第九十八話 古代のネ申民
メンタ「前回までのあらすじです!」
妖夢「首が痒い痒いぃ!」
早苗「諏訪子様、もう良いんですよ?」
諏訪子「待って!? そのバットは置いて欲しいのだ!」
神奈子「フフフ、お前が鳥籠を開こうとすればするほど籠は閉じ、閉じようとすれば開いていくぞ」
アリス「魔理沙が外界に行かなければそれでいい…フフ、この勝負、負けられませんね」
その魔法は失われて久しいはず、とメンタは驚愕した。余談だがスキマからは両者の声が聞こえるように紫が再設定し直している。
「ば、馬鹿な……彼らはまさか古代のネ申民、2chネラーですか?」
「くっ、やるな!」
まあ、それはさて置き。転移されてきた霊夢は虫の息だ。畳には置けないため空中に浮遊させて滴る血はスキマに流しているが、危険な状態に変わりない。
「いやいやいや! そっちは良いからこっちを手伝って! 霊夢が死にかけてるから!」
紫の必死の悲鳴とスキマを閉じるが重なって二人は急いで立ち上がった。別のスキマからは緊急依頼でやってきた永琳とてゐが出てくる。
霊夢の治療も終わり、何とか命は繋ぎ止めたが重体だ。意識もまだ戻らない。
部屋は隔離されて絶対安静を言い渡され、紫は居間にて永琳に値切り交渉をしていた。
「……永琳さん」
「何でしょうか?」
「もうちょっとまけてくれませんか?」
「こちらも慈善事業するわけにはいきませんので……」
「そこをなんとか! あと一割! 一割で良いからお願い!」
ぶっちゃけ幻想郷で一番腕が良いのは永琳だ。幻想郷に免許なる存在は無いため、まともな病院でも塗り薬とか切除、祈祷が行われる。そのため、医療分野に関しては適正価格というものはなく、一般人相手だと全て永琳の言い値となる。
しかし紫は外の世界にも度々足を運ぶため一般平均値の値段を知っている。そのためどこまで値切れるのかメンタたちは興味深々に見ていた。
「すげー、借金が人を変えるって本当だったんだな」
「言うな。霊夢と紫はともかく、収入源のメンタは夏コミの8割を守矢に持って行かれたんだぞ」
「知ってる」
そんな雑談をしつつも今の博麗神社の経営はメンタが支えていると言っても過言ではないことを二人は知っている。
永琳も渋ってはいたが実際は紫に大きな貸しが出来るのは何かと都合が良い、と思っている。何より、金より貸しの方が後々高い利子がつく。
永琳は敢えて自分から譲ったかのように振る舞い、紫は気付かず、聡いメンタは真面目に二回目の鞍替えを考え出した。
「仕方ありませんね。博麗神社の台所事情は知っていますし、これは貸しで良いですよ」
「やったー!」
無邪気にはしゃぐ紫。メンタの視界には嗤っている永琳の横顔が映っていた。
「ところでさ、なんで霊夢がこんなことになってんだ?」
何も事情を知らずに緊急治療をしたこともあり、てゐはそこら辺のことを聞こうと口を開き、お茶受けの煎餅を手に取った。
「それはコレコレこういう事情がありまして、霊夢さんが冥界でチョメチョメされてきたんです」
「オッケー、分からん」
メンタは今回発生している事件の簡単な説明をして、てゐも納得する。
「しかし霊夢がここまでやられるとなると……メンタと魔理沙だけでは厳しいかもしれませんね」
「そう、だな……」
最強筆頭格の霊夢があんな瀕死で帰ってきたことに魔理沙は未だショックを隠しきれないでいる。敗北こそしてもあそこまで酷くやられたことは無かったのも原因の一つだろう。
「認めたくない! 認めたくない(CVハロ)! って言えば良いんですよ、魔理沙さん?」
「子供かっ」
その突っ込みもいまいちキレがない。だが、魔理沙もここで寝込むようなヤワな精神はしていないし、霊夢がやられた以上、敵討ちには行くつもりだった。
「で、どーするんだ?」
「そうですねー……てゐ、一緒に行きませんか?」
「ふふふ、自慢じゃないが――私はそんなに強くないッ」
てゐの戦闘力は120。鍬を持った里人の平均値は10だ。つまり、下級妖怪の少し強いくらいがてゐの戦闘力だ。
しかし霊夢がやられたことはメンタも重く受け止めており、生半可な戦力じゃ返り討ちにされることは明白だ。加えて赤髪の彼女の尋常ではない魔力量に対抗できるのは神格くらいでしょうか、とメンタは思う。
「知ってます。……そうなると、神様クラスを連れて行かないとダメですかねぇ。知り合いだと神奈子様か諏訪子様くらいしか思い当たりません。あ、寅丸さんもいました」
星寅丸。聖白蓮たちが住む星蓮船に住んでおり、前にぬえから聞いた話だと神格持ちということだ。
「寅丸? あいつが神クラス?」
「一応、毘沙門天ですよ?」
「マジで!?」
魔理沙からすれば寅丸は影が薄い鍛錬好きの少女、というイメージだった。戦闘力からすれば上位には入るだろうが、それでも根付いたイメージからは予想もつかない。
「マジです。それか月面に行って依姫姉とアルテミス様を連れてきますか」
多分無理でしょうけど、とメンタは薄く笑み、そこで紫が手を挙げて会話に混ぜて欲しいアピールをした。それどころか味方なら相当の戦力になること間違いない。
「ねー、皆。ここに幻想郷の神様がいると思うんだけどー」
「ハイハイ、黄金のマガツキュウビ先生だな」
「黄金も今や鍍金ですからねぇ」
「貧乏は悪くない。恥ずかしくも無いが、紫は恥ずかしい」
『うんうん』
「ガーン!?」
見事な口撃のコンボと連携の前に紫は轟沈し、側でお茶を飲んでいた永琳も素で吹き出しそうになる。実際、紫が能力を使用して戦闘をしている姿など極稀だ。
しかしやってくれるというのならば手を借りよう、と思った矢先にメンタの通信符にメールが飛んできた。メールと言っても簡単な文章を飛ばす程度の機能になるが、使用者が少ないことから誰が送ってきたかは検討が付く。
「ん? メールか?」
「みたいですね――あ、霖之助さんからです」
「何て?」
その内容は修理の完了と請求書だ。金額は相当なものだがメンタは露知らずの表情でしれっと言い放った。
「この間の決戦でオレの武装が大破しましたから修理費はツケで直して貰っていたんです。その引き取りに来て欲しいとのことです」
「ちょっ! なんで勝手にツケにしてるのよ!」
別段、紫のツケとは言っていないのだが勝手に勘違いしてくれているなら後で請求しておきましょう、とメンタは思った。
「……今更だよな」
「元凶の言う言葉じゃないな」
「弁護の余地はありませんね」
加えて魔理沙たちも援護したため、紫は綺麗に膝からうつ伏せになった。その隙にメンタはテーブルに請求額と宛先を書置きし、居間の扉を開けた。
「それじゃ、オレは武装の引き換えと守矢神社に行ってきますね!」
言うが早くメンタはさっさと玄関を駆け抜けて飛翔していく。居間ではテーブルに置かれた請求書を手に取った紫が悲鳴を上げて発狂した。だが、元の借金額を考えると端数とも言えよう。
それを見て、ふと永琳はあることを思いつた。結局のところ霊夢の具合がよくなるまでは博麗神社にくることになるのだし、永遠亭の方はイナバに任せても大丈夫だろうと考えた。よりはっきり言ってしまえば名目上看病出来るのではないか、ということだ。
「紫さん」
「はい……何でしょうか?」
「さっきの取り引きのことですが――」
「取り消しはお断りします」
「いえ、その分だけちょっとお頼みしたいことがあります。聞いて貰えますか?」
先のこともあるし金銭もその内返せばいいやくらいに考えて紫はうつぶせた姿勢を直し、座りなおした。
「無茶な要求じゃなきゃ良いわよ」
「霊夢さんの容体が安定するまで、ここに泊めていただきたいのですがよろしいでしょうか? 勿論、さきの貸しは返上で良いですし」
無茶どころか貸しの返上にもならないような要求に紫は驚いたが、そんなことで良いならと肯定した。別に客人が一人二人増えたところで作業量に変わりはないだろうとも考える。
「それは構わないわよ。と、いうより――」
ピンポーン、とインターホンが抑える音と共に縁側の窓が開け放たれて大量の客人が来訪した。無論、呼んだのは紫だ。看病という名のタダ飯にありつくためならば彼女はプライドを投げ捨てる。
「フフフ、来たわよ!」
「来たよー!」
「今日からお邪魔させていただきます」
「早速、分社を置かせて貰いますね!」
「まずは昼食を作りつつ夕食を煮込みましょうか」
「私も手伝うー!」
まずはいつもながらにレミリアたち。今日はフランと咲夜、藍も一緒だ。既に泊まり込むことは決定済みなのか咲夜が別室にいくなり空間から布団を出し、厨房に行って材料の確認と自前の器具を出し始めた。藍と橙はそのまま夕食の準備に取り掛かり、早苗はせっせと分社を立て始めた。
「霊夢さんが重体だって聞いてます。皆さん、あまり騒がないように」
「来た。手伝う」
「さー、飲むぞー!」
「うおっしゃー!」
比較的まともに菓子折りやら養命酒などの手土産を持ってきた慧音、妹紅に倣い、シンも率先して手伝いの方へ走っていった。萃香たちは我関せずと酒盛りを始めだした。
プライドの代償として部屋どころか二階と中庭も紅魔館勢や守矢、鬼たちに埋め尽くされ、神社の方からも鬼や妖精たちの声が響いてきた。この分だと騒ぎを聞きつけて他の者たちも来るだろう、と永琳は予測がついた。
「ね?」
「……大変な事になりそうですね」
主に料理担当者が、と永琳は他人事として呟き、隔離された部屋からは霊夢の呻きのような声が聞こえた。騒ぎは時間が経つに連れて大きくなっていく。
博麗神社が大賑わいの頃。飛翔してお馴染みとなった里では今日も里人たちがせっせと農作物を育て、子供たちは一仕事終えて遊んでいる様子が見て取れる。田畑にも水が行き届いており、その上では色とりどりの蜻蛉が飛んでいる。
さて、香霖堂に降り立ったメンタは呼び出されたのにも関わらず臨時休業という札をかけた店主に少し疑問を持った。確かに骨董品など売れ筋が良くないものから人気の雑誌、物販、生活用品の売買まで色々な物を取りそろえるため偶には仕入れの休暇も必要かもしれないが――。
「あれ? 休暇札が掛かってますね。知ったことではありません。クズの助さーん! 変態の助さーん!」
数回戸を叩きつつ、いつもの軽口と憎まれ口も叩いた。
やはり店内にはいたらしく、中からは急いで何かを片付けるような音とドタバタという足音が聞こえてきた。少しすると扉一枚を隔てて声が聞こえてきた。
「……そんな人は知りませーん」
実にすっとぼけた声が聞こえた。幸か不幸か、扉越しなこともあってメンタのニヤリと笑った表情は霖之助には見えていない。だが、今までの傾向から考えてこのまま素直に引き取るほど彼女は甘くないと霖之助は知っている。
「あ、そういうこと言っちゃいますか?」
「はい、いつも通りとは言っても流石に傷つきま――」
言い終わる前に玄関が激しく叩かれ、霖之助は何事か、と驚いた。
「(裏声)霖之助さぁん! お宅が借りている例のビデオとお金の返済日、忘れてませんかねー!! お金、返してくださいよー!! 中にいるのは分かってるんですよ! ○○○○してないで返してくださーい!!」
それを聞いた霖之助は遮二無二、一切の躊躇なく玄関を開けてメンタを中に引きずり込み、ピシャリと音を立てて鍵をかけた。その顔は怒りよりも羞恥で真っ赤に染まっている。
「社会的に殺す気ですか!?」
「さっさと開けないからですよ。ちなみに今のはオレの七色ボイスの一つです」
その正体が分かっていなければ霖之助は全力で店裏から逃走するか、土下座くらいはしていただろう。
「はぁ……、目的のブツはこれですよね?」
「イエス!」
霖之助は深くため息を吐いて修繕された武装を渡し、メンタも上機嫌に腕輪を受け取った。
装着して試しに武装を展開させてみると前と寸分違わない性能と格好だった。オーバーヒートして完全に壊れたと思っていた背面のブースターとボロボロになって鈍器になっていた大鋏も新品だ。
「あ、それと色々と弄っておきましたから実戦で使う前に一度武装の点検はしておいてくださいね。動作不良は此方でも点検してありますが、万が一の時はすぐに来てください」
「此方でも………、ハッ! まさかですよね!」
ああ、そう来たか、と霖之助は脳内対策マニュアルを開いた。色々と切り返しのパターンを考えている辺り、思考が毒されているが当人はいざ知らず。
「ちなみに装着したのは、にとりさんやお弟子さんたちです」
常識の範疇で考えた先手を打ってきたことにメンタは動揺もせず切り返した。
「腐腐腐、先に制しようとしても無駄です。動作確認と称して面積の少ないスーツを着せたり、たわわと震えるブツを見たり、肢体を見ていたりしていたんですよね? 大丈夫です。それは健全な男性ですこのスケベの助さん」
「結局そうなるんですね!! ちくしょー!!」
やはり常人の思考回路で考えた対策は無駄だったか、と霖之助は嘆く。尤も、どうあがいたところで結果は変わらない。
メンタもそんな軽口の応酬を惜しいと思いつつも一旦切り上げ、要件を切り出した。
「それはともかくとして、霖之助さんって守矢神以外で神様に知り合いっていますか? それか英雄クラスの強い人とか………知りません?」
唐突な問いに霖之助は数秒沈黙して思い当たる人物をまとめた。
「うーん……神様とか英雄だったら数人ほど心辺りがありますよ」
「えっ!? 本当ですか! 教えてください!」
さほど期待していなかった、と言えば嘘になる。人間側にも妖怪側にも顔が利く霖之助ならば守矢とかを除く神様の一人か二人くらいは知り合いがいるのでは、とメンタは思っていた。だが、まさか本当に知り合いがいることを聞くとテンションも上がる。
「良いですよ。でも代わりに――」
「踏んでほしいんですね。しょうがないですね、特別に良いですよ」
ほら、早くうつ伏せになってください。仰向けになったら踏みつぶしますからね、と言って霖之助は腕を取られ、足を引っかけられて転ばされそうになり――間一髪のところで受け身を取って新しい称号を回避した。
「私の性癖一体どうなってんですかねぇ!? オホン、名前は霖之助と呼んでください。あと可能なら手料理が食べたいです。それ以上は今のところ求めませんから」
「さっきから霖之助さんって呼んでいるんですが……一体どう聞こえているのか気になります。それと特定の男性に手料理とか振舞ったら刺されて死ぬと思いますよ」
「二重にガッデム!!」
そういえば最近は出会いがしら以外はまともに呼んでくれていたような……と会話内容を思い返す。
「それでその英雄ってのは誰なんですか?」
「……オホン。メンタさんなら分かると思いますが、斉天大聖様、碧霞元君様、フレイア様、クーフーリン様……あ、先日は天界からマーリン様とアリアンロッド様がいらしてましたよ」
「超凄いですね!! 嘘だったら超電磁砲で店の中ふっ飛ばします! 今なら泣いて謝れば許してあげます」
「本当です」
ハハハ、ご冗談ですよね、と言うと同時くらいに玄関の戸が開いた。
新しい来客は白髪の少女だ。身長は160cmくらいで和装と立ち振る舞いから高貴そうな人物であることが分かる。容姿は整っている方であり、レンズの入っていない眼鏡をかけている。髪型はショートボブ。背負っている剣は聖気が迸っているが、何故か壊れかけている。
そんな大層な人物を少なくてもメンタは知らなかった。
「いやー、参ったな~。霖之助君、エクスカリボールの修理頼めるかい?」
「……今日休業中なんですけれど」
「頼むよ~。勇者の聖気に耐えられる物を作れるのはヘパイストスとヘスティアか君くらいなんだよー」
「えええ……。しょうがないですね……代金の方は後でちゃんと貰いますからね」
「助かるよ!」
思ったよりも強引な手口だったが霖之助は渋々請け負った。お得意様なのか、それとも断ることが出来ないような相手なのでしょうか、とメンタは思う。
その彼女の視線がメンタの方に向くと、その瞳は何処か見透かしているような奇妙な感じがした。
「ところで彼女は?」
「オレですか?」
「うん、君」
「オレはメンタと申します! 絶賛神様を求めてここに来たんですが霖之助さんが法螺噴いてばかりで帰ろうと思っていた所です!」
へぇ、と彼女はちょっと興味深そうに霖之助を見上げた。その視線を受けて霖之助は気まずそうな表情になる。
「法螺? そんなことしていたのかい?」
「ちゃんと事実を言ってますが信じてくれないんですよ、マーリンさん」
「…………ん?」
聞いたことあるような名前にメンタはふと首を傾げるが、まさか、程度にしか思っていなかった。
「自己紹介が遅れたね。私はマーリン。人は、主に賢者マーリンと呼ぶ!」
「はい、ありがとうございました」
なるほど、設定までしっかり考えるとはハイレベルなコスプレイヤーですね、とメンタは結論付けた。
代わりはマーリンの好奇を前面に押し出してメンタの肩を掴んだ。
「ところで君は何で神様を求めているんだい?」
そこでメンタはいつもの軽口が災いしてしまったことを悟ったが、霖之助の知り合いならと思い直して内容を告げることにした。
「えーっと……一般の人に言って良いのかなんですけど、今、幻想郷で事変が起こっているんですよね。主に冥界で幻想郷中の秋を集めている人物がいるみたいなんです。霊夢さん――博麗の巫女も事変解決に向かったんですが手酷くやられてしまい、神様レベルの相手じゃないと倒せそうもない敵がいるみたいなんです」
流石に幽々子たちの名前は伏せたが、どう反応が返ってくるのかメンタは少し不安だった。一方でマーリンは状況の整理をしつつ今いるだろう神を脳内でピックアップしていく。
「ほほう、神様レベルの敵で冥界にいる……。それでもって博麗の巫女がやられるレベルとなると……ふむ、魔王辺りかな……」
何やら不穏な単語が飛んだため、メンタはこの場を離れようと決意して踵を返した。
「そういうわけなのでオレは守矢の方に行って助力して貰います! では!」
が、一瞬の間を置かずに肩を掴まれた。
「ああ、ちょっと待ちたまえ」
「はい?」
「君、えっとメンタだっけ? ちょっと面白そうだねぇ……神様探し、手伝ってあげようか?」
「そりゃ、人手が多いに越したことはありませんが……」
知り合って間もない他人に無茶を頼むほどメンタも鬼畜ではない。特に一般人など戦力にもならないため丁重にお断りしようと振り返る。
「何の当ても無しに歩くよりは知っている人伝手を頼った方が良いだろう? 代わりにぃ、ちょっとだけ中を見させて貰うよ!」
すると反射神経が反応するよりも早くマーリンの手がメンタの額に置かれた。そこから何かの波動が流れ込んでくるような感覚に襲われ、それが精神的攻撃であるとすぐに思い至った。当然、同じ精神系能力者に対応できるように対策は考えている。
――!? この感じ――精神攻撃DETH! カウンター発動!
「おやっ、ふむむ」
「うぐぐ……」
大抵の人物(下位神を含む)であれば抵抗もできずに己の全てを晒すことになるのだが、メンタとマーリンの力の差は拮抗していた。否、メンタの方が若干不利だろうか。
――ま、不味いです! この人、つ、強い……デス!
当然、全神経を迎撃に注いでいるため外面はやりたい放題だ。マーリンは一瞬たりとも力を緩めずに右手の指を二本立ててメンタに鼻フックを敢行した。
「ほぁた」
「ンブッ!?」
予想外の攻撃にメンタの集中力は途切れ、がら空きとなった脳内にマーリンの力が侵入した。そこからは一秒と掛からずに解析が終了し、マーリンは口元に悪い笑みを浮かべていた。
「しまっ――――」
「はい、終わり。能力に集中し過ぎてリアルの警戒がお揃かになってるゾイ。……ま、報酬としては充分な量だったかな」
「くっ……」
同類の能力者としての戦いに敗北したメンタは悔し紛れの声を出し、呻いた。
しかしマーリンとて余裕があるわけではなく奇策を用いなければ結構厳しかった、と内心冷や汗を掻いていた。加えてメンタの内側にあった『――』から手痛い反撃を食らって脳内が揺さぶられていたりする。
「んで、神様だっけ? 割と近くにいるから後で博麗神社に行くように言っておくよ。じゃぁね~」
マーリンは酒に酔って満足したかのような様子で玄関を潜り、戸を丁寧に閉めて去っていった。
「……やっぱり嵐のような人ですね……」
ポツリと呟いた霖之助の言葉にメンタも思わず同意し、頭を数回振って意識を明瞭にした。
「と、とりあえずオレも行きますね」
「大丈夫ですか?」
よく見るとメンタの顔色が悪いことに霖之助は気付いた。やや青ざめており如何にも具合が悪そうだ。
「精神攻撃と言っても変にやられてませんから大丈夫です。カフッ」
次いで、思いっきり喀血した。メンタは手慣れた手つきで血を処理していく。
「喀血しましたよね!?」
「だ、大丈夫です。いつも通りです……」
やはり体調が悪そうな様子だったが、メンタは玄関を出ると飛翔して何処かへと去っていった。
見送りを済ませると霖之助は空を見上げつつ、心配そうな表情で呟いた。
「いつも喀血するなんて普通あり得ないんですけれどね……」
まあ、いつでも協力はしますけどね。と、霖之助は内心で吐露して踵を返した。
守矢神社は年がら年中参拝客が絶えないが、正直なところ神々がやることは無いため諏訪子と神奈子は縁側でのんびりお茶を飲み、雑誌を片手に暇を潰している。尚のこと天候が良いこともあって日向ぼっこには最適の気温と湿度だ。
さて、そんな二人だが今日はもうぐーたらすることが決まっていた。それというのも事変を解決する際に霊夢が致命傷を負ったということで早苗が見舞いに行き、ついでに咲夜たちも来るということなので数日は泊ってくるらしい。スルトもパルを連れて地球とか異世界に行ってしまっている。
つまりその間、この二柱の食事は炭酸と魔剤、カップラーメンとレトルト食品以外にあり得ないッッ!!
そんな不健康な食事も乙な物だ、と考えてすらいる諏訪子たちだが暇を持て余すのは辛い。神々の天敵は神でも邪神でもなく、『退屈』だ。
「暇だねぇ」
「お客さんも早苗ちゃん目当てがほとんどだからねぇ」
「パルも年末年始には戻って来るって言ってたから、それまでは稼ぎもあまりないのだー」
「うんうん。面白いことないかなー」
「例えば?」
「空から幼気な女の子が降って来るとか」
そんな二次元の作品みたいなことがあったらな~、と笑っていると一人の少女が嗤いながら落ちてきた。
「イエス! オレが来ました!」
「痛い気な……」
「女の子……」
ある種間違ってはいないが、大いに間違っているとも言える。だが、しかし、この悪意の塊とも言える爆弾が落ちてきたということは何か楽しいことが始まるに違いないと二柱の直感が囁いた。
「諏訪子さん、神奈子さん! 手伝ってください!」
「何々~? 面白い事なら大歓迎なのだ!」
「カクカクシカジカ云々往々で事変です!」
前後文は分からないがどうせ後から分かる情報だ。それよりも必要なのはこれが事変であるということ。事変の解決、世界の危機という名目ならば神々が立ち上がらないわけにはいかない。
「事変だな! 良し、私たちも博麗神社にいく大義名分が出来た!」
「退屈な留守番からはおさらばなのだ!」
「いやっほう!」
「事変なのだ! すぐ支度するから待ってって!」
実に5分くらいで身支度を終えた諏訪子たちにメンタはちょっと呆れた。
「――相当暇だったんですね……」
だが、この二柱が助っ人として来てくれるなら大戦力だ。
――なんにしても協力して貰えるなら万事オッケーです。
『神の天敵は退屈! 暇! それが滅多にないのは幻想郷くらいだー!』
馬鹿二柱は喜び勇んで酒樽を片手に博麗神社へと飛翔した。そのあとに続いて念のため窓閉めを確認したメンタが追いかけていった。
メンタたちが守矢を出発してから小一時間くらいのことだ。現在、博麗神社では多くの神々(暇人)が集い、酒杯片手に歌い踊り、木々は桜が咲き誇るという珍妙な事態になっている。
神々と言っても半分くらいは非戦闘系の神様だ。もう半分は戦闘系だが、幻想郷――ひいては異世界ではその世界のルールが優先される。つまりここにいるのは一般人と比較してもかなり強い程度の超人の集まりでしかない。
が、博麗神社の敷地全てが宴会場になるとは紫も想定していなかったし、料理系の神々が勝手にバーベキューしたり、クッキング対決が始まったり、あるいは血の気が多い神々による喧噪が起こって鬼どもが巻き込まれるという混沌めいた状況だ。
明らかに過剰戦力。誰が招集したのか知らないけれど下手をすれば幻想郷が滅ぶレベルの力が集まっている。特に単体で危険視される悪神とかも大笑いしながら酒を煽っている。
「……なに、何なの。貴方たち戦争でもしにきたの?」
「いやいや、博麗神社で面白いことがあるっていうから来ただけだZE☆」
「暇だYO☆」
「遊びにきたZOI☆」
「なんだなんだ?」
「ん~? なんか強そうな奴等がいるぞー」
「おー! じゃあ一丁やるか!」
「おおっ! 鬼だ! 鬼のスーパーな姉ちゃんがいるぞ!」
「酒だ! 酒持って来い!」
『ヒャッハー!!』
「ああ……嗚呼……」
「さあ! 最初は誰だ!」
「ハイハイ俺!! 一番! 太陽神APORONがいっきまーす! 燃えろ太陽!」
「ウハッ! 私も魅せるぜ! ブラッドハウリング!!」
太陽神が疑似太陽を落とし、それを勇儀が得意の咆哮を直撃させて粉々に破壊する。残った欠片は対処できそうな神々が対処し、紫も必死にスキマを開いて迎撃していく。
『うおおおおおお!?』
そこへ、今まで近隣の町や山脈に食材調達に行っていたフランたちが戻ってきてしまい、同時に諏訪子たちも到着して混ざっていく。
「何々? お祭りー!」
「わーい!」
「ロリだ! ロリがいるぞ!」
「イエスロリータ! イエスタッチ!」
『オタマジャクシデスティニー様だ!』
「だから蛙じゃないのだぁぁ!!」
「アッハッハ! こいつは凄い! 神様がいっぱいじゃないか!」
『BBAだ! BBAが来たぞ!!』
「オンバシラァァ!!」
「酒持って来たぞー!」
オオオオオオオオオオオ!! と地鳴りがするほどの叫びが上がり、メンタは中庭へと降り立って凄まじい光景を眺めていた。
「うわぁ! 神格ばっかり!」
「凄いね。まるで幻想郷最後の日みたい」
「そんなこといわないでください!」
シンの無情な言葉に紫が悲鳴を上げ、次いで到着した白蓮たちとさとりたちも驚愕した。中でも神格持ちの寅丸は血が疼いて真っ先に戦場へと飛び出していった。
「戦いだー!」
「ぎゃー! 毘沙門天だぎゃー!」
「(≧∇≦)キャァァ!! 虎ちゃん!」
「ギャー!? 何でお前がここにいるんだー!」
狂戦士になりかけた寅丸を食い止めたのは天敵とも言える武神。武力なら神々の中でも最強筆頭格の彼女は嬉しさのあまり寅丸に襲い掛かった。
一方、さとりは眩暈を覚えつつも何とか縁側へと到着した。ただの賑やかしも度を越せば音の暴力と化す。しかも第三の目を開いていようがいまいが神々の声と心の中は全く同一の叫びだ。喜怒哀楽の感情を惜しむことなくぶつけ、好き勝手やらかす彼らを止められる者などいない。
「う、うるさっ……想像を絶する五月蠅さ……」
「眼、閉じたら?」
「アイマスク頂戴」
「何かカオスなことになってますね!」
「イヤッハー! 楽しいなー!」
「イヤッハー! 焼き鳥が食べたいZE!」
そこへタダ酒とタダ飯を聞きつけた美鈴と魅魔も階段を駆け上がって宴の中へと飛びこみ――
「お燐! 火炎放射!」
「に”ゃー!」
「ぎゃぁぁぁ!?」
宴会芸の一つとして燃やされた。
さてこれは一体何事だ、とメンタたちは居間に集って元凶だろうマーリンを捕まえて事情を聴取していた。聞けば、誘ったのは三柱のはずだったのだが、そんな面白そうなイベントを拡散しないわけにはいかないと彼らは持てる全ての力を無駄に使って神界からも招集したらしい。
「あはは、ごめんごめん」
その当人もだいぶ飲まされて呂律が怪しくなっており、陽気に笑っては酒杯に水を注いでいる。
「なるほど。事情は分かりました」
最初は遂に神々が暇になりすぎて世界を滅ぼしにきたのか、と疑ったが害意がないなら多分大丈夫だろうという判断で紫は彼らの滞在を許可した。
「そういうわけで飲もう!」
うぇーい、と酔っ払いのノリになったマーリンは恐らく同類だろうメンタに寄っていくが、メンタにはやることが残っている。それを解消しないことには飲むに飲めない。
「あ、いえ、先に事変片付けてからにしましょう。ハイ! 神様方! 今から冥界の事変解決をしに行きますが一緒にクエスト行ってくれる心の広い神様はいますかー!」
『俺を呼んだかい!?』
イエース! とメンタはテンションを上げて神々もノリノリで手を上げた。
「君、神様の扱いに慣れてるね」
「多分ですけど、こういうのは勢い重視だと思います。さあ、行ってみましょう! あ、それ!」
『陰陽師レッツゴー☆!!』
「過去に類を見ない素晴らしい才能の無駄遣いだね」
神々を一時的に制御するなど素晴らしい過ぎる才能だ。それを簡単に無駄遣いに転じる辺り天才なのだろう、とマーリンは思う。
「じゃあ行ってきます!」
「さあ野郎共! 私の舟に乗りなさい!」
『イィィヤッハァァァァアアアアアアアアアア!!!!』
『レッツパァァァリィィィィィィィィィィ!!!!』
村紗の号令に従って神、人、妖、問わず飛空艇に乗り込んで出航していく。騒がしい喧噪も落ち着きを見せるが、それも戻ってくるまでの一時的なものだろう。
紫はスキマを出して経過を眺めつつ、居間で緑茶を啜る。隣では永琳もお茶菓子を食べていた。
「ああ、お茶が美味しい」
「ああ、騒がしかったわ」
隔離部屋の戸が少し開けられ、中から包帯姿の霊夢が顔を覗かせた。
「うぐぅ……ゆ、紫……」
「ん? あ、霊夢。目が覚めたのね」
普通は半年くらい目を覚まさないような大怪我だったのだが、永琳の治療と早苗の奇跡の力による驚異的回復の賜物だ。
「なんか、さっきから外から凄い声が聞こえるんだけど……」
「大丈夫ですよ。今はゆっくり寝ていなさい」
「うん……耳に耳栓詰めといて……」
朦朧とする意識の中、霊夢が倒れかけると早苗たちは素早く駆け寄って霊夢を寝床に戻した。
そうして、さて、と咲夜は早苗と藍の方に振り返った。
「……ねぇ、早苗、藍」
その視線が意図している場所は食料の山。見たことある食材から謎の物体まで色々だが、多分食べられるだろうことは咲夜たちにも分かった。
「はい……やります?」
「やりましょうか」
おおっと待たれい、とテーブルの上に二匹の小さなぬいぐるみが立ちはだかった。片や熊の可愛いぬいぐるみ、片やレッサーパンダのぬいぐるみだ。しかし彼らをただのぬいぐるみと侮ってはいけない。こんな小さな体でも料理の神と調味料の神だ。その腕前はスルトが絶賛し、唸るほど。
「我も手伝いましょうぞ」
「調味ならお任せを」
「いえ、ぬいぐるみに調理は任せられませんのでお構いなく」
正体を知っていれば咲夜の態度も少しは違っただろう。だが神も今やぬいぐるみ。二柱はその場にガクリと膝をついて悔し気にテーブルをトントンと叩く。
「く、くぬぅ」
「我ら概念の神なれど、何故ぬいぐるみになっているのか」
「概念は実体も霊体もありませんので仕方ありませんね」
「くそぅ……」
ならせめて包丁を研いだりスパイスを調合するくらいは、と食い下がるのは数分後の話。
霊夢「ニア・サードインパクトが完遂され、世界は滅んだ。人類は補完されることもなく娯楽と怠惰へと沈み、誰も働かなくなった」
グラたん「次回、シン・幻想郷」




