第四十四話 急いで防空壕を作れ!
グラたん「第四十四話です!」
陰陽寺院の大会当日。
「ふんふ~ん」
清々しい雲一つない朝。メンタは珍しく六時に起き、シャワーを浴びていた。
メンタ15歳。成長期は人それぞれではあるが、メンタの場合は少しだけ身長が伸びており肉付きも多少は良くなっているため少し機嫌が良い。
いつもの制服に着替えて戸締りをし、教室の方へ向かう。
「おはようございます!」
「おはよ~」
教室に向かうと眠たそうなシンが下着姿で寝ぼけたまま私室を出て来ており、メンタはそれを見て見ぬふりをしたまま教室へと入れて座らせた。
手際よく朝食を作っていると博麗神社に行った影響で今までの五倍の修練を終えた枢が爽やかな表情で教室に入って来た。
「おはよう、良い匂いだっ、なァッ!!」
枢はシンのあられもない姿を見て、そのままメンタにドロップキックをかまして頭部を掴み、熱々の熱湯に顔面を浸けた。
「ぶくぶくぶくぶく!?」
朝食を食べ終えると今日は朝礼があるため校庭に並び、しかしフールエンリルたちの影響によって今までのようなやっかみは無くなってしまい仕方がないのでメンタの方からちょっかいを出しては枢に注連縄を括りつけられるということをしていた。
列に並び直し、枢からプリントを受け取ると門内大会の予選があるということを初めて知り、文句を垂れた。
「予選があるなんて聞いてないんですけど」
「理事長がお前にだけは黙って置けと言っていたんでな」
シンの方を見ると知っていたと頷かれてより不機嫌になる。
「一応メンタはシード扱いだけど箔をつけるために予選の一位通過は条件だって」
「言ってしまえば一位で通過してしまえばその後の本選はシード扱いだ」
それを聞いていた周りの陰陽生は羨ましそうにメンタを見ているが、その当人は酷くやらしい笑みで首肯した。
「じゃ、二位を狙いますね」
そのビックリ発言に枢は素っ頓狂な声を出してしまう。
「は?」
「だってそうじゃないと色々と出来ないですよね~」
色々、と二度繰り返してニヤリと不気味に笑った。
枢は溜息を付き、シンはそれは無理だと否定した。
「ちなみに二位以下は脱落同然だって……言ってた」
条件がそうともなればメンタは一位を取る以外に道はなく、面白味も半減してしまう。
「げぇ……面倒くさいですね」
だがそこで敢えてポジティブな考えに持って行くのがメンタだ。それならそうで別の事をしようと考える。
「っと、そろそろ開会式が始まるぞ」
枢が視線を上げると壇上に理事長が姿を見せ、メンタたちも釣られて視線を向けた。その理事長はヤケに眠そうに眼をこすり、微妙にやる気無さそうにしている。
しかし陰陽生たちが見ていることを思い出すと眼を開け、気の入った声を上げた。
「あー、諸君。今日は絶好の予選日和で何よりだ。さて、予選についてだが……今から引いて決めようと思う」
――適当だな!? と陰陽生たちが眼を見開いて大なり小なり声が上がった。
理事長はそれを見て満足そうに頷き、教師たちもニヤリとしていた。
「うむ。ちなみに今回のくじの内容は我々教員が希望した物が一枚ずつ入っている。何が当たるかは分からん」
そう言って理事長の前には箱が置かれ、中には十数枚の紙が入ってる。
「……では引くぞ」
その中に手を入れ、適当に一枚取って開いた。
「これにしよう。何々…………軍事演習? 希望したのは枢か」
全員の視線が枢に集まり、当人も引き攣った笑みをしていた。
「ゲッ」
「ゲッて何ですか。自分で書いたものでしょう?」
メンタに言われ、枢は少々気まずそうに視線を逸らした。
「……あれ、冗談半分に書いたやつだぞ」
「そんなもの入れちゃ駄目」
シンに言われると弱く、枢も悪ふざけが過ぎたかと反省する。
その理由は昨晩にある。昨日の夜は東の陰陽師院門内大会の前夜祭ということもあり、教師たち一同を集めて食堂でパーティーをしていたのだ。生徒たちに参加権は無いが各自で勝手に盛り上がる分には別に構わないと理事長が許可を出しており、生徒たちの間でもコッソリと宴が開かれていた。
その中で一週間後から始まる予選の内容を決めようということになり、その内容を決めるくじを教師たちに書かせていたのだ。その時は枢も酔っており、帰宅後は調子に乗って内容まで作り上げて今朝方に理事長に提出していた。
「軍事演習?」
「軍って、あれか?」
「でも演習って?」
生徒たちも騒めき出し、理事長が手を打って静ませて続けた。
「生徒諸君、静粛に。軍事演習の内容についてだが枢の希望により既に提出されている。後にプリントを配るが、今ここで事前に説明しておこう」
理事長が内容のプリントを開き、読み上げていく。
「要は現時点における参加者を分けた大隊規模の模擬戦だ。十二姫も分け、全員の希望を元に将を決める。戦争場所も後に抽選する。武器、武装は原則として我々が支給した物に限る。ここまでを現段階の説明としておこう。以上だ」
それで理事長の挨拶は終わり、表彰へと移った。
教室に戻って来たメンタは両手を握り、楽しそうに叫んだ。
「大変なことになりましたね!」
「なんでお前はそう喜ばしい表情なんだ」
「でも……演習かぁ……」
シンがイメージしているのは陰陽生同士による戦い。基本的に集団戦も個人戦もあるが、シンは今まで勝てた試しがないため少々自信なさげに呟いた。それでも事前に博麗神社でしごかれているため早々負けはしないだろうとも思っている。
そう考えていると外から陰陽生たちの声が聞こえて来た。
「メンタさーん!」
「隊長ー!」
呼ぶのは女生徒だが中には男子生徒もチラホラ見受けられる。その九割方はメンタの同人誌を買っているファンだ。
「はい、メンタです。どうしましたか?」
教室を出て廊下に出ると隊長表を持った生徒たちが頭を下げた。
「是非とも隊長になってください!」
「アナプロさんも一緒です!」
視線を向けた先にいる男子生徒を見て、メンタは少し首を傾げた後に手を打って答えた。
「えっと……ああ! 燻製さんですね!」
この前の表彰式で煽り、その後で木端微塵にされた思い出があるためあまり来たくはなかったのだが背に腹は代えられない。眼前にいるのは十二姫の内の二人、アナプロとシーケンだ。
「なぁ、アナプロ。やはりコイツにリーダー任せるのは間違っていると思うぞ」
「呼び名はアレだが、あれほどまでにセコイ手を考えるのは彼女くらいだ。通常なら真面目にクソだが軍事的行動及び演習、実戦にかけては優秀な指揮官だ」
メンタに敗北して以来、アナプロは彼女を観察するようになった。通常の授業もわざわざ教室外に式神を飛ばして自身の授業をおざなりにし、合同の模擬戦でもメンタが一強になるのを見て自身の評価を改めていた。
知識も戦闘技術も格が違うのを見て、アナプロはトラウマを物ともせずにここに来ていた。
「凄い高評価」
「それはさておいて……マジですか?」
メンタも自身がやったことを忘れるほど薄情では無いため問うが、アナプロは覚悟を決めて肯定した。
「異存ない。勝つためならどんな事でもやって見せよう」
その言葉にメンタはニヤリと笑った。
「言いましたね? 例えば、演習開始までめっちゃキツイ訓練をするとか言ったらどうですか?」
勝つ、という点においてはアナプロだけでなくシーケンも同意しており、メンタを指揮官にすれば勝てるだろうと踏んでいた。そのためならば多少きつかろうが構わなかった。
「愚問だな」
が、枢はメンタがしそうなことをいくつか思考してから止めようと手を伸ばした。
「待て、もうちょっとよく考えてから――」
「分かりました! では引き受けましょう!」
一歩遅く、メンタの名前が署名されてその手がしっかりと握られてしまった。
「ああ、頼む」
枢はこの先に起こるだろう事柄を想像し、天を見上げて溜息を吐いた。
「……はぁ」
その夕方には隊員の署名が受理され、メンタは夕食を食べがてら枢たちと話していた。
「まさか今日中に大隊分の署名が集まって受理されるとは思いませんでした」
「十二姫のエースとお前の名声のおかげだろうな」
集まったのは主にメンタのファンのためあながち間違いではない。食事の手を進めつつ枢は教員内で決まった決定事項をメンタに告げた。
「一応、演習場の整備とか準備もあるから予選は二週間後を予定しているが何かやることとかはあるのか?」
実際メンタ一人いれば事足りそうな気もするが、それではつまらないとばかりにメンタは腐った笑みを浮かべた。
「腐腐腐、やると言ったからには徹底的にやりますよ?」
その笑みの内容まで吟味は出来ず、枢は半眼になった。
「あ、しばらく帰ってきませんので外出の許可申請お願いしますね。オレの大隊分全員を、デス!」
ああ、と枢は門内大会についてのことを告げる。
「大会予選と本選中は全授業が休講だ。心配しなくて良い」
「了解です! ではちょっと行ってきます!」
夕食を食べ終えたメンタは食器を手早く片付け、廊下へ走り出して行った。
「……一体何をしにいくんだ?」
「……さあ?」
二人ともに思考しつつ食事の手を進めていく。
廊下に出たメンタはそこにいるだろう紫を呼び出した。
「蜜柑を生贄に捧げて、紫さんを召喚します!」
「はいはい呼んだ?」
スキマからメンタが掲げた蜜柑を取り、紫が上半身だけ姿を現した。
「相変わらずの暇人ですね」
「ある程度は、ね。それで用件は?」
メンタは書いておいたノートを紫に渡し、用件を告げた。
「今から修行するのでスキマを使わせてください!」
紫はそのノートに書かれた内容を見て笑いを含み、頷いた。
「良いわよー。場所は何処にするの?」
「勿論、雪山で!」
紫の許可も取ったところでメンタは修行に必要な荷物を家の前に集め、深夜になるとそれをスキマに放り込んで自身もスキマの中へと入って行く。
「いってらっしゃーい」
「いってきまーす!」
修行――否、お祭りが幕を開けようとしていた。
幻想郷に雪山という場所は北と南以外にもいくつか点在するが、高度5000mくらいの場所は中々ない。その周囲も大抵は大妖怪がおり、麓付近では人類同士が戦うことも珍しくない。特に西の陰陽師院と北の陰陽師院は魔導兵器と呼ばれる武装を持って陰陽師同士で年々殺し合いをしている程だ。
また人類が相手とあれば大砲や狙撃も有効打になるが弾丸は実弾ではなく魔力を込めた魔導弾が主だ。
「ぐー」
「くー」
そんな雪山の中で無防備に寝るという行為は自殺とそう変わらない。
だからこそメンタは慈悲を持ってスペルカードを上空に投げた。
「連鎖する雷轟爆裂!」
雪山に大爆発が起こり、辺り一面に鳴り響いた。眠気覚ましにはちょうどよく、ゆるやかに死にかけていたシンたちが一気に覚醒する。
「ぎゃー!?」
「なんだなんだ!?」
生徒たちが辺りを見渡すのを見て、メンタも手を叩いて注目を集めた。
「はいはい、皆さんご注目!」
全員が顔を見上げ、メンタは上空に飛翔して周囲を指差した。周囲には爆発音に惹かれて来た妖怪たちや親衛隊の連中もそこらにいた。
「コンバンワ」
「腹ぁ、減ったな……」
「いたダキマス、ダナ!」
「さあ、者共! 全ては姫のために!」
『サー・イエッサー!!』
一部違う怪物が混じっているが生徒たちは気にせず騒めいている。
「よ、妖怪!?」
「はい、その通りです! 今から皆さんにはオレによるオレの軍隊のためのスペシャルな訓練を受けて貰います!」
幾分か巻き舌で楽しそうにメンタは告げ、生徒たちは絶望した。
「は!?」
「そんなこと聞いてないぞ!」
「イエス! 今言いました!」
酷い、無常、と彼らは騒ぐがいつもの無茶振りに慣れているシンは多少冷静だった。
「メンタ、説明」
「事は簡単です! 50時間、オレが妖怪を呼び寄せますから頑張って退治してください。あ、ちなみにシンの召喚符も没収してあります」
その手にはフールエンリルたちを召喚する札がしっかりと握られており、シンもいつの間にか没収されていることに驚いた。
『はぁ!?』
「ふ、ふざんけな!」
「出来るわけないだろ!」
「やれってんですよ蛆虫共!」
メンタが暴言と共に飛翔し、高く右手を掲げた。
「う、ウジ!?」
「さーあ、張り切って行きましょう!」
右手が振り下ろされると同時に先程の爆発音を聞いた北と西の陰陽師院がこの場所に向けて砲撃を開始した。
『ギャギャギャ!!』
『迎撃だぁぁ!!』
砲弾と術符と血肉が雪を赤く染め、沸き立つ熱狂で雪は解けてゆく。
メンタはそれを見て愉悦し、その後の計画のために少々場を離れた。
メンタ率いる大隊はメンタを隊長として副官はアナプロになっている。今はメンタがいないためアナプロが実質的に指揮を執っていた。
「急いで防空壕を作れ! 妖怪は倒さなくても砲撃で勝手に自滅する!」
「穴は爆破で作っても構わないか?」
「深さがあればとりあえずは良い!」
用意されていたスコップを片手に防空壕を掘り、部隊を小隊規模に分けて防弾、迎撃、掘削の作業に分かれた。
そこに安息は無く、シンも生き絶え絶えになりながらも迎撃を務めた。
5時間が経過する頃には即席の防空壕が掘られ、穴掘り小隊は更に深さを掘り、別動隊はすぐさま迎撃部隊の戦線を下がらせ、砲弾隊も徐々に下がらせていく。
妖怪の親衛隊もある程度を見計らって北の陰陽師を襲いに向かい、残った妖怪は空襲によって駆逐されつつあった。
それでも尚、妖怪の後続が詰め寄り、西も北も弾丸が無くなるまで砲撃したのは単にメンタの能力で洗脳されていたからだ。
雄たけびと絶叫と爆発音の中でシンたちは地獄の残り45時間を過ごすことになる。
時折ではあるが砲弾の雨を潜り抜けた妖怪が防空壕の中に入ろうとしては大隊の諸君に駆逐され、その血肉を彼らは食らって生き永らえていた。
奥に籠っている生徒たちも精神をすり減らし、寒さもあってか眠そうにしている。
「寝るな! 寝るな!」
寝たら死ぬという古風観点から彼らの行動は殴り合いに発展し、痛みと引き換えに生存の権利を得ていた。
砲弾も止み、朝日が昇ろうかという50時間後。ほんの数時間前に起きた雪崩のおかげで埋まってしまった入り口をスコップで開け、彼らは姿を現した。
「し、死ぬ……」
「ゼェーゼェー」
「こ、殺す気か……」
「赤毛怖い赤毛怖い」
「ぐすっ、悪魔……」
各々が感想を口して終わりを迎えようとした時、赤毛の悪魔は空中からメガホンを持って答えた。
「じゃー次行きましょう! まずは体力を付けないと勝てる物も勝てません! 召喚です!」
地獄の先に光は無い。代わりに上位妖怪のフールエンリルたちがその場に召喚された。
「おう!」
「よっと」
「ほほう」
「何で赤毛の手から召喚されているのかしら?」
召喚符の中から外を覗き見ることは出来ないため状況を掴めなくても仕方がない。メンタはそれらを無視して一枚の地図といくつかの荷物を彼らの元へばら撒いた。
「まずは行軍と規律です! この地点まで移動しましょう!」
地図が落とされ、それを拾い上げたシーケンが拾って広げた。
「お、おいこれって……」
「ま、まさか……!」
赤いマークがしてある所が現在の位置となり、そこから蛇の道のように線が伸びており最終地点には緑のマークが記してある。
「イエス! ここは守矢神社からそう遠くない場所です! さあ元気よく行きましょう!」
その距離、実に200km。高低差や雪山の条件、雪崩等々のイレギュラーを含めると体力的にも精神的にも無理がある距離だ。
「ざけんな!」
「こんな距離歩けるか!」
生徒たちが散々に喚き出すとメンタは良い笑顔でスペルカードを地面に放った。
「上官の命令は絶対です! レッツ爆殺!」
雪と地面が爆ぜ、メンタはメガホンを口に当てて叫んだ。
「ひぃ!?」
「動かない野郎は股間の■■にでかい■■■ぶっ込んで■■■■をハエ叩きでビッタンビッタンして潰しますよ!」
「ひ、卑猥!」
「女の言う事じゃねぇぞ、それ!?」
メンタは臆することなく放送禁止用語を連発し、女子に対しても叫んだ。
「女子は○○にチューブ挿して○○の中に○○を流し込んで○○○後に○○○を全部○○に○○○○させますからね!」
「いやぁぁぁああああああああああああああああ!」
女子たちが赤面し、その愉悦を超えて危ない領域に入りつつあるメンタを見てシンとアナプロは顔を見合わせて頷いた。
「急ぐ! メンタは、やる!!」
「全員意地でも立て! 肉体的にも精神的にも社会的にも殺されるぞ!」
特に精神的な方まで壊されてはどうしようもないとアナプロは必死に生徒たちを逃がし、その先頭には地図を持ったシーケンとシンを置いて先を急がせる。
「ほらほら! 犬ッコロも同様ですよ!」
それを我関せずと眺めていたフールエンリルたちにも刃が向いた。
「何故俺たちまで!?」
メンタはわざわざ地上まで降り、フールエンリルのケツを蹴り飛ばした。
「ケツバット!」
「痛ェ!? 何しやがる!」
「既にここにいる全員オレの部下です! オレの命令は絶対です! 逆らった奴から○○○を切り落として○○に詰めます!」
「外道か!」
メンタはニヤリと笑って追撃していく。
「嫌ならレッツゴーです! 隊列乱したら背後から○○突っ込んで脳汁溢れださせますからね!」
「フールエンリル!」
「よくわからないけど今の赤毛はヤバイわ! 行くわよ!」
「くっ、何故こうなったのだ……」
「くっそ!」
散々なことになりながらも彼らは動き、生徒たちの後に続いて駆けだして行く。
「あたし、もうダメ……」
「嬢ちゃん、諦めるな! 諦めたら死ぬよりも辛いぞ!」
「へいへいへい! 足を止めたら下半身剥いて鞭打ちDES!」
それから五時間ほど走り、途中で体力の切れた者はフールエンリルやガシャポンドクロが担ぎ、その背後をメンタが口汚く罵っていく。
道中には当然のように妖怪がおり、血肉に飢えた妖怪以上に生徒たちは血眼で妖怪に殺気を向けて迎撃していく。
「殺せぇ!!」
「一刻も早く殺せ!!」
「急げ! 囲んで殺せ!!」
妖怪なんぞよりも背後の赤毛の方が怖い。妖怪は人を食べることだけを考えるため殺した後は必要以上に甚振らず食べる。しかし赤毛の悪魔の魔手に掴まった者は人でも妖怪でも末路は同じだ。半殺しにされたあと、洗脳され、微妙に意識がある状態で徹底的な凌辱と屈辱を味合わされ、あまつさえそれを録画されて配布されるのだ。必要があれば必要以上に甚振り、嘲笑い、終わることのない悪夢を見せる。
それを諸に味わったことのあるフールエンリルたちは生徒を片っ端から担ぎ上げて自らと同じ境遇にしないように必死に走る。
その甲斐もあってかシーケンと他数名の男子と二名の女子が大変なことになるだけで済んだ。
「つ、着いた……」
「もう、無理……」
「はぁ……はぁ……」
到着すると同時に全員が座り込み、寝そべり、雪の冷たさが丁度良いと感じるくらいには熱さを覚えていた。
そんな中でも喜々としているのがメンタだ。片手にスピーカーを持ち、彼らに声をかける。
「はい皆さん、楽しいですか!」
『楽しくねーよ!!』
全員の心籠った反響を聞いてメンタは大喜びで術符を空に打ち上げた。
「楽しい以外の一言は要らねーんですよ! 術符・氷水!」
その頭上に氷水が降り注ぎ、熱かった体が一気に冷凍され、冷たい雪山の風が肌に沁みる。
『ぎぃやぁぁぁぁあああああああああああああああああああ!!』
全員の絶叫を無視してメンタは紫に頼んで事前に用意していた簡易キッチンを指差した。
「じゃ、今から飯にします! 食材は山の中にたくさんありますので取りに行きましょう!」
「はぁ!?」
「冗談でしょ!」
疲れすぎて立てないのにそれは無いと生徒たちは騒ぎ、メンタは雪山にあってはならないブルブルと震える棒を片手に持って滑空した。
「口答え無用デス! ぶっ込みます!」
「あぶな――ぎゃー!」
そこに割って入ったのはフールエンリルだ。彼女を庇う形で背を向けていたのが災いし、その棒はケツに振るわれた。
目が飛び出そうなほどの痛みと絶妙な快感と涎に下に居た女子は後退って叫んだ。
「うぎゃー!」
「さぁ、さっさと行きやがれデス!」
が、ここで立てる人間はおらず、シンも流石に意見した。
「め、メンタ……今は、無理……」
「オレのことは隊長と呼ぶんデス!」
もはや悪魔だ、とシンは思う。公開処刑のごとくスカートと下着を剥かれ、二本目の電撃棒を食らわされる。
「うぐっ……」
ビグン、と一度呻いてシンは力なく崩れ落ちた。アナプロも助けたい気持ちがあったがそれをしたら奴の牙が自分にも向くため助けられなかった。
「ぐっ……シン、皆、行くぞ!」
代わりに全員を這い上がらせ、立ち上がらせる。
「き、鬼畜だ……」
誰かが呻き、誰もが同意した。




