表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
東方幻想腐女録  作者: グラたん
第一章
26/119

第二十四話 幻想は幻想のままに終わる

グラたん「あけましておめでとうございます!」

グラたん「年末年始三連続投稿、第二十四話です!」


 宴も一段落を迎え、パルたちは旅館の温泉に向かい、大広間に残っているメンタたちは円陣を組んで待機していた。


「さて、始めましょうか」

「これこそが聖戦。これこそが神々の戦い、ラグナロク」

「我ら同士と共に戦線を貫き」

「我ら同士と共に楽園へと進まん」


 そこに残っているのはメンタとてゐを筆頭とし、諏訪子と神奈子がいた。


「なあ、普通に入れば良いと思うのは私だけか?」

「それ以前に何故私まで連れて来られているのか聞いても良いですか?」


 加えて今回は魔理沙と霖之助もおり、こちら二人は色々と疑問を持っていた。

 二人のやる気の無さを見て、てゐとメンタは嘆いた。


「かー! 分かってねぇな!」

「分かってないですね! 例え女同士であろうとも覗く覗かれることに意味があるのです。今日は宿が貸し切りということは間違いなくお風呂には番人が立ちはだかります。その番人というのが永遠亭から覗き防止として量産型イナバたちが宿と温泉の周りを取り囲み、空中には紫さんの護符と藍さんと橙さんの監視網があります。更にオレたちは危険物扱いということで温泉自体も分けられてしまっています。ああ勿論今日は男湯なんてものはありませんよ。どっちも女湯ですので霖之助さんはお風呂に入れません。ついでにいうと夜間もありません。だってオレたちが使った湯に霖之助さんを入れたら絶対発情してお湯を飲んだりハァハァしながら〇〇〇〇しますよね? ええ間違いなくします。それはさておき、温泉をわけられてしまい尚且つパル姉たちが入っている間はこの宴会場からお花摘み以外では出入りすることが出来ません。おまけに監視がついています。ぶっちゃけ強行突破一択ですがその道中には色々と罠が仕掛けられています。切断属性の付いた赤外線すらあります。外部からの狙撃だってあり得ます。ああもう分かったと思いますが霖之助さんは肉盾です。全身ズタズタの襤褸雑巾になったら用済みです。拒否権はありません。逃げようとしたら簀巻きにして廊下に放りますからね? 是非とも自主的な善意の協力を期待しています」


 長い説明を聞き、一呼吸おいてから霖之助は問う。


「一つ、聞かせてください。それ、私に何か得なことってありますか?」

「ねぇな」

「運が良ければラッキーなことが起こるかもしれません」

「その確率は?」

「その場の思い付きを確率で語ってはいけません」


 そうですか、と霖之助は笑い――逃げた。


「脱!」


 正座から立ち上がるまで一切の無駄な動き無く、体を捻ると同時に生み出されるエネルギーと瞬発力を全て足に込め、豹に勝るとも劣らないスタートダッシュを決めて一目散に廊下を目指す。


「魔理沙さん!」


 しかしそれは予想通りであり、魔法使いの手にかかれば動きを遅くすることくらい出来る。その合間にメンタとてゐが霖之助を簀巻きにし、畳に放った。


「一本吊りだぜ!」

「ちくしょー! なんでこんな役ばっかり!」


 霖之助の心の叫びは無視され、五人と簀巻きは聖戦へと挑む。


「さ、行きますか」

『おお!』

 


 まずは風呂場に続く廊下。普段なら何気ない明るい廊下のはずが、今は赤い線が縦横無尽に引かれていた。


「ドン引きするくらい赤外線ですね」


 試しに縄の切れ端を近づけてみるとその位置に向かって設置されていたレーザーガンが発射され、縄を焼き尽くした。

 なるほど、とメンタは呟き、てゐに視線を向けた。


「よーしここは任せろー」


 簀巻きにしてある霖之助を持ち上げ、赤外線の前に立たせ、一歩進ませる。


「あ、あの、お願いしますからやめてくだ――アババババババ! 肉! 肉が焦げてる音がアァァ!」


 レーザーが二の腕をかすり腐った焼肉のような香りが鼻を突き、霖之助は後退する。


「うっせぇ」


 その背をてゐが蹴り、霖之助がたたらを踏んで数歩前に出た。


「ぁぁ――!!」


 全身にレーザーが突き刺さり、廊下に転がって悶え、その背を更に蹴って進ませる。

 突破する頃には生焼けの豚肉のように皮膚が焦がされていた。


「尊い犠牲だったぜ」

「まだ死んでませんよ!」


 霖之助はまだここで死ねない。死ぬとしてもせめて桃源郷にたどり着いてからだ――。


「あ、なんか踏んじゃいました」

「はぎゃぁ!?」


 そんな儚い夢を打ち砕くようにメンタが何かのスイッチを踏み、前方にいた霖之助の体に浮遊感が起こる。メンタたちの視界から消え、落とし穴に落ち、底に詰まっていた刺剣が霖之助の全身に突き刺さった。


「赤外線の破壊終わったよ」


 全赤外線の破壊を終えた諏訪子を見て頷き、メンタは肉盾の首に縄を巻いて引っ張り上げた。


「了解です。よっと」


 釣り上げられた霖之助は全身が既に満身創痍であり、死に体という言葉が相応しい惨状になっていた。それを見て諏訪子は流石に心配になり、脈に手を当てた。


「生きてる?」


 脈は薄く、吹き出す血は止まらない。

 ならば、とメンタは霖之助を前方に放り投げた。


「喜びを感じてますね、そーれ!」


 赤外線を超えた先にあるのは前後左右からスペルカードの迎撃だ。その全弾を霖之助は一身に受け止めて廊下に付した。


「死んだか?」

「喜び喘いでいます」

「ピクンピクン」

「そーれ!」


 続けて放った先には大量の有刺鉄線があり、刺さり、しかし何重にも巻いてあるため一回では突破できなかった。


「むぅ、これ何重にしてあるのかしら? それに鉄線に電気が流れ始めたわよ」

「強行一択ですね」


 メンタの淡々とした言葉に全員が畏怖を覚えつつ、てゐが霖之助を蹴り飛ばして電撃を浴びせ、その背後から神奈子がオンバシラで殴って突破した。


「僅かに薫る肉の臭い……今度こそ死んだな」


 その代償は高くつき、てゐは霖之助の体から僅かではあるが死臭を嗅ぎ取っていた。


「いえ……まさか電気調教は許容範囲内ですか? 見てください、全身の産毛が逆立つほど快感を感じているみたいです」


 これを死んでいないと定義するのなら、メンタの中では一体どうすれば死ぬのか、と魔理沙は疑問に思う。



 いよいよ温泉に到着し、感慨深く暖簾を見上げていた。


「尊い犠牲を出しながらもいよいよ到着しましたね」

「ここからが本番だぜ」

「さあ、戦いなのだ!」


 多少なりと回復した霖之助は恨みがましい視線でメンタたちを見上げ、呪詛を唱え始めた。


「こ、この……恨み……はらさで――」

「あ、これはもう良いので……てゐ、足持ってください」

「あいあい」

「せーの!」


 不意に霖之助の体が浮き上がり、次いで草を潰す音と地面を強打する音が上がり、確保! という兎たちの叫び声が聞こえてきた。

 暖簾をくぐり、魔理沙たちは浴場へと踏み出そうとする。


「よ、よし、行くぜ――」

「待ってください」


 それをメンタが一旦止め、入り口の前に首、胴、足の位置に張られたピアノ線を切って落とし、退けて見せた。


「こ、殺す気か……」


 気づかなければ即死する張り方にてゐは喉を鳴らした。


「奴等、マジだぜ」

「それに加えてレーザーが此方を照準していますね。入る分にはまだ大丈夫でしょうけども、壁に近づいたら背後からピチュン、でしょうね」


 浴場を見れば何基ものレーザーガンが入り口を照準して狙いをつけていた。


「何だって!?」

「なんてえげつない……」

「レーザーは全部で12機ですね。ただ、破壊すれば即座に警報が鳴ると思いますので防御に専念します」


 本来ならイの一番に名乗りを上げそうなメンタがわざわざ防御役を買って出たことに魔理沙たちは意外に思った。


「何だ? メンタは良いのか?」


 無論、それで良いわけがない。


「勿論交代で、ですよ?」


 その意気に魔理沙は乗って手を挙げた。


「乗ったぜ! なら最初は私とメンタで防御を張る。その間に三人は行ってくれ」

「良いの?」

「お言葉に甘えよう」

「可能な限りこっちでも援護するぜ」

「助かります。さ、行きますよぉぉ!」

『おお!』


 全員の気持ちが一つになり、何も怖いものなど無い。

 彼女たちはその一歩目を踏み出して――不意に心持ち良い浮遊感が襲い、次いで、あるはずの岩が無い違和感。暗くなる視界に肌に絡みつく粘着性の捕獲ネット。

 古典的な罠、落とし穴によってメンタたちの聖戦は終わりを告げ、次いでモブ兎たちの歓声が聞こえてきた。



 現行犯で捕らえられ、メンタたちは廊下に正座させられていた。


「は、嵌められましたね……」

「まさか自分がいつもやる手口で嵌められるとは……」

「迂闊だったぜ……」


 紫たちは溜息をつき、メンタたちを見た。


「貴方たちは全くもう……」

「何か申し開きはありますか?」


 対して、てゐはドヤ顔で答えた。


「ふっ……愚問!」

「分かりました。ちょっと来なさい」

「あ、ちょ、師匠! 耳! 耳は! 痛い痛い!!」


 永琳がてゐの頭――主に耳を『ガッ』と擬音がする勢いで掴み、引き摺って何処かへ連れていく。

 次いで早苗が腕を組み、仁王立ちで主神たちを見下した。


「諏訪子様と神奈子様は?」

「出来心でやった」

「楽しそうだからやった」


 あまりにもあんまりな回答に早苗の目が座り、鉄槌を下した。


「明日からおやつ無しです」

「ぎゃー!」


 それを後目に霊夢が申し訳なさそうに縮こまる魔理沙の頭部を踏みながら訪ねた。


「あんたは?」

「……本当、出来心です」


 霊夢が生ゴミを見るような目つきになり、吐き捨てた。


「絶交」


 そういわれても仕方ないと魔理沙は特に弁解することもなく低頭していた。

 パルとメンタは、というと。


「それでメンタは……」

「覗きは正義です!」


 それはパルも分かっていたことであり、特に止める理由もないと思って入るが、皆の手前何かお仕置きしなくてはいけないと思っていた。


「だと思った。反省もしないだろうし……お仕置きも、どうしよっかなぁ」


 ただ、最近は正座に慣れてきたメンタでも太ももに石を抱えたままのお説教は厳しいものがあり、目尻に涙が溜まってきていた。


「……あの、パル姉、足、痺れて来たんですけど……」

「ダメだよ。怒られる時は正座。どうしよう……」

「あぅ……あぅぅ……」


 それが一番の罰であることをパルは気づかない。



 その夜中。メンタたちは別室に放り込まれ、しかし、その中に霖之助の姿はなく防衛線で負傷した人たちがいる病院へと運ばれていた。 


「鬼だ……師匠マジ鬼だ……」

「足ィ……足が……」

「死にたい……霊夢に嫌われた……」

「ぐすっ、早苗ちゃん酷い」

「うんうん……」


 全員が心身ともにむせび泣きつつ諸々の報告会を始めた。


「てゐは永琳さんに何されたんですか?」

「折檻からのジャーマンスープレックス。メンタは?」

「正座放置プレイです。怒られている途中でパル姉が早苗さんに呼ばれたと言われて行ったんですがそのまま帰って来なかったんですよ……」

「それならその間は正座止めれば良かったじゃんか」

「……そうしたいのは山々なのですが、パル姉を怒らせると本当に怖いんですよ。……実際、一回本気で怒らせて以来パル姉が怒っている時は絶対に正座を解かないって決めているんです」

「あんまりイメージ出来ないけど……」

「イメージ出来ないからこそ恐ろしいのです」


 メンタの真実味溢れる言葉に全員が沈黙し、メンタは魔理沙に続きを促した。


「魔理沙さんたちは?」

「霊夢に口聞いて貰えなかった」

「早苗ちゃんにお菓子貰えなくなった」

「同じく」


 えっ! とメンタとてゐは声を上げて驚き抗議した。


「ぬるくないか!?」

「ぬるいですね!」


 そんなことはないと魔理沙たちも抗議する。


「結構死活問題だけどな!」

「うんうん!」

「わりとぬるくないですよ!」 


 言い争った後もう一度全員が黙り、静かに泣いた。


「止めようぜ、虚しい」

「ですね」

「おう」

 




 場所は変わって大広間。

 そこでは湯上りの酒片手に早苗たちが処分会議をしていた。


「……どうしますか?」

「当人たちが本当に反省しているのか疑問だけど……」

「ケダモノと一緒では何をされるか分かりませんからね」

「いっそ簀巻きにしておけば良いんです」

「特に魔理沙は重点的にね」

「それはちょっと……」


 全員、言い分はあり誰一人として間違ってないため紫は苦笑いするしかない。


「まあ、それは夜中に分かることです。パルさん、呼んできてください。ああ、勿論パルさんが反省したと思う順で。チャンスは一回までです」


 それでも温情を与えるあたり紫は心が広い。霊夢を筆頭として数名は嫌そうな表情をするが、反省しているなら……と頷いた。

 加えて永琳もバッグの中から一枚の紙を取り出してパルに渡した。


「これ、チェックシートです。これに該当した人は反省部屋に残してください」

「はい!」

「一応私も付いて行きますね」


 パルだけでは全員許してしまいそうなため早苗も立ち上がってパルの後に続いた。


「そうして貰えると助かるわ」

「いってきますね」


 少し遅れて霊夢も背後からついていき、残った紫たちはスキマを覗き込みつつ酒を呷った。



――永琳特製、簡単チェックシート――

 以下の項目に当てはまったら反省していません。

1、悪かった。出来心だった。つい魔が差した。何でもするから許してほしい等々の発言

2、棒読み

3、他人のせいにした

4、簡単に土下座した

5、泣き真似

6、逆切れ



 パルと早苗がメンタたちのいる部屋の戸を叩き、中へと入ってくる。


「おーい、皆~」

「パル姉、どうしましたか?」

「紫さんが反省したならこっちの部屋に来ても良いって」


 パルの言葉に全員が顔を上げて目を輝かせ、早苗を引かせた。


「マジで!?」

「マジですか!?」


 てゐとメンタは喜び、神奈子と諏訪子は警戒した。


「待って! これは巧妙な罠だ!」

「うんうん! きっと簀巻きにされて端っこに寄せ集められるか押し入れに収納されるかの二択なのだ!」


 次いで、魔理沙が呆れた。


「お前等先に反省しろよ……」


 早苗も嘆息し、パルに増やしてもらったチェックシートを広げた。


「とは言っても本当に反省しているかどうか怪しいのでテストします。まずは各自反省の弁を利かせて貰えますか?」


 早苗の言葉が終わるよりも早く、メンタとてゐが恐ろしいほどの棒読みで弁解を始めた。


「マジ悪かったと思っています。こういう悪戯はやらないと気が済まない性分でして、つい出来心でやらかしてしまい、今は反省しています。何なら土下座でもするので、だからどうか許してそっちの部屋に行かせてください」

「ついムラッと魔が差しただけなんです。覗きってこういう場でもない限り出来ないのでやりたかったんです。でも、出来心です。反省しています。何なら靴でも舐めますので許してください」


 続いて神奈子たちが弁解を始めた。


「私は全くやる気なかったのだけどメンタにやれと言われたのでやりました。反省しています。どうか許して早苗ちゃん」

「調子乗ってやったのは認めます。てゐに誘われて仕方なく付き合っただけです。反省しています。どうか許して早苗ちゃん」


 早苗はいっそここまで清々しい言い訳を理路整然と並べる四人に感心した。


「も~、しょうがないなぁ……。次からはちゃんと――」


 ――いやいやいや!!

 パルの騙されやすいとかそういう次元を超えた許しに早苗が突っ込み、止めた。


「パルさん。この四人、アウトです」

「えっ? でも皆反省しているみたいだし……」


 ――やっぱりパルさんだけにしなくて良かった……。

 それで反省しているなら世の中の極悪人の九割方は釈放されることだろう。


「ダメです。それで魔理沙さんは?」


 早苗はパルを抑えつつ、魔理沙の方を向いた。その魔理沙は正座し、重々しい雰囲気で述べた。


「……他人の性にする気はないぜ。確かに自分から進んでやった。でもまさか霊夢にあそこまで嫌われるとは思ってなくて…………本当、どうしたらいいか分からない。でも謝る以外に方法が思いつかないから……ちゃんと謝りたい、です」


 ――ガララ、と音がして戸が開き、霊夢が姿を現し、魔理沙も顔を上げるが、表情は怯えていた。

 霊夢はそんな魔理沙を見て内心で嘆息しつつ吐露した。


「そこまで反省しているならもう良いわよ。それに、あんたが本気で襲ってくるとも思って無いから。べ、別にあんたの趣味をどうこう言う気はないわよ。…………実際私だってモゴモゴモゴモゴ…………」


 最後の方は聞き取れなかったが、魔理沙は畳に勢いよく額を打ち付けた。


「霊夢、本当に悪かった! ごめんなさい!」


 霊夢は頷き、しゃがみ込んで魔理沙の頭を撫でた。


「良いわよ。さ、向こうでお茶でも飲みましょ」

「う……うん」


 ゆっくりと顔を上げ、魔理沙は立ち上がった。


「早苗、パル。良いわね?」


 振り返って確認を取ると早苗もパルも快く頷いた。


「うん、良いよ~」

「十分反省しているようなので合格です」


 霊夢と魔理沙が廊下に出て、戸が占められる。すると先程まで演技していたメンタたちが一斉に抗議しだした。


「何故!? 何故ですか!? 断固抗議します!」

「私たちだって反省してるぞ!」

「そうよ! そうよ!」


 それを世の人は逆切れというのだが、早苗は隣にいるパルのことを思い、怒鳴りたくなるのを抑えて告げた。


「じゃあ、もう一回だけチャンスをあげます。てゐさんから弁解をどうぞ」


 まずはてゐとメンタが飛び上がり、膝、腕、姿勢ともに完璧な土下座を披露して弁解した。


「すみませんでした!」

「もうやりません!」


 次いで神奈子が全力で泣き真似を慣行した。


「どうかゆるじでぐだ……えぐぅ……」


 早苗は呆れ、パルは思わず許そうとして、早苗の人差し指がそっと口を塞いでいた。そうしてから完全に諦めた視線で諏訪子を見て、早苗は姿勢を正した。


「早苗ちゃん、パルさん。私は覗きに加担した罪をここに認め、謝罪致します。本来、神が頭を下げることは出来ませんが今は一人の人として謝ります。不快な思いをさせてごめんなさい。紫さんたちにも謝罪する機会を頂きたく存じます」


 幼い容姿に全く似合わない謝罪と低頭に少し動揺していた。


「わっ、す、諏訪子様まで……そんな恐れ多い! さ、早苗ちゃん!」


 パルが慌てて早苗を見るが、その早苗は真面目な表情で頷いた。


「分かりました。諏訪子様の謝罪を受け入れます」

「あっ、うん。えっと、受け入れます」


 早苗と諏訪子のやり取りに思わずパルも姿勢を正して頷いた。

 諏訪子がホッと息を吐いて立ち上がって微笑えんだ。


「それじゃ、紫さんたちにも謝って来るね」

「ちゃんと今みたいになさってくださいね」

「はーい」


 トテトテと軽い足音を立てて諏訪子が部屋を去り、残されたのは馬鹿三人。


「……」

「……」

「……」


 無罪判決を待つように特にパルを見つめていた。


「えっとぉ……メンタたちは?」


 パルが早苗を見てどうするか問うと、早苗は躊躇うことなく否定した。


「却下です」

「何故ですか!?」


 さも当然のようにメンタたちが抗議して、早苗は呆れつつ永琳が作ったチェックシートを見せて黙らせた。


「チェックシートに当てはまってますから」

「ぐっ……し、師匠……」

「こちらの手の内が……読まれていたのですか……」

「くぅ……」


 三者三様の黙り具合に早苗は踵を返そうとして、パルの目が座っていることに気づいた。


「嘘、ついてたの?」


 パルの問いに早苗は頷いた。


「残念ながらそうですね。パルさん、これがこの人たちの正体ですよ」

「あ、そう。ふぅん……」


 あからさまにパルの声色が変わり、メンタは思わず顔を上げた。


「ぱ、パル姉?」


 そこにはいつもの優しい笑顔のパルは無く、静かに怒り狂う無表情の姉がいた。


「…………ボクを騙してたんだね、メンタ」

「――ひぅ」


 何かとんでもないことが起こる予感がした早苗は二人だけでも逃がすべく謝罪を促す。


「てゐさんも神奈子様も、もう一回だけチャンスあげるからちゃんと謝ってください」

「すんませんでした!」

「ごめんちゃい!」


 ――ば、馬鹿ぁぁぁぁ!?

 早苗が内心叫び、数歩下がってパルとメンタを眺めた。


「……本当にごめん……なさい、……パル姉……」


 ――ええ!? そこは真面目な振りしてボケるとこだろ!?

 ――待て! パルの様子がおかしい!

 メンタの本心からの謝りにてゐが突っ込もうとして、怒気を察した神奈子がてゐの口を塞いだ。てゐもそこまでされてからパルを見て、恐怖で毛を逆立たせた。


「メンタ、前に言ったよね? ボクは笑えない嘘は嫌いだって」

「……はい」

「それで前回どうなったか、忘れたの?」


 淡々とした問いと答えが続き、パルが手の平を上に向けて立ち上がるのを促した。


「メンタ、覚悟して立ち上がって。それで……目、閉じて。歯、食いしばって」

「――ひっ、う、は、はい」


 メンタの足が震え、それが全身へと伝わっていく。しかしメンタに逆らうことは許されず目を閉じて歯をしっかりと食いしばった。


「あの、パルさん?」

「え、おい?」

「それって――」


 まさか――と早苗たちが動こうとして、それより先にパルが動いて距離を詰めていた。


「行くよ」


 パルはメンタの前に立ち、怒りのままに右手の五指を揃えて左頬を張った。次いで、逆手で右の頬を張り、痛そうな音を鳴らした。

 それで終わりかと思いきや、パルは足を少し開いて中腰に構え、右腕を引き、拳を固めてから捩じりと気を加えた渾身の一撃をメンタの顔に叩きつけた。

 メンタが吹き飛び、背中から壁を粉砕して町の中へと飛んでいく。


「ちょ、ちょっとパルさん!?」


 パルがそんなことすると思っても見なかったため少々呆けていたのだが、今の音で我に返って詰め寄ると、そのパルはいつもの柔らかい雰囲気を出しながら早苗に微笑んだ。


「良いの。けじめだから。メンタを回収してくるから後をお願い」

「う、うん」


 メンタが飛んで行った方向にパルも跳躍し、静寂が訪れる。

 少ししてから早苗は有無を言わせない口調で神奈子とてゐに告げた。


「……二人とも、今日はここで寝てください」

「異存在りません」

「はい、是非とも」


 その二人も未だ困惑しており、早苗の決定に逆らう気は無かった。



 大広間に戻ってくると真っ先に紫が寄ってきた。


「何か凄い音がしたけど、どうしたの?」

「パルさんが……あのパルさんが……!」


 早苗もまだパニックから覚めていないため紫は早苗を連れて近くの席に腰を下ろし、その周囲に皆が詰め寄った。


「落ち着いて話して頂戴」


 たどたどしくはあったが、今まで起きたことの事情説明を早苗は完遂し、お茶を飲んだ。しかし全員が信じられないといった表情になっていた。


「……冗談よね」

「……冗談ですよね」

「……冗談であって欲しいです」

「……そうじゃなかったら笑えないわよ」

「……早苗」


 早苗はどうすることもできず、視線を逸らすと大広間の戸の一角が開いて見慣れた薄紫色の髪の毛が見えた。


「戻りました~……って、皆してどうしたの?」


 全員の視線がパルに集中し、一様に驚いていれば不審げにもなるだろう。


「いえ、別に」

「そろそろお布団引きましょうか」

「そうですね」


 こういう時は我先に逃げてしまう方が幾分か良いことを彼女たちは知っている。


「うん? ねぇ、早苗ちゃん――」


 そうして逃げそこなった早苗だけパルの相手をすることになった。


※前作をお読みいただいている方はもう分かっていると思いますが、この企画は夜のハイテンションで書いております。決して実行しないでください。

グラたん「はい、年始から馬鹿な話を書いたと思っています」


グラたん「次回はまた土曜日更新です!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ