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東方幻想腐女録  作者: グラたん
第一章
117/119

第百六話 ドンと来いや

グラたん「投稿日付が来週になっており、投降ミスしました!」

ーー霖之助ーー

 これはメンタさんたちが幻想郷に来て少し経ったくらいの時だった。

 最初は何かの悪戯だと思った。

 過去の自分へ、なんて手紙を見て誰が信じるというのだろう。

 だけどそこに書かれていたのは自分の斬首という未来と、知り合いの殆どが死ぬという地獄みたいな事柄だった。

 ここまで手の込んだことをするなんて逆に興味が湧いた。未来の自分は過去の私に二つの贈り物をした。

 一つは未来を見通す水晶玉。もう一つは腕輪型の端末らしい。

 まず、水晶玉に触れて十三年後を見てほしいと書かれている。面白い、見てやろうじゃないか。



 ……。

 見なきゃよかったと後悔した。

 あんまりだろう。あんな未来があるものか、と思うが未来の自分が過去に向けてコレを送る場面もあり、多分こうなるのだろうと納得してしまう自分がいた。

 パニックになった。

 こんなことさせてなるものか、と里中に警報を出したが、よく思い出せば十三年後の話だった。

 その時は霊夢たちの力を借りてなんとか収まったが、代わりにレトルト食品を根こそぎ持っていかれた。


 その時から、私は未来に向けて動き出した。

 私に大層な力はない。せいぜい「何の道具なのか、用途が分かる」くらいの力しか持たないショボい妖怪なのも自覚している。

 故に私は今から動くことが出来る。




――メンタ・香霖堂――

 冬の寒空を飛行し、目的の香霖堂が見えてきた。雪が降り積もっている影響もあってか、特売の旗は立っているが玄関は占められている。


「霖之助さーん」


 ああ、来ましたか。と霖之助は溜息交じりに雑応答をしようと心に決める。彼女は少なくてもお客ではないから。


「はいはい、お帰り下さい。今日から臨時休業です」

「おーい、彼女いない歴=人生の助さーん」

「そういうこと言うなら来ないでください。本気で泣きますよ」

「嫌ならさっさと開けてくださーい」

「今日から臨時休業中です!」

「あ、そういうこと言っちゃいます?」


 来るか、と身構える。レパートリーだけは本当に関心するが、やられる方としては溜まったものではない。誤解を解くのも面倒なのだ。


「……やったら出禁にします。本気です」


 でもやるんだろうなーと薄々察している。


「あ――……ゴホッゴホッ」


 ――騙されない、騙されないですよ~!

 今日という今日は心を鬼にして出禁も辞さない覚悟でメンタがいるだろう玄関を見る。するとべチャット何かが地面に落ちる音がして玄関に赤い物体が張り付いた。


「血――」

 ――赤黒い色と予見していた未来のせいでそう見えたが、霖之助は固唾を呑んでケチャップかもしれないと思いなおす。


「――はぁ……はぁ……ゲホゲホッ」


 ――演技です。演技なんです。それで既に何回も痛い目を見ていますからね。


「……はっ、はっ……」


 辛そうな声色と玄関に水のかかる音がする。今日はヤケに手が込んでいると霖之助は思う。


「……」

「……きっつぃ……ですね……」


 ドサリと雪の中に倒れる音が玄関前から響き渡る。演技か、いやしかしこんな寒空の下に放置しておくほど霖之助の精神は図太くない。

 はぁ、と一つ溜息を吐いてから霖之助は立ち上がって玄関を勢いよく開けた。


「――ああ、もう! 分かりましたよ! どうせ今回も私の負けです! ハイ、どうぞ好きなように罵って下――…………」


 メンタは雪の上に倒れていた。雪は決してケチャップでは出せない赤黒い液体で濡れており、僅かに鉄臭い臭いさえしていた。

 呼吸はしているようだ。だが、ここまで弱っている姿を見るのはいつ以来だろうか。

 冬ごろ。もうそろそろだろうとは霖之助も予想はしていたが予想より少し早いのではないだろうか、と考える。

 仕方ありませんね、と独り言を呟いてメンタを抱え上げ、中へと運んでいく。


 暖かい布団とお茶の良い香りがする。目を開けると知らないような――いや、香霖堂の天井がそこにあった。


「う…………」

「気が付いたみたいですね」


 霖之助の声が聞こえ、メンタの意識は一気に覚醒する。そちらを見てみると霖之助は読んでいた本を閉じて少し温いお茶を呑んだ。


「……ああ、遂にロリコンに目覚めてしまったんですね」


 ゴブッと音を立てて湯飲みにあぶくを立てる。二回ほど咳を込んでから霖之助はお茶を置き、別のカップに沸かしておいたお湯を入れてメンタに差し出した。


「メンタさん……寝起き早々にそういうこというの止めてくれますかね? 流石に心が折れますよ。はい、白湯です」

「どうもです」

「それと――吐血するまで一人で抱え込まないでください。貴方は巫女と言っても人間です。萃香さんとかレミリアさんみたいな化け物とは違うんですから、もっと人を頼りなさい」


 まだ、という前提は付くが近々人間を止めるだろうことはメンタも確信していた。


「そうですね。ちょっと無理が祟ったのかもしれませんね」

「ええ、そうでしょうとも。私にでも相談してみますか?」


 もしそれが出来たのならこんな苦労はしていない、とメンタは内心笑う。


「……それは出来ません。これはオレの問題ですから」


 誰にも相談せず、することも出来ず、やがて朽ち果てる最後を迎える。本当にそれで良いのか、と霖之助は思う。

 そうではないはずだ。これは自分にも手伝えることだ、と覚悟を新たにして霖之助は問いかける。


「本当にそうですか?」

「ええ、そうですよ。ダメ之助さんは店が潰れないかどうかの心配をしていれば良いんです」


 返ってきたのはいつものような、しかし弱々しい軽口だった。であればもっと確信的な言葉を口にするしかない。


「――私では力になれませんか、次世代の巫女」


 メンタの表情が一転して固いものになる。


「せめて私を頼ってください。戦闘では使い物になりませんが、その他のことなら多少は役に立つんですから。ここは誰もが適当にくつろいでは去っていく雑貨道具店、香霖堂です。依頼料のツケも承ってます!」

「――っ。それは……霖之助さん、まさか……」

 

 やはり察しが良いと霖之助は思う。メンタの驚愕した表情を見たのはきっと初めてだろう。


「なにも、あの地獄を見たのが一人だと思わないでください。その時代にこそいなくても道具を使えば解ります。私の能力を知らないわけではないでしょう?」


「何の道具なのか、用途が分かる」程度の能力者。そういえばちょっと前に未来を見る道具を使っていたような、とメンタは思い出す。

 そして向こうから言ってきたのだからこれは違反ではないだろうと思う。


「そ、それならそうと先に言ってくれませんかねぇ!? じゃあもうクライマックス直前なので依頼しますけど良いですよね!」

「フッ――ドンと来いやぁぁああああああああ!!」


 霖之助は勢いよく叫んだ。

 誰にも知られることのない秘密を共有した二人はこれからのことを話し始めた。


 

 そうして――二人は香霖堂の裏手に建てられた豪華なダンジョンを見上げていた。


「はい、そういうわけでやってきました魔法空間です。今回は大事な真実を何時までも隠蔽していたクソの助さんの協力を経ています」

「ハッハッハ、そろそろ出禁にしますよ!? それより、今から準備するのって結構大変なんですけれど……間に合いますかね?」

「大丈夫です。オレの能力をフル稼働させていますから」

「実は結構チートスペックだと私は思うんですけどそこの所どうなんですか?」

「物理的な意味合いだとパル姉最強説は不動ですね。裏からコソコソとやる分にはオレに軍配が上がります」


 それもそうかと霖之助は思う。そうして目の前にある大きな扉を見上げ、問う。


「この外面だけ無駄に豪華な建物の意味はあるんですよね?」

「どうでしょう? 霊夢さんのことなのでまともな攻略はしないと思ってます」

「例えば?」

「入ってすぐ直下掘りくらいはすると思います」

「ああ……それであのギミックを仕掛けたんですね」


 彼女たちを師と仰ぎ、一緒にいるだけあって対策は万全だ。


「まあこれはあくまでも時間稼ぎですから……本命の方はあと一日ちょいくらいで決着が着きますので耐久戦になりますね」

「霊夢さん相手に耐久戦とか泣きたくなりますね」


 グータラクソニートも本気を出せばヤクザのように押しかけ、破壊、恫喝、略奪をする。所謂事変解決と呼ばれるのだが、妖怪からしたら恐怖でしかない。


「一応紫さんには霊夢さんと早苗さんだけを連れて来てくださいと言ってありますが……多分あと一人か二人はオマケが付いて来ると思うんですよ。勘ですけど」

「そうなんですか……っと、はい完成です」

 

 最後の荷物を置いて一息つく。最深部への転移を終えてテーブル一つに椅子を二つ置き、お茶とお茶請けを取り出してメンタも一息ついた。


「終わったら帰って良いですよ」

「そんな工事業者の監督みたいなこと言わないでくださいよ。せっかくの大舞台なんですから私も最後まで見届けます」

「戦えもしないのにいないでください。むしろ邪魔です」

「――本当にそう思いますか?」

「あ、捨て石程度になってくれるのであれば勝手に死んでください」

「そう私は――って! せめて最後まで言わせてください! はぁ……ところで早速侵入されていますけど良いんですか?」


 早速侵入者用警報が鳴り響いているが、メンタは確信しているように落ち着いている。


「大丈夫です。というより、てゐですよ」


 ぎぃぃ、と最深部の扉が重々しく開いて兎耳が見える。


「へーい! 皆大好きクソ兎ことてゐ様だー!」


 扉を蹴り捨てて、てゐが中へと入ってくる。

「自分で言って悲しくなりませんか?」

「やいメンタ! この素晴らしき最終決戦に私を呼ばないとはどういう了見だー!」

「無駄な消耗したくなかったので呼びませんでしたー!」

「ガーン」

「それで、てゐさんはメンタさんを止めに来たんですか?」


 もしそうであれば協力している身としては戦闘もやむをえないと壁にかけてある剣に手を伸ばした。


「いんや。つーか、こいつ等の後ついて来ただけだぜ」


 ウェーイ、という声と共にぞろぞろと最深部へと入ってくる神々。酒や物資が荷台に積まれて運ばれ、すぐさまその場は宴の会場に早変わりする。


「楽しい祭りは」

「何時でもどこでも」

「俺たちの肴だ!」

「という冗談はさて置き」

「ヘイ! メンタちゃんうぇーい! 元気してる?」


 前より仲良くなったらしい神々が超気軽にメンタに寄り添っていく。が、流石にこのタイミングで神々が来るのはちょっと理解出来ない。

 来るとしても明日以降だろうし、宴会をするのなら博麗神社に行った方が楽しめるのは間違いない。


「何しに来たんですか?」

「いやぁ、実はね――」


 ピタリと騒ぐ声が消え、神々の視線が一斉にメンタへと向いた。一切ふざけた様子が消え、霖之助は思わず警戒して剣を手に抜剣しかける。

 それをてゐが止め、しかし警戒はしたまま様子を見る。

 神の中でも一際強そうな神々が近寄り、その手には賞状が握られていた。


「神界規定により君の功績を充分と評価し、これを表しておこうと思ってね。ちなみに俺はロキだ」

「人類史において()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()は神が百柱集まっても難題という素晴らしい偉業を君は達成し、これを表彰しようということが神界会議で可決された。ちなみに私はアフロディーテよ」

「よって、君さえ良ければ神格を授けたいと思う。これ結構スゴイことなんだよ? あっ、私はユピテルね」

「それが嫌なら俺たちの加護を受けよ! 俺はゼウスだ!」

「ぶっちゃけトトカルチョで負けた腹いせ込みの祝福もあるよ~。そこのポセイドンなんて賭けたはいいけど負けてトライデント没収されたんだからね。私はセクメトだよ」

「ちなみに内容は『メンタが能力を使用して13年間持つかどうか』よ。ふふ、私は天照です」

「そしてそして朗報! もう能力解除しても大丈夫だよ~」


 ちなみに最後は腐れ外道魔法使いのマーリンだ。


「名前聞なかったですけど実は凄い有名な神様ばっかりですね!? しかもバリバリ戦闘系の神様です! 能力解除!」


 能力を解除すると同時にメンタは外界からの攻撃がもう無くなっていることが体感出来た。それは長きに渡る戦いの決着であり、もう役目を終えたことに他ならない。


「……本当に終わっていたんですね」


 緊張の糸が解けて膝から崩れ落ちそうになるが、神の前でそれはしたくないと最後の意地を見せて踏みとどまる。しかし神々はそれを見て微笑みながらメンタを椅子に腰かけさせた。

 それから、いつものような軽薄さに戻り、周囲に煩さが戻ってくる。


「ハーイ、じゃあ祝福一発目! SOI!」

「若干適当ですね!」

「HEI!」

『実は俺たちもいるYO!』

「わー、うれしいですねー」

「エライ棒読みだな。流石に罰が当たりそうだ」

「普通神様一人から御加護とか祝福を受け取ったら大変栄誉なことなんですけどね」


 てゐも霖之助も苦笑いしているが、内心ではホッとしており同時にメンタはそれだけのことを成したのだと畏敬さえ覚えていた。

 

「ん? おやおやぁ。背負っているのは王剣じゃないかい?」


 マーリンが霖之助の持っている剣を見つめ、まさかという表情で寄って来た。霖之助もお得意様のマーリンは無碍にせず、鞘ごとマーリンに見せた。


「これですか? はい、そうですよ。偶々河原に投げ捨てられていたのを見つけたので拾ったんです。持ち主適正は極小ですけどね」

「それは気難しい剣だからね。エクスカリバーの姉妹剣だから尚更かもね」

「兄弟ではなく?」

「伝説の剣は大抵誰かの魂霊が封じられているのだよ。だからこそ適切な持ち主の手に渡った時は光り輝くものだ」

「OUZ」

「とはいえ……誰だろうね、王剣を河原に捨てた阿保は……」

「ああ、そのことなんですけど……――――」


 その口から語られたのはマーリンが絶叫するほどの酷い真実であった。

 


 ひとしきり騒ぎだ後、メンタは千を超える神々から加護を受け取り、そのバカ騒ぎを眺めていた。


「やっと終わりましたね……ところで、てゐ」

「おう」

「一体何をしに来たんですか?」

「へっ、メンタよぅ。ダチを助けるのに理由がいるか?」


 ドヤッと決めるがメンタは苦笑いしつつ返す。


「ちなみに事変の件についてはオレの勝ちなので助ける意味はあまりないですよ?」

「それでもいーんだよ。ほれ」


 てゐが能力を発動させてメンタの身体に幸運が降り注ぐ。それはなんとなくを察してのことだろうとメンタは思う。


「てゐ……」

「今のメンタは神格化しているが実際の神ほどじゃない。肉体精神ともに人間だ。前提条件として寿命がやたら長くて無茶苦茶強いが付くけどな。それでも人間である以上私の能力との相性は抜群なんだよ」

「そういえばそうですね」

「ところで紫よー」


 にゅるり、と背後からスキマで紫が出現する。


「はいはい、何処でも貴方の傍にいる混沌、紫でーす」

「フォーク持ってこーい」

「用件があるのではなくて?」

「なぁに、ちょっとした疑問だ。メンタの巫女名って何かなぁって思ってな」


 どっちにせよ巫女に就任するのであれば正式な名称が必要となる。特に博麗の家系や実子ではない養子や襲名の場合は新しく名前が必要になる。

 尤も、今は霊夢がいるため必要はないのだがせっかくなので、というてゐの思いだ。


「ああ、そのことね。それは博麗大龍神が決めることです」

「うぇーい、今代の巫女は腐ってるぅ! そこに痺れる憧れるぅ!」


 博麗大龍神、既に酒盛りに溺れている。


「真面目に今後の博麗神社の運営が心配になってきたんだが」

「オホン。巫女名についてだが、一文字は代々伝わる『霊』の字を与えよう。そしてもう一つだが……こちらは其方が決めると良い」


 その指名はまさかのてゐだ。

 ふむ、とメンタは一つ頷いて手早く紙に文字を書き、テーブルに叩きつけた。


「『腐』一択ですね」

「じゃ、私の名前から『帝』をくれてやらぁ!」

「なっ――ボケてくれないんですか!?」

「ちゃんとした命名式でそれやったらヤバイことくらいわきまえているからな。そういうわけで今日からメンタは『ああああ』と名乗ることになった」

「ボケボケじゃないですか!」


 誰もが知る酷い名前に紫も博麗大龍神も思わず噴き出した。


「くっ、失敬」

『ブハッ!』

 

 それにつられて神々も笑ってしまい、部屋中に笑い声が響き渡る。


「今名乗る必要は無いってことだ。来たるべき時に名乗れば良いさ」


 その時が来ることはおそらくないだろうとは思いながら、メンタは頷いた。




 一方でようやく香霖堂へとやってきた霊夢たちは「本日休業」と書かれている札を見つつも激しく扉を叩いた。


「霖之助! いるなら出てきなさい! いないなら押し入るわよ!」

「それじゃ強盗です!」

「邪魔するぜー!」


 ガラガラと開けてみると中は暗く、人の気配はない。


「……あら、本当にいないわね」

「魔法の気配がするな。奥からだ」


 だが香霖堂の奥は物置であることは霊夢たちも知っており、じゃあ裏手か、と香霖堂を回り込む。すると如何にも来てくださいと言わんばかりの豪華な門が聳え立っていた。


「これは……」

「魔法結界? いえ、内部からただならぬ気配を感じます」


 諏訪子や神奈子が纏っているよりも強力な気配。神格がうじゃうじゃいる気が漂ってきている。


「神格……あの神々ね。非戦闘系ばっかりみたいだしそこまで脅威じゃないわよ」

「だと良いんだがな」

「ともかく行ってみましょう」


 大扉を開けると中は薄暗く広いダンジョンの構造になっている。まともに攻略しようと思えば何日かかるか分からない。


「ダンジョンね」

「直下掘りだな。マスタァァァスパァァァァク!」


 大爆音と共に白くて粘々した液体が魔理沙の全身に降りかかった。すんでのところで霊夢と早苗は避けたが、僅かに服にかかってしまった。


「魔理沙!」

「くっ!」

「ぎゃー!」

「直下掘りはダメみたいね。流石に読まれているか」

「正攻法で攻略しましょう!」

「そうね。尊い犠牲も払ったから……」

「まだ、まだ死んでないぞぉぉ」


 尊い犠牲を払いつつも霊夢たち一行は時間をかけて探索していく。

 階段を降りて二層、三層と降りていく。四層目に入り、その先にあったのは巨大な二頭の龍が向かい合っている無駄に豪華な門だ。

 せっかくここまで用意してくれているのであればやらないわけにはいかないだろう。


「壊しましょう!」

「いくぜ! マスタースパーク!」


 ネバネバな白い液体再び。もう分かっていた二人は大きく避け、事なきを得る。

「だからぎゃー!!」

「ナイス、早苗!」

「グッ」


 魔理沙は地面に伏しつつも必死に強力接着剤から逃れようともがく。

 霊夢は大扉の前に立ち、深呼吸を一つしてから扉を蹴破った。


「さぁて、メンタ! 覚悟なさい!」


 最深部の玉座に座っているのはメンタだ。その隣にはどういうことか霖之助とてゐもおり、神々は邪魔にならないように壁際によって事の次第を眺めている。


「腐腐腐、待っていましたよ。既に約一名が大変素晴らしいことになってますが省略しますね」

「まぁ、それはそうね……。それで? 何の目的があって幻想郷全住民の意識を強制的に奪ったの?」

「それは外敵からの防衛です。が、既にオレの勝ちで幕は閉じています」

「ふぅん。つまり、戦う意味は無いって言いたいのね」

「そういうことです」


 確かに今回は後手に回っていたことは霊夢も認めよう。だが――。


「だが、落とし前は付けるべきなんじゃないのか?」

「そう、ですね」


 立ち直った魔理沙と早苗も弾幕を構えながらメンタを睨む。


「はてさて何のことですかね?」

「あら、能力の使い過ぎでそんなことも分からなくなったの? なら言ってあげるわ。仮にも博麗の巫女たる者が事変を起こすなんて言語道断ってことよ」

「それは些か筋違いではなくて?」


 そこへスキマが開いて紫も現れる。ただし、メンタたちの方側だ。


「紫……」

「元より、その掟を定めたのは博麗の先代たち。別に、そんなルールに縛られていること自体、時代遅れよ」

「そう。なら別にそれでも良いわ。博麗には博麗の仕来りがあるもの。それを破ったらどうなるか……分からせてあげるのが先達ってものよ」


 普段から散々BBA扱いしておきながら自分もしっかりBBAではないか、と紫は内心笑い、哄笑する。

「クスクス」

「紫……?」

「アハハハッ! 滑稽、滑稽過ぎるわ!」

「何が可笑しいのかしら」

「霊夢、貴方まだ自分が博麗の巫女とでも思っているの?」


 その一言だけは流石に聞き逃せず、魔理沙と早苗が厳しい目つきで紫を睨む。


「なにっ!?」

「紫様! それは言葉が過ぎます!」

「何も事実よ。だってほら、博麗の今代はそこにいるわ」


 指差された先にいるのはメンタだ。でも霊夢はまだ生きているし引退の宣言などしていない。


「――メンタさんが?」

「どういうことよ」

「どうもこうも、こんなにも神々から祝福を受けた巫女は今までに例を見ないってことだ」

「そうですね。今回に関しては、どう考えてもメンタさんが正しい。むしろ、彼女を博麗の巫女にしない方がおかしいです」


 本当にどうかしていると早苗は思う。少なからず霖之助がそこまで霊夢を蔑ろにすることはかつてなかっただろう。そうなればメンタに洗脳でもされていると考える方が自然だ。


「霖之助さんまで!」


 霊夢は少し落胆していた。博麗の巫女は代々受け継がれるか、適正がなければ紫が決めていた。霊夢も紫に言われて始めたことではあるが、それにしても急すぎると思った。

 ――それとも、いよいよ見限られたか。

 でも、そうだとしても最後にやるべきことくらいは分かっている、と霊夢は己を鼓舞する。


「そっ、ならもうどっちでも良いわよ。私はメンタを止める。これは決定事項よ」

「貴方たちが勝てるとは思えないのだけど?」

「何のためのスペルカードルールよ。こういう時のためでしょうが」


 正真正銘の殺し合いではなくルールに乗っ取った殺し合い。人間側が勝てるかもしれない希望を抱かせるためのルールを霊夢は口にする。


「それでも貴方たちには敗北しかないわ」

「へっ、それはやってみないと分からないってな!」

「少なくても私は守矢の巫女として一切の真実を知るまでは引きません」


 両者臨戦態勢に入り、そこでふとメンタは思う。


「おーい、何でオレを置いて勝手に戦う話になっているんですかねー?」

「あんたはちょっと黙ってなさい」

「オレが元凶なんですけどね!」

「まあまあ、まずは私から瞬殺されてきます」

「分かっているなら戦わないでください。時間の無駄です」


 そんなやり取りに霖之助は苦笑いしつつ前に出る。


「早苗、紫の相手を頼めるか?」

 

 数は四対三。一人でも多く潰した方が有利になるのは明白。メンタは現状動く気配はなく、紫と相対出来るのは霊夢か早苗だろうと魔理沙は考える。


「一人では結構荷が重いんですけど、頑張ります!」

「こっちを秒殺したらすぐ行く!」


 霖之助程度が相手であれば負ける気はしない。

 火力に関しては幻想郷でも一、ニだと自負している魔理沙は霖之助と相対し、霖之助も少々複雑な心境で刃を向けた。


「よし、霖之助。頭刎ねられるか、モツパーティーするか選べ」

「二択は酷いと思います。しかし――私も早々やられませんよ。装着!」


 霖之助が身に纏ったのはメンタが良く使う機構装甲だ。夏コミの際も自警団がそれを纏っていたような気がする、と魔理沙は記憶を引っ張り出す。

 しかしメンタほどの速度と火力に特化した機体でないことは見ればわかる。おそらく攻防両立のバランス型だろう。スピードと火力の勝負でないのなら魔理沙に分がある。


「へっ、そんなチャチな玩具で私の相手が務まるか? んん?」


 挑発するように嘲笑って八卦を構え、霖之助も同様に笑みを浮かべる。


「ええ、これだけでは勝負にならないでしょうね。なので――」


 霖之助が背の剣に手を伸ばし、シャキンという澄んだ音と共に抜剣する。

 神々しいまでの金色に光る剣。魔理沙はこれを依姫との闘いの際にも見たことがある。例の天下無双剣と呼ばれていたものだ。

 周囲を威圧するような圧倒的な存在感が向けられ、魔理沙は思わず数歩後ずさる。


「天下無双剣。真銘を王剣コールブランド。かつてアーサー王が所持した聖剣エクスカリバーの原型となった真打一本目――私は持ち手には程遠いですが、やれるだけやってみるとしましょう。魔理沙、覚悟しなさい」


 ――王剣コールブランド。これを抜いて戦った者に勝利と栄光を与えると言われた聖遺物。

 幻想郷にも円卓の伝承は伝わっており、それに関連するアーティファクトが見つかることも極稀にある。だが大抵は紫が回収してしまうのでそれらを見られる機会は少ない。

 魔理沙も知識としては知っていたため、もう霖之助を格下とは考えないことにした。


「――王剣が相手か。不足無し!」

「行きます!」


 霖之助が迫る。ホバーの垂直移動ということもあり接近速度に少し驚いたが、魔理沙はすぐさま距離を取る。剣が二度鼻先を掠めるがダメージはない。


「そっちから攻撃してくるなんて珍しいな!」


 軽口と共に正面に弾幕を張り、霖之助を近寄らせないようにする。その間に特大の魔力を用意して一気に決着を付けようと試みる。

 霖之助も正面にバリアを展開し、コールブランドの必殺攻撃の準備に取り掛かる。


「――勝利の女神に奉る。我、聖剣を用いて敵を滅ぼす者なり」


 それは唄だ。あるいは詠唱か。


「――我は天命の者に在らず。我は英雄に在らず。我は勇ましき者に在らず」

「っと! 恋符「ミスティー・ランチ」!」


 その詠唱を妨害してやろうと魔理沙は片手でビームを放つが、霖之助もバリアを消してブースターに火を噴かせ、可能な限りのスピードでビームを避けていく。


「――されど倒すべき敵がある。この剣を抜き放ち、ただ一度敵を滅ぼさんがために振るう」


 腰に備え付けられた大口径のレールガンを発射し、腕に備わっているバルカンで前方に弾幕を張っていく。詠唱は先の言葉で締められ、あとは当てるだけだ。

 魔理沙も避けに避け、当たる気配を見せない。


「危なっ! だが、こっちは準備が整ったぜ」

 

 バリバリバリと雷がスパークを起こして八卦から溢れ出ている。あれをまともに食らえば霖之助は核ごと滅ぼされて二度と生き返ることはないだろう。

 仮に、それを避けられたとして速度に特化した魔理沙に必殺攻撃を当てることは至難の業だ。

 ではどうするか。魔理沙に合わせて発射し、出力で上回って倒すのか。否、そんなことをしても強さを取り戻した魔理沙を倒すことは出来ないだろう。

 故に霖之助が取れる戦術は一つ。完封である。

 

「いくぜ、マスタァァ――――っ!?」


 正面に八卦を向けて今、まさに打ち出そうとしていた魔理沙の身体が不意に地面に叩きつけられる。

 その周囲は歪み、まるで地面に押さえつけられるようにして床が凹む。


「なっ――ぐっ! こ、これは……重力力場!?」

「ええ、正解です。先に仕掛けさせてもらいました」

 

 より正確には霊夢たちがここへ来る前にあちらこちらの床の下に仕掛けを施しておいたのだ。もっと言ってしまえば、誰が相手になっても良いように対策していたのだ。

 まさかの状態に陥った魔理沙を見て、霊夢は急いでそっちに駆け寄ろうとする。


「魔理沙!?」

「来るな! 巻き込まれるぞ!」


 魔理沙の一喝で霊夢は足を止め、霖之助は勝ち誇ったように笑みを浮かべ、コールブランドを大きく振りかぶった。


「私の勝ちですね。――王道に立つ者無し(ロード・アヴァロン)」


 光の刃が振り下ろされる。なんとか防壁を張っては見るが、それもあっけなく破られていく。

 圧倒的過ぎる奔流の前に魔理沙はただ茫然とその光を見つめていた。

 霖之助に負けるなど悪い夢のようでしかないが、今回は用意周到に準備していたからこそ軍配が挙がったのだろう。


「霊夢、早苗――悪い――」


 魔理沙の意識はそこで無くなった。


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