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東方幻想腐女録  作者: グラたん
第一章
114/119

第百三話 ■■■■■■■■■■

メンタ「黒塗りタイトルって酷いですねー」

グラたん「私もそう思います」


――博麗神社――

 咲夜を抱えて無事に帰宅を果たしたメンタたち。

 博麗神社では騒がしい飲み会が開かれており、そこらかしこに神々が座っていた。

 その中に霊夢の姿もあり、包帯は取れて酒瓶を高く掲げていた。


「ただいまです!」

「おかえりー。あ、おつまみ買って来てー」

「いつも通りのクズっぷりに安心しました。おつまみは魔理沙さんが持ってきます」

「おーい」

「ハイハイ、退いて退いて」

「よっこらしょ」

 

 居間に布団を敷いて咲夜とイナバを寝かせる。何故イナバも、と思うかもしれないが実は戦闘中に流れナイフに当たって気絶していたのだ。

 そんなイナバの顔にタオルを被せ、チーンとトラアングルを鳴らす。


「あら、咲夜見つかったのね」


 紫も姿を見せ、全員が無事なのを確認してホッと安堵していた。


「はい。イナバさんも頑張ったのですがジャック・ザ・リッパーと化した咲夜さんにウメェwウメェwとモツを食われてしまいまして……」

「実際そうだったら博麗神社より先に永遠亭に宅配するのだ」

「人は宅配出来ませんよ?」

 

 早苗がタオルを退けて額に濡れたタオルを乗せる。幸いにも顔面にナイフがぶつかった以外に傷はない。


「それ以前に宅配してはいけません。兎肉は食料になりますがイナバさんはれっきとした妖怪ですので」

「兎の骨、ポリポリしてて美味しいんだよー」


 橙の無慈悲な一言でイナバの身体が跳ねる。


「びぐんびぐん」

「ほら、イナバが夢の中で痙攣してるから止めたげて」

「腐腐腐、さてと――オレはちょっとお堂の掃除でもしてきますね」


 時間は既に夕暮れを過ぎており、掃除するには適さない時間だ、と霊夢は思う。ならばメンタがやろうとしているのは恐らく別のことだろう。

 立ち上がった横顔を見てもいつもの彼女だ。

 

「……メンタ」

「はい?」

「……ほどほどにして切り上げなさい」

「もっちろんです! 夕飯食べ損ねたくありませんから!」


 タタタと軽快な足音を残してメンタが去っていく。

 手を軽く振って見送った後で霊夢は表情を暗くした。魔理沙もその変化に気付いて問いかける。


「どうした、霊夢。さっきから深刻そうな顔をして」

「いや、ちょっとね。どうもさっきから胸の中がモヤモヤするのよ」

「それは……確かにちょっとモヤモヤしてますね」


 近くで聞いていた早苗も胸焼けに近い感覚を覚え、その巨乳に手を当てる。


「んー? そうか?」


 魔理沙は何も感じず唸るだけだ。


「同じ巫女として何か感じるものがあるのかもしれないわね」

「紫……」


 例の件以来、どうにも信用出来ない紫。事変を起こそうという感じではないが、何かに関わっているのは明白だ。


「あら? メンタは?」

「メンタならお堂の方に行ったわよ。修行中だと思うから邪魔しないであげて」

「用件ならこっちで聞くぜ」


 紫は少し考え込むような仕草をして、霊夢はそれを不審げに見上げていた。


「何よ。メンタじゃなきゃダメな理由でもあるの?」

「いいえ。そうではないのだけれど……まあいいわ。さっきスルトさんから連絡があって……霊夢、喜んでいいわよ」

「何を?」

「パルさんが年末年始は帰れないらしいわ」


 それはつまり年末年始の稼ぎは守矢一強にならずに済むということだ。


「イエス!」

「えええ……」


 逆に早苗はパルと一緒に仕事したかったため、深いため息をついて落ち込んだ。


「そうなのか。……でもそれならメンタには早めに言った方が良いかもな」

「そう思ってここに来たのよ」

「ま、夕食の席にでも言えば良いわよ」


 クスリ、と紫は笑った。

 それが何故なのか霊夢は分からなかったが、その笑い方がヤケに不気味だった。



 お堂の裏手にある秘密の階段を降りてメンタは博麗大龍神の塒に来ていた。

 あまりにも古くて錆び付いていた扉は新品の扉に変えられ、何世代も前から受け継がれてきた内装は取っ払われて今や冷蔵庫、エアコン、新型TV、カラオケまで用意されている堕落部屋と化していた。


「博麗大龍神様やーい」


 その龍神様は球体から抜け出して人型のまま布団に包まって狸寝入りしていた。


『ぐー』

「起きないとこの球体にナメクジつけますよー」


 後で洗えば済む話だが、メンタは悪ふざけも全力でやることを知っているため、博麗大龍神はのっそりと起き上がった。


『ちぃ……何用か、次世代の巫女よ』

「未来、どうなってますか?」


 そのことか、と欠伸しつつ答える。


『……それを我が伝えることは無い。答えはもう間もなくやってくる』

「やっぱりウミウシが良いですか?」


 答えないともっと酷いことされる、と感じた。


『……良い方向には向かっている。此度の事変を未然に防げたのは大きい』

「いや、それは分かっています。もっと先はどうなっていますか?」


 そこまで答えると未来が変わる可能性があるため、せめてもの抵抗に言葉を圧縮することにした。


『■■■■■■■■■■』

「未来式圧縮言語を使うほどですか!? まぁ、分かったので良いですけれど」


 良い方向なのは間違いないのだろう、とメンタは確信する。


『次世代の巫女よ。事は既に終焉を迎えた。その時を待て』

「了解です! 今日はシャンパン飲みますよー!」

『我にも一本献上しても良いのだぞ』


 博麗大龍神の言葉は無視してメンタはスキップして鼻歌混じりに帰っていく。

 ニュッと横から手が伸びてグラスにシャンパンを注がれる。


「はい、シャンパン」

『クッ……歴代の巫女はもっと我を敬い、恐れ、丁重に扱っていたのだぞ。それをこうも雑に扱われると……』

「はいはい」


 紫は苦笑いしつつ、明確に変わった未来を見つめる。明るい未来。メンタが勝ち取った未来。

 あと残すとすれば、霊夢が気付いてメンタを止めに来ることだろうか?

 もし、そうだとしても今回はもうメンタの勝ちだ。山場は乗り切り、後は向こうが終わるまで待てば良いだけの話。

 

「あっちもだいぶ大詰めみたいだし」


 紫が見据える先にあるのは神々と勇者の集団に袋叩きにされている大蛇の姿だった。




――過去・メンタ――


 皆さんは知っているでしょうか。

 事件・事変というのは『別に二個や三個同時多発して後々にまで影響する』ってことを。そうなった場合どこまで酷くなるのか。

 答えは簡単です。『どこまでも』です。


 遙か過去、まあ1000年以上も前にロンドンで『ジャック・ザ・リッパー』という通り魔がいました。当時の通り名は『切り裂き魔』『切り裂きジル』なんていうのが主流でしたみたいです。

 現れたのは蒼月の夜。当時のロンドンは産業革命期に入っており、ガスや有害物質を町中に溢れさせていました。しかしそれとは別に霧が深い町としても知られています。

 その闇霧に混じって通り魔を――ひいては食人行為をしていたのがジャック・ザ・リッパーです。

 彼女は『あぁ……血肉が食べたい』と口にしていたそうです。いや、しています。


「あぁ……」


 ナイフを二本持った超ド級の食人殺人鬼、咲夜さん(ジャック・ザ・リッパー)が目の前に居ます。

 事の始まりは西行妖を、幽々子さんと討伐して少し経ったある日のことです。町一つを血に染めた殺人鬼がいるという情報を里人の若者たちがわざわざ博麗神社まで来て伝えてくれました。勿論、貴重なお仕事なのでオレは安易に請け負って殺人鬼狩りを始めました。

 わりと活動的な殺人鬼らしく、夜になると何処からともなく現れて大通りで食人行為を始めるため噂はあっという間に広がってオレの耳にも入ってきました。

 その現場へとやってくるとちょうど一人食べ終わった殺人鬼が目の前にいた、という次第です。


「肉……肉……肉ぅぅ!!」


 普段からは考えられないような雄たけびをあげ、咲夜さんが時間を停止してナイフを投げてきます。

 しかし暴走していることもあって動きは単純です。ナイフが何処に来るのかもわかるほどです。ナイフを避け、能力を発動して咲夜さんの動きを止めます。


「そーれ!」


 弾幕を一挙に使って仕留めます。その後? その後は博麗神社にお持ち帰りしてムッフーなことをさせて貰います。



 ハイ、それから数日後です。咲夜さんをそれはもう凄いことにしてから起こし、今回の顛末を話し、ほとぼりが冷めるまでの間は博麗神社で働いて貰っています。

 紅魔館の方には紫さんが話を付けに行っています。里や町でどれだけ人間が死のうが喚こうがぶっちゃけ博麗神社にはあんまり関係ありません。何故ならそうなった方がお仕事が舞い込んでくるからです。

 それに人の寿命は40年ほどなので事変の傷は時間とともに消えてしまうのです。


「ここに居たのね」


 私室で冬コミ用の同人誌を書いていると紫さんがスキマの中から姿を現しました。


「紫さん、どうしましたか?」

「事変です」

「あ、またお仕事ですか。二連続は珍しいですねー」


 と、言いつつ紫さんの表情を見て、オレも軽口を止めます。


「どんな事変ですか?」


 霊夢さんが重傷を負った今、事変を解決できる巫女はオレか早苗さんしかいません。


「その前に言っておかなければならないことがあります」

「はい、何でしょう」


 紫さんの表情が苦渋に満ち、この時のオレは心象を想うことが出来ずにいました。


「先の町の事変で里が四件、町が七件滅びました」

「……はい」

「この事変で生き残った者の何名かが咲夜さんの素性を暴き、紅魔館を焼き討ちにしました」

「焼き討ち、ですか?」


 返り討ちに遭ったんですね――と加える前に紫さんは告げました。


「その何名か、ですがその中に天狗や悪魔などの大妖怪が混じっており――総決戦の末に『双方ともに壊滅しました』」

「か、壊滅……え、まさかレミリアさんやフランさんも?」

「……いいえ、偶々レミリアさんだけは別用で紅魔館を空けており――今現在、『暴走』しています」

「それは――つまり……」


 紫さんはそれ以上は何も言わず、地図だけをオレに渡してスキマの中へと消えて行きました。

 オレは――。


「私も行きます。いえ、行かせてください」


 そこで寝ていたはずの咲夜さんが起き上がり、オレにやられて重傷なはずの体に鞭打って立って居ました。

 その瞳には固い覚悟が見え、オレに止めることは出来ません。

 そうしてオレたちは人間なんかの為にレミリアさん討伐に向かいました。

 


 吸血鬼というのは総じて化け物です。有名な吸血鬼であればヴラドやバートリーなどですね。噛まれれば吸血鬼になり、にんにくや十字架が苦手で、棺桶に閉じこもる習性をもった怪物です。そして何よりも苦手なのは太陽です。

 幻想郷の太陽は陽の光こそあれどレミリアさんたちに直接害が無いように有害物質を隔離しているそうです。

 まぁ、つまりは『昼間でも容赦なく活動を続けられる』ということです。


「それ以前に人間が勝てるのか、という疑問は尽きませんが――」

「ウルガアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 目の前にいるのは真なる意味で化け物と化したレミリアさん。対するオレは先の戦いでシャイトゥーン・フォルフェクスを大破させてほぼ丸腰と言っても良い状態です。


「メンタさん、私にやらせてください」

「……わかりました」


 何となくそんな気はしていましたが、もう止めません。 

 そうして咲夜さんとレミリアさんの戦いが始まりました。


 結論から言いますと、死闘でした。

 レミリアさんは理性が無くなろうと持前の馬鹿力は衰えず、咲夜さんがひっきりなしに時間を止めて躱しても破片や岩石が飛び散るため攻撃することは難しく、徐々に追い込まれて行きました。

 しかし咲夜さんも自身の能力の絶対条件である『時間を止めている隙に攻撃してはならない』という制約を破り、攻撃し始めれば今度は咲夜さんが一方的に追い詰めました。

 ――パル姉なら、きっと上手く出来たのでしょう。


「ああああああああ!!」


 裂帛の雄たけびと共に咲夜さんが純銀で作ったナイフをレミリアさんの心臓に突き立て、十字に切り裂きました。


「ガアアアアアアアアアア!!」


 レミリアさんは地上に落ち、そのまま絶命します。 

 咲夜さんもレミリアさんを討ったショックからそのまま地上に落ちて絶命しました。



 オレは二人の遺体を抱えて香霖堂を訪れていました。


「いらっしゃい……帰ってくれますか?」 


 何も事情を知らない霖之助さんはオレを視るなり嫌そうないつもの表情を作って出てきました。


「――棺を、二人分貰えますか?」

「……何があったんですか」 


 オレの声色を態度を見て霖之助さんは態度を変え、真剣な表情であらましを聞いてくれました。



 オレは咲夜さんを棺に入れ、香霖堂の裏手へ埋葬します。レミリアさんは今回の元凶のため首こそ掲げないものの、表向きはオレが討ったことにして、その遺体は焼けた紅魔館の前庭の一角に埋めます。

 そこに、斬殺されたフランさんとパチュリーさん、小悪魔さんたちの遺体も埋め、紅魔館の大きな門の頂上に掲げられた美鈴さんの首を胴と縫って埋葬します。

 悲しみよりも空虚が、空虚よりも絶望がありました。

 紅魔館で埋葬を終えたオレは香霖堂に戻り――。


『殺せ! 半妖怪を殺せ!』


 その中央広場で、霖之助さんが断頭台にかけられていました。

 理由は今回の事変に関係する――引いては紅魔館に色々物資を提供したという罪を着せられていました。

 そんな理不尽過ぎる理由にオレは憤慨して霖之助さんを助けようと弾幕を構えますが、断頭台に乗っている霖之助さんがオレを見て――『来ないでください』と笑いました。

 次いで、ダンッ! とその首が落ちて……オレはもうどうすることもなく博麗神社へと戻りました。

 


 それから三か月が過ぎました。

 霊夢さんの容体も安定し、多少は動けるようになって来ています。

 オレは、先月に起きた事柄のショックから立ち直れず霊夢さんの看病をしつつ、家事をして、後はただ後悔するだけの日々を繰り返していました。

 でも最近は寒くなって来ましたので編み物をしています。ボーっとするよりは、とただひたすらに居間で縫物をしています。

 すると今日は珍しく外の様子を見ていた霊夢さんが天狗唯一の生き残りである文さんが妖怪や神社のために発行しているブンブン新聞を片手に持って扉を開きました。


「メンタ……これ……」

「どうしました……か……」


 その渡された新聞記事と写真を見てオレは手を滑らせてしまいます。

 見出しは大きく、全くふざけた様子がない文字で書かれています。


『燃えろ! 魔女二人を焼き討ち!』

『先月の吸血鬼の事件に続き、今月も!? 巨大九尾の猛攻! 被害は甚大!』

『何故? 守矢神社の二柱戦争勃発!』

『偽薬を売りつけ、永遠亭焼き討ち事件』


「なんですか……何なんですか! これはッ!!」 


 オレはその写真を見出しだけで泣き叫びます。

 どうして魔理沙さんとアリスさんが魔女と罵られて火刑に処され、怪物と化した藍さんが人間の町や里を襲い、神奈子さんと諏訪子さんが殺し合い、永遠亭が焼かれなければいけないのですか! と。

 オレはその日、泣いて喚きました。

 こんなことをする人間を守る価値があるのか、と。事変が起きればまた解決しなければいけないのか、と。


「そうよ」


 霊夢さんは淡々と告げます。


「これが本来の巫女の――博麗の巫女の仕事。どんなことになろうとも幻想郷の均衡を保つのが仕事なのよ」

「では、人間は? 大妖怪が死んだ今は?」


 霊夢さんは一つの宝玉をオレに見せてくれました。


「これは紫が幻想郷の勢力均衡を図るために用意してくれた宝玉よ」


 半分は青、半分は赤。中央は白色をしています。


「青は人、赤は妖怪、白は神格を表しているの。私たちはこれを見て半分くらいになるように図り、多ければ滅ぼし、少なければもう片方を滅していくのよ」

「では……今は……」

「半分。手を加えることも滅ぼすこともないわ」

「何故ですか! レミリアさんが、魔理沙さんたちが、藍さんまでも死んだというのに!」


 霊夢さんは淡々と続けます。


「彼女たちが人間を滅ぼしたからよ」


 ただ事実だけを述べ、あまりにも空虚なその言葉にオレは顔を上げます。


 そこに霊夢さんはいません。


「霊夢さん? 霊夢さん!?」


 最初は幻覚を疑い、次いで辺りを見回しました。するとひらりと一枚の紙が天井から落ちてきました。それを手に取ります。

 宛名はオレ宛に、文章は――。


 藍が死に、橙も死に、霊夢は龍神の元へと召されました。

 私は神々の戦いに赴き、帰ることは出来ません。

 お堂の裏手にある階段を降り、博麗大龍神と会いなさい。

  

 短い三行の文を読み、オレは危なっかしい足取りでお堂の裏手へとやってきました。


「これですね」


 裏手には確かに地下へと続く階段があります。

 その長い長い階段を降りていき、やがてたどり着いた先は空気が澄み切った場所でした。そこに居たのは一体の龍。白い毛並みに赤い瞳。伝承の龍の様な姿をしていて、オレはこれが博麗大龍神だと察しました。

 龍は言いました。


「我、長き眠りより目覚め、外敵よりこの地を守る古の象徴なり」


 たった一言で心が騒めき、体が動かなくなり、それでいて恐怖がありません。

 ――これが神なのだとオレは思いました。  

 

「今代の巫女よ、よくぞ来た。我が博麗大龍神なり」

「今……代?」

「我ここに名を宣言し、其方に名を与えよう」

「ま、待ってください! 霊夢さんは! 今代の博麗の巫女は霊夢さんのはずです!」


 龍は首をゆっくりと降り、天を見上げました。

 オレも釣られて見上げると――そこには『断絶された空間の中』にいる霊夢さんがいました。


「霊夢は自らの命を幻想郷に捧げ、外敵より守護している」

「外敵って……月、ですか?」


 龍はまた首を振って否定します。


「否、月面も同様の攻撃を――否、『全ての世界』が攻撃を受けている」

「分かりません。どういうことですか!」


 オレの叫びに龍は答えます。


「彼の地にて目覚めた邪神によって物語は進み、世界は破滅へと向かった。彼の地より発せられた狂気はいずれの世界も蝕みつつある」

「何を……言っているんですか?」


 それ以上は答えず、龍は続けます。


「また刻ある時に答えよう。今は巫女の名を与える。其方のは■■。今代の巫女よ、今より一月を保ち博麗に寄るもの全てを討て」

「何を――」

「今はまだ刻ではない。■■よ、人と妖が来ているぞ」


 そう言って振り返ると、そこは博麗神社の入り口でした。

 辺りを見回しても龍の姿はありません。


「そっちに妖怪がいったぞー!」

「殺せ! 殺せ!」

「博麗神社に追い込め!」


 山の何処からかそんな声が聞こえ、博麗神社に駆けてくるのは七の足音です。

 オレは階段を降り、そこで待ちます。


「メンタ――」

「シン――」


 そこへ来たのはシンと枢さん。その背後には多数の傷を受けている犬ッコロたちです。


「メンタ、多く言っている時間は無い! こいつらを匿ってくれ!」


 枢さんが必死の形相でオレに頼み込みます。


「いたぞ! 枢先生とシンが既に交戦中だ!」


 そこに来たのはオレも良く顔なじみとなった陰陽師の生徒と教師たちです。それに加えて一人前となった陰陽師や老師もいます。それに野武士や剣士、妖怪退治家が武器を手に集まってきました。


「ちっ、ここまでか……」


 犬ッコロが呻き、爪を伸ばして構えます。


「せめて二人だけでも逃がさないとね」


 虫けらも意を決した顔で妖気を出して威嚇します。

 二匹の視線がオレに注がれ、次いでシンたちに注がれます。その意図をオレは理解させられ、迷います。

 その隙を突いたようにオレの背後に博麗大龍神が光の姿となって出現しました。


「お、おおっ!」

「りゅ、龍だ! 龍が出たぞ!」


 人間たちは大龍神の姿に驚き、武器を構えます。


『神託を下す』


 ですが、その一言で彼らは武装を降ろしてしまいます。


『博麗の巫女よ。その妖を討ち、亡骸はあるべきところに返したまえ』


 龍はそう言って姿を消し、全ての視線がオレに注がれます。


「メンタ――」


 シンが何かを言うよりも早く、弾幕を取り出します。

 今の一言によってオレの選択肢は無くなりました。いえ、無くさせられました。現在の状況から考えても、ここで犬ッコロを庇う素振りを見せれば博麗神社の信仰は消えます。人の悪い噂はあっという間に広まります。

 しかし、シンと枢さんはまだ敵対しているという状況のままです。今ならまだ二人だけは逃がすことが出来ます。

 そのかわり、レリミアさんたちは死ぬことになります。そんなこと、昔ならまだしも、もうオレには出来ません。

 でも、でもと自問自答を繰り返し、精神が圧迫され、呼吸も浅くなります。

 自分でも分からないくらいに視界が狭まり、景色が揺れて、ぐらぐらとしてきてーー……。


 プツンと音を立てて、()()()は目を覚ます。


「――博麗大龍神の神託、承りました。今よりワタシは博麗の巫女として其の妖魔を滅します」


 全力で、と付け加えて――全てを押し殺してありとあらゆる弾幕を犬ッコロたちに降り注ぐ。


「ぬおおおおおお!!」

「ぐうぅぅぅ!!」


 それはただの虐殺。霊夢さんも気まぐれで行っていた行為をして、一番の弱点のであるレリミアさんに集中して弾幕をぶつけ、それを四匹が庇って死に絶える。

 なるべく感情を持たないようにして最後に残ったレリミアさんの頭部を弾き、殺害した。

 シンと枢さんは……オレの所業に一歩も動くことなく茫然と佇んでいた。


「――対象の殺害を確認。この五匹はしかるべき場所に埋葬しますので、皆様は里や町の警戒を厳にして……その二人を陰陽寺院に連れ帰りなさい」


 今まではしなかったはずの口調を無理に作り、彼らはそれを賜って帰って行く。



 シンと枢さんと決別し、五匹の遺体は誰よりも先に陰陽寺院へと運んで理事長の許可を取ってからオレが住んでいた家の傍に埋葬しました。

 そして家に残していた物すべてを取り払って退学し、博麗神社へと戻りました。



 それからまた少し経ち――依頼者以外立ち寄ることのなくなった博麗神社でオレはただ一か月を守っていました。 

 時に地底や天上世界、海などに住み付いている妖怪が出てこないように岩に呪術を込めて塞いだりもしました。

 そうして――ある日、オレは思いました。


「もしもあの日にこの出来事を知っていれば――」


 あの時のオレならきっと防げたと思います。こんなにも心穿たれることはなかったでしょう。


「過去を望むか、■■よ」


 博麗大龍神の塒に行き、そのことを彼の龍に話すと以外にも話が通りました。


「可能ならば――」

「では今より二日の後にあの頃の其方を呼ぼう。刻は来た。準備を整えよ」


 そう言って、そう言われてオレは抑えたはずの心に火が灯り、もしも本当に来るのなら――と情報を全てかき集めてました。

 オレが見た事、知ったこと全てを過去のオレに伝えること。それがこのオレに課せられた使命なのだと今、気付きました。

 

 そして、その運命の日。


「へい! 未来到着です!」


 何の事も無し気にやってきた過去のオレは、何て事無いように合いの手を求めました。  

 そこでオレはふと気が付きます。

 ――あ、オレ、身長伸びてますね。胸も――。

 そんな馬鹿馬鹿しい思考をするのも随分昔のことのように感じました。

 

 もしかしたら過去を変えた事によって現在はもっと酷い事になるかもしれません。

 オレがもっと酷いことになっているかもしれません。

 直線上の未来。分岐しない未来。過去を変えた事によって起こるかもしれない事変。

 

 その一歩を踏み出した時、オレは思い出しました。


「あぁ……そんなこともありましたねぇ」


 二重の思い出が脳裏を過ぎっては消えます。

 未来が変わったことで時間も変わり、オレだけは変わらずにいます。

 弾む足取り、軽くなる身体。

 神社の本堂に出て、目の前に広がっていたその光景。それはーー


 一変の光も無い、黒い闇の世界でした。



 




咲夜「モツウメェwウメェw ……ハッ!?」

レミリア「咲夜……」


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