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東方幻想腐女録  作者: グラたん
第一章
107/119

第九十六話 幻想地獄郷 下

グラたん「第九十六話……です!」

 そこから北上した辺りには冥界への入り口があり、白玉楼という屋敷と西行妖という樹がある場所へ繋がっている。

 数度しか来たことは無かったが、ここも酷い有様だ。白玉楼は何とか人が住めるくらいにまで復興しているが、西行妖は半ばから切断されていた。

 その根っこの辺りでは幽々子の墓を清めていた妖夢がおり、降り立つと彼女は比較的まだ友好的な笑みで迎えてくれた。しかし現在の巫女ではないことを悟り、少し身構えた。そんな妖夢に対してメンタは先と同じ言葉を告げた。


「……過去から来ました、妖夢さん」


 ガタン、と持っていた桶が滑り落ちて水が流れていく。今の巫女は白い仮面を付けているため、目の前にいるメンタの言葉は余計に信用出来てしまった。そしてそれは、妖夢がしたこともメンタは知っていることになる。


「……ごめんなさい」

「仕方ないと……そう言い切れたら良かったんですけど、そうするしかなかったんですよね」


 幽々子も事変の影響を諸に受け、その身を焦がした。妖夢も少し当てられていたが幽々子を止めるためにメンタと共闘し、抑える方法を模索した。

 だが、そんな方法は一つしかなかった。


「……こうするしか、もう方法が無かったんです! ――西行妖を斬り、根本に眠っている幽々子様の本体を刺し殺すしか! そんなこと、したくなかったんです!!」


 妖夢は両手で顔を覆って泣き崩れた。口では嫌だ嫌だと言っても幽々子のことは根から嫌いではなかった。そうしていられることが幸せなことだったと気づいたのは幽々子を殺した後だった。

 メンタは子供のように泣きじゃくる妖夢を抱きしめ、その背を優しく撫でた。妖夢と会ったらそうして欲しいと巫女にも言われていた。


「分かってます。妖夢さんのこと、良く知ってますから」

「――――っぁぁああああああああ!!」


 巫女は当時、そんなことをしている余裕も時間も無かった。泣いている妖夢を置いていくことしか出来ず、妖夢を助けられる人はいなかった。



 数時間泣き続けた妖夢は疲れて寝てしまい、白玉楼に寝かせた後に一筆のメモを置いてメンタはその場を去った。

 次に足を運んだのはとある隠れ家だ。その隠れ家は紫が見つからないように作った家であり、藍と橙も住んでいた場所だ。位置も事前に知らなければ発見出来なかっただろう。


「……事前に聞かなかったら絶対に見つからないと思います。でも、そこから出たら意味ないですよ……。仕方ないのは……分かってますけどね」


 橙は欲に駆られた人間たちに捕まり、その後で妖怪に食い殺された。それを知って激怒した藍が本来の姿で町も人も妖怪も焼き尽くし、滅ぼした。

 そうして、最後は博麗の巫女に討たれて隠れ家の近くに埋葬された。



 東の陰陽寺院と書かれた古めかしい看板。門は固く閉ざされており、中からはふざけた様子の無い生徒たちの声が聞こえる。空中から見下ろすとコスプレしている者などおらず、ただ黙々と課程をこなしていく生徒たちの姿があった。

 巫女から聞いた話では枢は教師を継続しており、シンは卒業して枢を支えているとのことだった。

 理事長室へと降り立つと中から聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「誰だ、そこにいるのは。シン、開いてくれ」

「……誰?」


 理事長の指示に従って扉を開けると、そこにはメンタがいた。いつもみたいな反応はせず、枢からも冷たい視線が突き刺さった。


「博麗の巫女……」

「過去から……きました」


 シンは首を横に数度振り、代わりに枢が扉の前に立った。


「……悪いが俺たちはもう昔だろうと今だろうと博麗の巫女は信じない。信じられないんだ……」

「ごめん……」


 その事情も知っている。多くを語ることなくメンタは一言だけ告げた。


「……分かっています。お参りだけ許可をください」

「……許可する。閉めよ」


 奥から理事長の声が聞こえ、ゆっくりと扉が閉まっていく。

 庭の、自宅があった場所に家は無く、代わりに五匹の墓が立てられていた。


「本当、五人揃って馬鹿ですよね。人間一人と妖怪一人生かすために捨て石になるなんて……本当、犬ッコロですよ。虫けらですよ。百円で、ビッチで、吸血鬼ですよ……」


 レリミアたちの墓。陰陽寺院の中で関わることも口に出すことも禁忌とされている場所だ。その実情を知るのは一部の教師だけだ。

 そして、彼女たちを容赦なく惨殺したのがメンタだ。



 かつて迷いの竹林と呼ばれた場所がある。今は九割方が焼け野原と化し、不死者だけが住む世界になっている。

 メンタもかつてはここで目覚め、永琳たちに拾われた身だ。焼いたのは人間であり、妖怪だ。そのどちらにも激しい怒りを覚えながらも無理やり抑え込んで奥へと進んでいく。

 永遠亭の門前には妹紅が座っており、妹紅も最大限警戒して立ち上がった。だが巫女では無いことに気付き、警戒レベルを一気に落とした。


「……妹紅さん」

「巫女――じゃ、ないね。何時か言ってた過去のメンタか」


 ここも話は通っているようでメンタは首肯した。


「はい。……皆さんは?」


 妹紅は一度視線を逸らし、良く知っているメンタにだからこそ止めようと思った。


「……見ない方が良い。このまま博麗神社に戻った方が良い」


 そう言われることは分かっていたが全部を知らずに戻ることはもうメンタには出来なかった。そのための覚悟は博麗神社を出た時に済ませていた。


「見ないといけないんです。もう、知っているから全部受け止めたいんです」

「……そこまで覚悟があるなら、来な」


 もう二度と誰も来ないだろう永遠亭の門を潜り、中へと案内される。廊下を通ると何処からかゲームの音楽が聞こえてくる。妹紅もそれを察して輝夜の部屋を少しだけ開け、中を見せる。

 食事も水も本来必要としない不老不死は生きた屍だ。傷は長い長い時間をかけて治すしかない。何もかもが衰えないためか、酷く暗い部屋で軽快な音楽だけが流れていく。

 メンタは何も言わずに扉を閉め、妹紅に先を促した。

 妹紅は、研究室、と書かれた部屋の戸を叩く。 


「永琳、客だ」


 中から嘲笑するような吐息が聞こえた。


「こんなご時世にお客もクソも無いでしょう、妹紅」


 悪い冗談だ、と永琳は思う。

 だが、妹紅はとても悪い笑みを浮かべて告げた。


「いいや、とびっきりの過去から来たお客だ」

「過去から……? ……まさか――」


 勢いよく扉が開かれ、中からは目元に酷い隈を残し、顔もだいぶやつれた永琳が出てきた。髪も切っていないのか床まで伸びており、白衣も皺だらけだ。


「……随分変わっちゃいましたね、永琳さん」

「博麗の巫女……いえ、メンタさん?」

「はい。全て知った上でここに居ます」


 じゃあ――、と永琳は思わず嗚咽を漏らした。涙は拭けども後から出てくる。


「……ぐすっ。……ごめんなさい、まさか本当に来るとは思っていませんでしたから」


 メンタは何も答えられなかった。そんな希望が存在しない、出来ないくらいにはこの世界は暗い。部屋の奥を見れば何を作っているのか分からないが、きっと良くないものが出来てしまうことは容易に想像できた。

 だが、永琳はもうしばらくはその研究も中断出来るだろう。

 少しばかり昔のような笑みを浮かべ、メンタに尋ねた。


「早苗にはもう会ったのかしら?」

「はい」

「そう。それなら私から二度も三度も言うのは野暮ですね」


 何拍か空いて、言うのが酷でありメンタに背負わせてしまうことも分かった上で永琳の口は止まらなかった。


「……でも、やっぱり言わせてください。――未来を変えてください」

「はい! ……きっと、てゐもイナバさんもそう思っているはずです」


 そこはまだ見ていないのだろうと察して永琳は妹紅に顔を向けた。


「ええ、そうですね。妹紅、裏手に案内してあげて頂戴」

「……ああ」


 妹紅に連れられて裏手へと歩き、墓が見えた辺りで妹紅は立ち止まった。


「私はここらで戻る。後は好きにしてくれ」


 それだけ言って踵を返し、また門へと戻っていく。

 メンタは震える足、手、全身を抑えつつその場所へと歩いていく。一歩進む度に震えは増し、そこで止まれ、もう戻れと理性が囁く。

 やがてその場所へとたどり着いた。周囲には同じような墓がいくつもあるが、目の前の暮石にだけは血を混ぜたような手形が付いていた。それは重ねなくても分かるほど見たもの――自分の手跡だった。


「……本当、一番信じられませんよ。死んでも死ななそうなのに、……そこらへんからひょっこり出てきそうなのに……」


 てゐ、と恐らく自分が書いただろう血が滲んだ墓にメンタは縋りつき、今まで溜めていた分がまとめて崩壊した。


「うわああああああああああああああああああ!!」


 あまりにも耐えられない世界。何もかもを失った博麗の巫女の絶望はこんなものではないのだろう。しかし、今まで見てきたモノは同じだ。

 絶対に変えないといけない未来。自分がどんなツケを支払うことになろうとも変えると決めた未来。生き残った者たちからの想いを背負い、メンタは泣いた。

 

 

 博麗神社に戻ってきたメンタは泣き腫らした酷い顔だった。


「……戻りました」


 それ以上に覚悟を決め、腹を括った表情だった。

 巫女はそんな過去の自分を見て喉まで出かかった嗚咽を飲み込んだ。


「おかえりです。……地獄はもう良いですか?」

「ええ、もう十分過ぎるくらいに」

「……ここが最後です。此方へ」


 巫女の後に続いてお堂の中へと入り、例の博麗大龍神のねぐらへと案内される。そこには空中に浮いて透明な球体の中に入っている霊夢がいた。目は閉じられており、一見は眠っているようにも見える。


「これは……霊夢さん?」

「正確には概念を固定しただけの存在。誰も触れられず、オレたち以外には認識できない幻想郷の防衛システムです」

「認識……巫女だから、ですか」


 巫女であるということは早苗にも見えるが、この姿を見せられはしない。そしてこれをシステムと言い切った巫女の言葉をメンタは理解してしまった。


「そうです。元は博麗霊夢と呼ばれていた概念です」

「――っ!」


 未来を変えるのがメンタの役割であれば、霊夢の役割は幻想郷を守ることだ。博麗の巫女は世代によって役割が違うが、全うした際は全員が命を落としている。

 そんな二人の様子を博麗大龍神は宝珠の中から眺め、巫女はそれに感づいて宝珠をぶん殴り、持ってきた木箱に詰めて紐で固く縛った。

 その怒りもメンタは理解できた。そうするだけの理由が巫女にはあった。

 ふぅ、と巫女は一息吐いてメンタに振り向いた。


「これで一通りは廻りましたね。他に見てないのは――月くらいですか?」

「そうですね」

「月も幻想郷と同じように隔絶を行っています。依姫姉がアルテミスと共に防衛し続けています」

「……流石ですね」

「はい。……パル姉についてはもう教えましたね」


 巫女の言葉にメンタは肯定する。

 この後は間違いなくメンタも同じ道を辿る。パルもメンタも地球に戻り、13年間を平穏に過ごすことになる。幻想郷にはいつでも戻ることが出来るため事態の把握は大幅に遅れてしまう。


「過去のオレ。何度でも言いますが、この未来を変えてください。あと数日もしない内にパル姉が戻ってきますが……こんな地獄の光景を見せたくありません。正直、パル姉たちが帰って来てくれれば能力を使用して幻想郷の守りは維持されます。でも――」


 そこで一旦言葉は途切れ、メンタはそんな自分を真剣に見つめた。


「未来のオレ、今ここにいるのは自分自身です。伝えたいことがあるのなら偽らずに言ってください。他ならないオレなんですから」

「……そう、ですね。……オレ自身にも言えないで未来を救って欲しいなんておかしい話ですよね。――じゃ、言います」

「どんと来てください」


 巫女は大きく息を吸い、一気に捲し立てた。


「――今まで口上句並べましたが、ぶっちゃけオレ自身のためにこんな未来を変えてください。というか紫さんもスルトさんも未来見てるのに黙ってたんですよ。博麗大龍神も同じく未来を見ることが出来ていて、全部終わった後に打ち明けられても困るんですよ! こんな未来になるんなら霊夢さんなりオレに言うなりして対策の一つ二つはするべきですよ! それなのに『未来を知った者は他者に内容を言ってはならない』とか言って、だったら最初っからオレを呼べってことですよ! その結果が今です!」


 神様が嫌いになるのも通りな理由が語られ、メンタは自分のことながら納得してしまった。


「……ああ、それでオレ、未来にいるんですね」

「……さてと、言いたい事は言いましたし、これ以上言う事もありません。大丈夫ですよね?」


 巫女は心配そうにメンタを見るが、メンタは強い意志を瞳に込めて頷いた。


「はい、分かっています。今からでも間に合うのは分かっていますから」

「やるべきことは能力を使ってでも記憶していますね?」

「はい! 未来を変えるために過去を変えないことですよね!」

「ええ。では戻りましょう、あの時へ。貴方に、過去のオレに託します!」 


 イエス! と過去の自分ならではの台詞と共にメンタが消えていく。



 一つ呼吸をする間に未来は変わる。過去の自分には言ってなかったことだが言う必要は無いと巫女は思っていた。

 塒の扉を閉めて、飛翔はせずに階段を登っていく。


「……お願いです。変わってください」


 そう祈りながら未来へ続く階段を上がっていく。

 カツン、カツン、と自分の足音だけがヤケに響く。

 淡い期待と恐怖。その両方が混ざり合わさって心臓の音が高鳴っていく。

 やがて、階段を上りきってお堂へと出た。そのまま外に出て、見える景色は相変わらずの雪。ほぅ、と吐いた息は白い。

 代わり映えしない景色にもう一度吐息を吐き、キシッ、と自分以外の誰かが立てた足音に巫女は驚いて視線を向けた。


「あっ、いたいた。メンタ、もう皆集まってるみたいよ」

「――――ぁ」 


 ドクン、と心音が一際高く跳ね上がり、書き換わらなかった過去と変わった過去が記憶の中に入ってくる。


「ん? どうしたの――って、なんで泣いてるのよ」

「いえ、これは……」

「全く、そんな顔でパルを迎えに行く気?」


 いえ、いえ! と語気を強めて袖で涙を拭い、顔を上げた。


「ほら、行くわよ」


 その差し伸べられた手に自分の手を伸ばし、


「はい!」


 メンタは笑顔で地面を蹴って飛翔した。 



 現代に戻ってきたメンタは紫も見たことがないくらい真面目な表情だった。


「おかえりなさい」

『戻って来たか』

「……ええ」

「――絶望を見て来た、って顔しているわよ」


 瞳から読み取れる感情は激情と激怒、憎悪と悲観。そして決意。


「未来……地獄でしたよ」

『……そうか』

「メンタ――」


 続きを言おうとする紫を手で制し、メンタは小さく頷いた。


「分かっています。未来の知識ですから、誰にも言いません」

「なら、良いわ。これは貴方が望んだこと。……でも、貴方しか幻想郷を変えられない。どうか、お願いします」


 そこに紫は居ない。神々はいない。幻想郷の運命をたった一人の少女に託さなくてはならない。


「……はい」

『我になら言っても良いぞ』

「……愚痴ばっかりになりそうですっ」


 無理やり笑みを浮かべてメンタは塒を後にした。

 長い長い階段を歩き、その合間に脳内で思考を纏める。

 ――本当に……本当にあんな未来は嫌です。でも、あの世界のオレはどうにもできなかった状況をどうにかしてああいう形にしてみせました。未来すら知らなかったオレがどれだけ絶望しながら人類と、妖怪と、戦ったなんて分かりません。何もかも全部捨てて…………変えなきゃ……絶対に、今すぐにでも、です!

 ――あの未来になる時間は13年後です。正確にはあの時点で詰みで、発生は……12年と半年後ですが、助力を得たいスルトさんもオレが戻った時点では既に地球へ向かった後なので対策もクソもありません。パル姉も同様です。…………起こる事件は全て頭の中に入っていますが、正直オレ一人だけではどれか一つを手に取ることは出来ても全部は救えません。

 ――そして最も鬼門なのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()です。幻想郷は紫さんの能力のおかげで時空の流れから切除されていますがリアルタイムはオレたちの地球と同じです。あの世界を変えるには『世界の上書き』が必須です。

 ――そうするための方法は()()()()()()()()()()()()()()()()()()……本来であれば咲夜さんやパチュリーさんの力を借りる方が早いのですが、未来の知識を言うことも教えることも出来ません。

 ――ですが事件は起こります。その解決方法は分かっていますが……それなら、全部救うには――。

 お堂を出てもメンタは考え事を続けており、掃除をしていた霊夢にも気づかず母屋へと戻ろうとする。


「あら、メンタ……?」


 ――能力で幻想郷全てを覆い尽くすしか――。

 その酷い面を見て霊夢はゾクリと背筋を震わせた。まるでこれから死ににいくような顔つきに、すぐに踵を返してメンタの腕を掴んで引き留める。


「メンタ!」


 霊夢の大声に一旦思考が止まり、振り返ると霊夢が腕を掴んでいた。


「っ!? れ、霊夢さん……驚かせないでください――」


 言葉が終わる前に霊夢は両肩を掴み、妖怪を退治しに行く時のような真面目な表情でメンタに迫った。


「メンタ、正直に言いなさい。あんた、何を見たの?」


 ビクッとメンタの肩が震えた。それは霊夢にも伝わってしまったが『言ってはいけない』という決まりを思い出して必死に笑みの表情を作った。


「な、何を急に言ってるんですか?」


 霊夢は確信を持って更に迫る。


「言いなさい。…………じゃなきゃ、そんな酷い面にならないわよ」

「……何も見てません」


 何故だかは分からないが霊夢の本能は今メンタを逃がしてはいけないと告げていた。


「ダメよ、言いなさい」

「……言えません」

「言って」

「……言いません」


 三回目でメンタの強い拒絶を感じ取り、両肩を離してどこかで見ているだろう紫を呼び出した。


「――紫」

「何かしら?」


 紫はのんびりとした口調で警戒心も無さそうだが、霊夢は逆に最大の警戒と臨戦態勢を取って紫に問う。


「メンタに何したの? 事と次第によっちゃ、あんただろうとぶっ殺す」

「さあ?」


 酷く適当な回答に霊夢は紫が元凶だと判断し、弾幕を抜いた。


「――――ッ!!」


 それを察して間にメンタが入り、両手で霊夢の腕を止めた。


「退きなさい! 何だかは分からないけど!」

「霊夢さん! オレなら大丈夫ですから――」

「何が大丈夫なものよ! いつも馬鹿みたいに明るくて腐っているあんたが世界が終わったような面してるのなんて絶対コイツのせいよ!」


 正しい、と紫は思った。推測は半分正解で半分間違いだが大元の元凶が自身にもあると紫は思っている。


「良いんです! オレだって覚悟の上だったんです!」


 しかしメンタも強い意志で告げ、霊夢は二度口を開閉し、弾幕を仕舞った。


「――――…………分かった。けど、私は私でやらせて貰うわ」

「……はい」


 何か起きた、と霊夢は思った。それが何かは分からないが酷いことが起こるのだろうと直感は出来た。だからこそ、メンタが一人で抱え込まないようにしようとも思った。


「――何かあればすぐに言いなさい。どんな手段を使ってでも何とかしてあげるから」


 そんな、いつもなら頼もしいと思える言葉を残して霊夢はその場を去り、紫はメンタの傍にスキマを寄せた。


「……ごめんなさいね」

「いえ……。……紫さん」


 霊夢との会話の最中も思考は再起動して続いており、今しがたメンタは未来を救うための策を思いついた。

 それは幻想郷全てを能力で覆いつくし、生物の動きを止めてしまうこと。未来を変えるためには未来の時とは違う状況を作り出す必要がある。無論、歴史は同じように動くため事件が発生する12年と半年後まで今の状況を維持する必要がある。

 当然、それは『ツケ』となっていずれメンタに跳ね返ってくるが、あるはずだった状況が、そこにいるはずだった人がいなければ歴史は代理を立てる。それを食い止めた場合、歴史は強制力――例にすると、ギャルゲーの様にに決められたルートから少し外れても他で巻き返してしまうため最終的には同じエンドになる――から外れることが出来る。そして外れた分が『ツケ』となる。

 かつて邪神スルトもこの方法で魔神プレアデスと共に崩壊する物語から脱し、そのツケはプレアデスが支払うことで解決した。


「何かしら?」

「オレ、事変起こします」

「それ、霊夢が聞いたら凄く怒るわよ?」

「それでもです。やることは色々ありますが…………次からの夏と冬は多分無理です」

「……借金は当面減らなそうね」

「ごめんなさい」


 別にメンタが謝る必要は無いのに、と紫は思う。何せ借金は自業自得なのだから。


「良いわよ。私にも手伝えることがあったら言って頂戴。未来は貴方一人だけが背負うものじゃないわ。それに期限付きだけどスルトさんにも協力して貰いましょう」


 未来を他人に告げることは出来ないが、紫と博麗大龍神、そしてスルトが協力してくれることを知り、メンタは初めて安堵の息を吐いた。


「ええ、そうですね。ちょっと肩の荷が降りました」


 そこまで追い詰められていたのか、と紫は思い、先に伝えて置くべきだったと内心で反省しつつ微笑んだ。


「ふふっ。あ、でも一つ聞いておくことがあるわ」

「何でしょう?」

「事変の名前、どうするの?」


 具体案は決まっていたがそれは決めていなかったとメンタは悔いる。漫画にしろ小説にしろタイトルは必須だ。


「あ~……オレとしたことがすっかり失念してました。そうですねー」


 少し考え、今まで経験したこと、思ったこと、揺れた感情、それらを全て含んだ言葉をメンタは事変へと変えた。


「名前は『愁来事変』です」



 深夜。冷たい風が吹く中、外に出たメンタは、さぁて、といつもの調子に戻って秋の夜空を見上げた。今日は赤い月が良く見え、星々も住んだ空気のおかげで一層輝いている。大きく深呼吸をし、龍の名を告げた。


「博麗大龍神、来て下さい」

『これで良いのだな?』


 確認するように博麗大龍神が問い、メンタは力強く頷いた。


「はい、これがオレのやり方です」

『――分かった。今一度力を貸そう。チョベリバァァー!』


 変な掛け声にメンタは思わず噴いた。


「地味に気にいってませんか、それ?」

『気にするな。さあ、やるが良い!』

「はい! 行きますよ~、能力発動!」


 博麗大龍神の力を使い、メンタが能力を発動させていく。

 メンタが出した結論は自身の能力を最大限使用して全ての生物を洗脳し、13年という時間を知覚させないということだ。しかし時間はどうしても進む。知覚が遅れれば遅れるほど人々はそれを異変と感じるようになるとメンタは考えている。

 長い、途方もなく長い時間をメンタはこれから戦い続けることになる。

 この件に関して紫と博麗大龍神は味方だ。未来を知っているが故に、幻想郷を救うために協力は惜しまない腹つもりでいる。

 最初は何度も失敗したが、半日ほどで感覚を掴み、日が昇り、昼間くらいにはすべての生物が動きを止めていた。無論、スルトがパルの回収を急いだのはこれが理由だ。

 メンタは成功を確信し、後はひたすら耐久するだけとなった。

 


 神々はそれを何処からか眺めていた。


「ねぇ、どうなると思う?」

「賭けるか。俺は13年間耐える方に賭けるぜ」

「あたしは無理だと思うなー。所詮は人間だよ?」

「紫と博麗が付いているなら出来るかもしれないね」

「ここ最近じゃ一番の長丁場になりそうだな。成功にトライデント一本」

「ちょっとポセイドン。……破産しても知らないわよ?」

「いいや、あやつならやる。のう、ロキはどう思う?」

「へぇ! 面白そうだね! じゃあ、あの娘が成功したら――俺を中心に参加した神々の加護を授けるのはどう?」

「失敗したら?」

「裸の首輪オプションで逆立ちして『失敗する方に賭けた神×神界を1周走る』で、どう?」

「……それ、あんたがやるのよね?」

「勿論! はい、強制契約書ロール

「え? ロキ、あんたマジ? ってか、あんたに旨味なくね?」

「あるある! さあ、俺と一緒に走ってくれる奴大募集!」

「よっしゃ! 失敗する方に賭けるぜ!」

「俺も失敗する方に賭けるぜ」

「私も!」


 いつも賑やかな神の世界。結果は13年後。

 集まったのは2000を超える神々。ロキ、オーディン以外の全員は失敗するほうに賭けた。

 本当にその価値があるのか、と神々は疑問に思う。

 神の加護は生死関わらず与えることが出来、一柱が与えただけでもそのモノは神に愛されたモノとして他の神々に知れ渡り、手だしすることは許されない。

 加護の効果は様々だが、どれ一つにしても強力なものばかりだ。異世界ではこれを転移・転生ボーナスと呼ぶこともある。

 つまるところ加護はその神に永続的に守って貰えると言っても良い。

 悪神ロキはそれを利用しようと考えた。もしこの勝負でメンタが成功したとすれば神々は否応なく加護を与えることになり、その中心となったロキにも加護が付与され、他の神々の能力を使えるようになるのではないか、と予測している。


「さてさて、どうなるやら」 


 彼は、どこか確信めいた笑みを浮かべていた。



グラたん「リアル諸事情のため、一旦休載します」

メンタ「これはうp主失踪シリーズのフラグですね!」

グラたん「これだけ予告して失踪したら三流作家ですよ。事故死しない限りは書く予定です」


※誠に申し訳ありませんが本当に休載します※

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