第九十九話 やっぱりオレ今日死ぬんですね
さとり「前回までのあらすじ。精霊の住う天の国を出発して再びやってきた大海オケア。そこで待ち受けるは一度パーティーを離れて授業に出た剣士リクロー。対するは清涼委員会最強の戦士イチロー。二人はただ剣で語るのみーー」
冥界。西行妖の正面には大樹をへし折らんとばかりの勢いで突撃してくる飛空艇が一隻。冥界には妖怪もいないため防衛線となるものは無い。幽々子は引き攣った笑みを扇子で隠し、赤髪の彼女は広範囲探知魔法をかけて人数を探る。その中に戦闘力は低くなっているとはいえ、神々が大量に乗っているとなれば警戒に値する。あの量の神々をどんな手段で集めたのか気になるところではあるが、今はあれら全てが敵だ。
「ねぇ、幽々子。あれはちょっと不味いと思うんだけど」
「……あふぅ」
見た感じの戦力と雰囲気から幽々子も気圧されるように数歩下がり、気絶したい気持ちを何とか抑え込んで踏みとどまる。
「流石に戦闘系の神様込みだと防衛は厳しいね。彼女の方も、もう少し時間かかりそうだね。仕方ない、援軍を呼んで来よう。ゼムル、しばらく頼める?」
「しょうがないわね。エルンのために、頑張ってあげるわよ」
「ありがとう」
そう言って彼、エルンは転移魔法で姿を消し、赤髪の少女ゼムルは首を回して気合を入れなおす。
気分はそう悪いものではない。あからさまにヤバイ気配は一つか二つくらいで残りは雑魚だ、とゼムルは笑む。元より一体多数は当たり前、時には万の軍を相手にすることだって珍しくはなかったのだから。
「さてと、幽々子。あんたも手伝いなさい。あの量相手じゃ骨が折れるわ」
その気になれば飛空艇ごと消し飛ばすことも容易なのだが、あとで参加できなかったと拗ねられても面倒だからという思惑もあり、幽々子に華を持たせるつもりで提案したのだが――その当人は先ほどとは打って変わり、不敵な笑みを浮かべていた。
「フフフ……それなら心配いらないわ」
「は?」
よく見ると飛空艇の上空に巨大な魔方陣が出現し、そこから巨大なロボットが仁王立ちの姿勢で降りてくる。全長は20m前後くらいでカラーリングは白をベースにしつつ各所に黄色が塗られている。
武装は腰に二丁のビームライフルと長距離電磁砲、背には2つの大口径のビーム砲が搭載されており、二対の羽のようなブースターからは青いエネルギー粒子が放出されている。
次いで、飛空艇に何かが落下した。巨大兵器が飛空艇の正面に立ち、押しとどめたことでその姿は見えなかったが、おそらくは一人と一匹だろうという確信がゼムルにはあった。
「ちゃんと護符は用意してあるのよ?」
飛空艇甲板。突如として落ちてきた巨大ロボットに各自面食らいつつも、甲板に堂々と乗り込んできた一人の男性と一匹の白い虎人に注意が向いた。しかし不思議なことに運動神経は獣より良いはずの白虎が尻もちを付き、男性は黒コートを翻した。
「にゃ~……痛いにゃー」
「我慢しろ。これでも結構ギリギリだったんだからな」
さてこいつは誰だ、という者が数十名。神々は勿論彼らを知っているし、魔理沙たちも彼らを知っていた。
「あっ、お前は!」
「どうもお久しぶりです」
彼、藤林刻夜は礼儀正しくお辞儀をして初対面の人には挨拶を交わしていく。それが時間稼ぎの一環であることに気が付いた者はいない。
「知り合い?」
「メンタが重傷負った時に電子世界の経由をしてくれた人だ」
その当時、にとりたちと知り合ってもいなかったためメンタたち以外が知らなくても無理はない。が、その正体を知っている神々は刻夜を見るなりサムズアップで親指を立てた。
『VRMMOだな! あれは混沌として楽しい世界だ!』
「……嬉しいような悲しいような……」
「変にゃユーザーは何処にでもいるにゃ。それが神様にゃだけにゃ」
良きファンも悪いファンも製作者の前では等しくファンである。特段、年中無休でログインできる神々にとって新しい世界は格好の獲物だ。
それはともかく、と魔理沙が咳払いした。
「で? 今日は何しに来たんだ? もしかして手伝いに来てくれたのか?」
「ははは……そうだったら良かったんですけどね。すみません、召喚」
時間稼ぎは上々。あとは英雄たちが何とかしてくれるだろうという期待と不安を寄せつつ、刻夜は一枚の札を足元に放り投げた。次いで現れたのは正規の召喚術式。光と共に現れたのは桁違いの強さを持ちながらも色々やらかして冥界送りになった英雄御一行。
「ウボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
「ヌガアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
「グァハハッハハハハハ!!」
「ブルアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
「バァハッハハハハハハッハハハハハハハハ!!!!」
「ブモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
「私は正しい! 私が正義! 私が法律! よって、私が、私こそが、こ・の・わ・た・し・がッ、善! そう、私の名は誰もが一度は耳にし、音に聞いて、風が答える、世紀の名探偵シャァァァロックゥゥ、んっホォォォォォゥゥムズゥ!!」
要するに戦闘中毒が過ぎて神々に挑んで敗れた者や冥界に送られても強敵を求め続けた狂戦士たちが召喚されたのだ。当然、その戦闘力は天界の天使とは比較にならないくらい強いが、制御も出来ない。
『なんでよりによってバーサーカーばかり召喚するんだこの野郎!?』
「敵だからにゃぁ」
「ほらほら皆さん。頑張ってください。アトミデア様が見てますよ~」
何っ、と神々が一斉に振り返って刻夜が指差した方向を見る。確かに少し離れた高台に彼女はいた。
彼女、アトミデアは女性にしては長身な女神だ。冥界の神にして堕落の象徴とさえ言われている。今もコーラとポップコーン片手に皆を見下ろしていた。
「良きかな良きかな」
『ウルオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』
同時にバーサーカー共も動き出した。無論、理性などとうの昔に無くしているので襲いかかる相手は手当たり次第だ。
艦内にいる村紗も慌ただしく指令を飛ばしており、無茶を承知で魔理沙は指示を叫んだ。
「ええい! 交戦だ! 村紗、機体だせ! 敵襲だ!」
『ごめん、今整備中で全部海の中』
「ここ一番で使えねー!!」
それを尻目に萃香たちは拳を構えて前線へと駆け出していく。魔理沙も舌打ちしながら続き、メンタも腕輪の武装を手に取った。
「一番槍は貰った!」
「ハッハー! 行くぜ!」
「戦闘だー!」
「酒の肴だー!」
「焼き鳥じゃー!」
「焼き鳥だ―!」
「焼き鳥です!」
「ファイアー! ファイアー!」
「ほい、木!」
「私のオンバシラがぁぁ!?」
「試し切りです! シャイトゥーン・フォルフェクス装着!」
一部違うことをしている輩がいるが、それはそれ。
メンタの武装、シャイトゥーン・フォルフェクスは一度オーバーホールを受け、その上で再設計の後に強度を高めることに成功した試作機だ。武装そのものに変わりは無いが攻撃力と速度、出力は格段に上がっている。
「メンタ!」
「こっちは!」
「OK!」
レミリア、シン、さとりの三人が合図を出し、メンタは視線だけ向けてハイビジョンのカメラを手にしていることを確認し、今、何を求められているのか悟った。
「では行きます! 能力発動! オレの能力は神を堕とします!!」
右手を前に出し、能力を発動する。無駄に特訓した成果もあり、発動速度は過去最高。
『ウッホウッホホ!』
『アー!?』
一方で船内。若干耐性がある者たちは良いにしても、白蓮と数名はディスプレイに映ったあまりにも酷い光景に目を逸らした。
「あまりにも汚い絵面なので落としてください」
「サー!」
白蓮が指示を出すと操舵手は勢いよく艦のハンドルを切り、その場で星蓮船を360度回転させた。
『アアー!?』
神様その他大勢が冥界に落ち、即座に対応したメンタと僅かな手練れたちは再度着艦した。
「後、残っているのはいつものメンバーと敵数人ですね。魔理沙さん、今から全速力で西行妖を破砕しにいきますので、その間にその人たちを倒しちゃってください!」
メンタの無茶ぶりとも言える指示だが、魔理沙も伊達に人間を辞めたわけではない。メンタが修行している合間に己を鍛え直し、今や成長期とも言えるような伸び代を見せていることもあってか、今日の魔理沙はやる気充分だ。
「マジか!? ま、やるだけやってやらぁ!」
「ああ……嗚呼……せっかくの冬コミ素材が……」
「いや、まずてゐたちの心配しなさいよ」
シンたちも別のことで落ち込んではいる。てゐたちに関してはどうせ生きてるという意見で一致した。
正面には大回転を凌いだ刻夜と白虎。人数差があるにも関わらず彼らはのんびりとした様子だ。
「にゃふふ、刻夜大ピンチにゃね」
「あー……でも時間は稼げって言われてるからなぁ……。仕方ない、ちょっとだけ本気でやるかな」
「変身するにゃ?」
珍しく使う気にゃ、と白虎は目を輝かせる。
対してメンタたちも一斉にカメラと視線を向け、身構える。一見、野郎の変身など誰得と考えるかもしれないがネタというのはいつ何処から落ちるのか分からない。何があっても良いようにするのがメンタの教訓だ。
「へ、変身!?」
「Pキュア!」
「メタモルフォーゼ!?」
眩い閃光は一瞬だけ光り、次いで光の中から現れたのは猫耳と尻尾をつけた少女だった。服装は巫女服のようなもので見た目は美少女ゆえに誰もが一度は困惑する。
「ニャんでバレてるニャか?」
「ば、馬鹿な……」
「マジなのだ!?」
TSだ、と全員が息を飲む。何せメンタたちが出した同人誌の中にそのジャンルは無かったからだ。
その少女は刻夜がYWO時代に使っていたアバター、『ナイト』だ。異世界転移する際に纏めてコンバートされたのだが変身するのは本人の気分のため、あまりお目にかかる機会は少ない。
しかしーーメンタの目は一部に対して欲望と殺意を向けていた。
「ゴクリ。押し倒して良いですか? 出来ればその胸肉は分けてください」
「これ一応仮想アバターだから分けられニャイニャ」
「にゃふー!」
そうですか、とメンタが言う前に白虎が刻夜に飛び掛かり、押し倒そうとして、刻夜は強烈な回し蹴りを叩き込んだ。白虎は蹴られる瞬間に空中を蹴って跳び退いてダメージを抑えていた。
「では切り落としぃ――MAS!」
それを開戦の切り口に、メンタは大鋏を分裂させ、速度をフルブーストして斬りかかった。
ぐおん、と大気が震える。最上段からの叩きつけを刻夜は一歩下がって空振りさせる。
「まだまだDETH!」
「ニャ」
続けて下段切り上げ、斬りおろし、左右にフェイントをかけての袈裟。それらは眼前で躱されるか、刃の腹を両手に装備している白爪で受け流される。
ーー速度は互角……少々不利ですね。
メンタの視線と身体は巡るましく動き、時には蹴りや拳を使って牽制する。速度は最高速。それでも追いきれないのであれば単純に相手の能力値が上回っていることに他ならない。
「ニャ」
攻撃の終わりや動作の隙間を縫って刻夜の白爪が迫り、掠めただけでも強化されている筈の装甲が抉られる。生身で食らえばどうなるかーー。
「援護するよ! 黒鉄!」
その両者の間に割って入ったのは黒鉄の大剣を担いだ諏訪子だ。勢いよく大剣が振り下ろされ、メンタは後方に離脱する。
「ニャ」
真っ向から振り下ろされた大剣を正拳突きで破壊し、諏訪子の喉を狙った突きが繰り出される。
「6連オンバシラキャノン!」
ちょうど良いタイミングで神奈子のオンバシラ砲が横切り、刻夜は深追いせず回避に努める。
「風神波!」
「スパークショット!」
更に射命丸と魔理沙の弾幕援護が入り、刻夜は避けつつも好機を狙う。
が、ここで見ているだけという素晴らしく退屈なことを彼女がするわけもなく、その手は刻夜に向けられた。魔法陣は何処かで見たことあるような複雑な魔法陣で、その中からは大きな岩が見えていた。
「隕石」
「ニャ!? あんたそっちじゃニャいでしょうが!!」
隕石招来魔法。多大な魔力を消費する代わりに絶大無比な威力と速度を誇り、着弾地点から辺り一帯を消しとばすーーはずなのだが、刻夜は左足を軸に回転し、裾が大きく上がるのも構わずに隕石に回し蹴りを叩き込んだ。
その半ばくらいで文句を垂れるが、アトミデアはやる気に満ち溢れた表情で告げる。
「つい興奮して、うっかり手が出て、偶々血が湧いて、偶然にも肉躍る! 私も混ぜろ!」
「流石ゴッドOFクズISヒキニートニャ!?」
「本当のことを言うな! 照れる!」
HAHAHAと笑う辺り、性根はそこら辺の神々と同じらしい、とメンタは思った。
「この脳筋ニャ! 白虎!」
手伝え! という視線を白虎に向けるが彼女は元の白い虎の姿に戻り、少し離れた場所で丸くなっている。
「にゃ? 今毛繕い中にゃ」
「自由ニャがぁぁ!!」
刻夜の咆哮を皮切りに四方八方から魔法や斬撃が飛んできた。
数時間後。
両者満身創痍の中、先に地に伏したのは刻夜だった。変身も解けてしまい、息も絶え絶えになりながら元凶を見上げた。
「げふっ……アトミデア様が邪魔しなけりゃ勝てたのに……」
事実、アトミデアの邪魔ーーもとい無差別の援護がなければメンタとしても切り札を切らなければいけなかった。
「ハァハァ……ほ、本当に人間ですか?」
「真面目にバケモンだろ、こいつ……」
魔理沙たちは開戦から一時間弱でやられ、少し休息を取ってからまた参戦するということを繰り返していたが、この面子でたった一人に負けかけたという事実は全員に重くのし掛かった。
「にゃ? ちなみに刻夜はそんなに強くにゃいよ?」
「そうさ……俺は四天王最弱だからな……。いや冗談です。本当は頭脳労働担当です」
何の四天王かは知らないが、中々笑えないジョークだ、と全員が思った。
「凄く洒落になってないんですけどね。……ところで村紗さん。まだ到着しないんですか?」
『いやー、さっきから全開ブーストはしてるんだけどね……』
確かに先程からゴゴゴという重々しい駆動音は響いているが動いている気配はない。どういうことかと正面を向いてみれば巨大なロボットが船を押しとどめていた。
巨大と言っても飛空挺を単体で押しとどめようとすれば、それは果たしてどれくらいのエネルギーが必要なのかーーと船内で画面を見ている村紗は苦面する。
ふと、もしかして前にスルトが持ってきた例のロボットと同系列の物なのでは、とも考えたが余計な思考だと思い、振り払った。
『端的に言って出力負けしてる』
「下にいるはずの勇儀さんたちはどうなりましたか?」
『絶賛バーサーク中。あと虎丸と武神とかの戦闘神様方も楽しそうにしてるよ』
神々の権能は大部分が使用不可になっていたとしても、それまでに培われた技術は失われない。特に英雄とかが相手なら戦闘狂は大喜びで飛びつく。
魔理沙は甲板から身を乗り出して地上を確認すると……目に見えない速度の戦いが行われている、ということだけは分かった。そしてふと疑問に思う。
「おいおい、神様が随分苦戦するんだな。相手は英雄とかだろ?」
「刻夜、答えたら?」
「不壊属性の武器持たせている上に何度でも生き返る鬼畜仕様ですけど何か?」
「げー」
要はゾンビアタックか、と辟易する。戦っている神々は楽しそうなので何とも言えないが……。
そこに突如ピロンという軽快な音が鳴り、刻夜が腕輪型の端末を弄ったことで発信源は特定できた。
「あ、もしもし……あ、本当ですか。分かりましたー」
一瞬で無表情になり、淡々とした口調で相槌を入れていたが、しばらくして安堵した吐息と共に彼は通信を切った。そして大きく腕を伸ばして叫んだ。
「やったー! 仕事終わったー!」
余程嫌だったのか、それとも長かったのかは分からないが少なくとも「やってやった」という達成感は伝わってきた。
「にゃ? 帰るのかにゃ?」
白虎の問いに刻夜は晴れやかな顔で頷きーー
「じゃあ次の仕事を――」
アトミデアの一言が奔る前に身を翻し、白虎に飛び乗り、ゲートを開いた。
「ゲート! 白虎、逃げるぞ!」
「うにゃ」
ゲートに入り、その姿が見えなくなると正面のロボットも消えてしまい、結果として飛空挺は拮抗していた物がなくなったことによる反作用が起こり、超加速を強いられた。
「ぎゃー!?」
「全員しがみつけぇぇ!!」
「ぎゃあああああぁぁぁぁぁ――――…………」
それは甲板の上にいたメンタたちも例外ではない。壁際や船体の近くにいた魔理沙やメンタはまだしも、中央付近にいた魅魔は足を踏ん張るとか魔法を展開するとか飛翔する間も無く、遙か彼方へ吹き飛んだ。
いや、取り残されたというべきか。
「何か魅魔が消えたけど大丈夫!?」
「別に死にはしないわよ! それよりも自分の方を何とかしなさい!」
さとりも珍しく声を張り上げて注意喚起する。それが間に合ったのはとっさに何かに捕まった者たちだけだ。
そういえば近くにこいしもいたはず、と思い出して顔を向けると彼女は吹き飛ぶ寸前だった。
「おねーちゃー…………」
否、何処かに飛んで行った。本来なら手を伸ばしてでも助けたかったが、この加速の最中に片手でも手を離せば自分も吹き飛んでしまう事は明白だった。
そう彼女は内心で言い訳した。
「こいし……! あ、もう遅いわね…………」
「今こいしさんの声が聞こえた気がします!」
「その内帰って来ると思うわ!」
「見捨てましたよね!?」
「見捨ててないわ。状況から不可能と判断したまでよ!」
さとりとメンタの言い合いは僅か数秒後に強制的沈黙という形で決着が着いた。
音にするなら「グシャッッッッッ!!」が正しいだろう。飛空挺は真っ向から白玉楼に突撃し、その後も数十mを抉ってようやく止まった。
例えるならシャチホコか。もしくは海老天ムスビのように飛空挺は半ばからひしゃげたていた。船員は幸いにも全員妖怪であり、惨状とは引き換えに村紗たちは船を降り始めていた。
それを西行妖の高みから見下ろしていた幽々子は頭を抱えて絶叫し、ゼムルは腹を抱えて爆笑していた。
「ぎゃぁぁぁあああああああああああああああああああああああ!!」
「あはははははははっ! 何あの船! 最高っ!!」
一方、白玉楼に突貫したメンタたちは瓦礫の山から這い上がり同士たちを救出していた。
「ふいぃ……何とか生き残りましたね」
「船が……船がぁ……!」
「代わりに白玉楼にも大打撃」
屋敷はおろか、綺麗に整えられていた庭園は観るも無残に破壊尽くされており、妖夢が大事に剪定していた盆栽も一つ残らず地面の染みとなった。
さて、これだけ派手にぶっ壊したのだから後で修繕費を請求されないか、と心配にもなる。
「これって事変の必要損害ってことで処理されるのよね?」
「ええ、そうね。そうじゃなきゃ前の紅魔館の立て直し費用を紫から貰わなくちゃいけなくなるわ」
「もう結構カツカツなんで勘弁してください」
さとり、レミリアの二人は以前に激しい弾幕合戦の末に館を半壊させられており、修理するより立て直した方が良いレベルだったので莫大な金を支払って新築した覚えがある。
尤も、やらかした霊夢は金がないのは分かっていたので紫に請求したら事変を起こす方が悪いということで言い合いになり、博麗神社を吹っ飛ばしていたりする。
「ま、とりあえず――元凶が先だな」
飛空挺は村紗たちに任せ、長い階段を登って行き、西行妖前にやってきた。その前には臨戦体制の幽々子たち。
「タイミングは任せる」
「では、早速行きましょう!」
「三人同時なら行けるわ!」
先に動いたのはメンタ、シン、レミリアだ。右手に雷の魔法や術符を持ち、同時のタイミングで投げつけた。
『トリプルテラデイン!!』
受ければ全身麻痺は避けられない程度の雷撃がゼムルへと飛来する。彼女は避けることなく指先を正面に向け、反射魔法を展開した。
「マホカンタ!」
『ぎゃー!』
雷撃が跳ね返されたことによりメンタたちは一斉に身を翻して回避する。一瞬前に居た場所に雷撃は落ち、地面を穿った。
「敵も味方もノリノリかっ!」
「やっぱり分かってくれる人は分かってくれるんですよ」
だが、メンタたちのフザケは功を奏したらしくゼムルの臨戦体制は和らいだと言って良いだろう。
ゼムルは興味ありげにメンタを見据えた。
「そこにいるってことは貴方は敵で良いのよね?」
さとりは一人前に出つつも彼女を最も警戒した。何故と言われれば能力を使用しているのにも関わらず心が見えないからだ。
その問いにゼムルは肯定し、メンタ を指差した。
「ええ。まごうことなき敵で良いわよ。加えて……えっと、そこの赤い子」
「はい、この中でクリムゾンヘッドはオレだけですからね。何でしょうか」
「貴方も博麗の巫女で良いのかしら?」
「イエース! オレはメンタと言います! 具体的には次世代の巫女ですけれど!」
何気ない問い。普通なら聞き逃してしまうような言葉は、魔理沙の耳に残って思考させた。
……次世代? それじゃまるで霊夢が――――。
その思考は前方から放たれた痛いほどの威圧によって放棄せざるを得なかった。
「そう。なら割と本気でも良いかしら?」
目に見えるほどの紅蓮の魔力。一般的な魔法使いが「人間を辞めた」と言わしめる線引きを彼女は超えている、と魔理沙は理解して警戒レベルを最大限に引き上げた。
「腐腐腐、負けたら褌で寒中水泳して貰いますからね!」
「なら私が勝ったら貴方たち全員私の玩具になって貰うから。それまで壊れないでね?」
彼女は微笑った。たったそれだけなのにこの場にいる数人は自身がダルマになろうが、モノを言わない死体になっても弄ばれるのを幻視してしまった。
「そういえば名乗りが遅れていたわね。私はゼムル。かつては魔王ゼムルと呼ばれていたわ」
彼女は右手を天高く掲げた。バリバリという紫電がとある形に形成されていく。奇しくもそれはレミリアのグングニルを彷彿させた。
しかしそれはグングニルの比ではない。仮にグングニルの威力を1とするならば、その技は10万の威力と言える。
それもそのはず。その技の大元はスルトなのだから。そんな紫電槍が20余り。
「神王の紫電槍!」
「あ、それ不味い奴ゥーー!」
各自が外聞も捨てて回避した。そうしなければ消し済みになることは間違い無いと踏んだからだ。
メンタも彼女を神格クラスと仮定して腕輪の起動に踏み切った。
「シャイトゥーン・フォルフェクス装着!」
装着してみるといつもより合致している気がした。肌の一部だったかのような違和感の無さに驚きつつも素早く大鋏を抜刀した。
「オウ・ガベル・ジネ・ラポ・ゼイル、ゲーザ・ゲイン・バンク・レイ・アム……」
ゼムルが唱えている言語に心当たりは無い。となれば異世界の魔法でしょう、とメンタは思う。
「魔法――いえ、もっと強い気配がします! こういう時は突撃です! 紅蓮桜花!!」
グイッと身体が引っ張られる。速度に意識が追いついておらず、視界が一瞬宙を彷徨った。
――っ、思っていたよりも速いですね。体の負担が四割増しくらいになっている気がします。しかし!
四割程度なら許容範囲、と意識を強引に戻して大鋏を広げ、構えたままブースターをフルバーストさせて懐に飛び込んだ。
「真鋏閃切断!!」
「――隕石転移」
距離が詰まったのと同時に視界を超える大きさの魔法陣が目の前に展開された。稲妻を放射させながら空間に突出してきたのは隕石。
それを視認した瞬間メンタは突撃を中止して大鋏を空間の中に投げ、懐から術符を取り出して叫んでいた。
「倣符「完全無双の模倣」!!」
同規模の魔法陣がメンタの前に出現し、ゼムルの隕石に向けて発射された。拮抗は一秒もなく周囲に大規模な衝撃波と岩の散弾を撒き散らした。
たかが岩と言っても一つ一つがミサイルと同規模の威力。メンタも弾幕を持って迎撃に当たった。
「あはは! 貴方、同じことが出来るのね! でも動きは止まったわね」
背後から声が聞こえた。
ーー転移――!?
視界を向けようと首を捻りーーそんな隙をゼムルが見逃してくれるはずもなく、その手からは消滅の閃光が迸った。
「極滅」
「障壁――超電磁砲!」
防御は紙のように貫通した。意識が覚るよりも早くメンタは腰の超電磁砲を発射して時間を稼いでいた。
ともかくその場から離れ、接近戦に持ち込まなければ永遠と後手に回らされる予感がしていた。
ブースターを限界以上に吹かして極滅を迂回し、大鋏を双剣モードに切り替えて飛び込んだ。
その判断は決して間違いでは無い。ゼムルの得意距離は中〜超遠距離。近接戦闘は苦手な部類に入る。
ただし、最低数回は覚醒済みで限界突破を繰り返している勇者相手の近接戦闘という条件ではあるが。
「へぇ、結構攻撃型なのね」
「緋色吹雪!!」
メンタの斬撃速度は音速を超える。一度に複数回は切るはずだった大鋏をゼムルは片手で止めて見せた。
「うわ……なんか凄いデジャヴです……」
「近接戦闘、即時判断力、危機感地、反射神経――ふぅん、貴方の方が楽しいわね」
嗚呼、狂戦士魂に火をつけてしまいました、とメンタは諦める。
「それはどうもです」
「前の博麗の巫女は期待外れにも程があったからかしらね。そうね、遊戯的に評価するなら中盤のドラゴンを倒せるくらいの勇者ってところね」
「それ、かなり微妙ですよね」
「まぁ、魔王は倒せないわね。それに――」
軽くトンと肩を押されて突き放され、彼女は足元に転移魔法陣を展開した。
「転移」
一瞬にして移動したゼムルは右手を天高く掲げて魔法の詠唱をすることなく光迸る断罪の大剣を振り下ろした。
「こっちはどうかしら? 神滅!」
レミリアや魔理沙たちとてその脅威を視認するや持ち得る最大の手札を正面に向けて撃ち放った。
「――っ! ファイナルスパーク!」
「ツイン・グングニル!」
「ハイパーバースト!」
「ブラッドスパイラル」
拮抗は数秒だった。徐々に、徐々にではあるが押され始める。直撃すれば良くて魔理沙は重症だろう。だがレミリアたちにとって光属性の攻撃は致死に等しい。断末魔もなく消え去ることになる。
「う、嘘だろ!? これ最大出力だぞ!」
「くっ――」
「桁が違い過ぎる――」
それを見たメンタも急降下しつつ腰のレールガンを向け、放射する。
「超粒子熱線!」
霖之助のおかげで威力が上がっていることもあり、ようやくゼムルの魔法を押し返し始める。
が、各自全力なのにも関わらずゼムルは涼しい顔で、弱者を甚振ることに愉悦を覚えている魔王たる笑みで左手を向けた。
「あはは、凄い凄い! じゃ、もう一発」
姿が消え、魔理沙たちの背後に魔法陣が展開される。
ゼムルはその場から動いておらず、短時間でわかることは一つ。魔法だけが背後から襲ってくるという心理的恐怖と絶望だった。
「不味――っ」
「よっと」
魔法が発動する直前、上空から拳を振り下ろしながら降りてきた鬼の気配に感づいてゼムルは半身を翻して避ける。一瞬の隙を付いてメンタたちは魔法の射程範囲から離れ、事なきを得る。
「来たぜ!」
「待たせたね!」
「やるぜ!」
「わー!」
「ここから参戦なのだ!」
「主役は遅れて登場するものだ!」
「援護する!」
勇儀、萃香、魅魔、こいし、諏訪子と神奈子、寅丸が魔理沙たちの前に立ち、獲物を構える。
数も質も申し分なく、弱体化しているとは言え神格を目の前にすればゼムルもため息くらいは吐く。
「あー……面倒くさいのが来たわね……」
「へっ! 降参するなら今の内だぜ!」
「黙ってなさい三下雑魚風情」
「ぬあ!?」
先の攻撃すら一人で対処できない魔法使いごときゼムルの眼中にはない。無論、大喜びで奇声を上げながら跳躍してきた神々にも。
『ヒャッハー!!』
「冥手」
『みぎゃー!』
闇色の巨大な手に掴まれ、地面に叩きつけられた神々はそれで戦闘不能となり、メンタたちをあきれさせた。
「弱っ。これが神ですか?」
「いやいや、ここにいるのってほとんど非戦闘系神様だからね」
「あれらと一緒にされるのは心外だ」
唯一まともに戦力として数えられるだろう諏訪子と神奈子は大抗議して獲物をゼムルへと向けた。
その当人はもう気怠そうに幽々子に振り向いた。
「はー……ねぇ、幽々子、まだなの?」
「もうそろそろ終わるわ。後は仕上げだけど――」
「あら、そうなの? 何人欲しい?」
「多くても一人いれば良いかしら。貴方基準で良いわよ」
「んー、そうね。彼女が良いかしら」
この中であれば比較的まともに戦力であろうメンタを指差し、幽々子は意外そうに眼を丸くした。
「メンタさんを?」
「この中だったら、きっと面白くなると思うわ」
可愛らしく微笑む彼女だが、その本心は知り合い、友人への殺し合いの強制。愉悦と凄惨を好む彼女はメンタから何かしらを感じ取ったらしい。
「……魔理沙さん、一体何の話をしていると思いますか?」
「内容からするに生贄か?」
「変わってください」
「阿保抜かせ。嫌だ」
複数人ですら拮抗も難しかった奴の相手を誰が好んでしようか。
諏訪子たちも首を縦に振って肯定する。
「そんなことしなくても今いる全員で襲い掛かれば突破くらいは出来るのだ」
「流石に神相手では彼女も苦戦はするだろう」
「では強行突破な感じで行きましょう!」
「突撃ー!」
作戦などあったものではない単純な突撃。しかし単純故に手練れ複数人の同時攻撃はいくらゼムルと言えど苦戦は想像できた。
「来ちゃったわよ。エルンはまだかしら?」
「もう来ると思うけど……仕方ない。ちょっとだけ本気見せてあげる」
こんな雑魚どもに使う予定なかったのになー、と内心愚痴りながら薄緑色の障壁を正面に展開した。
「絶対防御」
ガガガンッと音を立ててメンタたちは障壁に激突する。そしてその見覚えのある障壁に驚き、数度殴るなり蹴るなりして性能を確かめて舌戦へと切り替えた。
「みゃー!」
「汚いぞー!」
スルトと同等レベルの絶対防御を突破する手段は限られている。全員で一転集中すれば突破可能かもしれないが目の前の相手がそれを許してくれるはずもない。
そこへ彼女の隣に転移魔法陣が展開し、エルンを始めとして複数人の少女たちが出現した。
「おまたせしました! って、何か凄いことになってる!?」
「あ、ちょうどいい所に来たわね。援軍は?」
「向こうが数ならこっちは質ってね。全員とはいかなかったけど――」
「ちょっとそれ大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。なんたって――」
エルンの不穏な言葉にゼムルは半眼で詰め寄る。が、エルンはニコッと笑って転移魔法陣から出てきた彼女たちに道を譲った。
一目でも分かるくらい彼女たちは容姿端麗であり、とても戦闘のある場所には相応しくない私服姿だ。一人は夕日色の髪をポニーテイルに括り、水色のチュニックを着た少女。背中からは純白の天使のような翼が生えており神様のような雰囲気を感じさせた。手には木製の弓矢を持ってきている。
その隣にいるのは薄い緑色の髪に朱色の瞳。耳が少し長いことから魔族であるが、子供のような童顔であり好奇心旺盛そうな少女だ。腰には不釣り合いな大きい剣が据えられている。
三人目はこの中では最小の伸長であり下手をすれば小学生に間違われても仕方ないくらいの小柄な少女だ。頭部には犬耳、臀部にはふさふさのしっぽがある獣人。背負っている蒼の大剣さえなければ可愛らしいで済むのだが――。
最後は青色の髪と瞳を持ち、服装も異国風を思わせるローブを羽織った少女。雰囲気としては最年長を思わせる様子であり、落ち着いているように思える。こちらも二刀流らしく名剣と思われる装飾が施されている。
「ガンガン行こう!」
「おー!」
「わーい!」
「頑張ろー!」
彼女たちの内情を知っているゼムルとしては唖然とするしかない。
「……仕事は?」
「押し付けて来た!」
薄緑色の髪の少女がニッコリと笑って抜刀する。それを見て魔理沙たちもまた戦闘狂か、と天を仰ぎたくなった。
「……まあ戦力的には申し分ないからオッケーか」
「それに僕も頑張るからさ」
エルンもゼムルの隣に立って抜剣し、構える。隙のない半身の構え。本来であれば盾も使うだろうと思わせる左手。剣は体に隠れて見えず、どのような攻撃が来るのか不安を呷る。
「げっ!?」
いざ、開戦と言わん空気になったところでしばらく言葉を発さなかったメンタが叫んだ。
「どうしたの? 知り合いでもいた?」
「あぁ……いやぁ、そのぉ……」
さとりの言葉にもメンタは歯切れ悪く返す。見れば顔も青ざめており、普段のメンタからは考えられない弱気な姿だった。
ゼムルが絶対防御を解除すると彼女たちもメンタを視認し、特に犬耳の少女は大剣を構えたまま駆け寄ってきた。
「あ、メンタ」
「は、はい! お久しぶりです!」
上下関係がハッキリしている相手ね、とレミリアは思った。
「知り合いっぽいわね」
「いえ! 知り合いというより――保護者兼ご主人様と言いますか……とにかく地球でパル姉と一緒にお世話になっているお方なのです!」
「あら、そう――待ちなさい。パルが地球にいるの?」
危うく聞き逃しかけたが聞き逃せない情報にレミリアは応じ、メンタも冷静さを取り戻した。
「はい。今はドタバタしていて会えませんけど……その内、スルトさんと一緒に帰ってくると思います!」
それを聞いて魔理沙も思い出したように疑問を口に出した。
「そういやメンタ。お前、スルトと前に在ったことあるんじゃないか?」
「あーっと……地球に居た頃は会ったことはありませんでした。その、凄く言いにくいんですけどオレたちが居た地球の神様だってこと、夏コミ終わってから思い出したんですよ。あとすみませんがオレはここで戦線離脱します。ごめんなさい戦えません」
「コラコラコラ、待ちなさい。スルトの件は良いとしても、貴方はこっち側の重要戦力なんだから」
本当に珍しいものね、とレミリアは思いつつも持ち前の怪力で去ろうとしていたメンタを食い止めた。
「勘弁して下さい! まさかバウゼンローネ様にプレア様とシャン様、アネルーテ様がいるとは思わなかったんです! 今回の事変は諦めましょう!」
「メンタが様付けするとものすごく違和感あるわね」
「うん」
さとりの呟きにぬえ、寅丸も肯定する。魔理沙とレミリアは彼女たちを見て、諏訪子と神奈子は目を瞑って内心黙祷しつつ覚悟を決めた。
「一応聞いておくが、強いのか?」
「ぶっちゃけバウゼンローネ様はパル姉を強制乗っ取りした状態の依姫姉を倒すほど強いです」
「ってことは……後ろの二人は……」
「……はい。ご想像通りです」
最強角の相手を倒せる人物に、同格かそれ以上が三人もいる状況。加えて最終防衛ラインにはエルンとゼムルが残っている。
そんな緊迫した空気の中、薄緑色の髪の少女――シャンは待ちきれないといった様子で顔を上げてゼムルに問う。
「ねえねえゼムル! もう戦っても良い?」
「勿論。遠慮しなくて良いわよ」
「やったー! 行くよー!」
「それじゃ、援護するね!」
シャンが駆け出したのを皮切りにプレアが矢を番えて弓の弦を引き絞った。
「り、脱!!」
それを見た瞬間メンタはレミリアたちに注意喚起するどころか目もくれず上空に飛び上がった。次いで、実にコンマ1秒より短い時間で放たれた矢が飛んできた。
――ヒュン、という音はきっと後から聞こえたはずだ。いや、空気の振動や地面に着弾したと同時に起こった大質量の圧迫破壊によって聞こえなかったかもしれない。
それを知っていた諏訪子と神奈子、神々は一斉にその場から飛び退いており、反応すらできなかった魔理沙たちの意識はそこで途絶えた。
頑丈で体力に自信のある勇儀と萃香、レミリア、寅丸は何とか意識を保って散開する。
「さてと、私も戦ろっと。――メンタ、稽古をつけてあげる」
軽く跳躍してそのまま飛翔したバウゼンローネは蒼の大剣――聖剣デュランダルを担いで迫った。
「全力で遠慮しておきます!」
「そう言わないの。付き合って――――はぁぁぁあああああ!!」
軽口を叩きつつもその身に纏ったのは白いオーラ状の魔力。聖気とも呼ばれる限られた者にしか使えない強者特権。その魔力をデュランダルに乗せて、薙いだ。
メンタはもう余裕なく表情を消してバク転して避け、続く連撃を避け、時には大鋏で反撃し、レールガンで応戦する。
バウゼンローネはそれらすべてを真っ向から切り捨てる。
聖剣デュランダルは全てを切断するが、己の身を顧みない諸刃の剣。しかし完全に扱えるようになればこれ以上ない頼もしい相棒となる。
メンタの攻撃が終わるのを見越してバウゼンローネはデュランダルを下段に構え、全体重を乗せて一気に振りぬいた。
「蒼天魔斬」
飛翔する絶対斬撃。スルトの絶対防御すら紙のごとく切り裂く一撃。
メンタは苦い表情をして一気にブースターを噴かせて回避する。斬撃は大気も、冥界の結解さえもたやすく切り裂いて切れ込みを入れた。避けきれなかった大鋏の先端が豆腐のように切り裂かれ、戦慄しつつも唯一上回っている機動力で移動する。
「くっ――」
接近して攻撃すれば剣も防具も切り裂かれ、遠距離から攻撃しても迎撃され、飛ぶ斬撃で返される。これほど厄介な相手は中々いない。が――。
チラリとレミリアたちへ視線を向けると、向こうはもっと酷い光景だった。
「それそれそれっ!」
「いくよ、光り輝く聖槍!!」
プレアが弓を引いて放つ度に地形は変わり、時折混ざる凍土の魔法で体温も体力も急激に奪われる。まるで爆弾が降り注ぐかのような地獄絵図。
それに加えて二刀を構えたまま宙に浮く長い杖を操り、千、万はあろう魔法陣から火、氷、風、雷、土、水、光、闇の魔法が地表に炸裂する。
天変地異、世界の滅びにすら匹敵する光景。
その中で器用に動き回っては神々と切り結ぶシャンの姿がある。
――やっぱりオレ今日死ぬんですね。
メンタは切実にそう思った。
こいし「次回! 地獄の魔王VS幽々子! 幽々子の惨敗! さらば幽々子の三本立てだよー!」
幽々子「私、死ぬの?」




