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東方幻想腐女録  作者: グラたん
第一章
44/119

第三十九話 理事長曰くGOD 

グラたん「第三十九話です!」


 里の上空を飛んでいると霊夢の通信符が鳴った。


「あら?」


 魔理沙の通信符とは違い、霊夢が使う時は大抵が仕事の案件だ。

 メンタもこの通信符を持っているが、どちらかというと同人誌の売り上げがメイン収入のため妖怪退治の仕事は霊夢から丸投げされてやることが多い。


「どうした?」

「通信符が鳴っているわ。ちょっと待って」

「うん」


 空中で一旦止まり、通信符を取り出した。


「はい此方博麗神社の博麗の巫女の博麗霊夢よ」


 相手はメンタが通っている陰陽師院の教師だ。その口振りは大真面目なもので、妖怪退治のスペシャリストに何とか協力を取り付けようとする姿勢が伺えた。 


『此方は博麗神社付近の陰陽師一門です。現在、山の中に妖怪が出現しました。私たちでは手に余る大物故、霊夢さんに討伐を依頼したいと思っております』

「妖怪? 良いわよ。報酬は現生かねで博麗神社に寄付して頂戴。あと生半可な額だったら許さないわよ!」


 そこは霊夢、現金さえあれば大体どんな依頼だろうと引き受ける。そんな霊夢の言葉に陰陽教師は震えながらも頷いた。


『は、はい……。仕事の内容ですが――』


 内容を全て聞き終わると通信も終わり、札を無造作にポケットに仕舞った。

 霊夢はお金が入ることが分かってすごぶる上機嫌に笑みを浮かべており、魔理沙とパルは苦笑いした。


「ガメツイな……」

「あんまり困らせちゃ駄目だよ?」


 二人の苦言に霊夢も笑みを引っ込め、ちょっと拗ねて頷いた。


「分かってるわよ」

「それでどんな奴なの?」


 パルが聞くと霊夢は先の内容を思い出しつつ答えた。


「大物は四体で、獣人、虫、付喪神と思われるガシャポンにサキュバスだって」


 全員が一度沈黙し、その脳裏にはフールエンリル、インアンドセクト、ガシャポンドクロ、バインパイアの四匹が浮かんでいた。


「凄く心当たりがあるな……」

「ガシャポンドクロさんたちかな?」

「だろうな」


 パルの言葉に頷きつつ、霊夢は山の方を見やった。


「戻りつつ上空から探索してみましょうか」


 道真の探索は急務だが場所が判明している分、急がなくても良い。


「そうだな」

「うん」


 三人が飛び去った後、山の中では親衛隊たちも動き出していた。

 その規模は上位下位問わずで900匹と町で活躍している陰陽師たちでも震え上がる数が山の中を蠢き、動物は住処に隠れ、それを見た里の門番たちは一斉に警鐘を鳴らして門を閉じた。

 その様子は妖怪の山にいる天狗烏や鬼共にも伝わり、警戒態勢が敷かれた。

 特に哨戒天狗はあちらこちらを飛び回ることになり重労働だったとか。

 


 一方で陰陽師院にいるメンタは頬杖をついて暇そうに外を見ていた。

 そうなったのも先の川流し事件の懲罰が続いており、外出禁止と他教室の出入り禁止が言い渡されているからだ。加えてシンたちの教室一帯には関係者以外出入り禁止が陰陽生だけでなく教師にも言い渡されており、用件の対応は枢が行っている。

 そういうわけなため期待していた襲撃も無く、平穏な日々を過ごすことになっていた。


「あれですね」


 メンタが呟くと隣に座って次の予習をしているシンが手を止めて聞いた。


「なに?」

「門内の大会中、何か売りましょうか。否、博打しましょう」


 今更ながらも全力で暇つぶしを考え、私室から出て来た枢が即時却下した。


「ダメだ。大人しくしていろ。外に一歩も出るな」

「監禁ですよ」

「懲罰だ。さて、そろそろ授業やるぞ」


 ゴーン、ゴーンと鐘が鳴り、シンとメンタは教科書を机に広げてペンを手に取った。


「はい」

「うん」


 枢は教科書の赤い付箋の貼ってあるページを開いて事前に用意していたプリントをみつつ授業を開始した。


「教科書92ページより。そうだな……まずは陰陽術の応用である九字の文字を全て答えよ。シン」


 陰陽師の攻撃方法は術符と呪符、物理的な攻撃以外にも対霊攻撃というものがある。妖怪や人体には効果が無いため習得する者が少なく、逆に僧侶や住職などが会得する技だ。


「臨兵闘者皆陣列在前」


 九字は指を二本立てて魔力を指先に集中させ、横に切ることから始まる。次に縦、次に横――と、九字を切り終えた後で最後に中央を切り、霊体にぶつけると込めた魔力量に比例したダメージを負わせることが出来る。

 ただし単体攻撃であり、届く範囲が5m程度のため自衛手段として覚えるのが普通だ。


「そうだ。ではもう一つの方は?」

「臨兵闘者皆陣列前行」


 此方は前者の前に出来た古術ではあるが威力はそう変わらないため言いやすい方を使って構わない。

 枢は正解と頷き、続けて問いを繰り出した。


「そうだな。では縦四横五に切る古呪は?」

「……確か青龍、白虎、朱雀、玄武、空陳、南寿、北斗…………」

「あと二つ」


 古呪は本場の住職ですら滅多に使わない霊体範囲攻撃だが、準備する手間とそれまで敵を足止めしていなければならないというデメリットがあるため今では概念としてしか知られていない。そも、御経や呪言を唱えた方が手っ取り早いし攻撃力もあるため廃れるのは当然といえば当然なのだ。


「忘れた」

「ではメンタ」


 回答権がシンからメンタに移り、メンタは平然と答える。


「三体、玉女ですね」

「これらは基礎的な陰陽術の一つであるが、実際に扱うのは禁じられている。それは何故か? シン」


 メンタは陰陽師についてやたら詳しいため適度にシンに回さないと授業自体が終わってしまう。メンタもそれを分かっていため敢えて突っ込まず、聞かれるかシンが答えられない場合のみ解答するようにしている。


「陰陽師は人間の中でも霊力が強く、妖怪や化け物以外――つまり人間相手に使えば呪殺しかねないから」

「その通りだ。しかしこれが出来なければ己が身を守るのは難しい。また陰陽道は精神とも深く関わっているため精神状態が良くなければ中途半端な威力しか出ない。仮にそうなった場合の防御手段は何か? 先の九字を交えつつ答えろ。メンタ」


 余談だがこの問いは陰陽教師の就任試験で出てくる問題であり、生徒の正答率は3%を下回る。教師ですら15%程度だ。


「基本的には呪符による防護結界を張ることですがそれも精神状態が良くなければ突破されてしまい術者に傷を負わせてしまいます。また、防護結界は難易度が高く半端な術者が扱えば術返しと呼ばれる現象に遭い、術者の神経を著しくすり減らします。そうなった場合妖怪から身を守ることは難しいため高位術者によって編み出されたのが九字です。九字、古字術には防護結界の約三割程度ですが防御効果があります。また攻撃にも使えるため無手の状態では一番使いやすい術式だと言えます。ただし古字術の方は九字よりも手順が一つ多いので発動に一拍遅れます。最もそうなる前に逃げれば良いって話ですけどね」


 精神に由来するのは魔力も関係している。防護結界であっても原理は同様で霊夢や魔理沙も基本的には回避するが避けられない場合のみ防御をする。そのため精神を強くする修行をメンタも散々やらされており、そのおかげもあって霊夢の弾幕である龍符「陰陽玉」やレミリアの「グングニル」などの強力な攻撃以外は弾けるようになっている。


「……お前マジで教師やる気ないか? 下手したら俺より詳しいぞ」


 枢は少々絶句し、真面目な表情で打診した。


「フッ、一般常識です」

「尊敬」


 このままでは本当に教師の威厳に関わりかねないと考えた枢は今日一番の賭けに出た。枢としてはこんな問題を出さないといけないことにやや危機感を覚えていたりする。


「オホン。で、その防御術を行使するために俺たちは常々精神を鍛える必要がある。例えば自らの恐怖に打ち勝つことや断食をして煩悩を打ち消すとかな。俺が教えられるのは大罪にまつわる克服方法だ」

「大罪?」


 それはシンだけでなくメンタも初耳のため興味津々といった様子で食いついた。


「確か七つの大罪でしたよね。場合によっては八個とか九個になりますよ」


 そんなメンタの言葉に枢は勝利を得た表情をした。


「ふふん。やはりメンタは知らないようだな」

「何をですか?」

「十番目の大罪のことだ。シン、思いつく限りで良いから挙げて見ろ」


 シンはパッと思いつく程度に大罪を上げていく。


「うんと、まずは暴食、怠惰、色欲、強欲、傲慢、虚飾、憂鬱……くらいしか分からない」


 大体皆が知っている大罪を上げ終わり、メンタが補足を入れる。


「他には嫉妬、憤怒ですね。……でも十番目はありませんよ」


 そう、そもそも十番目など幻想郷では、ひいては地球でも聞いたことが無い。


「枢、嘘ついた」

「嘘じゃない。と言っても俺も理事長から聞いた話だからな」


 と、枢は前置きを済ませ、メンタは聞いた。


「それで、十番目って何なんですか?」



「『存在』」



「存在?」

「存在ですか……」


 そう言われて脳裏に浮かんだのは嫉妬することも無い絶対理不尽の権化、パル。ただ存在するということであれば嫉妬に含まれるかもしれないが、存在は嫉妬や憤怒、憂鬱など、それら全ての原点にあるものだ。これに尤も近いのは地球で言う所のアイドルや一流スターなどだろう。

 メンタの場合は自身を下卑し、卑屈となってパルを見上げているためそこまで深刻なダメージは無いが、常人であれば嫉妬に発展するだろう。

 言わば、俗称で『存在チート』と定義するのが尤もだろう。


「例えるなら『卑屈』や『嫌悪』の感情が正しいだろう。『自分と住んでいる世界は同じにも関わらず、そこに必ず存在する。そこにいることこそが罪である。』物理的な言い方だと『生きている物は全て他者の命を奪って生き永らえている』だったか……?」


 物理的な方は食事の意味では無く、生きている物は常に蹴落としの闘争を強いられているということだ。

 枢の理屈はメンタも何となく理解し、同時に納得できる概念ではあった。


「理には適ってますね。ちなみにそれは誰が決めたんですか?」

「理事長がいうには『神』らしい」


 が、メンタは神が嫌いだ。


「神ですか。神……ヘッ。神なんていないんでやがりますよ!」


 それは過去に由来し、過去の経験から来ているものだがそれを枢たちは知らない。


「メンタ、顔怖い」

「メンタは神を信じない派か?」


 それは人によってはかなりシビアな問題となり、場合によっては宗教関連の問題にまで発展する。幸いにもシンと枢は紫を信仰しているがそこまで積極的では無いため問題についても寛容だ。


「いるなら出てきやがれっていう話ですよ」

「でも、神様はいる」


 シンの言葉にメンタは食って掛かる。


「何ででやがりますかねぇ!?」


 メンタの怒声にシンは冷静に答えた。


「紫様、神奈子様、諏訪子様その他諸々」

「……あっ」


 メンタはそういえばそうだったと言わんばかりに口を開け、久しぶりに放心した。


「お前のその顔を写真に取って神様に見せてやりたい」


 枢は鬼の首を取ったように笑んだ。


「そういえばあの三人も神でしたねぇ……すっかり忘れてました」

「会ったことあるの?」

「え、博麗神社に居れば紫さんと結構な頻度で会えますよ? それに守矢神社に行けば二人にも会えますし」


 従来、神という存在は高貴であり会おうとしても会えないのが常だ。幻想郷でも陰陽師院でもそれは同じで神社に行っても会うことが出来るのは神が気まぐれで姿を見せた時のみと伝えられている。そのため神から依頼を受けた場合『神託』と言われても何らおかしくは無く、その神から仕事を受け任されている巫女は神聖な存在として崇められる。

 霊夢も一応は巫女であるが巫女らしい姿を見せるのは年末年始か仕事場くらいのためあまり崇められていない。


「……一応聞いておくがお前と紫様たちの関係は?」

「紫さんとは主に依頼関係ですね。神奈子さんたちとは……友達ですね」


 普通、神様と友達などと言えば熱心な信徒たちからの弾圧は避けられない。それだけでなく『神託』を受けた者が何時の間にか宗教入りさせられていたという事件も絶えない。

 その点、枢は理事長を経由して依頼を受けているためまだ安全圏にいる。


「よしお前のさっきの言葉、神奈子様たちに伝えるからな」

「この間の押し入り強姦未遂事件、まだ覚えてますからね? 腐女子通ネットワークでバラまきますよ?」


 女子のネットワークは広く深い。近所の叔母様方の井戸端会議も相当だが、女子の本質は一致団結による徹底的な情報共有にある。そこからハブられればイコールで死を意味する。井戸端会議も子供たちからの情報が浮上すれば一気に拡散される。


「ちっ」


 枢もそれを知っているため舌打ちして追求を辞めた。


「……枢、授業」


 シンの言葉に乗り、教科書を片手に授業を再開した。


「……そうだな。話を戻して十大罪だ」

「それでその大罪を定めた神様ってのはどんな神様なんですか?」


 メンタの問いには枢も答えられない。あくまでも理事長からの受け売りなのだから。

 その理事長は今ここに居ないため答えられるものは誰もいない。


「俺もそこまでは分からないな」

「教師失格ですね」

「そこまで言うか!?」


 教師とて全てを知っている賢者では無い。メンタはニヤニヤしつつ、シンは真面目な表情で促した。


「分からないなら、次」

「……そうだな。では次に九字の実技に入るが、決して人に向けないように」


 と言ってもメンタは容赦なく枢に二本指を向けた。


「教師と豚蟲共になら良いですよね?」


 シャッ、シャッとメンタが素早く九字を切り、不気味に笑う。


「俺も一応人なんだがなっ! あと豚蟲って誰の事だ!!?」

「ご想像にお任せします」


 余談だが豚蟲とは十二姫やその取り巻きを指している。



 場所は変わって陰陽師院理事長室。

 授業を終えた教師一同は理事長に呼び出されては退出し、生徒たちを連れて野外演習に出かけていく。枢とメンタたちも呼び出され――順番は意図的に最後となっている――理事長室前に来ていた。

 枢が扉を叩き、中へ入ると理事長は少々険しい表情をしていた。


「来たようだな」

「どうしましたか、理事長」


 理事長は温め直した緑茶を飲み、一息ついてから答えた。


「ちと困ったことが起きた」

「……何だろう?」

「近くに妖怪とか妖魔が出たとかですかね?」


 メンタの言葉は正に当たっており、理事長は苦渋し、枢は聞き返した。


「妖怪、ですか?」

「その通りだ。既に各教員や博麗神社に討伐依頼を出してはいる。あの引き篭もりも珍しく動いてくれるようだ」


 ――絶対道真関連でしょうね……。妖怪から何かを感じ取ったのでしょうか?

 メンタは思考し、同時に引き渡したはずの紫たちの事を思う。洗脳されているのか否か、ではあるが一応心配はしていた。


「となると生徒たちの避難が優先ですね」

「いいや、相手が妖怪なのに陰陽師が逃げてどうする。何事も実戦あるのみだ」


 理事長の宣言に枢は顔を顰めた。


「では俺たちも?」

「そうなるな。生徒は主に五人一組でこの敷地周辺に沸いた雑魚狩りをやらせている。教師の内半数は野外へ、もう半分は生徒たちの指揮だ」


 雑魚とは言えど妖怪。人食いの種類は多く居るため油断は出来ない。


「でだ。お前たちは特別に野外実習を命じる」

「……本気ですか?」


 枢が聞き返したのは今まで抑えていたメンタを解き放つことへの抵抗感とある種の恐怖感からだった。しかし戦力的には申し分ないため聞き返すだけに留まる。


「マジだ」

「おおっ! これは野外に出たオレが悪い奴に出会ってちょっと地下道に落とされて超強くなって帰って来るパターンですね!」


 メンタは遂に出番か、と一人勝手に盛り上がる。


「その理屈だと狙われるのは私」

「そんなことさせないから安心しとけ」


 枢としては教師の立場もあるため本当に余程の事無い限りは二人を守るつもりでもある。ただし上位妖怪が出て来た場合はその限りでは無いだろう。


「裏切りフラグ、乙です!」

「お前もうちょっと信用って言葉を憶えような!?」


 相も変わらないメンタの軽口に枢は辟易しつつ、理事長は適当に手を振って退出を促す。


「さっさと行ってこい。今のお前たちなら何の問題もないだろう」

「……はい。それじゃ授業は一旦切り上げて討伐に向かうぞ」


 枢は理事長に向かって頷き、もう一度振り返ると出発準備万端なメンタたちの姿があった。


「何時でも良いですよ!」

「準備完了」


 いつも通りとは言え、どうしても枢は疑ってしまう。


「……実はお前等が事前に散布したんじゃないかと疑うくらい準備が早いな」

「冒険の準備は何時でも机の下に置いてありますから!」

「無論」


 その理屈は主に異世界転移理論に基づいており、地球でも個人もしくはクラス転移しても良いように机の傍には非常食や水が用意されていた。


「まあ良い。じゃ、行くぞ!」

「おー!」

「おー」


 枢の引率の元、メンタたちは山中へと繰り出していく。

 三人で出ていき、緑茶を飲み終えた理事長は溜息を吐きながら床にまで溜まっている書類の整理を始めた。



 それから少しすると山の中は悲鳴で満たされて行った。


「ギュアアアア!」

「二人ともさが――」


 枢が制止するよりも早くメンタが喜々として弾幕を放出し、消し炭に変えていく。


「鏡符「黒物流と白魔弾(ミラァズ・)の水面鏡(キュウビ)」!」


 左右から押し寄せる魔力玉の質量に圧殺され、しかし、じわじわと首を絞める真綿のごとく生かさず殺さず――最後はぷちっという悲惨な音を立てて妖怪が潰れていく。

 それを見た妖怪の中でも知恵ある者、親衛隊の連中は即座に本拠地である無縁塚へと撤退していく。


「ギャバババババ……」

「す、凄い……」

「うっ――な、なんて威力だ……」

「この辺の雑魚ならシンでも倒せると思いますよ」


 メンタの軽い口振りに乗せられ、次の新手を指差して前に押し出した。シンは若干緊張しつつも頷いて前に出た。


「う、うん」

「いやちょっと待て。こう見えてもシンはこれが初陣で――」


 枢が止めるより早く血肉に飢えた妖怪が文字通り血眼で走って来る。妖怪にしてみればそこにいるのは肉であり、新鮮な生餌だ。


「ギュアアアア!」

「ほら来ましたよ!」


 まず、シンは水の術符を手に取って構え、一定の距離まで来るとそれを投げた。


「術符・水!」

「ガァァ!?」


 顔面に水が直撃し、全身を濡らしていく。


「手を休めずに攻めです!」

「呪符・雷、術符・氷結!」


 続けて雷術をぶつけて水を通り道して一時感電させて動きを止めると同時に水素分解を成す。これが術符の雷であった場合、一時感電だけに留まる。

 術符と呪符の違いは、術符は従来の効果を発揮するように制作されるのに対し、呪符は文字通り弱体化を主とした攻撃だ。威力だけであれば術符を使うのが従来の方法であり、陰陽生の9割9分が術符のみを用いる。ほんのごく一部が呪符を使い、その真の用途で活用しているのはこの二人くらいだ。

 最後に氷結の術符が放たれたことにより水素が凝縮して凍り、妖怪の身動きは完全に取れなくなる。


「ガ、ガガガ――」

「術符・発火!」


 次いで炎を妖怪の周りに撒き散らし、妖怪の周りを温めていく。


「ギュギャギャギャギャ!」


 妖怪から見ればノーコンとも見える行動であるため嘲笑は避けられない。


「呪符・氷結」


 しかしまた氷結によって妖怪の全身が凍り、温め、凍り、時には水をぶっかけられて徐々に徐々に妖怪は全身を凍らされていく。


「今です!」


 メンタの合図と共にシンは呪符を放つ。


「……氷結!」


 呪符の氷結効果は、急激に低温だ。低温になったことにより今までの布石だった急激な温度変化が妖怪を構成している身体組織を崩壊させ、血も身も凝固されているため妖怪の全身が音を立てて崩壊するという現象を引き起こしている。

 当の妖怪にしてみれば自分は何故死んでいるのか、何故地面に伏しているのか、と思うだろう。だがそれも一瞬の事で、ほんの数秒後には安寧が訪れていた。


「これぞ華麗な勝利」


 戦闘に勝利したシンはこれでもかとドヤ顔を決め、メンタはいつの間にか用意していた紙吹雪と某有名RPGの勝利のファンファーレを流していた。


「初勝利おめでとうございます」

「メンタの教えのおかげ」

「これなら妖怪相手でも大丈夫そうですね」

「うん」


 余談だが今の妖怪は妖怪の中でも下の下に属する下級妖怪であり、一般の陰陽師が小遣い稼ぎに倒す程度の妖怪だ。また十二姫が個人で倒せる程度の雑魚でもある。


「……本当に俺必要なのか?」


 メンタとシンは仲良く狩りを始め、残された枢はおおいに首を傾げた。


※大罪についての記述ですが作者オリジナルです。理論とかもオリジナルです。

※十大罪についての詳しい起源は前作を見ていただければ幸いです。

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