第百四話 後天性体内酒精不全症候群
メンタ「ウェーイ!」
神々『ウハハーイ!』
メンタ「ノッてますか?」
神々『ウハハハハーイ!!』
ーーレミリアーー
咲夜の捜索の時、レミリアは滅多に覗かない運命を視た。
紅い月が昇る夜の日。
皆、死んでいた。私は咲夜に仕留められ、紅魔館は燃え上がり、フランも、美林も、パチェも死んでいた。地に落ちているのは何十万という妖怪の死骸。
メンタは泣きながら去っていく。
霊夢も、魔理沙も、イナバ、藍、橙、アリス、霖之助、椛、慧音、射命丸、てゐ、幽々子ーー他にも大勢が死んでいた。
なんでこんなに死んでいるのだろう。
疑問に思った私はもっと深く視てしまった。
その根底にあるのは、スルト。
境界世界のお城の中で彼は実の娘に心臓を剣で貫かれて死んだ。あのスルトが、だ。
彼が死ぬと世界は大きく揺らいだ。全てがが終わるかもしれない前触れとして、その邪悪な波動はいくつもの異世界にまで飛来し、人々を狂乱せしめた。
これが原因だ。幻想郷はその余波を受けたに過ぎなかったがーー戻ってきたパルやスルトがあんな地獄を見たらきっと正気ではいられないだろう。
メンタは、あの絶望に満ちた世界を見てきたらしい。なんとかしようと十年以上もたった一人であんな馬鹿げたことをしていたようだ。
無事で済むはずがない。何故、彼女はまだ生きていられる? 限界なはずだ。どんな化け物だってアレを維持するのは無理だ。
私とて同じことをしろと言われても無理だろう。
ならばせめて、彼女の友人として私にできることをしてあげよう。
今からでも、彼女の命を引き伸ばすことくらいは出来るはず。
例え逃れられない結末が待っているとしても。
ーーせめて、パルと会うまでは。
ーー博麗神社ーー
博麗神社にて、現在お祭り騒ぎが起こっていた。
それというのもやるべき事が片付いてスッキリとしたメンタがハイテンションで弾けていることも起因する。
「ハイ、事変をある意味纏めて片付けたオレは絶賛博麗神社に戻ってきて宴会しております! そして早苗さん!」
「は、はい?」
「スルトさんと一晩を共にした感想をどうぞお願いします!」
それはついこの間、月面での祝勝会の時に早苗はスルトと共に寝ているのだ。
メンタたちからすれば十年以上も前の話だが、ここで野暮を言う者はいない。
『イエエエエエエエエエエ!!』
言ーえ! 言ーえ! とジョッギを片手に騒ぎ立てて視線は全て早苗へと集中する。
「えええ!? きゅ、急にそんな事言われましても……」
突然のことに戸惑うが、これは果たして素直に言った方が楽なのか、それとも見栄を張った方が良いのか悩む。
「そうだ! そうだ! 早苗ちゃんの心は渡しても!」
「体までは渡さないのだー!」
『つまりぃ?』
神々が合いの手を入れて、静寂が訪れる。
これはもう素直に言った方が良いだろうと観念して早苗は小さく告げた。
「そ、その……まだ、……です」
『聞こえませ~ん!』
「まだ○○なんです!!」
ウェーイと掛け声と共に再び乾杯の音が鳴り響く。
「それを公言させるお前らはかなり鬼畜だと思うんだが」
「無駄よ。ノリが完全に酔っ払いの中年だもの」
魔理沙の声も虚しく、その後も早苗の関係性をネタに質問が続けられる。
霊夢は呆れつつ、ふとメンタ の方に視線を向ける。
そっちでは神々に混ざってはしゃいでいる彼女の姿があった。
「うぇぇぇええええい!」
「イエエエエエエエエエエ!」
あの時の深刻そうな表情は未だ頭に残っている。だが、最近はその姿も少なくなっていた。
ーー……でもまだ引っかかるのよね。
ボーッとそんなことを考えていると背後から紫がワイングラスを片手に現れていた。
「あら? 霊夢どうしたの?」
「紫……ううん、ちょっと気がかりなことがあるだけ」
「言えること?」
「さあね。私もまだ確信したわけじゃないからまだ良いわ」
多分結託しているだろう紫に相談はできない。紫もそれを分かってか追求はしなかった。
「そう。それなら私の方から一つ謝っておかなくちゃね」
突然の詫び宣言に何かしでかしたのだろうか、と霊夢は不安になる。思い当たることと言えば借金くらいだがーー。
「は?」
「パルさん、仕事が思ったよりも早く終わって年末は帰れるそうよ」
明鏡止水の領域、無の心とはこのことをいうのか、と霊夢の頭の中を真っ白になって高笑いした。
「あはは~、ごめーん、よくきこえな――」
「パル姉が帰って来るんですね! ひゃっはー!」
メンタの叫びによってパルの帰宅話へと話題が変わっていく。
「かふっ」
霊夢は喀血した。もうダメだ、お終いだ、と諦めて膝を屈する。
博麗神社の衰退と滅ぶ様がありありと幻視できた。
宴も過ぎた次の日の朝。
メンタは出張してきた瑛琳に体のだるさと頭痛、僅かながらの目眩を訴えて診断してもらっていた。
「超頭痛いです」
「先生、診断結果は?」
「後天性体内酒精不全症候群ですね……」
「つまりただの飲みすぎ二日酔いと」
「はい。迎え酒を少し飲むと楽になりますよ」
「はーい」
あまりにも大したことない症状だったため診察も終わり、瑛琳は明細書だけ残して他の診察に移った。
「さて! 冗談はこのくらいにして……おっとっと」
勢いよく立ち上がると珍しく酔いどれ足取りでフラついた。横からてゐが支え、座らせて水を飲ませる。
「飲みすぎは冗談じゃないんだから一人で出歩くのは禁止だな」
「だな。地球でも酒の飲み過ぎで駅のホームから転落して挽肉になるって事件が絶えないらしいからな」
魔理沙は地球に行ったことはないが、早苗から聞いた話では仕事や人間関係、学校で疲れ切ってしまった人間は自ら挽肉になることを望むらしい。
かく言う早苗も一時期は粗挽き肉か地面の染みになりたかったと供述している。
「恐いですよねー。余談ですけど駅で死ぬと怨霊化するって知ってましたか?」
「そうなの?」
怨霊化は幻想郷でもままある怪異だ。特に恨み辛みが溜まったまま死ぬと怨霊化し、陰陽師に退治されることになる。
「はい。駅で死ぬと周りの人からは『悲しい』とか『可哀想に』とかの同情心は貰えず『何で駅で死ぬんだ。首吊って死ねよ』とか『電車が遅延するだろマジふざけんな』とか『もうマジ最悪。死体蹴っ飛ばしてやろうか』って皆さん思うので死んだ人は大抵その怨みを溜め込んで怨霊化します」
「くっ……地球って世知辛いんだな」
聞き耳立てていた早苗もうんうんと肯定する。
地球の人間の概ねは幻想郷のように暖かくない。
「どんなものでも死は尊い物。それを鞭打つなどあってはならないのです。人は死すからこそ生を喜び、分かち合って生きていくのです」
幽々子もそれはそれは悲しそうな表情で扇子を広げて口元を隠しつつ嘆いた。
「サラッと混ざりましたが、本音は?」
幽々子はクスリと笑って答えた。
「あらあら。冥界では怨霊の鞭打ちなんて当たり前のことよ? ほら、よく言うでしょう。人の上に人は立たずって。だから私たちGODが鞭打ってあげるのよ。頑張ったご褒美にね」
「はい、鬼畜解答ありがとうございました」
だが、とレミリアは少し気掛かりを覚える。
「待って。それだと怨霊とていずれは死んでしまうわ。そんな消耗品みたいに扱っていたら――」
実に勿体無い。もっと長く有効活用できる方法があるはずだ、とレミリアは言いたい。
「それは大丈夫です。冥界では疲れを感じません」
「……つまり死んだ生物は24時間365日動く奴隷ということか?」
「極々一部の者を楽しませるための尊い犠牲は付き物よ。それにこれはちゃんとした商売でもあるのよ」
「商売ですか?」
霖之助さんが聞いたらキレそうですね、とメンタは思う。
「はい。冥界商法と言いまして、現世でお金を好きなだけ貸す代わりに死後は使った分を返済するため魂を冥界に連れて行き、持続式の利子を設けて永遠と働かせます」
「ちなみに破ることは?」
「出来ません♪」
懸念されていた踏み倒しも死んで冥界に落とされれば逃げ場などない。魂に手足はなく、口もない。疲れることもなく精神も磨耗しない。
ただひたすらに上から命令されることを自分の意思とは関係なく繰り返す。
死後の世界を信じない輩ほど死後で地獄を見ることになる。
「ハッ! ってことは紫さんに是非とも教えてあげなければ――」
「はいはい、ゆかりんでーす! 悪徳商売はお断りでーす!」
紫は比較的善良なる神である。中には自分の星の生物は資源のように考える神もいるが、少なくとも紫は自らの民を売り払うような悪魔的商法に手を染めるつもりはなかった。
「そろそろBBAという自覚を覚えた方が良いと思います。ところでその理屈で仮にスルトさんを冥界に連れて行けたらナニをどうしますか?」
仮に、という妄想をする分にはタダだ。
それならばと幽々子も少し妄想を膨らませてその生活を想い描く。
「うふふ、それはもう毎日が楽しくなるわね。寝起きには温かい紅茶を入れて貰い、朝は妖夢と一緒に朝食を作って食べて、午前中は家事と妖夢の稽古ね。昼食を食べたら午後は町にデートに行くの。夕方は外食して、夜は二人で寝ます。そして妖夢が寝静まったら二人で甘い蜜月を過ごし、喘ぎを聞いた妖夢がコッソリ全裸になって縛りプレイを――」
タァンと音を立てて障子が開かれて妖夢が飛び込んでくる。
「なんで私を変態にするんですか!」
「なるほど。流石は変態剣士ですね」
「ちょっ――」
ギャーギャーと抗議する妖夢には取り合わず、メンタはレミリアに視線を向けてみる。
「レミリアさんはスルトさんが居たらどうですか?」
「わ、わわ、私? ど、どうにもしないわよ」
そう言いつつも視線を逸らして赤面するあたり何かしらの想像はあったのだろう。
「仮の話ですよ?」
「か、仮? 仮……そうねぇ。スルトが居たら……少なくなからず影響が滲み出るわね」
「滲むんですね」
ええ、そうよ。と前置きしてから続けた。
「夜の間は私とフランの遊び相手になって、昼はパルと咲夜に連れ回されることになるでしょうね。暇があればパチュリーの所にも顔を出すでしょうし……ついでに美鈴の苦労も半分くらいは引き受けそうね」
「過労死直行便ですね」
その程度で過労死するようならスルトはもうこの世にいないだろうが、彼女たちが知る由もない。
レミリアも興が乗ってきたのか饒舌になる。
「その次の年くらいには子供も生まれているでしょうね」
「……ちなみに誰のですか?」
「当然、咲夜とパルのだけど」
「あんたは生まなくて良いの?」
レミリアとて母親になってみたいという気持ちはあるが、40年程度しか生きられない人間との間に子を作る気はなく、他種族とでは子は出来にくいことを知っている。
しかしそろそろ500歳にもなろうというのに相手はおろか性的行為の一つもしていないのでは一生独身もあり得るのではないか、と思いつつもある。
その点、咲夜は長寿ではあるが人間だし、パルもスルトと結構いい感じなのはみていて分かる。
少なくとも自分より先に子を作ってくるのは間違いないだろうと確信めいた自信がある。
だがそれはそれ。霊夢の問いは鼻で笑い飛ばした。
「馬鹿ね……私は『おねーちゃん! おねーちゃん!』って呼ばれたいの!」
力説する中、全員が視線を逸らして小声と視線で会話していく。
「常識的に考えて『おばーちゃん』ですよね」
「それ以前にフランが聞いたら切れそうだな」
「いえ、もっと普通に考えたら……あの咲夜さんのことですので自分の子だろうと徹底的にメイド教育をすると思います」
「そしてそのメイドもスルトの毒牙に……」
ふと、メンタはそんな背徳的な行為は法律上良いのかと疑問に思う。
「紫さん、幻想郷って近親的なアレってオッケーでしたっけ?」
「割とよくある話よ? 血の関係なら世界構築の際に境界を弄って置いたわ」
つまり合法ーーとメンタが目を見開いた。
「待て待て。メイドって言っても男の子が生まれる可能性だってあるだろ?」
「お嬢様なら能力を使ってでも女の子にすると思います」
咲夜がいつの間にか参加しており、諏訪子と神奈子もお茶を片手に座っていた。
「いえ、男の娘にするかも――」
「フホッ。ストライクゾーン広いのだ~」
「それよりもパルがスルトの毒牙にかかっても良いのか?」
「全く良くはありませんが、パル姉が幸せならオレからは何も言いません。パル姉をNTRます」
「フフフ、流石は腐の伝道師。発想が凄いわ。あと咲夜、男の娘と女の子ならどっちが良いかしら? いいえ、順番が先ね。無理矢理孕まされるのと合意の上で孕まされるの、どっちが良い? いえ、いっそ霖之助とか枢もあるわよ」
咲夜は少し考える。
スルトをパートナーとして考える場合、悪い話ではない。だが、既に気のある早苗と取り合いになるかハーレム状態になるのは確実。仮にハーレム化した場合、独り占めは難しいしスルトを過労死させることは間違いない。
次に霖之助。冴えない割には優良物件だ。しかし意中の相手とするにはイマイチ気が乗らない。
最後に枢。悪くはないが霖之助同様に相手としてみるのは不可能だろう。
「とりあえずお嬢様を殺しますね。オホン、失礼しました。唐竹割と兜割のどちらがよろしいでしょうか?」
「痛い痛い痛い」
何を馬鹿なことを真面目に考えていたのだろうと咲夜は赤面し、レミリアの頭上にナイフを突き立てた。
「次は魔理沙さんです。どうでしょうか?」
「先に聞くがスルト一択なのか?」
「変態之介さんと変態さんが良ければ三択になりますよ」
「枢は押し入りはするけど変態では無い」
シンの言う通り前科一般ではあるが、基本的に真面目で一流の陰陽師という箔もある。
「それならスルトが良いな。そうだなぁ……、……、……いやちょっと待ってくれ」
「どうしましたか?」
「ヤバいぜ……凄く幸せな未来しか浮かんでこない」
恐らく、朝から晩まで魔法の研究をしていようが、何処かに連れ回しても肯定してくれるだろうと魔理沙は思う。
「恋愛脳乙です。妖夢さんはどうですか? スルトさんと幽々子さん、どっちと取りますか?」
「えっ? 私ですかぁ……それはやっぱり幽々子様ですね」
「そうして捨てられた私は一人寂しく白玉楼で過ごすのね――って、え? 妖夢、今なんて?」
うっうっ、と泣き真似をして、ふと我に返った。幽々子もまさか妖夢がそう言ってくれるとは思ってなかったこともある。
だが、妖夢は決めていたかのような落ち着いた態度で答えた。
「ですから、私は幽々子様が良いです」
「苦労するよ?」
「大丈夫です」
「借金に困るよ?」
「何とか出来ます」
「色々事変を起こすわよ?」
「今に始まったことではありませんので」
「決意は固いようですね。では婚約指輪の交換をしましょうか」
「はい!」
「は――いやいや! うっかり流れに乗せられそうになりましたよ!?」
主人としては苦労するが、やりがいはあるのだからそれで良いのだ。
「次は咲夜さんにしたいところですが――多分同じ回答ですよね?」
「そうですね。こんなチンチクリンの主でも仕えたいと思っている私がいますからね」
どれだけ無理難題を押し付けられようが、理不尽に悩まされようとも今の生活は好きなのだから。
あと主人を乱雑に扱うのが楽しくなってきた、とも付け加えられる。
「ちょっと? 随分と聞き逃せない言葉が混じっていたんだけど? ねぇ、咲夜?」
「諏訪子様と神奈子様はどうでしょうか?」
レミリアの事はスルーされ、二柱にパスが回される。諏訪子たちは仮に、としても難しい顔になった。
「うーん……個人的には凄く優良物件だと思うよ。うん」
「私も早苗ちゃんが居なければ考えたかもしれない。うん」
「どういうことですか?」
『神×神って子供が出来ないんです。ハイ』
神界において神と神の間に生まれた子供は特別な力を持つため、神話体系の勢力拡大を防ぐためにも禁止されている。
また、神と人との間にも子は作れないため、気に入った人がいるのであれば神格は封印状態で現界する必要がある。
余談だが、子供が出来ないだけで性的行為は可能だである。
「別に子供だけが幸せでは無いですよ」
「それを言ったら私は現状で凄く満足しちゃってるのだ」
「そうだね。紫はどう?」
同じ神格として神奈子が聞いてみると、紫は一つ唸った後に告げた。
「そうですね――男性として見るなら、むしろ私の方がちょっと申し訳なくなるレベルの人ですね。伴侶に出来れば100%幸せになると確信します」
「思っていたよりも高評価だな」
「ですが、今の私が交際することはありません」
「理由は?」
「――今、私がそういうことしたら借金のために身体売った女狐とか言われそうで……シクシクシク」
「――どこの世も世知辛いわね……」
その後も談笑は続いたが、一人として霖之助と枢に票を入れた者はいなかった。
悪くはないが伴侶にするほどではない、というのが二人への評価であり、スルトもフリーだったなら即決してた、と評価が下った。
季節は秋から冬へ移り変わる。
咲夜の事件以降大きな事柄もなく、偶に来る依頼をこなす以外は何もない穏やかな日々が続いていた。
博麗神社の木々にも雪が降り積もり、妖精が雪合戦している様子が居間からも見えていた。
「季節は遂に十二月。肌寒い日々が続く中、予定も段々と早まっていく今日この頃です。いえ、本当に寒いんです」
「雪降ってるからな」
「こんな日はコタツで蜜柑食べて過ごすのが一番よ」
居間にはコタツと暖房器具が取り出され、窓も冷気が入らないように閉められていた。
冬コミの新作も出来上がり、チェイルズシリーズの書き溜めも充分に貯まったため、メンタもお茶を入れてコタツに入った。
「はー、温かいですねー」
ぬくぬくしていると霊夢と魔理沙がカレンダーを見つつ呟いた。
「しかし本当に寒いわね」
「確かに今年は寒いな。というかまだ十二月なのか?」
「もう十二月よ。二十四日には冬コミがあるし」
「ああ、寒いわねぇ。私にもコタツを――」
一仕事終えて帰ってきた紫と空いている席に座ろうとすると魔理沙は大の字になって寝転がった。
「悪いな、このコタツは五人用なんだ」
「その割には人数が多いような……」
見渡せばレミリア、咲夜、藍、フラン、妖夢、シン、勇儀、萃香、早苗、幽々子がいる。
コタツは特注の物を使用しており、テーブルも居間の4分の1以上を占める大きさだ。来客が増えればその分だけテーブルを増設するため入り損ねることはない。
「……気のせい」
「きのせーだな」
「……そうですね」
「……そうに違いないわ」
「五人だと、あと五人減らさなきゃいけないね」
「いいえ、お嬢様。コタツの中に五人と寝そべっている人がいますので最低でも十人は出ていく計算になります」
少し視点を変えると橙、諏訪子、神奈子、輝夜、てゐが寝転がってゲーム機で対戦していた。
何やら嫌な予感を覚え、何が起きてもいいように諏訪子たちは身構える。
「メンタ!」
なら仕方ない、と霊夢は左手をメンタに向けた。
「はい!」
「令呪を全て使って命じるわ! お酒買ってきなさい!」
「凄まじい無駄遣いですね!」
ちなみに酒はこれでもかと蔵に貯蓄があるため買いに行く必要はない。
誰が出ていくか、視線で牽制し合い、時にはコタツの下で蹴り合う。
そうだ、と幽々子はお茶受けを皿に置き、妖夢を見つめた。
「妖夢、外で雪合戦はどうかしら?」
外は大雪が降り積もって運動するには絶好の機会。幽々子の運動不足の解消にもなる、と妖夢は思い立つ。
「では幽々子様も一緒に参りましょう」
腕を掴まれてそのまま外に放り出される。
「いやぁぁあああ! 麻袋に詰められるぅぅ!」
盛大に自爆した幽々子に合掌し、残り8人。
レミリアも咲夜を退かそうと視線を向けた。
「フフフ、咲夜」
「はい、ロングコートですね」
「……咲夜」
「マフラーと手袋ですね」
「…………ねぇ、咲夜」
「お風呂は沸かしておきますので思う存分遊んでください」
いつの間にか着替え終わっており防寒対策も万全になっている。
「待って! 誰がそんなこと言ったの! 私は外に出たいなんて――」
「わーい!」
ガシッとフランに腕を掴まれて外に引き摺り出される。ついでに橙も足を掴まれてコタツから出されていく。
「え、あ、ちょ、フラン――!?」
「みぎゃぁぁぁああ!!」
「ちぇぇぇん!!」
縁側の障子と扉が開け放たれて、雪原の世界に三人は消えていった。寒気が室内の温度を下げ、しかし誰も立ち上がる者はいない。
「さてと……」
しかしその中で早苗は誰よりも先に立ち上がり、窓を閉めてコートを羽織った。
この寒空の下に自ら出るなど自殺行為以外の何者でもなはずだが、その真意は掴めない。
「何処へ行くんだ、早苗?」
「偶には外で遊ぶのも良いかなぁって思いまして」
「あんたが自分から外行くなんて珍しいわね」
神奈子も霊夢も意外そうに眉を上げた。
そんな無様な彼女たちを見て、早苗は薄く嘲笑した。
「ええ。……コタツでぬくぬくするのは総じて年寄りだと相場が決まっておりますので」
その一言は挑発か、あるいは年上に対する侮辱か。どちらにせよ発言を看過することなど出来ない。
自ら年寄りになるのは簡単だが、若さは行動からしか生まれない。
「わ、私も外行こうかな!」
「これ以上BBA化してたまるかぁぁ!」
「売られた喧嘩は買うしかないわね。紫みたいにならないようにしないと」
「そうだな」
「ええ」
「えっ? 私が基準なの?」
暖房が切られ、コタツの電源は落とされて残っていた全員が一斉に表に出た。
冬場は博麗神社に参拝客は来ない。里人も基本的に家から出ないのが風習であり、出るとすれば子供か妖精くらいだろう。
「第一回! 博麗神社大雪合戦!」
霊夢の宣言にやる気ある若者と寒さに震えるBBA共が拍手する。
「ルールは対等数に分かれ、相手の陣地に立って居る旗を取った方が勝ち。何か質問はあるかしら?」
バッとメンタが手をあげる。
「うははーい!」
「何?」
「相手はどうすればアウトに出来ますか!」
「人は石垣、人はATM。民なくして国はあり得ないわ」
「つまり?」
「兵士は死ぬまで戦うものでしょう?」
「イエス・マム!」
「戦力はどうやって分けますか?」
「そこは均等になるようにするわよ。あ、言い忘れていたけど攻撃方法は雪等を使った攻撃に限るわ。スペルカードとか使ったら蒸発するまで殴るから、橙が」
橙の手を軽く握り、シャドーさせる。手袋もしているため打撃力は普段の一割もない。
「にゃっ!?」
「肉球パンチですね!」
「ほら、適当に分かれた分かれた!」
霊夢の一言で各自適当に分かれていく。両陣営には赤、黒の旗が立てられ、距離は約50mほど。
赤陣営は霊夢、メンタ、シン、藍、幽々子、早苗、てゐと輝夜だ。加えて大妖精とチルノも加わっている。
「マッチ、マッチはいりませんか? 温かいマッチはいりませんか?」
寒いですねー、と呟きながらメンタがマッチを擦っては組み上げられた即席の組み木に火をつけようとする。
「このマッチを買うと幸せになるよ~」
「年末の宝くじも当たりますよ~」
「ワンワン」
「にゃー」
「買ってくれないとそこの妖精に投下しないといけないんです……」
その組み木の中央に聳え立つのは十字の処刑台。そこにチルノは縛られており、今まさに火がつけられようとしていた。
「ちょっと待って! これ火刑! 火刑! あたい溶けるぅぅ!!」
「バケツの用意はもう出来てるわ! さあ、早く! 私のおやつになりなさい!」
真下にはバケツと幽々子が待機しており、かき氷シロップも用意されていた。
「イヤァァァァッァァァァ!!」
「これが、アイ、スクリーム」
「チルノちゃーん!」
「い、イヤダァ! あたいまだ死にたくない!」
妖精界枠でもこんな雑な遊びをチルノは知らない。雪合戦だと思ってきてみれば始まろうとしていたのは想像を絶する残酷な処刑だった。
「チルノさん、それなら良いおまじないを教えてあげます」
早苗は聖母の如く微笑み、告げる。
「えっ? なに?」
「『主よ、この身を委ねます』――はい、唱えてください」
「う、うん。『主よ、この身を委ねます』。って、これ何の呪文?」
幻想郷住民は知る由もない地球の聖女の話。メンタは知っていたため涙ながらに頷いて語ってあげた。
「聖女ジャンヌ・ダルクが火刑に処された時の最後の文言ですね。唱えたが最後、死にます」
「あっ、付きそう」
シャッという小気味良い音と共にマッチが擦られ、すぐに組み木に放る。中に配置していた着火剤が燃え上がる。
「あっ、ちょっと火の勢いが強いですね。早苗さん、そこのバケツ取ってください」
「はい」
中に入っていたのは液体だ。流石に自宅でキャンプファイアーするほど人間も馬鹿じゃない、あー良かったとチルノは思う。
バシャッと液体が組み木にかかると激しい音を立てて組み木が燃える。着火剤の数を間違えたかのような燃え具合に遠くに退避していた大妖精は目を見開いた。
「アーっ! 燃える! アタイ燃えてるー!」
チルノは業火に包まれ、助けようにも近寄ることは出来ない。一体何の液体をかけたのか、とバケツに近寄るとキツめのアルコール臭がした。
納得と共に大妖精は敵陣営の方に顔を向けた。もう助けることは出来なさそうだ、と諦めたのだ。
「というわけで『これ』がこっち旗です!」
燃え盛る紅蓮の旗も焚火の中に放り込み、メンタは力強く宣言した。
敵陣がドン引きしていたのは言わなくても分かるだろう。
ー神々の遊びー
神ロキ「じゃんけんしようぜ! お前グーな! そーれ、じゃーんけーん」
神ヘスティア「グー」
神ロキ「馬鹿が! かかったな! 俺が卑怯な神だと知っている貴様は俺がパーを出すわけがないと考えてパーを出し相子を狙う! しかしそれは俺の読み通り。つまり俺はチョキを出せば絶対に負けたぁああああああああああああ!?」
神々『お前馬鹿だろ』




