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東方幻想腐女録  作者: グラたん
第一章
103/119

第九十二話 実際耳は飾りだ!

グラたん「第九十二話です!」

 城の玉座ではまだ戦闘が続いており、しかし完全に質で劣っている兎兵士たちは徐々に追い詰められていた。


「くっ! この!」

「甘い甘い甘いです!」

「くたばれや!」

「ぬぐっ!」


 特にメンタとてゐのコンビネーションは凄まじく、お互いに何の指示もアイコンタクトもしていないのにお互いの動きを示し合わせたかのように攻撃を加えてくる。


「オラオラオラァ!」


 その連携には霊夢たちも舌巻いて横目で見ていた。


「くそぉ!? 地上の人間も兎が何故こんなに強いんだ!」

「決まってんだろ! 毎日テメェ等クソ兎の肉をウメェウメェ食ってるからだ!」


 てゐの真に迫った脅し文句に兎兵士たちは思わず怯んだ。


「ひぃ!?」

「お、お前、同族を食うのか!?」

「大好物だぜぇ!」


 ゲェヘッヘッヘェェ!! と不気味過ぎる笑いと共にてゐは襲い掛かり、士気が低下しているのを見て豊姫は内心舌打ちした。


 ――このままではじり貧か……!


 だが解決策は無い。言葉を躱そうにもこの状況では止めることは出来ないだろう。

 その僅かな思考を読んだかのように霊夢は豊姫に向けて弾幕を放った。


「今! 四神符「朱雀火炎舞」!」


 火の鳥を模した弾幕が飛び、それに気づいた豊姫も迎撃しようとして――理性がもう間に合わないと告げた。


「しま――」

「豊姫様ぁ!!」


 豊姫が業火に包まれ、兎隊長はすぐに踵を返してその場に向かっていく。

 討ち取った霊夢の笑みとは裏腹に、豊姫は死んで居なかった。その周囲には薄緑色の膜が展開している。そう、霊夢も一度は見た絶対防御だ。

 豊姫の側にスルトが転移し、やや呆れたような口調で全員を咎めた。


「……一体其方たちは何をしているのだ」

「スルト……」

「邪魔しないでもらえるかしら。今回の元凶をようやく仕留められるんだから」


 霊夢の言葉にスルトは溜息を吐き、豊姫を見た。


「否だ。豊姫、説明してやれ」

「ああ」


 スルトがこうして敵に組みする時は何かしら理由があることは霊夢も分かっているため、右手を真横に広げて全員に戦闘を一旦中止させた。


「――手短にしなさい」

「色々含む所はあるが、良いだろう。まず第一に私は本物の綿月豊姫だ。見よ、あの血痕の先にいるのが今までこの月都市を支配していた偽物だ。名を純孤という」


 指差す先には血痕があり、それは霊夢も知っているため一瞥だけして続きを促した。


「要は乗っ取られていたってわけ?」

「そうなるな……」


 豊姫は一度息を吸い、過去を思い出しつつ概要を伝えた。

 




 月面都市。月面は王政の国であり、仕切っているのは私たち綿月と呼ばれる一族だ。その起源は地球にいた頃から連なる王族だ。

 今日は月にとって重要な日であり、年に一度他の四か国とも合同してパーティーを行う元日でもある。

 その日は私にとっても特別な日であり、一生忘れることはない。


「ははは」

「ほほほ」

「ねぇねぇ豊姫様、その体をちょっとバラしたいけど良いですか?」

「ダメよ」


 今年は綿月の都市で行わることになっており、この城の三階にある会場で催されている。私も王女のため参加を余儀なくされ、兎貴族や頭のネジが飛んでいる科学者の相手をしている。いや、私はまだマシな方かもしれない。私以上に視線を集めているのは先日生まれた私の妹、依姫。それらを囲うのは各都市の王と妃。今から将来の婿決めを行っているのだろう。かくいう私も婚約者が居て会う度に辟易させられる。

 私たちは常に縛られた運命にある。それに逆らうことも出来ず、やがては子を作り、老いて、死ぬのだろう。未来なんて無い。


「ちょっと失礼するわ」


 毎度のことながら私は会場を抜け出し、城の西の塔へとやって来る。西の塔の屋上はそう広くはないが月を見渡し、遠くに見える地球を一望できるお気に入りの場所だ。


「貴方たちがうらやましいわ……」


 地球。月とは対照的な世界。不自由という点では同じだけれど月よりは自由の広い世界。彼らは楽しそうに人生を桜花し、百年という一瞬を消費して死んで行く。

 対して城下町を眺めれば賑わいこそあっても真に笑顔な者は少ない。


「はぁ……」


 憂鬱な溜息を吐く。しばらく見ていると町中に燃え上がる火があった。概ね何処の誰かが火の不始末に失敗したのだろう。

 しかし何時まで経っても収まらない火を不思議に思い、私はそこを注視してみる。

 カン、キン、と銃撃が鳴り、熱線が飛び交う。


「テロ……?」


 爆発音が響き、顔を上げると城を守っている結界が破れ、見慣れない妖怪が空を飛んでいた。兎の兵士たちも迎撃に出るが、妖怪は月の科学力を凌駕しているのか熱線や対妖怪兵器を噛み砕いて迫って来る。


「豊姫様! やはりここにおられましたか!」


 振り返れば私の傍付きである侍女がいた。


「状況はどうなっているの?」 

「分かりません。ですが、西と北の城が反旗し、演説中に国王様を殺害。御后様も次いで……」


 私は少々言葉を失いつつも状況を把握していく。


「依姫は?」

「急いで此方に来たため消息不明です。ともかく、豊姫様だけでも城外に落ち延びてください」

「……分かった」


 北と西が何故今になって反旗したのか理由は不明だが今は逃げるしかない。幸いにもここは屋外。空中には妖怪がいるが城の結界はまだ破られていない。

 侍女に抱きかかえられ、塔を跳躍して城の外へと脱出する。こうやって何処かへいくのは今に始まったことでは無いし彼女がいつも付き添ってくれている。

 だが、状況が違う。父上も母上も死に、依姫は消息不明。敵の狙いが王族であれば依姫も死んでいるだろう。そして恐らくは残った貴族王族も……。



 ――少し離れた月面で私たちは焼ける城を眺めていた。


「豊姫様……」

「……行きましょう。ここも直に追手で埋まる」 


 王族として泣くことは許されない。弱腰も出来ない。私たちは代々そうやって育てられてきた。全て失っても生きなければいけない。

 何よりも私は敵を討たねばならない。

 ただ、私が死ぬのも時間の問題だろう。何せ月は地球ほど広くない。余すところなく探索されれば何処かで見つかる。でも、逃げるしかない。

 一週間もすれば月に妖怪が増え、私たちは何度でも相対しては殺した。

 月には大きな町しかないため、時には敵の居城に忍び込んでは盗人を繰り返した。

 生きる、ただそれだけのために私たちは生を費やし続けた。 

 敵は純孤と呼ばれる女狐だということも判明し、妖怪を率いて現在は綿月の城に住み、偽の私を騙って権力を思うがままに振るっているようだ。

 その中で唯一の救いは依姫が生きているということだけだ。でも助けることは出来ない。デマかもしれないし、私たちをおびき寄せるための罠の可能性がある。

 依姫の噂は良く聞こえる。あの子は生まれながらにしてずっと戦場に立ち、敵と戦い続けてきた。だから、せめて支えをあげようと思った。


「豊姫様、それは……」

「こっちは大丈夫。仲間だっている」

 あれから数年が経ち、私の元には仲間がいる。かつて城に勤めていた兎兵士たちだ。


「頼む」

「……分かりました」


 城を奪還するにはまだ足りないが、もし依姫が加わってくれるのなら大きな力になる。噂でしか聞かないが依姫は『神降ろし』が出来るらしい。

 侍女――今は隊長となった彼女と数人の共を依姫の元へ送り出して情報を送らせる。


 

 その数日後の事だ。

 あっさりとだが、逃げ続けた果てが来てしまった。


「いたぞ! 殺せ!」

「ギャギャギャ!」


 私が隊長を送り込んだように敵も兎を私の元に送り、首を狙っていた。私はまんまと罠にかかり、この様だ。私のために兵士の多くは死に、落ち延びた先にも妖怪はいた。


「……ここが死に場所か」


 もはや一人となった私は死を覚悟し、妖怪共が舌なめずりしながら迫る。死ねばどうなるかくらい分かっている。いや、下手したらもっと酷いことになるかもしれない。

 そう思いながらも剣を構え、運命を待った。


「否だ」


 月では絶対にありえない『風』が舞い、妖怪を切り裂き、辺りに爆発が生じた。

 突如として起こった謎の攻撃に妖怪共は戸惑い、私は音のする方、上を向いた。


「な、なんぎゃばぼあ!?」

「ど、どこかばばばば!」


 それは流星。私たち月の民でも抗うことの出来ない絶対の死。流星は無数に月面へと落ちて紅を咲かせた。残ったのは幾憶数多の残骸だけだ。


「良い」


 そこにいるのは黒のローブに黒の仮面をつけた謎の魔法使い。流星を落とし続けたのも彼を見て間違いないだろう。敵なのか味方なのか分からないし、あの力が私に向いたのなら勝ち目はない。そう思うくらいに圧倒的な殺戮だった。

 彼は私の目の前に降りて尋ねた。


「其方が豊姫だな」  


 問われ、私は頷く。


「貴方は?」


 彼は不敵な笑みを浮かべながら私に手を差し伸べた。


「余は邪神スルトというものだ。豊姫よ、余と取引をせぬか?」

「取引……?」


 邪神、というのが誇張なのかどうかは分からないけどそれに近い規模の力はあると思い、慎重に聞き返す。


「うむ。余は其方の成すことに力を貸そう。概ねの経緯は知っている」


 力を貸してくれる。この惨状を見れば間違いなく戦力にはなる。だけど――。


「対価は?」


 こんな力を持つ輩だ。加えて私の経緯を知っているのならば求めるのはやっぱり身体か……それとも私個人の全てか。どちらにしたって構わない。私が願うのは城の奪還と依姫を守ることだけ。今は何よりも力が欲しい。


「選定。『この世界の滅びの是か否か』を其方が決めよ」


 それは私が想像していたよりも重い対価であり、同時に羽のように軽い問いだ。

 こんな問い、最初から答えは決まっている。


「滅べ」


 私が望んだのは滅び。仮に私が失敗した時の保険。成功すれば私は全力を持って彼と相対すれば良い。


 ――ただ一人の妹を守れればそれで良い。


 そう言って私はスルトの手を取り、彼は私を引き寄せた。


「良いのだな?」


 仮面越しに見える黒い目に飲み込まれそうになりながらも私は頷き返す。


「ああ」


 スルトはそのまま私を寄せ、抱きかかえた。


「では、その時まで其方を守ろう。其方は余のモノだ」


 耳に囁かれる甘言。一瞬、プロポーズされたような錯覚に陥りそうになり、頭の中が真っ白く染まっていく。


「――――ッ!?」


 思わず離れて顔に両手を当てて蹲る。今まで抱いたことのない感情、名前は知っているが認めたくない。邪神の甘言だと割り切りたいのに本能がそれを拒否するかのように頬が熱くなっていく。

 でも一つだけ間違いのないことがある。


 ――この人は私の神様だ。

 

 

 それから更に時は経ち……今に至る。





 説明と回想が終わり現在――。


「ったく、それならそうと早く言いなさいよ」

「弁解する間もなく襲ってきたのはそっちなのだが?」


 ひとまず和解した霊夢と豊姫は共同戦線を組んだ。


「ともかく、目的が一致したのは事実だ。偽物を追いかけよう」

「そうね。スルトさんも来るの?」

「うむ。助力しよう」


 性格はともかくとして戦力としてならスルトは大いに当てに出来る。


「そっ。――メンタ、行くわよ!」


 振り返って呼ぶと、そこはちょっとした地獄と化していた。


「も、もうやめてくれ!」

「耳は! 耳はやめてくれぇ!」


 てゐにしろメンタにしてもまずすべきことは腐らせることだ。共闘前に敗北した兎兵士たちの耳を掴み、てゐはヒャァハハハと笑いながら引っこ抜こうと試みている。


「もげろもげろ! 実際耳は飾りだ!」


 どうでも良い話ではあるが、月兎の耳は聴覚器としての役割は一切ないため例え引っこ抜かれても問題は無い。ただし、耳の長さはステータスでもあるため短いもしくは無いと他の兎からは下に見られてしまうこともある。


「止めろこの鬼畜兎!」

「穢れる! こんなの見てたら穢れてしまう!」

「いやだぁ! 穢れたくないぃ!」

「腐経経……腐腐腐! 真っ白な心を土足で踏みにじって消えない黒い染みを残す……ああ、快感ですっ」

「追加」


 ドンっ、とシンが腐本を追加し、メンタもニヤリと笑った。


「嫌だぁぁ!」

「茶髪のお兄さん、助けて!」

「このままだと私たちまで――!」

「はぁ……メンタ、シン、てゐ。そろそろ止めてやれ」


 枢もそろそろ移動したかったため助け船を出すが、やはりそれは愚策だった。

 メンタは不気味に嗤って標的を枢へと変えた。


「この下半身で物事を考える人に助けを求めるなんて才能ありますね。実際1とゼロ三つは付く人数を切りしたことがあるとかないとか……いえ、いっそ枢さんを洗脳して彼女たちを○○○して○○○にしましょうか。勿論オプションは首輪です」

「誤解だ!」

「うわぁ……」


 兎兵士たち全員もドン引きし、数歩後ずさった。


「不祥事ですね。分かりますメシウマ」

「ヒッ」

「ケダモノ!」

「メンタこの野郎!」

「大丈夫です。冗談ですよ。変態鬼畜のホモロリコンですよね。属性はショタです」

「悪化させるな!」


 その様子を見て霊夢は溜息を付き、扉の方へと歩いていく。


「……行きましょう。どうせ後から追いついて来るわ」

「……アレが妹でなくて良かったというべきか」

「いや、依姫も大概だけどな……」


 狂戦士という意味では依姫も苦労しそうな妹ではある。

 そこへ階段を上がってきた早苗たちも合流した。


「あっ、皆さん!」

「あら、早苗。それに神奈子たちも」

「復活なのだー!」

「敵はどこだー!」

「敵ならこの先よ。そうそう、パルは見つかった?」


 霊夢の言葉に早苗は首を横に振って否定した。


「いえ……」

「ふむ……この先にいるようだな」


 スルトが答えると諏訪子たちも上層へ続く階段を見上げた。


「いつもの探知だね」

「この先は確か東の塔でしたね。通路はいくつかありますが一階に降りるにはまたここを通る必要があります。隠し扉が建造されていたら分かりませんが……恐らくは塔の屋上でしょう。そこから飛んで逃げる可能性があります」

「案ずるな。逃げられんよ」


 思わせぶりなセリフに霊夢は少し不穏な気配を感じた。


「……何か起きているみたいな発言ね」

「うむ。だが、早く行った方が良いぞ。パルもそう長くはもたん」


 意識を集中して階段の上へと向けると僅かな剣戟音と邪気が伝わってきた。


「ちょっと待ってください! パルが戦っているのですか!?」


 レミリアも聴覚でそれを感じ取り、翼を広げて飛翔した。


「咲夜!」

「全力で参ります!」


 レミリアの後に続いて咲夜、早苗、霊夢、魔理沙が続いていく。


「あっ! 私も行きます!」

「ちょっと! ったく!」

「そういうことはもっと早く言え!!」


 その様子を見てフランも駆け出し、美鈴が走って行く。



「あたしも行く! 美鈴!」

「はい! 全力ダッシュ! 急げ私!」


 そして離脱した枢も走り出した。


「こっちには付き合いきれん! 俺も行く!」


 スルトは残っているメンタたちを横目で見つつ呆れ、後は紫に任せて転移した。



 東の塔の屋上。

 そこではパルと依姫による高速の剣戟の応酬が繰り広げられていた。

 依姫が斬撃を繰り出せばパルは鮪包丁で受け、返し刃で切りつける。それを避けて刺突すればパルは最短で躱し、薙ぎを繰り出して一定の距離を保ちつつナイフを投げつけて牽制する。ナイフは弾かれ、一閃がパルの頬を浅く切った。しかしパルも鮪包丁を打ち上げて依姫の腕を浅く切りつけ、お互いに距離を取る。


「はぁ……はぁ……」

「……」


 だが、体力無尽蔵の依姫と限界のあるパルとではいずれ決着は来る。

 依姫が剣の圧を飛ばし、パルは背後にいる霖之助たちのために避けられず能力を使って空間防壁を作るが元々の出力が違う。その防壁を切り裂いて、パルを吹き飛ばした。


「うっ――!」


 空中で体勢を立て直してすぐに距離を詰めて鍔迫り合いに持ち込み、依姫はそれに応じずに左右からの同時連撃を繰り出し、パルはバク転して避け、蹴りを繰り出し、依姫は一歩後退して足目掛けて刺突した。視覚外からの攻撃にはどうしても対処が遅れ、能力を使うコンマ一秒の合間に足に切り傷が入る。

 しかし空間を圧縮して反射壁を作り、依姫の斬撃をそのまま返すがこれも迎撃される。一度大きく距離を取り、乱れた呼吸を整える。


「パルさん!」

「まだ、大丈夫!」


 妖夢の呼ぶ声に返答し、呼吸を整え終えて立ち上がって構える。


 ――……とは言っても劣勢に変わりないんだよね。


 睨む方向にいるのはずっと冷たい視線を向けてくる依姫。


 ――お姉ちゃんが何かに操られているのは間違いないけどボクも迎撃で精一杯で手が出せない……。せめて神降ろしが出来ればもうちょっと戦えるんだけど……。


 パルは巫女ではない。神を降ろすにも知識が不足しており、才覚も少ない。依姫がいてこそ神を纏い、その身に降ろすことは出来るがパルだけでは出来ない。

 今持ちうるもの全てを使っても依姫には届かない。


「……正直、厳しいですね」


 観戦している霖之助も、戦闘に参加出来ない妖夢たちも口惜しそうに眺めている。


「先程からずっと全力に近い戦闘をしているのに……」


「速さだけなら射命丸でも行けそうだと思うけど?」


 椛の問いに射命丸は両手を上げて首を横に振った。


「速さだけならですけどね。でも攪乱は出来てもあの攻撃を避けそこなったら即死と思うと行こうにも行けませんって」


 依姫の振るう剣は通称、聖剣と呼ばれる類の代物。正式名称を聖剣ツキヨノミカゲ。月の女神が守るために作ったものであり、魔に属する者は触れただけで致命傷となる。それは能力を経ているパルにも効果がある。

 戦いのセンスならパルが上回り、戦闘の技術と経験は依姫が上回っている。

 パルは不利だが、その才能だけで戦っている状態だ。


「本当、規格外よね~」


 そこへスキマを開いて現れたのは紫だ。


「紫さん、何時の間に……」

「クソ女狐だと!?」


 霖之助に続いて簀巻きにされている偽豊姫も顔を上げた。


「貴方にそれを言われたくないわ、純孤」


 純孤と呼ばれ、彼女は否定せずに紫を睨みつけた。


「何しに来やがった」

「そうねぇ……差し詰め、その首を取りに来たと言ったら?」


 紫が不用意な発言をすると、純孤から一つ、パルから一つ、依姫から一つ殺気が飛び交い、依姫が紫と純孤に向かって剣圧を飛ばし、パルがナイフに風圧を纏わせて飛ばして弾いた。しかし完全に威力を殺し切れず余波が飛んでくる。


「おっとっと」


 その余波を紫はスキマを開いて閉じこめた。


「結構危なかったんだけど~」


 パルたちに文句を言おうと向き直るとさっきよりも濃い殺気が飛んできた。


「豊姫に手は出させないよ!」

「豊姫は僕が殺す!!」


 依姫が紫たちの方に動こうとし、パルが間に入って食い止めた。パルを退けようと依姫が真空波を飛ばし、パルも同じく能力で真空波を巻き起こして相殺する。

 そして、またしても激しい剣戟の応酬が繰り広げられ、紫は純孤の方を見た。


「はいはい。……はぁ、良かったわね。今のでだいぶ寿命が延びたわよ」

「けっ」


 純孤は嫌そうに地面を向いてから唾を吐き、紫は薄く笑って問いかける。


「あっちはさておき……なんでこんなことをしでかしたのか理由を聞かせて貰えるかしら?」


 純孤が馬鹿にしたような笑みを浮かべ、罵倒する。


「言うとでも思ったかバーカ!」

「……ねえ、純孤。死ぬよりも恐ろしい事って知ってるかしら?」


 少々憐みを込めて紫は聞くが、純孤はおどけてみせた。


「ハッ! 下手な脅しには乗らねぇぜ!」

「まあ物の例えよ。知ってるか知ってないかって言われたら?」

「知らねぇな!」


 それを聞いて紫は安心してスキマを開いた。


「それは何よりよ。――先に言っておくけど早めに言った方が良いわよ」


 (゜Д゜)、ペッ――そんな顔文字が書けそうな表情で純孤が唾を吐き、ちょうどスキマから出て来たメンタたちは危険を察知して左右に躱した。


「おっと」

「ん」

「わっと」


 ペチョっと良い音を立てて唾はスキマを閉じた紫の顔面に着地し、メンタたちは一斉に拍手した。


「スキマから飛び出て見ればいきなり唾が飛んでくるという珍自体ですが、見事に対処しました。紫さん、ナイス顔面です」


 そんな愉快な発言も紫にとっては起爆剤でしかない。


「クフフ、ねぇメンタ」

「はいはいメンタです」

「頭に電極繋いで脳回路弄って情報を引き出すことって出来るかしら?」

「出来ますよ。それと何時にも増して頭のネジがぶっ飛んだ発言ありがとうございます。というかやって良いんですか?」

「天に向かって唾を吐くという愚行をそこの女狐に教えてあげなさい」


 ブ了解ラジャーとメンタは敬礼し、シンとメンタは可哀そうなものを見る目で紫を憐れんだ。


「自虐は良くない」

「だな」


 そんな紫に対して純孤は高笑いした。


「ブハハハッ! 部下にも慕われないなんて悲しい奴だな――あ?」


 文字通りの、『あ』っという間に霖之助たちは左右に飛び、手錠を持った萃香と勇儀が純孤に襲い掛かった。


「せいやっ!」

「フッハァ!」


 とても手慣れた手つきで、勇儀ですら破壊するのに三十秒はかかる手錠を手足にされ、手錠には対妖怪用の弱体化が付与されているため純孤の元から無いに等しい身体能力値が今や人間の子供同然へと変化していた。


「くっ! この! 何しやがる!」


 シュコー、シュコー、と変な音が何処からか聞こえる。見ればメンタが狂気的なデザインを施された面を付けており、気合いを注入すると同時に説明を始めた。


「いえいえいえ、何をどうするかなんて分かりきったことは言わなくても良いですよ。でも分からなそうなので説明してあげます。電極を繋ぐ方法ですが、いきなり頭に差し込んでも感電死するだけなのでまずは体を慣らして行きましょう。服を剥いて○○○に○○○挿入してちょっと同調するまで待ちます。勿論オプションも付けますが個人によっては痛みを感じることもあるそうなのでスライムを全身に塗ります。大人しくしていればすぐに昇天すると思いますよ」


 次いで、てゐとシンも七福神の顔を真っ青に塗りつぶした面を被り、てゐは両手いっぱいにヤバイ薬品を広げ、シンはその背後で三脚台を組み立てていた。


「ちなみにだが師匠特製のヤベェ薬もいっぱいあるから安心してイっていいぜ!」

「尚、この醜態は冬コミ用の無修正の枠で大きいお兄さんたちに無料配布する予定のため高画質HDカメラとメモリーはバッチリ。予備の電源パックも大量に持って来た」

「ヒャッハー!」

「ウィッハー!」


 勇儀と萃香が机に鎖に蝋燭にアイマスクにガムテープと言ったプレイ道具をスキマから出して準備し、純孤を担いで上部は防水コーティングをした革素材の木馬に乗せて両足をしっかりと固定する。 


「は? な、何言ってやがる。この私を穢すつもりか! そんなこと許されるわけがない!」


 純孤の切実な叫びに何処からか現れたスルトは紳士的な笑みで答えた。 


「良い、許す」

「だ、誰だテメェ! 誰に向かって許可してやがると思ってんだ! 私の純粋無垢な身体を穢そうなんぞ神様だって恐れ多いと知れ!」


 では、と我らが邪悪なる神様が両腕を命一杯広げて宣言した。


「残念ながら余は善なる神では無い。悪の御旗の元に、邪神の名において其方たちの全てを許そう。――や・る・が・良い!!」


 ノリノリで、いい笑顔を浮かべて彼女たちは猛り狂った。


「イィィエッサァァァァァ!!」

「イエス・マイロォォォォゥゥゥゥド!」


 最初はてゐがカメラを担当し、メンタは機材の確認をし、萃香と勇儀が『ケツ用』と書かれた巨大な注射器にアブナイお薬をダバダバと投入して混ぜ始めた。


「へ? う、嘘だろ……。お、おい馬鹿マヌケ共、や、止めろ!」


 せめて腕だろ、という空しい叫びが聞こえたがそれを止める者はいない。されど助言する妖怪はいる。


「純孤、一つ教えてあげる」


 シンの言葉に純孤はちょっと期待しながら聞き返した。


「な、なんだ?」

「剥いだ下着は競売に掛けられて良いお値段で売られる」


 その圧倒的絶望と恐怖と欲望に塗れたお知らせに純孤は叫んだ。


「ば、馬鹿言ってんじゃねぇ! 私の高貴かつ神聖な下着を売り飛ばすだと!? そんなことしたら下賤な奴等のアレになるに決まってるだろうが!! 冗談じゃない! 止めろ!」


 シンは何処か遠い目をしながらついこの間の事を思い出して、その対処法を言った。


「……大丈夫、どんなに穢れされても所詮は布一枚。忘れてしまえばそれだけのこと」


 それを最後にメンタたちは勢いよく手を上げた。


「ハイ! こっちも準備整いましたよ!」

「カメラワーク、レンズ、オッケィ! 録画モード起動!」

「お薬オッケィ!」

「フヒヒヒヒヒ!」


 彼女たちは飢餓した肉食獣の如く目を爛々と輝かせ、純孤は初めて顔を真っ青にして命の危険を感じた。


「最後に言っておく」


 シンもお徳用のゴム手袋を着用し、傍にした霖之助たちは一斉に目を逸らし、依姫はパルを巻き添えにして空中戦へと移行した。


「ま、待て……地位をやろう。金もやろう。そ、そうだ! 城! 城をやろう! 私ほどじゃないが良い女兎もやろう! だから――お、お願いだ……助けてくれ!!」


 純孤の生まれて初めての真剣な命乞いは誰の耳にも届かない。


「綺麗な星を数えている間には終わる」


 メンタの手にはシーンカットが握られており、純孤の目にはそれが断頭台の刃のように見えていた。


「スタートDES!!」


 カチン、とギロチンが振り下ろされ、純孤は全てをかなぐり捨てて命を乞う。


「もうしない! お願いします! 誰か助けて! ねぇ! 謝る! 謝るからそんなもの――――――――」


 背後には萃香が注射器を持ち上げて待機し、勇儀が右手を大きく開いてグーで押し込んでいく。


「必殺ゥ! 四天・元気溌剌栄養剤注射パイル・バンカー!!」

「アー!」


 メンタたちの宴が始まった。



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