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東方幻想腐女録  作者: グラたん
第一章
108/119

第九十七話 輸血パック用意しましょうか

グラたん「お久しぶりです! ある程度出来たので週一ペースで更新していきます!」

 ここは冥界、白玉楼。現界ではそろそろ紅葉や銀杏が生い茂る季節であり、白玉楼の縁側から見える枯れ木の大樹『西行妖』に幽々子は視線を向けて億劫そうな溜息を吐いた。


「はぁ……」


 側に置いてある団子をひと齧り、湯呑みを片手に緑茶を喉に流していく。

 そんな幽々子を居間から眺めつつ剣の手入れをしていた妖夢は少し気にかけてみる。


「どうしましたか、幽々子様」

「西行妖っていつも同じでつまらないと思わない?」

「……ええ、まあ」


 この時点で妖夢は嫌な予感がした。しかもこういう時に限って予感の的中率は95%を超える。

 当人の幽々子は背後を振り返ることなく側に置いていた扇子を開き、口元に当てた。


「元々は桜の咲く木だけど、偶には紅葉が咲いても良いと思うのよ」

「……はい」


 数瞬の間を空けて出た従者の返答に幽々子は少し不可解そうに振り向いた。


「何よ、元気ないわね」

「非常に嫌な予感しかしないのに元気になれという方が無理です」


 ふぅん、と一息入れて幽々子は身体を反転させて立ち上がった。まだ残暑があるためか服装は半袖ということもあり、膝丈のスカートがフワリと翻った。


「まあ良いわ」


 ーー良いんですか!?

 妖夢は内心突っ込みを入れつつも剣の手入れを終え、道具を簡単に片付けて主人の無茶振りを待った。

幽々子は殊勝な(諦めたとも言う)態度の妖夢に対してドヤ顔で笑み、企みを告げた。


「私、西行妖が紅葉塗れになってるのを見てみたいの。つまり、紅葉が咲くように幻想郷中の秋を集めてみようと思うの!」


 妖夢は自分の主人が突飛な事を言うのは珍しくないと思っている。現に前回も『動きたくないけど、お花見したい』という動機で事変を引き起こしたのだから。


「馬鹿なんですか!? つい数年前に同じ理由で春を集めて桜を咲かせようという計画を失敗しましたよね!?」

「勿論分かっているわ。失敗の原因はずばり、戦力不足よ!」

「……」


 ビシリ、と探偵の如く指を突き付けられて妖夢は声を出すのすら忘れて呆れた。


「フッフッフ、驚いて声もでないみたいね」


 ーーいいえ、呆れているだけです。

 その実、内心では深く嘆息していた。が、再び顔を上げると幽々子はいつもとは違う不敵な笑みを浮かべていた。


「で、博麗の巫女とガチでやり合って勝てるのって誰だと思う?」


 幽々子の問いは現状の戦力確認だ。妖夢も自分がそこそこ強いとは思っているが頭一つ抜けているわけではない。


「それは……早苗さんとかパルさんですね」


 もしくは、と実力を隠しているだろう人物たちが脳裏をよぎるが、それは推測でしかない。

 同時に幽々子も首を横に振って否定した。


「ううん、違うわ」

「へ? それでは他に誰が――まさかメンタさんとか言いませんよね?」


 試しに推測の筆頭を言ってみるがそれも幽々子は否定した。


「それも違うわ」

「?」


 妖夢は他の人物も声に出そうと思ったが、幽々子の態度から察するにどれも不正解だろうと思い直して首を傾げた。

 その態度に幽々子はドヤ顔で応えた。


「分からないようね。答えてあげましょう……貴方よ、妖夢」


 ……なるほどーー。


「死ねとおっしゃいますか!?」


 幻想郷特有のルールを用いても勝てそうに無いーーそれどころか何度も敗北を喫しているのに、と妖夢は思う。とはいえルール無用の本気での戦いは明らかに分が悪い。

 幽々子はそれを分かっているにもかかわらず余裕の態度を崩さない。何か秘策がある様子だ。


「当然ながら普通にやったら勝てないわ。でも、神降ろしならどうかしら?」


 巫女の特殊な技能、神降ろし。確かにアレが使えるのならば勝利できる可能性はある、と思ったがそれは巫女であるならと言う前提が必須だ。


「――っ! い、いえ、しかしあれは巫女の技であって庭師である私には――」


 幽々子は、やはり凛とした佇まいのまま告げた。扇子もパチンと音を立てて閉じられ、初めから見透かしていたかのような視線が妖夢を貫いた。


「最初から無理だ、なんて誰が決めたのかしら? それに先の第二次幻月大戦の最後で貴方はメンタさんに力を託した。自分では出来ないから」


 幽々子は決戦の場には居なかったが、紫からことの顚末を聞き、妖夢がどう動いていたのか知っていた。

 妖夢も図星を言い当てられて言葉に詰まった。


「……それは……」

「周りが皆強くなっていくのに貴方は現在のままで良くて?」

「――です」


 二人しか居ない中、本当は聞こえていたが幽々子は敢えて繰り返しを強調した。


「聞こえません」

「嫌です!」


 そうでしょう、と幽々子は肯定した。魔法の才能は無く、剣と肉体のみを人一倍鍛えてきた彼女が悔しいことくらい長年の付き合いから分かっていた。


「でしょう? なら、答えは一つしかないわ」

「しかし……どうやるのですか? 従来の神降ろしは素質と才覚、耐えきれるだけの肉体と精神力が必要と聞き及んでいます」


 それに前提条件だって……と妖夢は言い淀む。


「そうね。でも別の方法だってあるのよ」


 幽々子は腰に着けていた巾着袋を外して中から何かの欠片を取り出した。色はやや濃いめの紫。禍々しい気を放つそれは妖怪ですら忌避する物だ。


「それは?」

「邪神の欠片。正確にはスルトが自身の魔力作った欠片よ」


 理不尽の塊みたいな人物を引き合いに出されて妖夢は予想の斜め上にいく事態になりそうだと感じた。


「――まさかですよね?」

「あら、巫女に勝ちたいなら地獄くらい乗り越えてみなさい。ちなみに早苗さんは五秒持たなかったそうよ」

「五秒……」


 実戦において五秒は以外と長い。特に集中した戦闘ならば十回以上の剣戟の応酬も珍しくはない。


「あ、それと元々は宝玉一つ分なのを砕いて貰ったから練習量は気にしなくて良いわよ。気にするべきは……」

「精神、ですね」


 肉体について言及しないため、それは問題ないのだろうと思っての返答だったが当たりらしく、幽々子は深く肯定した。


「分かっているなら良いわ。早速やってみる?」

「はい!」


 出来るかどうかすら怪しいが現状で戦力を強化するならこれしかない。妖夢は巾着を受け取り、二刀を帯刀して中庭に出た。

 幽々子は縁側には座らず、空の湯呑みと食べ終わった食器を両手で持った。


「神降ろしの方法は簡単よ。欠片を握って、降ろしたい神の名前を呼ぶだけ。本当はもっと事前にやることがあるけど私の方で簡略化してあるわ」

「ありがとうございます」

「励みなさい」


 笑みながら幽々子は踵を返し、台所へと向かっていく。普段なら片付けないため非常に珍しい光景を妖夢は見ることなく目の前のことに意識を傾けた。


「……――行きます! 神降ろし、邪神スルト!」


 神降ろしは、事前に使用する神との契約が必須だ。加えてどの程度力を与えるかは完全に神の気まぐれだが、今回に限っては違う。幽々子が宝物とか古書とかを取引材料にして実際にスルトを降ろした時と同等の力を降ろせるようにしていた。

 だが、スルトは邪神だ。それを巫女でない者が降ろそうとした場合、苦痛は増し、時に精神すらも歪ませる。その邪気に触れただけでも気が狂うような痛みが襲う。


「う……ぐ、ぐああああああああああああああああああああ!!」


 中庭から聞こえてくる悲鳴を聞き流し、幽々子は食器を台所に置いて洗っていく。

 ……邪神下ろしは神降ろしよりも難易度が高く、スルトをその身に降ろすことは巫女ですら難しい。でも、使えるようになった時は――。

 その時は幻想郷内で勝てる者は居なくなる、と夢願望を思って幽々子はニヤリと嗤った。



 数日が過ぎた。場所は少し移動して西行妖の裏手。

 妖夢は何度も気絶し、起きればすぐに修行を続けた。寝食を忘れるほど邁進し、長い苦行に身を投じていた。


「ぐ……はぁ……はぁ。もう一回……」


 神降ろし……こんな負担を霊夢さんと早苗さんはやってみせ、メンタさんも強引に使ってきます。今の私じゃ、幽々子様も西行妖も守れません――強くならなきゃ。

 ただひたすらに負けたくないという思いが出てくる。霊夢はさておき、他の面々は己の先にいる。


「神降ろし、邪神スルト!」


 悲鳴は止まない。降ろすたびに身体は傷付き、精神を摩耗させていく。一歩間違えれば廃人にすらなりかねない綱渡りを何度も繰り返す。


「妖夢……。そっちも頑張ってるみたいだし、私もそろそろ本気出さないとね」


 西行妖の麓で幽々子は既に秋の収集を開始し、裏手で頑張っている妖夢を見下ろしていた。

 従者が努力しているのに主人が、それも今回の発案者が何もしないのはおかしい。幽々子はその場で反転して、やがてくる巫女たちを撃滅する用意(まほうじんを眺めた。


「今回は全力で行くわよ。死霊遣いの本気を見せてあげなきゃ」


 幽々子は能力の使用ができない。魔法も使えなければ武器の扱いも上手くない。精々死霊とかの霊体を操るくらいが関の山だ。

 代わりに地獄や冥界に対して色々伝手があり融通が出来る。当然色々と貸し借りはあるが、今回はその内の莫大な貸しの一つを使った本気モード。使用するのは『召喚魔法』。


「……冥界より来たれ、我が前にその身を表したもう。冥界に身を落として猶そこに居続ける者よ、我が声が聞こえたのならここに姿を現して力を貸してほしい。我が名は西行寺幽々子。幻想冥界の主にして冥界の門番。伝承の地、幻想世界へと参られよ――」


 詠唱が終わると魔法陣は光り輝き、幽々子が知る中で指折りの強さを持った人物が召喚された。

 一人は禍々しい黒のサマードレスに麦わら帽子を被った魔法使い。髪と瞳は霞んだ紅。胸に至ってはパルと同等かそれ以上だろう。ただ、一つ欠点があるとすれば目付きが悪いことだろう。

 そしてもう一人、此方は中性的な容姿だが男性。服装は肩当てと胸当のみの軽装で腰には一振りの剣を帯剣している。茶髪瞳で大人しそうな雰囲気から彼女とは対照的だ。


「あら、幽々子。私たちを呼ぶなんて世界でも滅ぼしたいの?」

「でも偶には現世への復帰も良いもんだね」


 実際、幻想郷を攻めたら無双するのは明白な二人に幽々子は微笑んだ。


「いらっしゃい、二人とも。これから、忙しいのに呼び出してごめんなさいね」

「ホントよ。ま、鈍った体を動かすには丁度良いわね」

「向こうも向こうで鍛え直しているみたいだしね。それで? 僕たちの相手は何処にいるんだ?」


 彼は辺りを見渡してみるがそれらしき人影は見当たらない。もしや奥にいる禍々しい気配か、とも考えた。結果的に予想は大きく外れるが。


「近々くるわよ。神を降ろす巫女たちが、ね」


 幽々子の真面目な表情と一言に赤髪の彼女は腹を抱えて大笑いした。


「アハハハハ! 何? 幻想郷の巫女って神降ろしなんてしてるの?」


 時代錯誤にも程がある、と彼女は嗤う。対して彼の方は気になっていた奥の方を指差した。


「じゃ、そこでスルトを降ろそうとしている彼女も巫女なの?」

「いいえ。彼女は私の従者よ。強くなりたいって、頑張ってるわ」

「ふぅん」


 彼女は笑いを止めて涙を拭いつつ奥で悲鳴を上げている妖夢を見た。強くなりたいと思うのは悪いことではないし、目標があるなら努力はすべきだ、と彼女は密かに思っている。


「貴方たちの目から見て妖夢はどうかしら? 出来そう?」

「率直に言って、気合いと根性があれば誰にだって出来るわ」


 それで出来たら世の中の多くの凡人は神を降ろせることになる。


「適当なこと言うな! まぁ、でも、可能性はあると思うよ」


 巫女でないため他の神は無理だが、邪神なら凡人だろうと降ろすことが出来る。

 その後、どうなるかは知らないけど……と彼は呟いた。


「充分よ」

「ところで幽々子、あんた今暇?」

「ええ。二人同時でも良いわよ」

「幽々子さん、消滅したいんなら協力しますけど今の状態じゃ無理ですよ」

「そうね。大口を叩くのは実力が見合ってからにしなさい」

「フフフ、そうですか?」


 幽々子は久しぶりに妖気を解放して臨戦態勢に入る。これが霊夢とか魔理沙なら警戒くらいはするが、彼らにとっては片手間で充分な程度だ。


「では、それが言えるくらいには頑張りますよ」

「出来たらね!」


 彼らに『スペルカードルール』という生温いスポーツルールは通用しない。闘るなら死ぬか生きるかの二択ーー幽々子は数分で西行妖に貼り付けられた。





 一方で博麗神社では残暑を乗り切るため扇風機はフル稼働し、霊夢は依頼がないので縁側でダラけ、魔理沙も居間で魔法書を読み耽っていた。

 不意に風が吹き、緑の銀杏の葉が居間に入り、ページの隙間に乗っかった。それを煩わしく退けようとして、魔理沙は気付いた。


「そういや、そろそろ秋だっけ?」

「もうそんな時期?」

「霊夢は普段からゴロゴロしているから季節感ないもんな」

「あら、そう?」

「冗談だ。……メンタは?」


 視線を向けると、ここしばらくは修行と称して出てこないメンタのいるお堂がある。その側では橙が妖精や狐たちと戯れていた。


「ずーっとお堂よ。もうそろそろ一か月過ぎるわよ」

「飯は?」

「一応食べてるっぽいことはレミリアが言ってたわよ」


 あの後、メンタの様子がおかしいことは知り合い全てに伝えられた。特に親しいレミリアとシンは定期的に博麗神社を訪れてメンタの様子を見にきているが、修行に集中しているのか返答はない。

 あまりにも気になって覗こうとすると紫に止められたり、来客があるなど人為的なものを感じてはいた。だが、紫から『あまり邪魔しないように』と釘を刺されているため霊夢は意図的に意識しないようにしていた。


「……それ、大丈夫なのか?」

「分からないわ」

「様子くらいみたらどうだ?」

「あんまり邪魔はしたくないんだけど……そうね、偶には見てあげましょうか」


 何も霊夢とて心配していなくはない。むしろクソニート必須の収入源に死なれたら再び香霖堂で強盗(かいもの)しないといけなくなる。

 お堂前にやってくると中からは聖なる気のようなものが発せられており、入るのを躊躇いーー踏み出して取っ手に手を掛けた。


「メンター、入るわよー」


 一瞬、二人は入ってはいけない場所に足を踏み入れたかのような錯覚を覚えた。当然、幻覚ではあるがそれほどまでに中から溢れ出た聖気は濃厚だった。


「うわっ……」

「……これはまた凄いわね」

「……霊夢さん? 魔理沙さん?」


 霊夢たちの声が聞こえるとメンタは聖気を霧散させ、重圧感がお堂から失われていく。

 メンタの顔色は思っていたよりも悪くない。やや青白く見えるのは血が足りないからだろうか、と魔理沙は思う。


「ええ、そうよ。今の感じなら修行は上々じゃないかしら?」

「うーん、もうちょっとなんですけどね」

「一体何の修行をしているんだ?」

「主に能力の制御と広範囲発動です。そこに聖気を乗せて一人一人を完全に制御する訓練をしています」

「あ、そこは言ってくれるのね」


 どうせ答えてはくれないだろうと思っていたからそれは意外な感触だった。


「イエス! よくよく考えたら冬コミがもう間近になってますので修行は程々に、缶詰しないといけませんからね!」

「一か月も出てこないから心配したんだが、大丈夫そうだな」

「勿論です! あ、ちなみに今日の修行はもう上がりますんで先にシャワー浴びてきますね!」

「いてら」


 タタタ、と軽快な足音を立ててメンタはお堂を後にして風呂場へ急いだ。

 その様子を見て、二人は笑みを消した。


「元気になったみたいだな」

「ええ。……で、何か分かりそう?」

「さてな。何かが広範囲で起こる、くらいか。規模がどれくらいかは分からないが……都市規模かもしれないな」


 うえっ、と霊夢は夏コミのことを思い出す。メンタの能力で暴走したとは言っても都市部で、あの規模での事変は勘弁して欲しかった。


「夏コミでアレだったから冬コミはどうなるやら」


 はぁ、と魔理沙も溜息を吐いて小さく呟いた。


「……なぁ、霊夢。一つ言って良いか?」

「良いわよ」

「誰にも言うなよ?」

「安心なさい。多分思ってること同じだから」

「そっか、なら言うけど――――随分ヤバくないか?」

「そうね。私も敢えて言うなら――――危険すぎるわ。加えて、一人一人完全制御した上で広範囲に発動する……そんなの精神系能力者でも負荷がかかり過ぎているわ」


 同系統の精神能力であれば、さとり、こいしの両名が挙げられるが、やはり規模が違いすぎる。


「それに、っと」


 魔理沙が臭う方へと歩き、お堂の木材を引き剥がすとそこにあったのは大量の血だった。だいぶ乾いている箇所があることから最近の発症ではないようだ。


「……一体何をしたらこんな血溜まりになるんだよ。血反吐レベルじゃないぞ」

「……後で輸血パックを用意しましょうか」

「だな」


 何事もなかったかのように床を戻し、お堂の扉を閉めて二人は居間へと戻っていく。

 居間の扉を開けるとメンタも風呂を上がったらしく、タオルを首にかけていた。


「丁度出たみたいね」

「はい! お騒がせしました!」

「茶でも飲むか? 霖之助んところから奪って来たやつ」


 またですか、と思いつつも最近は被害が殆どなくなっているため店としては黒字になっているが、それはそれ。


「そろそろ代金を頂きたいものですね」


 縁側に座っていた霖之助が半眼になりながら湯呑みを置いて魔理沙たちの方を見た。


「おわっ!? 何時からそこに!?」

「何よ、こんな借金まみれの神社から何を取り立てる気?」

「体一択ですね」


 博麗神社の売り上げは生活費諸々を除いて全て守矢に持っていかれるため残るとすればそのくらいだろう。無論、そうなったらパラノイア並みの人身売買が繰り広げられることになるたろう。


「そうそう、って違います! ちょっと聞きたいことがあってきたんですよ」

「何よ?」

「……紅葉、見ました?」


 あー、それなら、とメンタは心当たりを告げた。


「椛さんならスルトさんがパル姉連れて蒸発したこと知って発狂してましたよ」

「それは知ってます。あと、その情報流したのメンタさんだってことも知ってますから」


 事実、その情報を知った椛は発狂して守矢に直行し、いないとわかるや紅魔館に向かい、本当に蒸発したことを理解して暴走した。

 危うく事件一歩手前で早苗が取り押さえて事なきを得たが、椛はそうとう落ち込んでいるらしい。


「お前は修行してたんじゃないんかい」

「腐腐腐、そこにネタがあれば飛びつくのが野次馬です」


 ともあれ、本題はそこじゃない。丁度、霊夢たちもそれは気にかけようとしていた話題だ。


「で、紅葉とか銀杏のことでしょ? 勿論見てないわよ。今年は咲くのが遅いわねーって思っていた所よ」

「やはりですか。どこもかしこも似たようなことが起きているみたいなんです」

「つまり事変だって言いたいのか?」


 ええ、と霖之助は肯定した。


「回りくどくなりましたがそうなりますね。秋がこないと木々も実を付けられずに朽ちるものも出てきますから、調査して貰えますか?」


 そうなると報酬だが、いつものようにぼったくられるのでしょうね、と霖之助は内心溜息を吐く。


「1億円」

「ぼったくり過ぎだと思いませんか!?」

「こっちは紫が作った借金返済するのに毎日新聞配達とか畑仕事しているのよ? ちょっとはお値段を協力しても良いと私は思うわ」


 あの霊夢が、と霖之助は驚くが流石に一億円は出せない。里人もそこまで大金があるわけじゃない。


「別に事変確定ってわけじゃなく調査依頼ですので上限でも500万です」

「その元手は誰からですか?」

「主に自治会です。これが事変だと分かれば正式に依頼する予定ですよ」

「いくらくらいだ?」

「前金1000万円、成功報酬5000万円です。更に10月31日までに完遂して頂ければ町のハロウィンパーティーに無償でご招待します」


 自治会が集められ、生活にも比較的影響がでない数値がその辺りだが霊夢たちからすれば十分過ぎた。

 霊夢の目は現生に曇り、勢いよく立ち上がった。


「やるわよ!!」

『現金だけに!』

「とりあえずは聞き込みからやるわよ。メンタは修行と平行でやるから博麗神社付近、私は北、魔理沙は南を頼むわ」

「良いが、中央都市で聞き込んだ方が早くないか?」


 情報が欲しいのなら都市に行った方が多量に入るし、噂程度でも結構手がかりになる。

 魔理沙の言い分は尤もだが、そこは霊夢にも確信があった。


「そこは守矢に任せるわよ。ね、霖之助」


 事変の大体は世界規模で起こるため、霖之助が博麗か守矢のどちらかに依頼を絞るなどあり得ない。


「そういう所の察しは早いですよね……。はい、守矢神社にも調査依頼はしていまして守矢周辺と中央都市を調べてみるそうです」

「無駄主人公補正乙」

「無駄口叩いている暇あるならさっさとやるわよ」

「イエス!」


 三人は早速博麗神社を出て付近の里や町へと飛翔していく。一応最低限の戸締りはしていたが、残っている霖之助に後を任せてしまう辺り不用心とも信頼してるとも言える。

 結局の所、最後は紫が管理してくれていたりする。



 久しぶりのまともな依頼を受けて重い腰を上げた霊夢は里や町ーーではなく、とある場所に向かっていた。


 ーーさて、久しぶりにまともな事変活動だけど……幻想郷から秋が無いとなれば、理由候補は四つ。一つは何らかの理由で秋が欲しがっている人物がいるということ。二、秋を奪う事によって利益があるということ。三、こそこそやらずに堂々と私に挑戦してくる馬鹿がまだいるってこと。そして四つ目――。


 まあ、事変の概ねは知り合いが起こす上に強力な力を持った人物を片っ端から当たって行けばその内当たりを引ける。加えて前科がある人物ならばーー。


「普通に考えてこんなことするのはあんたくらいしかいないわよね、幽々子」

「あらら……思った以上に早くてビックリ」


 幽々子も霊夢たちが一番早く来るだろうとは思っていたが予想より早い到着だった。


「いや、前の事変忘れてないわよ? 関連を疑うならここが一番ありそうってだけ」

「そう」


 それもそうか、と幽々子は納得するが、その様子は全く慌てていない。


「何よ、随分余裕ね」

「まあ、こっちもそれを見越して準備はしていましたから」

「ふーん、で、あんたが相手?」


 霊夢のぶっきらぼうな問いに幽々子は扇子を広げて口元を覆った。そうでもしないと嗤いが分かってしまうからだ。


「それも良いのだけど……先にこの人たちの相手をしてくださる?」


 幽々子が妖気を蝶々へと変えて周囲に放ち、やがて収まると二人の男女が立っていた。二人ともに敵対する気満々の様子に霊夢は若干呆れたような表情になった。


「どーも、博麗の巫女」

「初めまして」

「……別に誰でも良いけど、事変解決の邪魔するなら倒すわよ」


 そんな挑戦的な言葉を浴びたのは久しい。彼女の性格をよく知っている彼は頰を掻き、彼女の方は実に良い戦闘狂の笑みを浮かべて飛びかかった。


「ククッ、出来るならね」


 気付いた時には接近されていた。警戒していたとしても霊夢の反射速度を超えており、その顔面に拳が突き刺さる。

 次いで見えたのは西行妖の枝。秋を吸い続けている様子が瞳に映り、地面を数回跳ねて背を幹に打った。


「ガッ――」


 彼女は追撃しなかった。今の攻防で霊夢の戦闘力は察しが付いたし、そこまでの相手でも無いと感じてしまった。

 代わりに挑発して霊夢を立たせる。


「ほら、立って立って。まさか博麗の巫女がその程度じゃないでしょ?」


 ぺっ、と口の中に溜まっていた血の塊を吐き出して袖で拭い立ち上がる。


「……上等。行くわよ!」

「来い」


 そういう根性は嫌いじゃない、と彼女は思いつつ再び霊夢を一方的に殴打する。

 その様子を幽々子は見ていない。結果が分かっている試合よりは妖夢の方が見応えがあった。その口元は微かに動く。


「桃太郎さん、桃太郎さん。お腰に付けた黍団子、一つ渡しにくださいな」

「誰もが知っている童話、桃太郎」

「桃太郎は鬼を退治し、町の英雄となりました」

「そこでいつも物語は終わり、また読み返される」

「私、その続きが知りたいのよねー。妖夢、この続きって何処にあると思う?」


 その妖夢は精根尽きて倒れており、幽々子は微笑んで妖夢を仰向けにして寝かせる。


「童話って、大体実話を元にして作られるのよ」

「私は知ってるわよ。だって同じ時代にいたのだから、ね」

「その後も知っていて当然よね。誰も知らない真実、桃太郎のその後」


 幽々子の独り言は誰にも聞こえることなく消えていく。西行妖の方からも音がしなくなり、決着が着いたようだ。




 時刻は午後の三時くらい。約二時間ほど調べ、博麗神社に戻ってきたメンタたちは周辺を調べた結果を打ち合わせていた。

 人々もはっきりとした違和感はあるようだが、まあいつものことだろうで済ませてしまっている。一部では人工的に紅葉を作ってしまっているらしい。


「……と、まあ皆おかしいなぁ、とは思っているみたいですが幻想郷なら割とあることだ、で済まされました」

「まず最初に近況報告って言ってほしかったな」

「そんなこと言わなくても分かりますよ。ところで霊夢さんは?」


 時間的にはそろそろ戻ってきてもおかしくはないが、連絡もないというのはおかしな話だ。


「それが何処にも見当たらないんだ。連絡しても繋がらないし」


 うーん、と唸ると紫がコタツの中にスキマを開いて顔だけを表に出した。


「おぉう、狐はコタツで丸くなるわ」

「コタツから大の女性が出てくるのってかなり恐怖感あるので止めてくれませんか?」

「嫌よ。外は寒いし懐も寒いし藍も橙も寒いもの……」

「外以外は自爆だと思うけどな」


 余談だが、まだ残暑があるためコタツに火は入っておらず、藍は紅魔館でメイド仕事をしている。


「それで、ここに来たって事は紫さんは霊夢さんが何処にいるかご存知ですよね?」

「霊夢? 霊夢なら冥界にいるわよ。見る?」


 テーブルの上に映像用スキマを開いて見せるとメンタちちは唖然とした。というかこれを使えば覗き見し放題なのでは、とメンタは邪なことさえ考えた。


「能力の無駄遣い……」

「覗きに便利でラグがないという素晴らしい能力って言って欲しいわね」

「はい、それは良いので失礼します」

「どれどれ……」


 スキマは正面からしか見れないので二人は回り込んで覗き込み、中は確かに冥界だった。だがーー。


 冥界。先程までは多少なりと騒がしかったが今は静寂に包まれている。妖夢も目を覚ましており、修行が再開されるとまた叫びが聞こえてきた。

 幽々子も西行妖の麓に戻ってきており、赤髪の彼女は両腕を頭上に上げ、大きく背伸びをして退屈そうな欠伸をした。

 その彼女は幽々子が来たのを見て半顔を送った。


「ねぇ、幽々子」

「はいはい」

「これが今代の博麗の巫女なわけ?」


 彼女が指差す先には西行妖がある。正確に言えば幹から伸びている鋭い枝の一つによって串刺しになっている霊夢だ。辛うじて息はあるが、全身から夥しいほどの血流を流し、腕や足はおかしな方向に捻れている。


「そうですよ」


 幽々子が肯定すると彼女は深い溜息を吐いた。


「……はぁ、期待外れにも程ってものがあるでしょう」

「いや、単純に君が強すぎるだけだからね? それに彼女は幻想郷内では最上位の一角だよ」


 彼の言葉は真実だ。霊夢は強く、そんじょそこらの妖怪に遅れは取らない。とはいえ身が人間であることに変わりはないため単純な量力では勝てない輩も多い。


「これで最上位って……というか幽々子もこんなのに負けたの?」

「スペルカードルールに乗っ取って戦えば負けもするし、そもそも私の能力が幻想郷と冥界内部では一切発揮できないというのを忘れてない?」

「言い訳?」


 彼女の容赦ない口撃に幽々子は苦笑いして固まる。


「……言い訳」


 場の空気が少し悪くなりそうなのを見越し、彼は二人の合間に入って仲裁した。


「まぁまぁ。それはともかくとして……彼女、どうする?」

「ん? これ? 転移で博麗神社に送りつけましょうか。ほら、ちょうどそこから様子見てるみたいだし」


 その指差す方向には覗き見しているメンタたちがいるが、正しくは見えていない。そも、紫のスキマは視認しようとして出来るものではない。

 が、彼女と彼は魔力とか空気の揺らぎ、誰かの視線を感じられる。

 当の博麗神社ではメンタと魔理沙は驚き、紫は知っていたかのような態度で緑茶を啜りつつ医療箱を取り出した。


「魔理沙さん、古代魔法呪文です!」

「任せろ! 食らえ、そこの凄く強そうな奴!」

「一を解いて全て解け、ありとあらゆるものを一言で分かる英知の言葉!」

「バレテーラ!」


 その昔、地球がまだ人類によって支配されていた時代。魔力を持たないが彼ら魔法使いは次々に魔法を生み出し、賢者たちはそれらの魔法を世に広めていった。メンタもその魔法を知る一人であり、魔理沙もつい最近知った。

 その魔法を食らったものは、特段この世界においては面食らう者が多い。


「ね、どういう魔法だと思う?」


 彼女も相応の魔法を扱える極悪非道魔王(まほうつかい)だったが、まだ知らない魔法があるのか、と目を輝かせた。

 一方で彼は純粋な推測から魔法の意味を思いついた。


「いや普通に『バレた』を格好良くしただけだと思うよ?」


 ガクリ、と彼女は肩を落としてから霊夢に右手を向けた。その魔法は転移魔法。


「ふぅん。ま、いいや。とりあえず――転移」


メンタ「次回、ヒナミサワ症候群です!」

グラたん「アウトです」

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