆れが飛び交う中、理事長はマイクを手に次を促した。
「うむ、では次だ」
第二試合の準備をするため教師たちは出払い、準備を終えると理事長が宣言した。
『試合を始める。両者は指定の場所へ!』
今回は全部で8組の大隊がいるため一度勝利すれば準決勝へ進める。次は決勝戦であり優勝した一組が本選に上がり、今まで共に戦ってきた友人たちを蹴落とす戦いが起こる。
敵陣営。彼らは先の戦いぶりを見ていた者であり冷静に分析し、対策を立てていた。その後の凌辱もしっかりと目に焼き付けているため負けられないと一層気合を入れていた。彼らの服装は対術符用の防御フードと外套を装備しているため顔はあまり見えない。
「あいつらの二の舞になるのは避ける必要がある。地中があるとすれば空襲もあり得る」
「ええ、そうですね」
「とはいえ、奇襲がお手の物なのが奴等だ。何か良い案は無いか?」
敵将が聞くと部下の一人が歯切れの悪い提案を出した。
「ある……にはある」
「本当か? どんな策だ?」
彼は敵将に近づき、その首を掴んで答えた。
「簡単だ」
そのまま地面に伏せさせてフードを脱ぎ、アナプロは顔を露わにして敵将の後頭部に拳銃を突きつけた。周囲には部下数名が魔導ライフルを構えて脅しており、アナプロは冷徹な視線で敵将を射抜いた。
「投降すれば良い」
敵将は口惜しそうにしつつもこれ以上はどうにもできないと判断した。
「……降参だ」
サイレンが鳴り、試合は終了した。
しかしモニタリングしている教師陣営では今のが不正ではないのか、と協議が行われていた。
『……試合終了だ』
「あ、あれは反則だ! まだ試合開始されていないぞ!」
「いや、準決勝自体は理事長が宣言した時点から始まっている。指定の場所へ移動する時間の間の攻撃は違反だが、移動した後なら問題ない」
教師の一人が答えると別の教師が反論する。
「しかし! 彼女たちは陣へ移動していない!」
確かにそうだ、と数名が頷くがモニタリング映像を巻き戻した教師が待ったをかける。
「いや待つんだ。指定陣地へ移動したとみなされるのは大隊長が陣営に入ってからだ……彼らが銃を突きつけた時、彼女は既に陣地を作っている」
「ば、馬鹿な……」
教師たちがこぞって映像を見て、確かに陣営があるのを確認して驚愕する。
――相変わらずの行動力だ……。
枢もそれを見て呻く。メンタたちはアナプロと数名だけを敵陣営に送り込んで討ち取らせる用意をし、自身等は総出で陣営を制作して時を待っていた。
メンタたちの勝利が不正ではないことが証明され、決勝へと進出した。
時刻は夕方。決勝の時間帯としては申し分ない。
「いよいよ決勝戦だ。これで勝った方は全員本選への出場を認める! 各自、気合い入れて取り組むように! 試合を開始する!」
教師たちも生徒たちも盛り上がり、出場したメンタたちの士気も高い。
そんなメンタたちは既に陣営を作り終え、作戦会議をしていた。
「さて皆さん、いよいよ決勝戦ですが……奇襲ばかりでつまらないと思っていたのではありませんか? つまらないですよね?」
メンタが問うと彼らは威勢よく敬礼した。
『サー・イエッサー!』
「では今回は正面からの大激突を敢行します。殲滅戦です!」
殲滅戦。戦場では珍しい戦闘形態であり、実行される時は余程の恨みがある時くらいだ。それに異論は無いが質問はあるらしく部下の一人が手を上げた。
「よろしいでしょうか!」
「はい、どうぞ!」
「敵が投降した場合は如何しますか!」
メンタはHAHAHAと笑って答えた。
「そんな腰抜けは○○○切り落としてバラバラにして豚の餌にしましょう!」
いつもより二割増しで口汚いメンタの言葉を聞いて全員の士気が上がり、同時に悪ふざけが始まる。
「よろしいでしょうか!」
「はい、どうぞ!」
「女生徒はどうしますか!」
「戦地に立ったら誰でも戦士です! 殺しましょう!」
「よろしいでしょうか」
「はい、どうぞ!」
「教員が止めた場合はどうしますか」
「○○○を潰して鼻の孔にねじ込んでください!」
「よろしいでしょうか!」
「どうぞ!」
「小官ら万が一撃たれた場合はどうしますか!」
「ケツバットDES!」
「よろしいでしょうか!」
「どうぞ!」
「小官らが勝利した場合はどうしますか!」
「オレ特製のお菓子をご馳走します! 頑張って殺しましょう!」
メンタの檄とも呼べない檄に彼らは呼応してコンバットナイフを振り上げた。
『オオオオオオオ!! 殺せ! 殺せ! 殺せ!』
「では、出撃しましょう! 殲滅です!」
『一人も生かすなぁぁ!!』
恐怖と圧殺の戦場が幕を開けようとしていた。
遂に予選決勝ということもあり陰陽生たちもその行く末を見守っていたのだが、誰がメンタたちの正面衝突を予測しただろうか。
敵陣は前二回をしっかりと見学しているため今回は守衛陣ではなく攻撃の体勢を取っていた。それが不幸中の幸いだったのか、序盤はどちらの士気も高く拮抗を保っていたのだが敵の一人が奴等に掴まり、数人がかりで社会的抹殺をくらい、そのまま肉盾として活用されて進軍してきた。
これが逆にメンタたちの誰かであればメンタの指示でやむなしの犠牲で済んだのだがそこは陰陽生徒、まだ若い学生に非情な犠牲を求めろという方が酷だろう。
よって彼らは術符を肉盾に向かって放てず、劣勢に追い込まれていた。
「ひ、ひいっ! た、退却! 退却だ!」
「オラオラオラァ! どうした腰抜け野郎!」
「テメェの○○○を鼻の孔に突っ込むぞオラオラオラァ!」
「ひぎゃあああ!」
犠牲は増える。増えた分だけ肉盾が増え、進軍の足は速まる。
その様子を見ていた生徒たちの何十人かは退席し、腐属性を持つ何名かはノートにその地獄絵図を書き綴った。
メンタたちが敵本陣に到着すると敵将は真っ先に部下たちの安全を守るため降伏を申し出た。
「と、投降する! 白旗! ギブアップ!」
メンタたちに降伏という概念はある。あるのだがそれは気分次第だ。今は非常に血肉に飢えており、結果的に殺戮という形に収まった。
「殺せ!」
「殲滅だ!」
魔導ライフルを放ち、敵陣に火をつけ、旗を叩き折って火にくべる。それだけに留まらずメンタは夏コミ用のDVDの撮影まで始めた。それを手伝うのはシンと腐女子数名。
「いやぁぁあああ!」
「い、いやぁ! た、助けて! 誰か、誰かぁ!」
「隊長! 隊長は何処ですか!」
対象は女子のみに絞られ、野郎共は逆さづりや磔刑にされていた。
それを監視していた理事長と教師たちは防弾服と術符を手に、待機していた。
「――教員全員に告げる。第02大隊の勝利で良いな?」
『異論ありません。今すぐ救助を』
「うむ! 教員、全員で彼らを止めよ!」
『はい!』
理事長の指示が下ると教師たちは一斉に動き出し、枢は一人留まっていた。
「どうした、枢? お前も教員ならさっさと出撃せよ」
が、メンタのことをよくよく知っている枢からすればそれは自殺と同義だ。
「……すみません、本気で命が惜しいです」
メンタに『教師ならば』という理屈は一切通用しない。前回メンタの餌食になった教師たちは、それはあくまで不意を打たれたからであると思っており、正面戦闘で人数さえ揃えば戦えると勘違いしているのだ。
「……分からなくも無いが行け」
理事長の無慈悲な命令に枢は頷くことしかできない。
「……はい」
その表情はこれから特攻しにいく者の面構えだった。
戦場に教師たちが到着すると敵も味方も生徒という立場から手足を止めた。
「そこまでだ!」
「全員終戦だ!」
「武器を仕舞え! 我々の判断により02大隊の勝利だ!」
教師たちが口々に宣言すると生徒たちは泣きながら座り込み、安堵した。
「……た、助かった、のか?」
「終わったんだよな?」
「……終わり、か?」
「……終わりっぽいけど……」
「そうだ。模擬戦は終わりだ」
教師たちも微笑みつつ答え、それを見たメンタは一度手を叩いて全員の注目を集めた。
「あー、我が02大隊諸君に告げます」
――良かった。これで終わるんだ。
メンタも教師が言うのだから終戦するのだろう、そう思っていた生徒たちは次の言葉で驚愕することになる。
「我々はこれより掃討戦へ移行します。先程も言いましたが教員が介入した場合は何でしたか?」
問うと、部下の一人は敬礼して答えた。
「○○○を切り落として鼻に挿し込みます!」
「丁寧過ぎます! ぶっ込みなさい!」
『何言ってんだこの赤毛!?』
誰もが絶叫し、その中でも比較的言葉が通じるだろう枢が前に出て制した。
「メンタ! 模擬戦は終了だ! これ以上の戦闘は無意味だ!」
が、その言葉は無視され、メンタはカメラを持った部下たちに振り返った。
「カメラ小隊! 準備は出来てますね!」
『サー!』
敬礼し、他の部下たちは一斉に銃器を降ろして身軽になって照明や縄を持ってスタンバイする。
「なにをする気だ?」
「撮影……?」
メンタの腐を知らない教師たちは首を傾げる。
「カメラ……? カメラ……まさか!?」
その中で唯一、枢は脱兎のごとく逃げ出した。
「逃がさない。構え」
数歩歩いた先にはシンと数名が魔導ライフルを構えており、枢を取り囲んだ。
「包囲完了! 捕獲します!」
生徒たちが一斉に襲い掛かり、枢はこの後どうなるか用意に予想が出来たため例え相手が生徒だろうが一切の容赦なく切り札を放った。
「ォオオ! 呪殺符!! 轟雷符!!」
『枢、お前それでも教師か!?』
教師の中でも指折りの強さを持つ枢が陰陽師に伝わる禁術を使用して生徒たちを破砕したことに他の教師たちは驚愕した。
「こんなところで社会的に死んでたまるかぁぁ!!」
だが、枢はそれどころではない。メンタに鍛えられた生徒たちであればこの程度で死ぬはずがない。
「溜まるか……溜まってるなら出さないと体に毒」
事実、20m近く上空にふっ飛ばしたのにも関わらず生徒たちは無傷で着地して見せた。その中にはシンの姿もあり、枢は得体のしれない化け物を見るように眼を見開いた。
「土隔壁! 土砂雪崩!」
土の壁を作り、土砂を巻き起こして殺害せんとばかりに術符を投げまくる。一瞬振り返ると背後では他の教師たちが既に餌食になっており、枢の数m後を生徒たちが血眼で追いかけてきていた。
「枢教師を逃がすな! 逃がしたら隊長に素手でケツ掘られるぞ!」
「全裸で氷水被ることになる! 逃がすな!」
「お前等は一体何処で何をしたらそんなに人格が変わるんだ!!」
枢は絶叫しながら逃げ、それを聞いていたメンタは能力を発動しようと右手を教師に伸ばした。
「いやですねぇ、そんな本当のことを公衆の面前で言われると思わず手が疼きますよ! 能力は――」
その右手を割って入った理事長が抑え、そのままメンタの首をねじ切ろうと跳躍して足を首に回そうとする。
「これ以上生徒も教師もやらせん!」
「おっと!」
体を逸らして間一髪で避け、掴まれた右手を外回しに捻って強引に外し、空中を舞っている理事長の横っ腹目掛けて上段蹴りを放つ。それを理事長は右腕で受け止め、弾かれて距離を取った。
それ以上の言葉は無く、両者が弾幕を構えた。
無事に予選を終えて陰陽師院に帰還したメンタたちは食堂で優勝パーティーを開いていた。テーブルにはお菓子やジュース、お酒が置いてあり各自が杯を持って乾杯した。
「さて、皆さん! 明日から本選ですが、羽目を外し過ぎないように今日ははしゃいでください! お菓子もいっぱい作りましたよ!」
メンタが率先してケーキやショコラ、クッキーを勧め、食べさせていく。
「美味い」
シンたちも満足してジュースを飲んでいく。
アナプロたち男性陣は甘いものは苦手じゃないがやや首を傾げていた。
「……甘いな」
「お前、甘い物苦手だったか?」
「いや、この一か月間甘い物など口にしてなかったからか非常に美味しく感じるんだ」
各々がクッキーを手に取って食べつつ雑談は進む。
「確かにな。しかし本当にアレだな」
男子生徒がメンタを指差し、別の生徒がつられてみた。
「アレ?」
「中身残念なのにスキルだけ無駄に高いってことだ。正直言えば残念さとっぱらったら、ほぼ完璧美少女だ」
「ああ……天は荷物を与えんっていう迷言ね」
「何の言葉だっけ、それ」
「魔王語録集の一節だ」
「男の浪漫が詰まった名言集だな」
それは男子生徒のみならず女子も惹きつける言葉が多く含まれた語録集だ。本そのものは異世界からの流用物で先に地球で販売され、後に幻想郷へ運ばれてきた。
魔王当人の許可は取ってあると末尾に書いてあるが、一体どの魔王なのかとまでは書いておらず、作者のペンネームだろうと推測されている。
一方で総じて医務室送りにされた教員勢は体育座りして見事にいじけていた。
「赤毛怖い赤毛怖い赤毛怖い……」
「俺のケツが……」
その中で比較的軽症の理事長たちは私室に戻り、緑茶を飲んでいた。
「ぐっ……おのれ、メンタめ。自身のみならず全員を強化してくるとは……」
「あと少し紫さんの介入が遅かったら俺もヤバかったです……」
場には理事長、枢、紫の三人がおり、紫は不敵に微笑んでいた。
「ああ。それに、あのままでは我々は全滅していた」
「……俺たちも強くならねばなりませんね」
「そうだな」
このままでは教師と生徒の戦力差が広がるばかりだ、と理事長は思う。
生徒も大事だが教師の質が低いのはもっと頂けない。
「では、此方は如何でしょうか?」
どうにかせねば……と理事長は思案し、紫はそれを見透かしたように地図を広げた。
次の日。大会当日、陰陽寺院の本選会場の裏手にあるトイレには大隊02の内、メンタとシン以外の全員が並んでいた。
「ぐああああ!」
「ううう!」
「早く! 次の試合があるのに!」
「は、腹が……! こんな時にちくしょう!」
「くっ……なんて無様な……」
「……ぐああ……!」
時刻は無常に過ぎ、試合会場ではシンと審判役の教師がポツンと立っていた。
「……」
「時刻になっても来ないため、シン、不戦勝!」
試合は全て不戦勝という形で終わり、生徒も、見学しにきた時期生徒たちも親もつまらなそうに試合会場を見ていた。




