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東方幻想腐女録  作者: グラたん
第一章
104/119

第九十三話 霖之助ェェェ!

グラたん「第九十三話です!」


 それを遠目から見ているのは霊夢たちだ。しかし其方ばかりに構っていることは出来ない。戦場ではパルと依姫が戦っている。


「……まぁ、いつも通りの光景と言えば光景だけど今回は別格に酷いわね」

「あそこにスルトがいるってことは……確信犯だな」


 ふと、スルトもああいうプレイには耐性があるようだ、とレミリアは気づいた。それはともあれレミリアは大変なことになっている元凶を指差した。


「で、あの人にお見せ出来ない姿になっているのが元凶ね」

「状況から察するに、あの元凶は生かしておく価値があるということですね」


 白蓮は顔を一切向けずに告げ、早苗たちもパルの方を見ていた。


「なら私たちはパルの加勢をすれば良いのですね!」

「なのだ!」


 諏訪子の返事と同時に魅魔も現場に到着した。 


「到着! 私も微力ながら戦わせて貰うぜ!」

「枢さんは自分の身を守ることに専念しつつ事が終わったらメンタさんたちと合流してください。元凶は絶対に逃がさないようにお願いします」

「分かった」


 戦力外通知を言い渡されても枢は腹を立てる様子は無かった。当然だ。誰が好き好んであの戦場に立ちたいというのだろう。

 その前線からパルが受け流した斬撃が飛んできた。


「っと!」 


 霊夢は素早く弾幕の「陰陽玉」を発動させて迎撃する。


「ひゃぁ!?」


 白蓮は完全に気づいていなかったらしく斬撃音に驚いて身を引いた。


「ちょっと白蓮、あんた邪魔よ!」 

「す、すみません!」


 霊夢に腕を引っ張られて背後に放られ、枢が受け止めた。


「強引だな……大丈夫か?」

「ええ、はい……」


 白蓮を比較的安全圏内に入れ、枢は霊夢に視線を向けた。


 ――器用なのに不器用だな。


 本来ならば白蓮に後ろに下がるように指示すればいいだけの話だが、霊夢は白蓮が戦力にならないことまで確認してわざと悪者役を引き受けて白蓮を下げたのだ。

 一方でレミリアは攻撃の布陣を整え、咲夜に指示を出した。


「咲夜! 先に行ってパルに状況を伝えて頂戴!」

「はい!」


 咲夜が前線に赴き、レミリアもグングニルを出して前線に出た。


「魔理沙、豊姫、依姫やつの足を止めるわよ!」

「おう!」

「了解した」


 それを見て早苗も神衣を使用するため二柱の側に駆け寄った。


「神奈子様! 諏訪子様!」

「おう!」

「負担の大部分はこっちで何とかするから早苗ちゃんは戦闘に集中して!」

「ありがとうございます! 行きます、神衣!」


 神衣化に成功し、四対のオンバシラ砲を依姫へと向け、放つ。


「停止」


 砲撃が発射されると同時に咲夜は時間を停止し、パルを抱えて一旦後方へと移動する。

 次いで、依姫も目の前にパルがいないことを察知し、正面から放たれた砲撃を見て斬撃を飛翔させた。砲撃は一発も依姫に当たることなく斬られ、続いて魔理沙と豊姫の砲撃が開始される。レミリアは単独で前線に出てグングニルを振り回して依姫を牽制している。


「パル、大丈夫?」

「――……えっ、咲夜!?」


 戦闘に意識を向け過ぎていたせいか周囲が全く見えていなかったパルは咲夜を見て凄く驚いた。


「はい。皆もいますよ」


 言われて辺りを見渡してみるとよく見るメンバーがここに集結していた。


「本当だ、何時の間に……」

「私たちも到着したばかりなので状況が分からないけど、依姫を倒せば良いのよね?」

「うん! でも背後に豊姫がいるから――」


 豊姫は前線に出ているのにパルが後方を見ていることに咲夜は首を傾げ、少し遅れて誤解していることに気づいた。


「……ああ、そういうこと……。パル、あれは偽物よ」

「へっ!?」

「後で説明してあげるわ。彼女はスルトさんと紫さんが守っているから貴方は安心して全力で戦いなさい」

「分かった! 全開で行くよ!」


 スルトと紫の姿を確認し、確かに安全――とは言い難いが比較的安全になっていることを視認してパルは体内の気を放出させた。

 メンタの方も録画を終えてやり遂げた表情で戦場を見つめた。無論、純孤は放送規制がかかる姿で紫のスキマに放り込まれた。


「は~、満足しましたー。って!! いつの間にかクライマックス迫ってますね!」

「メンタ! 今からチャージするから足止めお願い!」


 パルの声にメンタは何故と問うことなく返事を返した。


「分かりました! シャイトゥーン・フォルフェクス装着! 突撃します!」

「隙を作ります! 続いてください!」


 妖夢、霊夢たちもパルが溜めている必殺技を見て動き出した。

 前線では砲撃と砲撃がぶつかり合っており、その間には誰一人入ることはできない。


「恋道「天の川」!」

「連斬!」

「魔槍「ツイン・グングニル」!」

「クァドラン・オンバシラ・キャノン!!」

「……っ」


 神纏をしているとは言え、一発でも直撃を許せば多大なダメージを受ける砲撃の嵐に依姫は歯を食いしばる。


「龍符「滅破恒星」!」

「飛翔式「三日月」!」


 その背後から霊夢は龍を模った弾幕を飛ばし、妖夢が三日月を描くようにして剣圧を飛ばした。


「ぐっ」


 霊夢の攻撃は斬撃で対処したが妖夢の攻撃は範囲が広く僅かにかすり傷を付けた。

 その一瞬を見逃さず霊夢は早苗を前に進める。


「今、早苗!」

「はぁああああああ!!」


 現状では一番の物理攻撃を可能とする早苗が黒鉄の剣を生成し、諏訪子がアシストしながらつばぜり合いに持ち込んだ。


「……っ」

「まだまだ!」


 早苗の背からチャージされた御柱が出現し、超近接距離のビーム砲撃が炸裂した。


「……っ!!」


 始めてのまともなダメージに依姫は怒りの表情を浮かべて早苗を見据えた。対して早苗は冷静に距離を置き、得意の絡め手を放った。


「動きを封じます!」

「行くぜ!」

「よっしゃ!」


 早苗に続いて束縛術式を持つ魅魔と魔理沙も魔法陣を展開して魔法の鎖を伸ばした。

 数にして50はあるだろう鎖から避けるのは厳しいと判断して依姫は短距離転移を試みる。


「……転移――」

持札剥奪フォース・イーター


 スルトが右手を伸ばして転移を奪い、依姫は躊躇いなく後方に跳躍して上半身を封じる鎖だけを迎撃することを選択した。

 足に鎖が巻き付いて動きは阻害されたが今の依姫は5秒もあれば振りほどくことが出来る。

 その隙を逃さず妖夢が接近して依姫の刀に目掛けて魂魄刀を打ち上げた。


「斬鉄!」


 依姫の手から刀が離れ、妖夢はしてやったりと笑みを浮かべた。


「……無駄」


 だが、依姫の手には神纏ヘパイストスで再度作り上げた刀が出現していた。


「なっ――!」

「なら、腕ごと貰っていきますよ! 紅蓮桜花ヘヴンリー・ヴェウィリーズ!!」


 メンタがブースター全開で鋏を開き、過剰暴走状態オーバードライブで突撃してくる。

 刀をもう一本出現させてそれを依姫は防ぎ、拮抗状態となる。


「ぐっ……」

「ぐぎぎぎぎ……」


 3秒という短い時間の中、依姫の側面に回り込みすれ違いざまに斬撃を加えた者がいた。


「ハッ!!」


 依姫の左腕が宙に舞い、 


「貰いました!!」


 メンタが右腕を刈り取った。

 今回の最大の隙を作り、見せ場を攫って行ったのは霖之助だ。


「今です!」


 霖之助とメンタが左右に飛んで退き、射線上を開けた。


「ナイス霖之助、メンタ! 食らえ、幻想封印!!」


 博麗大龍神を纏った霊夢はこれが最大の好機であることを直感し、持てる全ての力を込めて必殺技を放った。

 続けてフラン、美鈴もこの時のために用意した技を依姫に向けて放った。


「真打ち登場! 行くよ、レーヴァ・スラッシュ!!」

「気功奥義・如意が(ジャガーノート・)孫紅の瞳(レッドアイズ)!!」


 右手を刺突させて焔剣を飛ばし、紅蓮の瞳からレーザービームを放つ。


「皆さん! 一斉攻撃です! 新月!」


 白蓮もタイミングを逃さず、全員に指示を出して自身も雷撃の魔法陣を展開した。


「レーザービーム!」


 イナバは指先からレーザーを飛ばし、


「脚光月光!」


 てゐも蹴りでかまいたちを引き起こし、


「やるぞ、魔理沙!」

「おう!」

『恋符・ファイナル・スパーク!!』


 魔理沙と魅魔が同時に極大雷撃砲を見舞い、


「行きます! 真空剣!」

「風神波!!」


 椛と射命丸も真空波を飛ばし、


「援護する。召喚――全力!」

「皆、合わせなさい!」

「おう!」

「ええ!」

「美味しい所は!」

「貰っていく!」

「行くぞ!」

『陰陽妖・無双終撃!!』


 シンもフールエンリルたちを召喚して魔力を一か所に集め、発射した。


「お空」

「イエッサー! バズーカセット!」


 お空の手にセットされているオンバシラ砲にさとりの第三の目を乗せ、ターゲットをロックして必中状態にする。


「サードアイ解放。マテリアル・バースト、発動!」


 オンバシラのチャージが開始され、レミリアは横目で咲夜に指示を出した。


「咲夜、出し惜しみはダメよ?」

「勿論です」


 咲夜が時間を停止し、負担は大きくなるが停止時間の中にお空を入れてチャージを加速させる。


「発射ぁ!!」


 咲夜は精魂尽きて倒れ、能力が解除される。時間にして1秒足らずでチャージは終わり、最大威力の魔力砲撃が発射された。


「良くやったわね、咲夜。私も見せてあげるわ」


 普段のレミリアからは想像もつかない妖気が放出され、掲げた右手に蒼電が収束されていく。形状は槍。レミリアが持ち得る全魔力を威力と速度に変えた大技だ。


吸血皇女の蒼雷槍(エイン・ベリアル)!!」


 反動でレミリアは後方に吹っ飛び、槍はどの技よりも早く依姫を直撃した。


「くっ……トドメに参加したいですが、もう魔力切れです……っ」


 ここ一番の盛り上がる場面で魔力を切らしたメンタは口惜し気にその様子を眺めていた。その傍に妖夢が駆け寄り、身体に手を当てた。


「メンタさん、私の妖力を変換してください!」


 妖夢は自分の攻撃ではダメージを与えられないことを悟り、メンタに魔力を譲渡し始めた。


「良いん――いえ、愚問でした! ありがとうございます!」

「行ってください!」

「はい! 行きます、神滅・ロンギヌス!!」


 大鋏を閉じて槍の形にし、再度、過剰暴走状態になりメンタは飛翔した。


「――……アイギスっ!!」


 足止めがまだ開放されていない依姫は避けられないため全魔力を防御に回した。

 正面に巨大な守護楯が顕現し、全員の攻撃を受け止めた。だが、徐々に守護楯は軋みを上げ、罅割れてきていた。


 ――不味いわね。あの威力、このままだと貴方まで消し飛ぶわよ?

 ――だったら犠牲になるのは僕だけで良い。アルテミスに罪は無いから。


 アルテミスの忠告に依姫は首を横に振るった。


 ――それを言ったら貴方だってそうでしょうに。ほら、主導権を代わって。

 ――……ごめん、やだ。


 依姫はここで初めて嫌だという感情を見せた。依姫にとってアルテミスは自身の母とも言える存在であり、失うことは耐えられそうになかった。


 ――はぁ……強情ね……。

 ――……それに僕には確信があるんだ。


 依姫は凄まじい威力となった攻撃を防いでいる守護楯の更に先を見据え、真剣な表情でそれを待っていた。


 ――この状況で本気?

 ――パルならやってくれるって!


 パルならば()()()()()()()()()()()()()。そんな夢想のような確信が依姫の頭には響いていた。


「今よ、パル!」


 霊夢が背後を振り返り、パルは覇斬の気を練りに練り上げた最上の一撃と共に走り出した。


「行くよ! これがボクの全力だ!」


 全員の総攻撃が終わった一瞬後、一撃を入れれば破壊出来る状態にまで壊れた守護楯に向かってパルは跳躍し、鮪包丁を最上段から振り下ろした。


「破壊斬!!」


 パリン、という守護楯が割れる音と共に今まで依姫の攻撃を受け続けていた鮪包丁がこれを持って半ばから折れてしまった。


「あっ――」


 全員が驚愕する中、霖之助はなりふり構わず天下無双剣を投げていた。


「パルさん! 使ってください!」


 投げられた剣を受け取り、パルは背後を一瞥だけして正面を見据えた。


「ありがとうございます!」

『行けぇぇぇぇえええええええええええええええええええ!!!!』


 全員の声に、希望に応えるように天下無双剣は光り輝いた。


「……パル……」


 依姫はふと小さく呟いてその瞬間を待ちわびる。だが、体は最後の抵抗を示し、足を束縛していた鎖を解いて後方に跳躍していた。


「させませんッッ!!」


 一閃。

 その背後を深紅の槍が飛び、メンタは大鋏をフルスイングして依姫をパルの方へ押し返した。メンタはそのまま壁に激突したが視線だけはパルたちを見ていた。


「やぁぁああああああああああ!!」


 パルの渾身の袈裟が依姫の体を切り裂いた。


 ――聖気……あの剣、まさか――。


 アルテミスはその光と気を見たことがある。

 天下無双剣。また別の世界ではこの剣は『聖剣』と呼ばれている。

 聖剣は魔を倒すだけでなく、大切な物を守り、邪気を払う効果がある。


 ――アルテミス!


 依姫の合図にアルテミスも我に返り、首肯した。


 ――そうね。合わせるわ!


「神纏、アルテミス!」


 依姫が自分の意思で神纏を宣言し、聖剣に斬られた邪神は眩しい光の中へと消えていった。


「眩しっ!」

「何が起こっているんですか!?」


 誰も彼もが困惑する中、やがて光が収まっていき、その中から姿を見せたのは神纏・アルテミスをした状態の依姫だった。

 背後には神々しい限りの虹の輪があり、服もゆとりのあるドレススカート姿だ。


「お姉、ちゃん?」


 依姫がパルの元に駆け寄って優しく抱き付いた。


「パル。助けてくれてありがとう」

「――はふっ」


 身長差は依姫の方がやや高いため抱き付かれると埋もれる形になる。

 オホン、と霊夢が咳払いすると依姫も空気を読んで離れ、霊夢たちの方に向き直った。


「その姿は?」

「僕の肉体とアルテミスの纏いだよ。ずっと一緒に戦って、灼月の呪いで穢れて邪神化していたんだ。でも、パルと皆が邪神を斬り払ってくれたからもう大丈夫だよ!」


 ――そんなこと可能なのかしら?


 霊夢はそう思ったが結果的に依姫もアルテミスも助かっているため何かしらの要因が上手いこと作用したのだろうと思っておくことにした。


「つまり、もう全部終わったと解釈しても良いのよね?」

「うん」


 戦闘終了の合図と共に全員が座り込み、はたまた大の字になって寝ころんだ。


「あー! 疲れたぁぁ!!」

「もう……全部空ですよ……」

「咲夜ー、血ぃー」

「申し訳ございません、私も動けません」


 動けないのは皆同じ。全員が全力で魔力を使って勝利したのだから。

 その中でも無茶を重ねた早苗は神衣を解除すると膝をついて吐血し、うつ伏せのまま地に横たわった。


「……がふっ」

「早苗ちゃんが血を吐いたぁぁ!!」

「無理させ過ぎたぁぁ!!」


 さとりとお空も倒れており、比較的まだ動ける椛や射命丸が額に氷袋を置いていく。


「死ぬぅ……魔力欠損で死ぬぅー」

「情けないわね。疲れたのは同意だけど」

「……尽きた」

「全力使っちまったなぁ」

「しばらくは召喚符の中で大人しくするしかなさそうね」


 フールエンリルたちも術符の中に戻り、メンタは座ったまま霖之助に視線を向けた。


「霖之助さんも随分と恰好付けましたね」

「これで皆さんもちょっとは見直してくれますかねぇ……」

「あんたにしては充分な働きよ」

「そうだな」


 普段散々貶されている霊夢と魔理沙から褒めてもらい、霖之助は男泣きを敢行した。それが許されるくらいの活躍はしているし、そも皆忘れているが非戦闘員の霖之助が戦ったという時点で褒めて良い。

 メンタも内心で霖之助の評価を大幅に上昇させる。

 霊夢たちは戦闘の場面でしか霖之助を見ていないが、メンタからすれば物資の入荷や各地への協力取り付け、指示出し、配慮と気遣いといった細かい役割や関わりを一番こなしていた姿を見ている。

 それに加えて依姫に一撃を加えるきっかけを作り、とどめこそパルに譲ったがそれをさせるに至った剣を持ってきたのも霖之助だ。

 一番重要そうな場所にそれとなく居る。それがどれだけ重要か知っているメンタは意図せずしてそれを引き起こしている霖之助に光の無い視線を向けていた。


「少し休憩したら手当を始めますよ」


 永琳の声が聞こえ、そちらを見てみると三つの救急箱を持ってきていた。それをイナバとてゐに投げ渡す。


「はい!」

「げぇー」


 そう言いつつも受け取って手当たり次第に手当していく。

 この中で一番重症なのは早苗だろう。他は魔力さえ回復してしまえば大丈夫な奴らばかりだ。そんな霊夢たちには魔力回復薬を渡して飲ませていく。


「皆さん、お疲れ様です」


 アルテミスも依姫から分離し、本当にもう大丈夫という証を見せつけて労った。

 少し離れた壁際では豊姫が座っており、壁に寄り掛かるようにスルトが立ち並んでいた。眼前では相も変わらず騒がしい光景が繰り広げられているが、それは同時に長い戦いが終わった証拠でもあった。


「豊姫よ。此度の戦いは満足出来たか?」

「成し遂げた感覚はあるよ。今までありがとう、私の神様」


 だが――と豊姫は顔つきを険しくする。

 スルトはそんな豊姫を見下ろし、手を差し伸べた。


「うむ。立てそうか?」

「ああ……全て説明しないとな……」


 安心と疲れもあったのだろう。豊姫は腰が上がらず立ち上がれないようだ。

 スルトもちょっと予想外だったらしく仮面の奥で目を優しく細めた。


「……良い。後は余がやろう」

「いや、手だけ貸してほしい」


 こればかりはスルトにさせるわけにはいかないため豊姫はスルトの手を掴み、なんとか立ち上がろうとする。 

 スルトはその手を掴み、片膝を付いて豊姫を抱え上げた。


「な、なっ――!」


 スルトの急な行動に豊姫は顔を真っ赤にして全身を震わせ、降ろせと言わんばかりに抵抗した。

 時折顔面に拳が突き刺さることもあったが、二人は全員が見える場所に立ち、早苗も髪の毛レーダーに反応して右手を上げた。


「浮気……だけは……ふかぁー……」


 その手を諏訪子が掴んで降ろさせ、安静にさせた。


「早苗、今は無理するな」

「安静にしてほしいのだ」


 豊姫を空間から出した簡易椅子に座らせ、自然と視線が豊姫に集中していく。そう仕向けたのはスルトだが、そのまま語りだした。


「皆、少し豊姫の話を聞いて欲しい」

「大一番の元凶に言われると腹が立つんだけど……」

「そうなの?」


 霊夢の言葉にパルが首を傾げると依姫もパルに背後から抱き付いて頷いた。


「そもそも僕が霊体化してアルテミスが邪神化した原因はスルトの邪気に当てられたからなんだよ。それに僕たちを気絶させて月に連れてきたのもスルトだし」

『……』


 それは事実のためスルトも言葉に詰まり、総員の白く冷たい視線を一身に受けた。

 メンタが真っ先にからかおうと口を開き――豊姫はそれを手で制した。


「待ってくれ。それよりも大事なことがある」

「何よ?」


 豊姫は一拍の間を置いて真面目な表情で告げた。


「端的に言って、月が滅ぶ」

「冗談は良いんでスルトさんを私刑したいです」

「そのスルトが月を滅ぼすんだ」


 メンタのからかうような口調も一旦黙らざるを得ないくらいには驚いていた。


「は?」


 とメンタが言い、


「ひ?」


 続けて霊夢、


「ふ」


 確信した笑みでてゐが言い、


「へ?」


 美鈴、


「ほ」


 さとりの順に繋がり完成した。そんな阿保なやり取りをまともに聞き入っていた魔理沙は額に青筋を浮かべて怒鳴った。


「繋げるな!! どういうことなんだ、豊姫」

「それを今から説明する。聞いて欲しい」


 豊姫から一通りの説明を受け、メモを取り終えた霊夢は分かりやすく概要をまとめた。


「えーっと、要点をまとめるとこうなるのね」


 まず最初に話したのは豊姫の過去と純孤との因縁だ。分かっている通り、城は純孤に乗っ取られて好き放題を許してしまい、豊姫は国外に逃亡。後にスルトと出会い、城の奪還作戦を練った。

 次にスルトと紫の関係。紫が博麗大龍神の復活と月面からの侵攻を防ぐことを頼み、その対価としてスルトは幻想郷に足を踏み入れたということ。時系列で言えば此方が先となる。

 その後、神奈子と諏訪子の手引き、紫の策略によって早苗と出会い、守矢に住まうこととなった。

 ここで霊夢は、もし博麗神社に来ていたら絶対楽できたのに、と舌打ちした。

 さておき。

 月面でスルトは依姫と対峙し、灼月の呪いを発動させ、依姫自身を地球に落とした。ただし灼月の呪いの本来の目的は純孤を転移などで逃がさないためのだ。

 この時点でシンがいた城が流れ弾を受けて崩壊。幻想郷に落ちることとなる。

 霊夢たちは知らないことだが、幻想郷と地球の時間の流れは違い、より正確には幻想郷は時空の流れから切除されている。このため、時空移動ゲートが使えるスルトやスキマを使う紫は過去や未来へ飛ぶことが出来るようになっている。

 では幻想郷の時間は一体何なのかというと紫の能力によって現在の地球の時間軸と境界を合わせられた時間だ。要するに『現在を進むが、過去にも出現できる時空世界』ということだ。

 例えるのならばレミリアたちの世界(中世)にも行くことが出来、そこから特定の人物を連れてくることが出来る。そしてパルたちの世界(現代)からも特定の人物を連れてくることが出来る。無論、タイムパラドックスの危険性も示唆されていたが幻想郷はいずれにも存在しない世界のため『未来の子』が『過去の親』を殺したとしても『未来の子』は存在し続けることが出来るのだ。

 話を戻し。

 その後、スルトはパルとメンタを拉致し、幻想郷に連れてきた。この拉致はスルトが創生した魔物が行っており、スルト自身は会っていない。

 そのせいもあり幻想郷に入るや依姫が表に出て来てしまい、本来であれば無縁塚から博麗神社に送る予定だったはずが、無縁塚が消えてなくなるということが起きていた。それに気づいたスルトが依姫を封じ、依姫は最後の力を振り絞ってパルとメンタを上空に飛ばして逃亡させ、メンタは迷いの森に落ち、パルは紅魔館付近に落とされた。

 そうして二人は幻想郷に馴染み、紫の策略によって段階的に強くなっていき、現在。

 豊姫は無事に城を取り返し――それによってスルトとの契約によって月面が滅ぶかもしれないという危機に陥っていた。


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