第百話 嘘ですよねぇ!?
グラたん「記念すべき第100話です!」
メンタ「第三部、完!」
グラたん「いや終わりませんよ!?」
あれから約5時間が経過した。
「満足~」
「良い運動した~」
「中々強くなったね、メンタ」
片や久しぶりの良い運動をした程度の疲れ。各々の武器を片付けて大きく背伸びをしたり、水分を補給している。
「……はい、ありがとうございます……」
片や全力でやったのにも関わらず新品の装備は大破し、各自死屍累々となって地面に伏していた。
「時間稼ぎも終わったし、帰ろっか」
「そうだね。じゃ、また呼んでくださいね、幽々子さん」
「はーい、皆ありがと~」
満足げに帰っていく彼女たちを見送り、メンタは顔を上げた。実質全滅に等しい惨状だが事変が終わっていない以上解決するまでは立ち上がるしかない。
「ぐ、ぐふっ。せっかく新調した装備が一回の戦闘で大破したとか言ったら流石に霖之助さんが泣きますよね? いや、オレなら泣きます」
「……ひ、久しぶりに生きた心地しなかったぜ」
「あと生き残ってるのは……」
「ギブ」
「すまん……」
「重症……」
「ちーん……」
「むり……」
振り返れば冥界の地面は凍土やクレーターと化しており、階段には煉獄の炎が灯り、上空には妖夢の斬撃なんて可愛いくらいの巨大な斬撃痕が刻まれて結界は大破していた。
「紫さーん」
「月に代わって――お仕置きよ!」
「BBAがやっても誰得なので自重してください。あと装備お願いします」
スキマを開いて冥界へとやってきた紫は正に地獄と化した現状を見て小首を傾げた。
「……あれ? ここ冥界よね?」
「つい先ほど地形どころか天変地異に匹敵する戦いがありまして……一度撤退しても良いですか?」
誰が見ても満身創痍ではあるが、幽々子はニッコリと笑って崖の下を指差した。
「うふふ、駄目よ。まだメインディッシュが残っているのに。ほら」
「ウボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
一瞬、誰もがゴリラか狼の出現を疑ったが、鬼の形相で駆け上がってきたのは禍々しい瘴気を見に纏った妖夢だった。
肌はひび割れており、目も真っ赤に充血して見開かれている。衣も最低限の部位しか隠しておらず、メンタ は思わずカメラに撮ろうとしたが、その手は空を切った。
「何か邪気バリバリのバーサーカーなんですけど」
「真面目に撤退だな。こんな状態じゃ戦えん」
まともにとは言い難いが動けるのはメンタか比較的ダメージの少ないこいしくらいだろう。
「らしいわよ、幽々子」
「それじゃせめて一人か二人は試し切りして貰わないと」
「じゃ、メンタで」
ポイポイと隙間の中に重傷者を詰め込んでいく最中、紫はメンタだけを残して含み笑いをしていた。
「鬼がかってますね!」
「他は全員こっちで預かるから事変解決よろしく~」
スキマが閉じられ、ふと辺りを見渡すと残っているのはメンタだけ。つまり体の良い生贄に選ばれたと気づいたのは数秒後のことだった。
「嘘ですよねぇ!?」
「ヴォイ!!」
長刀をフェイントもなく刺突し、メンタが首を捻って回避する。すぐさま身体を左側へ投げ出して追撃に備えるが、妖夢は意識が無いのか追撃してこなかった。
「うわぁ、なんでこんなことになってるんですか!」
「神降ろし失敗しちゃったみたい☆」
「止めてくれませんか!?」
巫女でも無い者が正式な手順も踏まずに神降ろしをしたところで成功はしない。しかし纏わりついている邪気から何かしらの力が取り憑いていることはメンタにも分かった。
正直今日はもう帰って寝て、また明日来ようかと真面目に検討していると幽々子は扇子を開いて不気味に笑んだ。
「さあ、ここからが本領発揮でしょう? 次世代の巫女さん」
確信的な一言にメンタの動きが一瞬止まる。脳裏で様々な推測が駆け巡り、少し細めた目で幽々子を見据えた。
「――……まさか知ってたりします?」
「……ふふ、さあ?」
はぐらかそうにも態度は知っていると言っているようなものだ。
はぁ、と一つ溜息を吐いて頭部を掻き、ふざけた表情を完全に消して妖夢の方へ向き直った。
「分かりました。――全力で行きますね」
「ヴォイ!」
ダンッと力強い音を立てて妖夢が突進してくる。邪気を存分に纏った刀は最上段に構えられ、接近と同時に振り下ろされる。
「力を貸してください! 博麗大龍神!」
『良かろう。使うが良い』
それを神降ろししたメンタは鷲掴みにして受け止める。右手だけにオーラを纏わせて竜の手を模した状態にする。
「竜手、竜尾」
そのまま引き寄せて腰から生やしたオーラ状の尻尾で妖夢の後頭部を強めに叩く。
「ーーっ」
固い手応えと共に妖夢の手から刀が落ち、身体も地面に横たわる。
横目で幽々子を見つつもまだ戦うかもしれないと思い、神降ろしは解除せず、声をかける。
「終わりです。幽々子さん、投降してください」
「ふふっ、終わり? 本当にそうかしら」
「……もしかして幽々子さんも戦うとか言いませんよね?」
通常時の弾幕ならお互いに良い勝負が出来る自信はあったが、神降ろし状態のメンタが相手では流石に部が悪い。
「いいえ。私はそこまで強くないし、通常時のメンタさんと殺し合っても負けるくらいには弱いわ。だから――妖夢が居てくれる」
ニコリ、と笑うのと同時に跳躍する。そのすぐ真横を刀が薙ぎ、メンタは空中でステップを踏んで少し離れた位置に着地する。
「っと」
「……」
そこには倒れたはずの妖夢が刀を地面に突き立てて立ち上がろうとしていた。
「仕留めたとは思ったんですけど、半分霊体だから心臓が無いとかいうオチですか?」
「ーーそうだね。半霊だから心臓は無いし、死にそうな程の傷を受けても数日もあれば治る。いや、より正しくは半分の肉体を死なせないために半霊が身体と傷のほとんどを請け負っていると言った方が正しいね」
その声、その容姿こそ妖夢ではあったがーー新キャラですか? とメンタに思わせるくらいには異様だった。
「……待ってください。あなたは誰ですか?」
「半分が妖夢という人間なら、残りの半分は何だと思う?」
「そりゃ、半霊ですよね。……いえ……半分? 半分が妖夢さんだとすればーー」
半分人間、半分霊体。それが妖夢であり、霊体はいつもふよふよと妖夢の周囲を漂っている。
人間を妖夢と定義するのであれば、残る霊体は一体何なのか。半死半生だと考えるのなら、その霊体の正体はーー。
「その通りだよ。例えるならパルと依姫が同一的なであったように、私と妖夢もまた同一の存在」
「生前……神降ろし……同一、『失敗』? いえ、そもそもパル姉と同じであるなら神を降ろすのに失敗は無いはず……同一的な存在――『剣士』?」
そう、失敗。神降ろしをする、という点で正しく巫女であるならば神降ろしは失敗しない。その声の主は依姫と同じでは無い。
妖夢と同一の存在であるとすれば真っ先に出てくるのは剣士だろう。庭師、という点も考えられたが先の剣速を思い出せば庭師はあり得ない。
「それにしても幽々子。君も大抵酷いことするよね」
「妖夢が望んでいるのなら私はそれを叶えるだけですよ」
「わざわざ災厄の邪神、スルトを降ろそうとするほどのことかい?」
「ふふふ」
「スルトさんを……?」
では先ほどの妖夢が纏っていたのはスルトさんの邪気ですね、とメンタは思う。そこまでして何が彼女を駆り立てるのか、まだわからなかったが強い執念があったのは確かだった。
「まあとりあえず――幽々子、先に死んでほしいんだけど」
「お断りしま~す」
声の主はそう言って幽々子に斬りかかる。従来の妖夢の動きならまだしも、弱っている身体での攻撃が幽々子に当たるはずもなく空振りする。
(同一、パル姉と依姫姉の共通点は……残念ではあるんですけれど『狂戦士』です。妖夢さんと今の人が『剣士』であり、今の人が死後も幽々子さんを恨んでいる。しかし妖夢さんが幽々子さんを食費以外で恨んでいる節はありません。ともなれば個人的な怨み? 幽々子さん――西行寺幽々子は鎌倉・室町時代の西行寺家の娘であり、庭に埋まっていたのが西行妖という妖木に生命力を奪われて殺された人です。では今の人は平安かそれ以降の人物と推定することが出来ます。その頃の剣士となると色々いますが――妥当に考えるのなら彼でしょうね)
その思考僅か数秒。過去の事変や背景、西行寺一族と西行妖、その周囲の関係は過去のメンタなら思いつかなかっただろう。
偶々暇つぶしに阿求の書いている歴史書の片付け中に読んだ本に書いてある通りだとすれば、幽々子と敵対したであろう人物は一人に絞られる。
「それに命令権は私にあるのを忘れていないでしょう?」
「ちっ」
「さあ、その御名を持ってメンタさんと戦い勝利してくださいな」
どれだけ憎んでいようとも主導権は幽々子にある。嫌々ながらも従い、刀をメンタへと向けた。
「……嫌だけど仕方ない。メンタさん、覚悟」
「腐腐腐、覚悟と言われて覚悟するほどオレはやわじゃないんですよ。しかし――伝説の剣士が相手なら腹括ってみましょうかね」
ピクリと妖夢の眉が上がる。
「――……まさか私の正体に気付いたのかい? 情報なんてほぼ無いに等しいというのに」
「伊達に歴史書読んでないんですよ。吉備津彦命さん」
「……ははっ、凄い。当たりだよ。幽々子、この子はとんでもない傑物だ」
「ただのヲタクだと思いますけど」
当てられたことに関しては褒めても良いだろう。何せそう呼ばれるもしくはその名を知るのは紫か幽々子くらいなのだから。
「それでもまぁ、その名前で呼ばれるのは好きじゃないかな」
「じゃ、敢えて呼びましょう。『桃太郎』と」
「ーーああ、私は桃太郎。あの、桃太郎だ」
桃から生まれ、お爺さんとお婆さんに拾われて、最終的には鬼ヶ島にて鬼を倒してくる有名すぎる童話の主人公。その元ネタとなったのが吉備津彦命だ。
「色々疑問はありますが、倒すという結論は変わりません。せっかくなのでオレも剣で相手しますよ。使えるかどうかは知りませんが」
『アレは身体に負担が大きい。使えるのは良くて一回切りか』
脳裏に博麗大龍神の声が響く。
神降ろしをしているとはいえ、現役の勇者が使っている聖剣である。身体への不安は大きい。
「充分です」
右手を天に掲げてその聖剣の名を呼ぶ。
「聖剣招来、デュランダル!!」
それは先にメンタが戦っていた犬耳の少女バウゼンローネが扱う聖剣ーーその剣を模ったオーラの招来だ。仮に本物を扱うならば彼女から共有と承認、そして聖剣に選ばれる必要があるが、メンタは聖剣を扱うことは出来ない。
その手に聖なるオーラ状の大剣が顕現する。あまりの重さと聖なる気の質量に持ち手され身震いさせられる。
「聖剣――」
「避けたら西行妖ごと斬れますよ!」
半身を大きく引いた薙の構え。ただ払うだけでも直線上にいた物体は容赦なく切断される。
聖剣の一撃が振るわれる。
白い可視化するまで高められた聖気の奔流が真一文字を描いて、大気すら引き裂いて飛んでいく。
さしもの桃太郎も直撃すれば強制的な昇天は避けられず、かと言って妖夢の肉体をこれ以上酷使するもの躊躇われた。
しかしながら良ければ背後の西行妖は斬られ、明日には新たなる冥界の名物『西行妖の切り株』になってしまう。それだけは避けないとーーとそこまで考えて、ふと彼は我に返った。
「くっ――……いや、別に私が受ける必要は無いか」
放たれた斬撃は一撃のみ。威力こそ致命的だが避けるだけなら容易い。桃太郎は空中に跳躍して躱し、代わりに幽々子が絶叫した。
「ちょっ――!? 紫! スキマ! スキマ頂戴!」
これが悪ふざけとかなら協力もやぶさかではないが、今は事変を引き起こした敵のため、紫は顔だけスキマから覗かせてお茶を飲みつつほくそ笑んだ。
「てきに、ほどこす、ものはない」
「うぎゃー! かくなる上は私がッ!」
いよいよ猶予が無くなってきたので我が身を引き換えにしてでも、と覚悟を決めて飛翔して斬撃の前に身を躍らせた。
帯に隠していた薄紫色の結晶を取り出し、無茶を承知で自身の胸の辺りに振り下ろして叫ぶ。
「神降ろし、スルト!」
幽々子の元のルーツを考えれば出来ない話ではないが、ぶっつけ本番で出来るほど神降ろしは簡単ではない。それでも一瞬とはいえ纏うことが出来たのは暁光だった。
「絶対防御!」
薄緑色の障壁が展開される。知っての通りこれはスルトがよく使う防御障壁で一定以上の威力を持った攻撃で無ければ破壊することはできない。
防壁は、あっさり両断された。
「嘘、ぎゃー! 桃太郎! モモタロー!」
幽々子も上下泣き別れになり、本気で桃太郎に助けを乞う。
「全く、しょうがないな。…………とは言っても伝説の聖剣相手じゃ分が悪いからねぇ……」
妖夢の持つ長刀は名が付く妖刀だ。元を辿れば鍛治師がデュランダルのような絶対的斬撃を繰り出すために作り上げた逸品。しかしながら妖刀は持ち手を選ぶほど扱いづらく、妖夢の家系、剣鬼の魂魄一族ですら使い手は滅多に現れないほどだ。
つまり妖夢は幽々子の従者でなければ引く手数多の剣士にも成れていたし、時代が時代であれば英雄とさえ呼ばれる活躍も出来ただろう。
しかし現在の妖夢は己の鍛錬こそ怠らないが、そこそこな剣士、で止まってしまっている。
力も技術も中途半端。だが、この一時だけは妖刀を操れるだけの技術があった。
「精々枝葉に済ませるくらいだ」
残り少ない妖力を練り上げ、絶対の斬撃に対して下方から打ち上げて斬撃を上方修正させる程度なら桃太郎にも出来た。
代償として西行妖の上の方が斬り落ち、重々しい音と砂埃が上がる。
「はぁ……はぁ……」
「……こっちもそろそろ主導権が戻る頃だね」
両者息を切らしながらも睨み合い、桃太郎は薄く微笑みながら言葉を紡ぐ。
「次世代の巫女。悪いんだけど、ちょっとだけ妖夢を鍛えてあげてくれるかい? 本来なら契約していない神様を降ろすのは無理だけど一回くらいなら、ね」
メンタは視線はそのままに、桃太郎の意図と妖夢のことを考えた上で溜息混じりに頷いた。
「……ちょっとだけですよ」
「ありがとう」
その目が閉じられ、もう一度開かれるとその顔は妖夢に戻っていた。
妖夢は己が鍛錬していたところまでは覚えていたが、なぜこのような状況になっているのか分からず辺りを見回す。
「ん……んん? あれ? メンタさん? どうしてここに……」
西行妖の枝がバッサリ落ちており、メンタが神降ろしまでして敵対している。幽々子も上下寸断されて動けずにいる。
なんとか理解しようとメンタに問うが、返ってきたのは敵意と本気の声色だった。
「妖夢さん、時間が無いので端的に言います。事変の都合上、今から西行妖を斬り倒します。そこを退いてください」
「へっ? さ、西行妖を!? 一体何が――」
「あと幽々子さんも元凶のため斬ります。ハイ、ナウです」
「えっええ!? 何でそんなことになってるのか分かりませんが西行妖も幽々子様もやらせません! あんなのでも一応主人ですので!」
口調こそ軽いが何時にもまして態度が本気だ、と妖夢は感じる。
「もう一度言います。退いてください」
「出来ません。幽々子様に加担した以上、最後まで役目を務めさせていただきます!」
「ではせめて神降ろしくらいはしてください。今のオレは全く手加減出来ません。最悪存在そのものすら消滅させかねません」
メンタが手元に残った聖気の残滓を集めてレイピアのような剣の形状を取る。二撃目は明確に威力が落ちるが、妖夢を倒すという意味では十分なほどの威力は残っていた。
「それは――聖剣の類ですね。何処から持って来たのか分かりませんが……止めます!」
懐から薄紫色の欠片を取り出し、握りしめて叫ぶ。
「神降ろし――邪神スルト!」
(英雄降ろし、勇者アスト!)
全く同時に桃太郎も欠片という触媒を通して何とか妖夢の身に別の『勇者』としての力を降ろした。
「えっ!? せ、成功した? この土壇場で!?」
スルトの禍々しい力ではなく、暖かい陽だまりのような白い力に包まれる。裏で頑張っている桃太郎のことを妖夢はいる由もないが、メンタはコッソリ能力を使って脳裏を見ていた。
(うぐぐ……流石に血縁といえどもあの人の降ろしはキツイ……!)
(……血縁?)
気になるワードだったが、お互いに時間制限が迫っているのでメンタは獲物を構えた。
「――行きます!」
『威力は半分以下だが、良いのだな?』
「別に本気で殺そうってわけじゃありませんからね」
『よかろう』
博麗大龍神の確認も済み、メンタは型も何もない最上段から聖剣を振り下ろした。
斬撃は真っ直ぐに妖夢へと突き進み、襲い来る聖気に妖夢は思わず半歩下がり、歯を食いしばって刀を掴んだ。
「う……で、でも負けません! やぁぁああ!」
妖力を乗せた大振りの斬撃を繰り出そうと力を練り上げる。だが、妖夢は降ろした後の力の乗せ方を知らない。今の状態では圧倒的に出力負けしていた。
(ええい! それではやられる!)
桃太郎が半端強引に妖夢の体を乗っとり、構えを居合に変えて留まる。
「か、体が勝手に!?」
妖夢からすれば自分の意思とは無関係に身体が動いて驚くだろう。
瞬きする刹那の時、妖夢に降ろしていた白い気を全て武器に注いで抜刀する。
妖夢もそれを視認し、扱い方を我が身を持って覚える。
両者の斬撃はかち合うと凄まじい金属音と爆風を引き起こして辺りに飛散した。メンタと妖夢は吹き飛ばされないように踏みとどまり、姿勢を比較して様子を見る。
視界が晴れるとそこには神降ろしの効果が切れた妖夢がうつ伏せになっており、メンタも終了を見届けて神降ろしを解き、膝を付いた。
「……これで良いんですよね?」
小さく妖夢の半霊に問いかけると思念を通して答えが返ってきた。
(一度成功すれば後は慣れるだけだ。神降ろしは無理だけど英雄とか勇者を降ろす程度ならギリギリ出来るようになる)
「はぁ…………面倒なことになりそうです」
(後で力を貸そう。今は妖夢を頼む)
「事変もこれで終わりですかねぇ……」
(事変自体は、ね。後処理は紫に任せれば良いよ)
それを最後に声は聞こえなくなり、メンタは思いっきり背中から砂利の中に倒れ込んだ。
「あー! 疲れましたー!」
スキマから一部始終を覗いていた紫も姿を現して悲惨なことになっている冥界を見廻しつつ降り立った。
「独り言が多くなるのは歳が増す原因よ、メンタ」
「事変は解決しましたので後お願いしまーす!」
「丸投げ!?」
見ればメンタも疲労困憊で気絶するように寝ており、妖夢と幽々子も気絶している。
仕方ない、と呟いて紫は三人を抱えてスキマの中に放り込んだ。
博麗神社に戻ってきたメンタはしばらくの眠りの後、賑やかな宴会の声で目を覚ました。
声は隣の部屋から聞こえているが、あまりの声量に壁は意味を成していない。
更に自身の隣からは悲鳴と苦悶の声が上がっていた。見れば下着姿で腰の辺りに包帯をぐるぐる巻きにされている幽々子と手当てしている永琳がいた。
「痛い痛い痛い」
「上半身と下半身に聖属性ダメージあり、ですね。全治二週間です」
その奥には妖夢の姿もあり、半分ほど体が消えていた。
「カラダ、体が痛いです……」
「巫女でも無いのに神降ろしするからですよ。デキちゃったのはビックリしましたけど」
メンタも同様に傷だらけだったが、何とか身体を起こして妖夢の方を見つつ答える。
「はぁ……白玉楼は大破。西行妖は斬れる。私も重傷……」
「……申し訳ございません……」
「妖夢さんのせいじゃありませんよ。原因は幽々子さんです」
確かに原因は幽々子だが、元々は妖夢のための修行でもあったのだ。
神降ろしという目標は達成したが、その代償は大きすぎたし、力不足、経験不足は妖夢を凹ませる原因となった。
「でもやはり私はまた守り切れなかったんです。……主人も守れず、居場所も守れない従者なんて……」
そこへカラカラと音を立てて扉が開かれる。入っていたのはタオルの替えと水桶を持ってきた咲夜だ。
「そんなに思いつめなくても大丈夫よ。私もそんなに変わらないもの」
「へっ?」
「私だってお嬢様を守れず紅魔館を大破させたことがあるから今の妖夢さんの気持ちは良く分かるわ。負けたら……『強くなりたい』って思うから」
「咲夜さん……」
紅魔事変の時、咲夜たちは全霊をかけて霊夢たちに挑み敗北を喫した。ついでに紅魔館は半壊するし、綺麗に整えられていた前庭も全て火の海に消えた苦い思い出がある。
「それは誰もが一度は思うことです。特に博麗の巫女に負けた時はショックで油揚げも喉を通りません」
「うんうん」
藍もイナバも霊夢たちにこっ酷くやられた経験があり、妖夢もそれを知り、時には彼女たちと敵対することもあったため、その言葉は心に響いた。
「ねぇ、あんたたち。それって全治三か月を食らった私に対する嫌味? そうよね?」
が、この部屋には最初にボロボロにされて重傷者となった霊夢がおり、今も不貞腐れた態度で酒を飲んでいた。
「まぁまぁ、貴方たち二人ともそんなに気に病むことは無いわよ。ほら、嫌な事は酒を飲んで忘れる。それで仲直りするのが幻想郷のルールでしょ?」
単純にして明快な事変解決後の仲直りのルールを持ち出されては霊夢も黙るしかない。
メンタたちもコップを持たされ、酒やらジュースやらを注がれる。
「はーい、それじゃ事変解決を祝って〜」
『かんぱーい!』
隣の部屋の扉が勢いよく開かれて今か今かと待機していたレミリアたちや神々が入ってくる。
今夜は飲み潰れるまで寝られないでしょうね、と思いつつ、メンタはコップを掲げた。
幽々子「次回、西行妖大爆発!!」
妖夢「玉砕、爆砕、大喝采!!」
てゐ「ストッパー不在って怖いな」




