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東方幻想腐女録  作者: グラたん
第一章
43/119

第X話 咲夜のエイプリルフール

グラたん「不意打ち投稿です!」


 桜や花も芽吹き、未来と別れが交錯する季節。

 紅魔館の木々や花々も春物に代わり、服装も半袖のスプリングドレスやチュニックが多くなる。小物やメイクも流行しだしたり香水も飛ぶように売れる。

 またこれを機に何かしようと思う人も多く、博麗神社と陰陽師院から例の本が飛ぶように売れる季節でもある。

 さて今回の話は紅魔館で起こったとある事件だ。



 咲夜はあまり嘘をついたことがない。


「……よし」


 今日は珍しく早起きして気合いを入れ、4月1日に赤い丸が付いたカレンダーを見て頷いた。

 厨房に入り、椅子に座って俯いて、予め考えていた台詞を小さく反芻する。

 トタトタと耳にパルの足音が聞こえてくる。


 

 パルの寝起きは良く、いつもの調子で紅魔館一帯の空調を常温に設定し、まずはシャワーを浴びて寝汗を落とす。寝間着は薄いチュニックのため後でまとめて洗濯する。

 黒いU字シャツを中に着込み、胸元が大きく開いた白いメイド服に袖を通す。レミリアの要望もあるハイニーソを着用し、櫛で髪の毛を梳かしてポニーテイルにしてから猫耳カチューシャを頭にセットする。腰回りにはハーフエプロンを着用し、背中で大きめの青いリボンを結わいて身支度を整え、部屋を出た。

 いつも通りに朝食を作るべく厨房に入ると、やはり朝に弱い咲夜が顔を伏せて座っていた。しかしこうも咲夜が弱っているのは珍しいのでパルは心配そうに近寄った。


「おはよ咲夜。気分悪いの?」


 パルの声を聞いて顔を上げた燕尾服姿の咲夜は凄く困った表情だ。


「……どうしよう……パル……」


 咲夜は滅多にミスをしないが――所説によると失敗しない人ほど失敗した時のミスは大きいらしい。


「な、何かやっちゃったの?」


 咲夜は両肩を震わせ、意を決して口を開いた。


「あのね……私、男になっちゃったみたい」


 世界の時間が数秒止まった。


 パルでさえも口をつぐみ、徐々に大きく目を開き――叫ぶ。


「えっ、えええええええええええええ!?」


 その雄たけびは紅魔館の外にまで響き渡り、時間は動き出す。

 パルは咲夜の顔をまじまじと見つめて、よくよく見ればどことなく中性的な顔立ちに見えなくもない姿になっており、代わって咲夜は立ち上がってパルの両肩を掴んだ。


「それとね、パル」

「は、はいっ」

「今日1日だけで良いから、結婚して」

「――へっ?」


 急に詰め寄られてちょっとドキドキと胸を高鳴らせ、しかし咲夜の急な言葉に心音は加速した。


「け、結婚!? い、1日だけ!?」


 何故――という言葉が脳裏を過ぎるがそれ以上に1日という点を加味して、何か重要な理由があるのではないか、とパルは思考した。


「な、なんで?」

「理由は聞かないで。でも、お願い! パルにしか頼めないことなの!」


 パルにとって咲夜は、否、紅魔館の住人は大事な友人であり、家族にも匹敵する人物たちだ。そして自分にしか頼めないようなことであればパルが断る理由はない。

 ――1日だけなら……。


「わ、分かった! 咲夜の頼みなら断る理由はないよ!」

「ありがとう、パル」


 咲夜がパルの手を取り、微笑んだ。

 悩み事が吹っ切れた咲夜はパルの手を離し、その手にジャガイモと包丁を持った。


「さて、まずは朝食を作って――あっと、お嬢様にも報告しないと」

「そうだね」


 パルも小さな鍋に水を入れつつ答え、調理が始まった。





 レミリア・スカーレットは吸血鬼だ。基本的に夕方に起きて朝は寝るという生活だが、睡眠が必要なのは三日に一回、それも4時間くらいで良いので起きていることがほとんどだ。しかも最近はパルたちの生活スタイルに合わせて寝起きしているため朝はスッキリ目覚められる。


「ふぅ……」


 寝間着姿のお嬢様は今日はやや物思いに耽っていた。


「胸が無いわ」


 いつものことだ。

 ペタンと両手を胸に当てて呻く。もう一度言うがいつものことだ。

 コンコンコンと扉がノックされ、扉の向こう側から咲夜の声が聞こえてきた。


「お嬢様、起きていらっしゃいますか?」

「ええ、起きてるわよ」   


 カチャリと音を立てて扉が開かれ、レミリアは眉を上げた。咲夜がパルと一緒なことは珍しくないが、咲夜が燕尾服を着ていることは非常に珍しい。


「あら咲夜。男装なんて珍しいわね」

「その件でお話があります」


 レミリアはベッドに腰かけたまま咲夜が用意していたモーニングティーを手にしてカップを少々傾けた。


「何かしら?」

「私、起きたら男になっていました」

「ブーッ!」


 咲夜が狙った通りにレミリアは噴き出して、予想していたため噴き出した紅茶を素早く空中でふき取った。

 だが当人は何度も咳き込んで驚いたまま顔を上げた。


「な、なに言ってるのよ!? 今時性別転換なんて漫画の中の出来事よ!」

「私もそう思っておりました。ですが、なってしまった以上仕方ありません」


 何がだ――とレミリアが言う前に咲夜はパルの手を取って答えた。パルも事前に言われていた通りに咲夜に合わせて声を出した。


『私たち、結婚します』

「オッフッ!?」


 レミリアは一体咲夜が何を言っているのか寝起きのため理解できず、しかし咲夜の燕尾服を見て、今日が何日であるかを思い出して一度目を瞑って深呼吸する。

 ――ああ、今日はそういう日だったわね。

 完全に落ち付きを取り戻したレミリアは一つ咳払いをして頷いた。


「そう……うん、うん……結婚ね……」


 この瞬間、レミリアの思考は今までにないほど加速する。

 ――咲夜×パル。このメイドコンビは鉄板とはいえ今日に限っては合法百合状態。咲夜がそう来るのであれば今日はわざと乗せられておき、キャッキャウフフを楽しむのも一興。パルは気付いてないみたいだし、フランと美鈴は阿保だから間に受けるわね。パチュリーも事が分かれば黙っているでしょうし、あとは襤褸を出さずに盗撮すれば――いや待ちなさいレミリア・スカーレット。咲夜が嘘をついていることをもっと利用できないかしら? いえ、出来るわ! フランとパルの手前、嘘はイケナイことだと身体に教えるチャンス。咲夜がパルを押し倒しているところを撮って同士メンタに送れば鼻血は間違いないわ!

 超常第三宇宙速度思考加速オーバーアクセラレーションを終えたレミリアは不敵な笑みを浮かべた。


「良いわよ。許可するわ」

「えっ」


 咲夜も許可されるのは意外だったのかちょっと驚いた声を上げた。


「皆にも教えてあげなくちゃいけないわね。それにお赤飯も焚かなくちゃ」


 クックック、とレミリアは微笑み、奥にいるパルへ視線を向ける。


「それで――名前はどうするの?」

「名前ですか?」


 その意味が分からずパルは首を傾げ、咲夜は表情を硬くする。


「ええ、勿論パルと咲夜の子供の名前よ。男の子でも女の子でも良いわね~」


 ――どっちにしても女装させることには変わりないし、二人の子供なら美形なのは間違いないわね。男の娘でも腐腐腐……。

 ちょっと鼻から鉄の臭いを感じ取って一旦上を向いて鼻を抑える。


「こ、子供!?」


 が、パルは本当に分かっていないらしく驚いて下腹部に手を当てた。咲夜はレミリアの冗談に気付き、止めようとするがそれより早くレミリアは口を開いた。


「でもね、咲夜。私のモノに勝手に手を出した責任は重いわよ?」


 そこまで言い、一旦言葉を区切って手招きした。咲夜もいい加減不味いと思ったのかネタ晴らしをしようとする。


「いえ、あの、お嬢様これは――」


 その肩を軽く叩き、レミリアはとても良い笑顔で告げた。


紅魔館ここにいていいから、ちゃんとパルを幸せにしなさい。良いわね」


 立ち上がり、レミリアはそのままパルの方に近づいた。そして内心で『合法』と嗤ってからパルに抱き着いた。


「パルも()()()無理しないで頂戴ね」

「レミリア様……っ」


 パルの赤くなった表情を見てレミリアは凄く満足し、部屋から出ていってしまう。

 咲夜は思う。

 ――やらかした。と。

 パルは思う。

 ――頑張らなきゃ。と。

 


 部屋を出たレミリアは通信符を取り出してメンタのいる博麗神社に繋いだ。


『はい、締め切りが近いメンタです!』

「私よ」


 レミリアの上機嫌な声を聞いてメンタは少々首を傾げた。


『何か良い事でもあったんですか?』

「ええ。後で写真を送るわ。ティッシュ用意して待ってなさい」

『……? 良くは分かりませんが、待ってます』

「あとこっち来るときは上質なワインを持って来ること。良いわね?」

『あの、一体何があったんですか?』

「それは写真を見てからのお楽しみよ。じゃあね」

『……はい?』    


 通信を切り、さっき自室のベッドで隠し撮りした咲夜とパルが手を繋いだ写真に『私たち結婚します』の文字を書き込んで『PS:(事実)』と書いて伝書蝙蝠に括りつけてメンタに送る。

 一方でレミリアの要領を得ない通信に首を傾げていたメンタは超速の蝙蝠を見て、その体に括りつけられていた封筒を取り、ペーパーナイフで開けた。

 そして――。


「フッ、全くレミリアさんも冗談が悪いですね。天然なパル姉ならともかく今日が何の日か分かっているオレに対して送って来るなんてまだまだ甘――ホギュァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!??」


 事実を事実エイプリルフールと読みたかったメンタは先程のレミリアの会話を思い出して、全てが脳内で繋がったことを理解して既成を上げた。次いでに鼻血を勢いよく噴射して瞬間的にティッシュを鼻に詰める。


「五月蠅いわね」

「朝から騒がしいな。なんだぜ?」


 そこへ寝起きの霊夢と魔理沙もメンタから渡された手紙を見て、メンタ同様に一度は笑んでから目を丸くして驚いた。 


「……嘘だろ? い、いや騙されないぞ。こ、こんな加工された画像を送って来るなんて三流だぜっ……っ!」

「ふふふ、二人に手を繋がせた写真を撮っただけよ。そうに決まっているわ」

「……行ってみますか?」


 いつもはふざけているメンタの声が違うことに二人は気付き、やや緊張した空気が流れる。


「そうね。嘘なら嘘で良いし、本当なら本当で上質なワインを持って行かなきゃね」

「ひ、暇潰しには丁度良いぜ」


 二人揃って手を震わせ、メンタも震える手で身支度を整えて博麗神社を出発した。



 三人はまず先に近くの里に寄って果物籠と赤飯の元を買い、その後で香霖堂へとやって来ていた。


「こんにちはー」

「ん? いらっしゃい……」


 三人を見るなり店主である霖之助は嫌そうな顔をして、しかしメンタが持っている果物籠を目にして目を細めた。


「珍しいですね。誰かのお見舞いですか?」

「ええ、そうよ。……ちょっと分からないから保険の意味合いもあるけど」


 霊夢がそう言うと霖之助はやや首を傾げた。


「一応言っておきますけど、今日が何の日か分かってますか?」

「そりゃ勿論分かってるわよ。でも……ね」


 と、霊夢がメンタを促して例の写真を霖之助に見せた。


「……っ!」


 霖之助は一瞬硬直し、勢いよく鼻血を噴射しかけてすぐにティッシュを詰めた。片手で口元を抑えつつ、霖之助は目を光らせる。


「騙されてませんか?」

「オレも冗談だとは思いますが、咲夜さんがわざわざ燕尾服を着るほどポカをやらかすと思えないんですよ。レミリアさんの口調もやけに嬉しそうでしたし……上質なワインを持って来るように言ったことも伏線なのかもしれないと思っています」


 メンタも真剣な表情で応え、霖之助は一度目を閉じてから立ち上がった。そして一旦奥の部屋に入って5分くらいすると古めかしい長細い木箱と小さい包みを持って来た。僅かに埃被っている所を見るに200年モノだろうと魔理沙は推測する。


「幻想郷243年物の赤ワインです。やや甘口で度数は29度、付け合わせには此方の熟成ベーコンと幻想チーズで如何でしょう」


 霖之助の商売人としての表情を久しぶりに見た霊夢と魔理沙も顔つきを変え、メンタは何も言わずに懐から()()()小切手を出した。


「値切りは良いんですか?」


 霖之助が問うとメンタは無邪気な良い笑顔で頷いた。


「贈り物を値切るなんて最低ですよ」


 対して霖之助も分かった表情で親指を立てて微笑んだ。


「毎度」


 土産品を整えたメンタたちは香霖堂を出て、紅魔館へと向かう。

 三人が出ていった後を見て、霖之助は偽の小切手を片手に息を吐いた。


「これからもツケよろしく、って事ですか……」


 もう1枚の小切手を手に取ると、霊夢たちが今まで溜めたであろう借金を帳消しにするくらいの金額がメンタ名義で書かれており、役場に持ち込めばお金と変換できる代物だ。だがそれは同時に『これからも贔屓する』という宣誓の意味合いもある。


「はぁ……」


 まだまだ付き合いは長くなりそうだ、と再度溜息を吐いた。





 昼下がりの紅魔館。咲夜とパルの結婚騒ぎは瞬く間に紅魔館中に震撼し、フランも、パチュリーも、小悪魔たちも、美鈴もレミリアからネタバレを食らった上で騒いでいた。

 咲夜は焦った。もう冗談では済まされ無さそうな域にまで達しつつあると理解し、嘘が嫌いなパルにもどう言い訳したら良いか必死に悩んでいた。 


「咲夜?」 


 家事掃除を終えたパルが背中に冷や汗を掻いている咲夜を横から眺め、首を傾げる。


「な、なにかしら?」

「やっぱり気分悪い? 後はボクだけでも大丈夫だから居間で休んでいたら?」


 パルの優しい言葉に良心がみるみる削られていき、罪悪感が胸を焦がした。


「大丈夫……うん、大丈夫よ」


 ――幸いにも子供がどうとかのくだりはレミリア様が黙っているみたいだし……。 

 そこへふと外を見ると紅魔館門前で美鈴とメンタたちが会話している姿があった。

 ――詰んだ。

 否、正確には詰みでは無いが、持って来ている物から見ても嘘か本当か迷っているいでたちだ。ならば先に三人を味方につければ最大瞬間ダメージは少なくて済むのではないか、と咲夜は頭の中でまとめる。


「パル姉、咲夜さん、ご結婚おめでとうございます!」

「祝いに来たわよ」


 そう考える合間にメンタたちは玄関先へたどり着いており、玄関を開けていた。


「声がしてみるから来てみれば。いらっしゃい」


 同時にレミリアも階段から降りて来てメンタたちに対して笑みで接待していた。


「メンタ~! 霊夢と魔理沙もいらっしゃい!」


 パルが向かい、自分が向かわないのは変な話になると思った咲夜は言い出せないまま三人を出迎えた。


「いらっしゃいませ」

「おう! その様子だと……マジみたいだな」


 魔理沙が咲夜の姿を見て納得し、メンタは張り付いた笑みのまま土産品をパルに渡した。レミリアもメンタの表情を見て察し、小さく笑む。


「いらっしゃ~い!」

「ああ、やっぱり来ていたのね」


 そこへ小さなメイド服姿のフランといつも通りのパチュリーも現れ、咲夜は先んじてネタバレしようと口を開く。


「咲夜、居間に通して頂戴。紅茶とクッキーも忘れずにね」

「――はい」


 上機嫌なレミリアに言われ、咲夜はただ頷くことしか出来なかった。    





 時間はあっという間に過ぎて夕食も終わり、今日はパルと一緒に居たいということでメンタたちも泊まるようだ。

 レミリアたちをお風呂に入らせ、メンタたち、パルが入り、咲夜は一応男性ということで最後に回された。


「次、咲夜だね~」

「ええ」


 咲夜と入れ替わり、その合間にティータイム用の紅茶を準備していると、ふとパルはタオルの数が少なくなっていることを思い出した。

 紅茶を淹れている合間に畳んでおいたバスタオルをお風呂場に持って行く。

 ちょうど咲夜は入っている最中なので一応近くの壁を叩いて確認を取る。


「咲夜~、バスタオル無かったから補充しておくね」

「ありがとう」


 咲夜の返事があったところでバスタオルを籠に入れ、不意に咲夜が脱いだと思われる燕尾服が眼に入る。当然、下着も。

 ――咲夜の下着? あれ、これってサラシだよね?

 そこまで見て、パルは小さく手を合わせた。

 ――そっか、今日って。

 パルは微笑し、何も見なかったことにして立ち去った。





 時間はあっという間に過ぎて夕食も終わり、今日はパルと一緒に居たいということでメンタたちも泊まるようだ。

 パルと咲夜も私服に着替え――ただし咲夜はズボン姿で――居間でティータイムを過ごしていた。


「それにしても咲夜が、ねぇ」

「くぅ、オレも早く相手を見つけたいものです」

「私もそろそろ――」

「霊夢、貴方に婿が来ると思う?」

「あらレミリア、貴方もいい加減女っ気だしたら?」

「まあまあ、落ち着けって」


 思い思いの雑談で時間は過ぎゆき、時には微笑ましい光景が広がる。 

 ――時間にして午後9時。今日の0時を回ったら本当に洒落にならない。

 咲夜は何度ともしれず意を決して口を開く。


「あ、あの、パル!」

「ん?」


 特に何の疑問も思ってい無さそうな表情のまま振り返られ、咲夜はその後の展開を一瞬で脳裏に思い浮かべて怯むが、拳を固く握った。

 騒がしかったメンタたちも急に黙って一斉に咲夜たちの方を向いて、何かを期待するような目で見ている。

 生殺しを味わう中、咲夜は告げた。


「その……きょ、今日はエイプりゅーりゅフーりゅなんです!」


 ――噛んだ! と全員の視線が突き刺さる。


「うん、そうだね」


 一方でパルは簡単に頷いて咲夜の続きを待った。

 咲夜は両手を振るわせて少しまごついた後で、今にも泣きそうな表情で告げた。


「だ、だから、私、女です!」


 ――下手か! と再び全員の半眼が突き刺さった。


「そうだよね?」


 パルは咲夜が言っていることの要領を掴めずに首を傾げ、とりあえず咲夜の手を引いてソファーに座らせる。

 やや間があった後に咲夜はパルの顔を見て頭を下げた。


「こんな話が大きくなると思わなくて……嘘、ついてました。ごめんなさい……っ」


 この時、メンタは自身の経験則から咲夜の頬にビンタが炸裂することを幻視した。

 だが現実はそれを裏切り、パルは両手で咲夜の顔を顔を持ち上げてそのまま抱きついた。


「ぎゅ~」

「ふぇっ!?」


 涙声の咲夜は戸惑い、急な展開にメンタたちは鼻を抑えたまま両目を見開いた。


「あ、の、パル?」

「そうだと思ってた」

「で、でも……パル、前につまらない嘘は嫌いだって……」 


 その言葉に対してパルは抱擁を解き、微笑んで応えた。


「咲夜はちゃんと考えて嘘つくし、それこそ今日は何の日なのか知ってるでしょ?」

「……嘘をついても良い日?」

「うん!」


 その笑みを見て、今度は咲夜から抱きついた。


「ごめんね。ありがとう、パル」  


 咲夜の唐突な行動に少々驚いたが、ちゃんと抱き留めて頭を優しく撫でる。


「レミリア様たちも気付いていたみたいだし」


 そう言って視線を向けるとレミリアは鼻を鳴らして答えた。


「ええ。それと咲夜、分かっていないようだけれどその燕尾服は男装用の物よ」

「……え?」


 咲夜は全く気づいておらず、続いてメンタも答えた。


「まあ、臭いも女性でしたし、肩パッドもコルセットもしていないみたいですし」

「えっ?」


 要するに何もかも詰めが甘いのだ。試しにパチュリーやフランに視線を送り、分かっていたとばかりに頷かれて咲夜は内心泣きたくなる。


「じゃ、じゃあパルは?」


 するとパルは咲夜から視線を外してから答えた。


「……だって下着が女の子のモノだったし……サラシも……」


 咲夜の脳裏に先程のパルとの会話が思い浮かび、見られていたかもしれないという思考にさえ思い至らなかったことに物凄く恥ずかしくなる。


「うう……っ」

「胸を抑えただけで男になれると思っていたのかしらね」


 霊夢の鼻で嗤うような指摘に咲夜は図星とばかりにパルの胸に顔をうずめた。

 咲夜のあまりのポンコツっぷりに全員が溜息を吐いたが、それで終わらないのがメンタたちだ。流れに便乗するのはメンタの特技の一つでもある。


「ハイハイ! 実はオレも男の娘になっちゃったんです! なので優しくハグしてキスしてベッドインしてください!」

「イケナイことしたメイドにはお仕置きが必須、今日は朝まで寝かさないわよ!」


 その二人の合間を鮪包丁が飛び、背後の壁に突き刺さった。


「メンタ、レミリア様、ちょっと黙って」

『はい……』


 二人揃って回れ右して大人しく椅子に座り、紅茶を一口含んだ。


「全く……」

「馬鹿ね……」


 霊夢たちが嘲笑し、


「阿保」

「くすくす~」


 フランは笑い、パチュリーは呆れた。

 だが二人はそこで諦めるほど意地が良くない。膝の上でカメラを弄り、ソファーでちょっとだけ泣いている咲夜をパルが慰めている様子を映像に残した。

 

 少しすればいつもの活気あふれる紅魔館に戻り、喧騒が館を包んでいく。

 嘘は、ほどほどに。 



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