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東方幻想腐女録  作者: グラたん
第一章
50/119

第四十五話 『努力』『友情』『勝利』

グラたん「第四十五話です!」

 メンタの言う通り、雪山と言っても熊や鹿の姿はチラホラあり、まともに食べられそうな木の実や香草を取っていく。水は雪を溶かしてろ過したものを飲むことになり、取って来た得物は鹿が八頭と兎が六匹、運よく撃ち落とせた鳥が二匹だ。

 鹿は普通は罠に嵌めて心臓を穿つものだが陰陽生たちには術符という便利な代物がある。それを雪の中に隠して罠とし、目印に雪山を作って置き、そこに鹿を追い込んで捕えていた。

 フールエンリルたちに至っては素で追いかけて首根っこを掴んで持ち上げている。

 今日の収穫を野営地に持ち帰り、しかし持って帰って来て誰もが困惑した。


「なぁ、これ誰が調理するんだ?」


 どれもこれもが生きたままの状態で縄で縛られており、野生の生き物を解体したことがない陰陽生たちはサバイバルナイフや鉈を持ったまま立ち止まった。


「……仕方ないですね」 


 背後からメンタの声がし、全員が一斉に飛び退いて警戒する。

 しかし食事が満足に取れないのはメンタとしても本位ではないため解体用の鉈を手にもって鹿に迫った。


「今からやり方教えますんで各自憶えてください。シン、アナプロさん、カモンです」

「げぇ」

「マジか……」


 自分に回って来なくて良かったと思う者多数と明らかに貧乏くじを引いたアナプロたちへの憐みを込めた視線が多数、それ以外はその後は自分たちがやることになっているということへの恐怖だった。


「まずはオレが一頭を解体バラします。それを見て二頭目はシン、三頭目はアナプロさんにやって貰います。用意するのは解体用のナイフか鉈、それと……血を入れるの大きなバケツですね。血と骨とクソ以外は食べられるので食べましょう」


 そう言ってメンタがエプロンを着用し、二の腕まで覆うビニール手袋を着け、鉈を鹿の首に当て一気に掻っ捌いた。


「ひっ」


 小さな悲鳴が漏れ、いつも食べているフールエンリルたちは肉の方を見て美味そうだと火起こしを始める。


「殺した後は血抜きをしつつ、即席の三脚に吊るします。この方が皮が剥きやすく、肉を解体バラすのも楽です」


 鹿をつるし上げ、首から背にかけて切れ目を入れ、首から皮を剥いでいく。


「この皮は鞣して叩いて細工をすれば毛皮になりますし即席の布団にもなりますので傷つけないようにしてくださいね。細工の方は後で教えます」


 皮を剥ぎ終わると腹の方に鉈を入れ、夥しい血を浴びながら臓物を取り出しては近くの雪の上に置いていく。


「モツは腐りやすいのですが、今回は雪山なのでそこらに放置しておけば勝手に冷凍されます。ただし肉と一緒に置くと寄生虫とかが移りますので絶対に一緒くたにしないでください」


 首肉、肩、足、ロースと順々に切り落として行き、最後に残ったのは鹿の生首と骨に僅か付着している肉と足。


「あ、ちなみに顔も食えるんですよ。頬と顎、それとタンも実は結構いけます。ミソはオレには苦すぎるので処理します。削いだら首はバケツに入れ、骨はスープにしましょう。出汁が出て美味しいのですが、雪山に咲くローダーマリーという香草を入れると臭みが抜けて飲みやすくなります。あっさり系にするなら香草のベージュ、アマリーを入れ、ロース肉と木の実を混ぜると良いですよ。こってり系ならベースはそのままに背脂を入れると美味しくなります」


 もはや何言ってんだこいつ、とばかりの視線がメンタに突き刺さり、フールエンリルは犬のように尻尾を振るわせて丸焼きにしている鹿を眺めている。


「さあ! まずはシンからやっていきましょう! ちなみに出来なかったら飯にありつけないので応援してくださいね」


 そうだった、と生徒たちは明日は我が身かもしれないというのに一斉にシンを応援し始めた。


「頑張れ、シン!」

「お前なら出来る!」  


 そのシンは鉈を構えて足を振るわせている。


「がちがちがちがち」


 その視線は鹿とばっちり目が合い、『殺さないで』と言うようなくりくりとした瞳にやられてしまう。


「殺せ!」

「こ・ろ・せ!」

「こ・ろ・せ!」


 周囲からの殺せコールが響き、シンは震えながらも目を瞑って鉈を振り上げる。


「遅いですね。そんな振り上げなくてもサクっといきましょうよ」


 背後からメンタがシンの両手を掴み、容赦なくその首に鉈を落とした。


「あ……」 


 鹿の眼がグリンと白へと代わり、シンはそれをしっかりと目に焼き付けてしまった。


「アナプロさんも同時進行で――」

「オラァ!!」


 隣ではアナプロが裂帛の気合いと共に鹿を仕留め、首から背にかけて線を入れていた。その隣では手足を震わせながら男子生徒たちが三脚を組み立てており、出来上がると吊るし切りを始めた。


「おお、やりますね」


 メンタは感心するが、実際は寒くて早く火の元に行きたいという強い思いからの一閃だった。メンタは笑みながら自身の調理器具に手をつけて鹿肉を調理し始める。

 よく見ればジャガイモやニンジンなどカレーの材料が整っているのだが必死になっているシンたちは気付かない。



 その後、シンたちは何とか鹿を解体して温かいスープと塩焼きにした肉にありつくことが出来ていた。

 だが連続の行軍と疲労に疲労を重ねた体は食事を一切受け付けない。代わりに水を求めており、水だけでお腹いっぱいになりそうだった。


「うっ」

「げっ」

「た、食べられない」

「食欲沸かねぇよ……」


 膝の上には冷えてきた鹿肉。それを奪って振り上げる鬼畜が一人。


「食えです! 食わない奴は無理やり食わせます! こんな風にデス!」

「ぐべぇ!?」


 ぐりっという音と共に鹿肉を無理やり詰め込まれて彼はそのままリバース。メンタは清々しい笑みのまま次々に犠牲者を叩き出していく。

 それを比較的安全圏で眺めているのはシーケンとアナプロだ。


「……なぁ、アナプロ。俺たちは一体何をやらされてんだ?」

「さあな……とりあえず、無理にでも食うぞ。……オェ」


 鹿肉を噛むと溢れ出るのは肉汁――ではなく獣の匂いと血の味。それを温かいスープで無理矢理流し込んで込み上げてくる吐き気も飲み込む。


「水と一緒に飲むしかない……オェ」


 地獄のような食事を初めて味わい、二人ともに精神をすり減らしていく。

 そろそろ腹も膨れて来たという時になって赤毛は巡回してきた。


「そういえばモツが結構余っているんですよね。焼肉しましょう!」


 これが今でなければアナプロも役得と称して参加しただろう。


「……シーケン、俺はテントを立ててくるから隊長と一緒に一杯やると良い」

「はっ? あ、ああ……」


 アナプロが出来ることは精々テントを立てると称して男子若干名を連れて逃げることだけだ。背後からはそれに気が付いたシーケンの呪詛が雪山に木霊した。


 

 アナプロたちが立てたテントの中は意外と温かく、メンタと女生徒数名で鞣した毛皮布団を敷き、生徒たちは横になる。


「食ったら寝るのです! 体は資本! 壊したら洗脳して治してやるのでありがたく思って寝やがれデス!」


 メンタの声を一秒でも聞きたくない彼らは急いでテントの中へと退避し、そこでも問題が起きてしまう。


「……寝られない」

「疲れすぎて眠れないわ」


 身体の疲労が限界までくると人間は眠気を覚えなくなる。目を閉じても眠れないというのは存外ストレスだ。


「せめて目だけは閉じましょう。余計なことはもう考えたくも無いわ……」

「……うん」


 だがそれはほんの数十分のことで一度眠りに落ちてしまえば次に目が覚めるまでは夢の中だ。

 とはいえ、何度も言っている通りここは雪山。そこにテントがあれば襲いに来る獣も多い。そのため普通は見張りを立てるのだがここまで強行軍をしたメンタは全員を休ませ、自身が周囲の警戒をしていた。

 メンタは徹夜どころか三日くらい寝なくても問題ないくらいの体力があり、必要最低限の休息があれば動けてしまうのだ。


「腐腐腐……うら若き少年少女が合同で寝て襲撃されないと思っているのですかねぇ?」


 脳を操る程度の能力。その能力さえあればメンタの毒牙にかかることは造作も無い。

 疲れた体に鞭を打ち、メンタは録画カメラを片手に女子たちの寝床へ入って行った。 



 朝日が昇れば地獄は再開される。


「さあ今日も元気よく訓練しましょう!」


 人類の寝起きに対する最大の攻撃は音だ。メンタは耳栓をし、わざわざ用意した銅鑼を雪山で鳴らした。

 ジャーン、ジャーンと莫大な音が鳴り、木霊し、寝ていたはずの彼らは最悪の目覚めを味わうことになる。


『うぎゃアアアアアアアアアア!?』


 酷い隈を顔に残しつつ彼らはテントから這い出て、起きない者は顔に氷水をぶつけるという過去に類を見ない起こされ方をされ、朝食はメンタが作っていたシチューと鹿肉に手を伸ばしていく。


『……オェ』


 昨日の今日で食べられるようになるわけもなく、昨日の二の舞だけは嫌だとシチューと一緒に無理やり飲んではリバースしていく。



 朝食を食べ終われば雪を退けて広けた場所に連れて来られ、眠気と筋肉痛の最中でメンタの声が耳に響いた。


「今日から実習訓練に入ります! 皆さん対人経験の薄いクズということなので特別講師を呼んであります。嬉しいですよね!」

「……いや――」


 嬉しくないと誰かが言う前に今朝から無理やりテンションを上げたアナプロが敬礼した。


「イエス・マム!」

「あ、アナプロさん?」


 陰陽寺院に居たアナプロなら絶対にあり得ないだろう光景を目の当たりにして生徒たちは騒めき、メンタは満足そうに頷いた。


「そうです! 返答はそれ以外ありえません!」

「耐えろ、今は耐えるんだ」

「……はい!」


 アナプロの言葉に仲間たちが頷き、一斉に敬礼を返した。

 それを見てメンタは自身の隣を拍手で迎えた。


「では、スールートーさん!」

「うむ」


 空間に青い電流を迸らせながら転移魔法陣が出現し、その中からスルトが姿を現した。いつもであれば黒のローブに黒の外套の姿だが、今日は神様らしく白いローブに赤いマントだ。仮面も白で統一されている。


「……ね、あれって……」

「守矢の……だよね?」

「なんで神様を連れてくるんだよ……」


 メンタが博麗の巫女――正確には見習い――だということは周知の事実だが何故守矢の神様まで顔が効くのかと全員が疑問に思う。

 この場に枢や理事長が居れば当然だろうと首肯しただろう。


「オホン、ようこそ寄生虫諸君。其方たちには今日より地獄の訓練を行う。脱落は許さんし、この訓練を乗り越えた者は間違いなく一流の戦士になれることを約束しよう」


 メンタよりも神様の方が良いし、神様に鍛えて貰えるなど一生涯にあるはずもない奇跡だ。多少呼び方がアレであったとしても彼らは気にしない。


『おお!』


 生徒たちの歓喜にスルトも笑みを深め、右手に装飾豪華な長杖を出現させて握った。


「では早速始めるとしよう」


 地面を一度叩くとこの場にいる全員浮遊し、スルトは悪い笑みを浮かべていた。


『え”っ!?』

「余の訓練において最も重要視されるのは、その場の適切な判断力と受け身だ。これが出来ない者は文字通り死ぬ」


 説明は終わり、全員が上空に飛んで行く。


「オレもですかあああぁぁぁぁ…………」


 当然その中にはメンタの姿もあり、身体を高度30mくらいに上げられ、自由落下で落ちてくる。他が茫然とする中でメンタは空中で体勢を作って落ちてくる。


「ホァタァ!!」


 どんなに高所でも落下地点は土だ。まともに落ちれば即死だが、骨折することを前提にすれば死ぬことは無い。ましてやメンタくらいの強者となれば全身の衝撃と指先から地面に受け流して着地することも可能だ。

 一回目はメンタだけが生き残り、他は残らず首の骨を折って死んだ。


「蘇生」


 スルトが長杖を死体に向けると彼らの首の骨が元通りになり、何事も無かったかのように動き出した。


「な、何が……」


 問うことなく彼らは再度上空に打ち上げられ、メンタに至っては1km近くも打ち上げられて落とされる。

 今回も受け身を取れること無く死に、メンタも飛翔を使って着地していた。

 10時間も同じことを繰り返せばようやく死なない者が出始め、受け身が出来ていく。


「くっ!」

「死ぬのだけは!」


 アナプロたちが死ぬという感覚を覚え始めたのは死亡回数が十回を超えたくらいからだ。精神的な余裕が出来れば次に沸き立つのは地面への恐怖。そして首の骨が折れるという恐怖と痛み。それが繰り返される恐怖。

 ならば最悪骨折してでも終わらせた方がマシではないか、と思うようになっていく。

 そうして何人かは覚悟を決めて自らの骨を砕き、生き残る。それも繰り返されれば受け身を覚え、痛みが軽減される落ち方を学ぶ。

 スルトも頃合いを見計らい、受け身を終わらせて空中に剣を出現させ、周囲に突き刺していき、次の説明に入った。


「ふむ、そろそろ良いな。次は一人に付き他者を百回殺せ。死にたくなければ相手を殺せ。それも出来なければ余が殺す」


 それはメンタであっても例外では無いため、当人は真っ先に剣を取って生徒たちに向かって投げ始めた。


「死にやがれです!」

「ヒャッハー!」


 頭のネジが飛んだのはメンタだけではない。度重なる死と精神の著しい摩耗から精神的に壊れた者から剣を取って行き、仲間の首を上げていく。


「ブベラッ!?」

「狂気の沙汰……でも、やるしかない!」


 シンも覚悟を決めてメンタに切りかかり、あっさりと脳天を貫かれて意識が失われて行く。

 スルトは死んだ数だけ蘇生魔法をかけて復活させ、殺しあわせていく。辺りには血肉が飛び散り、新たに受肉した肉も飛び散って異様な光景となっていく。


「死ねぇ!」

「死ねぇ!」


 ある者は群れを作って一人をめった刺しにし、ある者は複数人で一人を殺すという幻想郷でも卑劣と呼ばれる戦法で殺していく。


「ひっ! い、嫌だ死にたくない!」

「ま、待て! 三対一はひきょ――」

「嫌ぁ! 死にたくない!」

「うへへへへ! 死ねかぺっ!?」


 その中でも特に精神が壊れた者はスルトやメンタに向かっていくこともあり、スルトはその顔面を片手で掴んで他の生徒たちの場所に投げる。


「フハハハ! 死にたくなければ敵を殺せ!」

「殺しMAS!」


 メンタは次々に落ちてくる剣を空中で受け取っては生徒たちに突き刺し、一番速く100回というノルマを終える。

 ある程度数が整うとスルトは長杖を地面に刺して大規模な魔法陣を作った。


「では、次だ。この屍兵を倒せ」


 何体と明言させていない戦いは心身ともに厳しいが、壊れた彼らに疲れも思考も無い。目の前にある敵を倒し、指示に従うだけだ。

 屍兵は一体一体が大昔の幻想郷であった戦争で死んだ骸であり、剣や弓、槍、鎚、魔法と種類は多く、生前の剣技を見せつける剣豪もいる。

 それらを相手にメンタたちは奮闘した。



 夜になればようやく休憩になり、夕食を食べ、スルトの力でシャワー室を作って浴び、昨日よりは比較的マシな状態でシンたちは就寝した。

 その後でメンタは自分のテントにスルトを招いていた。


「今日はありがとうございました、スルトさん」

「礼には及ばん、夜はこれからだ」


 スルトがニヤリと笑うと、メンタはいつも通りにいかがわしい妄想で応えた。


「……え? ハッ、まさか夜戦ですか!?」 


 男女二人の状態で夜戦と言えば一つしかないのだが、スルトは笑みを引いて感心した。


「ほう、そこに気付くか。無論、それもある」

『敵襲だぁぁ!!』


 外から聞こえてくるのはスルトが作り出した妖怪の群れと眠れない夜を過ごすことになるアナプロたちの悲鳴だ。

 其方はアナプロが指揮すれば良いため、スルトは机に巨大な地図を置いてその上に書物を置いた。メンタは椅子に座らされ、スルトはその隣に立って書物の一つを手に取った。


「メンタには指揮官としての戦術及び指示、戦局の判断を磨いて貰う」


 メンタは不敵に笑って答えた。


「――実を言うとオレ全く寝てないので眠いのですが……」


 出発から今日までメンタは寝ることなく周囲を警戒し、シンたちを監視していたため疲れも相応にあるのだが彼らにしてきたことを思い返せば自業自得だろう。

 スルトは笑みながらその手に鞭を持ち、机を叩いた。


「ククク、案ずるな。寝たら全裸で外に吊るしてやろう」


 メンタにも一端の羞恥心はある。他者が剥かれようが酷いことになろうが腐の王道ということで見られるが、自身のことになると恥ずかしくもなる。

 この場に女性しかいないというのであれば全裸待機もやぶさかではない。いや、御褒美でしかないのだが隣にはスルト、外にはアナプロたちという男性がいる。メンタは重度の腐女子ではあるが、普通の女子としての側面もある。


「精一杯頑張らせていただきます!」


 メンタの威勢の良い返事を聞き、スルトは首肯した。


「うむ、良い。では始めるとしよう」


 スルトが教えるのは基本的な縦や横の陣形から撤退戦に使える陣形だ。特に攻撃型の陣形は多く、実際にスルトが作り出した僕と模擬戦をさせられて頭に叩き込まれて行く。

 メンタも万全の状態では無いため時折ミスをするがその度に気付いて穴を埋めていく。

 憶えの良いメンタを見てスルトは少々目を細めた。それは普段の神としてではなく、何処か懐かしむような慈しみだった。

 

 そう、スルトが教えているのはかつて自身や弟子たちが実戦で使い、勝利を手にした経験なのだ。それを教えるのは同時に継承でもあり、長く戦争をしてきたスルトにとっては喜ばしいものでもあった。




 訓練できる期間は二週間と短く、その間に完全なる指揮系統の確立と一糸乱れぬ隊列を会得し、戦術を実践レベルにまで引き上げる必要がある。


「復唱です! 隊長の命令は絶対!」

『隊長の命令は絶対!』

「声が小さい!」

『隊長の命令は絶対!』

「では行軍開始です!」

『サー・イエッサー!』


 少年少女の集団と言ってもやっていることは軍隊だ。決して真似事では済まされない濃密な訓練を彼らは受けていた。

 同時にスルトの言っていた通り自身の力が上がっているのは日に日に感じ取れるほど訓練は心地良かった。

 戦闘訓練ではスルトが作り出した動く模造の人型を相手にメンタが指揮を取り、絶対統制の元で動いていた。

 陣形は横陣を敷き、前線も構えている二段陣。


「構え!」


 構えるのは銃ではなく術符だ。


「斉射です!」


 それでも一斉に撃てば威力は甚大なものになり、組み合わせることによって幅は広がっていく。


「構え!」


 メンタの指示通りに彼らは大隊として術符を構え、号令と共に前方に放つ。


「斉射です!」


 人型はそれを避けて接近してくる本格仕様のため、前線では副長のアナプロが自らも槍を構えて立っていた。


「構え! 突け!」


 一斉に構え、号令と共に突き出す。前線を一時食い止めれば後方から呪符が飛び交い、前線の戦況を有利にさせる。


「かち上げ! 突けえ!」


 それと共に槍を上げて敵の武装を削り、頭上から斬るように振り下ろす。


「進め! 進め!」


 掛け声と共に隊員たちは息を合わせて槍の上下運動を繰り返し、敵勢の体勢を崩していく。

 敵が逃げればその背後に向けて追撃し、ある程度までいくと手際よく引き上げていく。



 しかしいつまでのスルトの蘇生に甘えては強くなれないため、メンタたちは北の陰陽師院の前線地帯にまで移動し、完全に顔つきが変わったアナプロたちを率いて崖の上から敵陣を見据えていた。


「これで良いのだな?」


 スルトが問うとメンタは頷いた。


「はい! さあ寄生虫共! 狩りの時間です!」

『サー!』

「出撃です!」

『殺せぇぇ!!』


 生き返れないという恐怖は無く、彼らにあるのは闘争と殺戮のみ。

 北の陰陽師院と西の陰陽師院が争っていると言っても実際は長距離砲撃の芋合戦だ。失われる命も流れ弾や野生動物の被害が主であり、対人経験は少ない。それでも前線にいる部隊は経験があるため獲物としては丁度良い。

 それを恰好の獲物とばかりに狙うのがメンタ大隊であり、推の字陣形で突撃して敵陣を混乱させ、颯爽と去っていく。

 次いで、夜襲。火を風で煽って広げるだけでも十分な効果はあり、メンタの策は面白いように嵌っていく。

 この合戦は後に謎のゲリラとしてもみ消されるのだが、陰陽寺院の史実には『雪血戦役』として生き残った者たちによって語られて行く。

 


 そんな本気ガチ思考のメンタたちとは違い、東の陰陽寺院では十二姫たちが各々の部下を率いてまるで運動会のようなノリで練習に励んでいた。


「さあ、今日もやるぞー!」

『おおー!』

「絶対に!」

『勝つぞー!』

「予選通過は俺たちだ!」

『おー!』


 教室の窓からは『努力』『友情』『勝利』の三原則が書かれた横断幕がはためいており、彼らの手には機関銃ではなく術符が握られている。

 その様子を教員室から教師たちが微笑ましげに眺めていた。


「平和だなぁ」

「全くその通り」


 授業も無く、予選の準備と本選の準備を終えた教師たちはこうして眺めているか生徒たちの自主練習の相手をしている。理事長も模擬戦の相手をしており、生徒たちからは非常に評判が良い。


「しかし……」


 と、一人の教師が不安げに呟く。


「彼女たちは一体何処で何をしているやら……」


 教師を爆殺する程度には強い赤毛の悪魔を思い出し、教師は隣で刀剣を研いでいる枢に聞いた。


「枢は何か聞いていないのか?」

「外出する以外は何も……」


 枢が知らないのであれば教師たちが行方を知る由も無く、ただただ不安だけが募る。


『……嫌な予感がする』


 それは間違っていない。



 そして数日後。いよいよ門内予選の幕が上がろうとしていた。

 生徒たちもやる気充分、体調も万全、そして空は快晴という絶好の日。門内の全員が予選会場の山に集まり、理事長の挨拶を聞いてた。


「あれから皆よく訓練に励んでいたようだな。では、予選の幕を上げるとしよう!」

『うおおおお!!』


 各所から咆哮が上がり、理事長は満足気に頷いて続けた。


「まずは01大隊と02大隊(メンタ隊)の戦いだが……」


 そのメンタたちの姿は無く、誰もが不思議に思っている。それを嘲笑する声も少なくはない。


「俺たちにビビッて逃げたか?」

「来ないならこのまま終わりよ。オホホホ!」

「いや、来たみたい……だ」


 が、統率された足音が聞こえ始めると共に場は静寂になっていき、その足音がする方へ眼を向けた。

 予選は理事長の意向もあり服装は汚れても良いものなら何でも良いということになっているため、メンタたちの服装は決して悪くはない。

 軍服もどきではなく迷彩服。演習地が山中のためこれが最適だろうとメンタが用意した服装だ。頭には防弾のメット、肘や膝にはプロテクター、インナーには鎖帷子を着込んでおり腰回りには手榴弾や煙幕などの対人兵器が装備されている。ポーチにはカロリーメイトや応急手当品が詰まっており、コンバットナイフも装備されている。太腿のホルスターには二丁の拳銃が差してあり、靴は耐久性の高いステンレス製のゴム靴だ。

 背負っているのは対妖怪兵装の魔導ライフルだ。元は昔、永琳たちが幻想郷へ来る前に月面と戦闘していた際に使っていた武装だ。その大元を人間でも使えるように魔力使用量を減らしたのが魔導ライフルだ。射程は100m、弾数は自身の魔力、最大連射数は5発となっている。やや大型の為、男性でも両手で持たないといけないのと使用者によって威力が左右されるのが難点だ。

 そんな支給品の改造した本気ガチ装備を見て生徒たちだけでなく教師たちも騒めく。


「ざわざわ」

「何か違うぞ、あれ」

「ちょっとあれってアナプロ様?」

「あっちはシーケン様? なんか凄く凛々しいんだけど」

「……色々思う所はあるが来たのなら良い。両者整列!」


 理事長の言葉で大隊01と大隊02以外の部隊は範囲外から出て、教師たちも不正がないがモニタリングをし始める。


「これより演習を始める。使用するのは術符及びペイント弾とする。制限時間は三時間とし、超過した場合は人数の多い方の勝利とする!」 


 理事長が両陣営を見て一つ頷いた。


「異論は無いようだな。では、両陣営のリーダーによる舌戦を始めよ!」


 舌戦。古来の日本より伝わる独特な戦争の方式であり、本来は大将同士が名乗りを挙げて相手を威嚇するのだが幻想郷においては気合を入れるための格式として扱われており、これがそのまま士気に関わるとされている。


「先行は俺たちだ! 皆、勝つぞ!」

『オオオオオオオオオオオオオオオ!!』


 無難な入り方と共に生徒たちが腹から声を出して叫ぶ。また大隊一つ一つには旗を作る権利が与えられ、それが折られると敵将が打ち取られたと同義となり敗北となる。

 彼らの旗は陰陽師の紋章に黄金の草を生やした豪華な紋様だ。


「おおっ、これは中々」

「気合いが入ってますな!」


 教師たちの評判も良く、枢も中々だと心の中で思う。


「うむ、では次に02大隊!」


 理事長の声に合わせて隊長であるメンタが前に出てアナプロたちに面向いた。そして背負っていた魔導ライフルの銃口を空に向けて地面に落とし、彼女たちなりの舌戦を始めた。


「――総員、今、この時を持ってオレたちは苛酷な訓練を終了し、寄生虫を卒業した統率された軍人として戦地に立ちます! 者共、我々がすべきことは何ですか!」


 メンタの、何処からそんなドスの聞いた声が出るのかと誰もが疑問に思うがこれはメンタの七色ボイスの一つだ。それに呼応するようにアナプロたちも銃を地面に突き立て、大気を振動させる。


『殲滅だ! 一人残らず殲滅だ!』


 メンタたちの旗は敵兵たちとは全く真逆で人の首を模した絵に剣と槍を突き刺した海賊マーク。旗自体も黒と赤のコントラストで配色されているため一層不気味だ。


「奴等に見せるのは何ですか!」

『血沸き肉躍る地獄だ!』

「聳え立つのは!」

死体ひとの山!』

「最後に、『人の肉は』!」

『喰える!!』

「よろしいです!」

「良くねぇよ!?」


 枢の至ってまともな突っ込みも今は届かず、他の生徒たちも若干引いてメンタたちから距離を取った。


「オホン、各隊は指定されたポイントに移動して合図があるまで待つように」


 理事長の言葉もそこで終わり、各自が陣営設置を始めるため動き出した。


メンタ「野郎共、我々の鉄の三原則を応えやがれです!」

アナプロ「『殺せ』!『犯せ』!『奪え』!」

メンタ「イエス!」

枢「イエス! じゃねぇよ!? なんだその盗賊ルールは!!」

メンタ「オホン、冗談ですよ。さあ、本当の三原則を答えてください、シン」

シン「『取る』『焼く』『食べる』……焼肉の常識」

グラたん「じゅるり」

枢「……もう好きにしろ」


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