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黒環の解析者 ~転生した俺は世界の理を解き明かす~  作者: 流津美
第一部 黒環の目覚め 第四章 領都リュネール

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第35話 初めての討伐

リュネールで自分の部屋を持ってから、数日が過ぎた。


その間、俺は毎朝のように探索者協会へ通っていた。最初のセルナ採取に続き、別の植物を集める仕事や、町の外にある倉庫まで荷物を運ぶ仕事も受けた。どれも危険と呼べるほどの内容ではなく、報酬も大きくない。


それでも、今の俺には必要な時間だったと思う。


依頼を選び、受付で手続きをし、目的地へ向かう。条件を満たしたら協会へ戻り、確認を受けて報酬を受け取る。何度か繰り返したことで、探索者の仕事がどういう流れで動いているのか少しずつ分かってきた。


言葉も増えている。


毎日ではないが、リシェルは時間があれば宿へ来て文字を教えてくれた。その日に聞いた言葉を確認し、翌日には町や協会で実際に使ってみる。当然間違えるし、発音を直されることも多いが、以前のように何を言われても完全に分からない状態ではなくなっている。


そして今日。


俺は探索者協会の掲示板の前で、一枚の依頼書を見ていた。


まだ全部は読めない。


それでも、分かる部分がある。


東を示すらしい文字。


畑。


数字の三。


そして中央には、四足の獣らしき簡単な絵が描かれていた。


「これ……」


俺は隣にいるリシェルを見る。


彼女も依頼書を確認し、絵を指して一つの名前を口にした。


「ガロウ」


聞いたことのない言葉だった。


「ガロウ」


真似すると、一度で通じたらしい。


リシェルが頷く。


絵を見る限り、胴の低い四足獣だ。前脚が太く、口元から小さな牙のようなものが突き出している。


俺は依頼書に書かれた数字を指した。


「三?」


リシェルがもう一度頷き、今度は両手で獣を示すような仕草をしたあと、指を三本立てた。


三頭。


そういうことらしい。


続けて彼女は牙を指し、そのあと硬貨を示した。


討伐証明。


ガロウを三頭倒し、牙を持ち帰る。


おそらく、それが今回の依頼内容だった。


「討伐か……」


森では何度も生き物を殺している。


襲われたから。


食うため。


生き残るため。


だが今回は違う。


金を受け取って対象を探し、倒す。


仕事として生き物を殺す。


少しだけ感覚が違った。


罪悪感というほどではない。地球でも害獣駆除は存在していたし、農作物を荒らす動物を放置できないことも理解している。


ただ、自分がその仕事をする側になるとは考えたこともなかった。


依頼書を見たまま考えていると、ガルドが横から何かを言った。


畑。


食べる。


壊す。


人。


困る。


知っている言葉を繋げれば、予想は間違っていないらしい。


ガロウが畑を荒らしている。


その駆除。


俺は依頼書へもう一度目を落とした。


受けられる区分を示す印は、俺の金属板に刻まれているものと同じだ。登録したばかりの探索者にも任せられる程度の相手なのだろう。


ただし。


弱いと安全は同じではない。


獣である以上、追い詰めれば反撃する。


「受ける」


覚えた現地の言葉で答える。


ガルドとリシェルが頷いた。


◇


受付で手続きを済ませると、今回は簡単な地図を見せられた。


リュネールの東門。


そこから伸びる道。


広い畑。


さらに、その先にある低い林。


受付の女性が何度も指すのは、畑と林の境目に近い場所だった。


ガロウが頻繁に現れる地域なのだろう。


続いて女性は依頼書に描かれた牙を示し、台の下から実物らしいものを一本取り出した。長さは指ほどで、僅かに湾曲している。


討伐証明。


やはり牙を持ち帰るらしい。


俺が数字の三を指すと、女性は三頭を示す仕草をしてから、一本の牙だけを持ち上げた。


一頭につき一本。


合計三本でいいらしい。


続いて注意事項の説明へ移る。


ここからは分からない言葉が一気に増えた。


それでも、いくつか拾える。


林。


奥。


大きい。


危険。


俺が理解できずにいると、ガルドが地図の林を指し、境界付近を指先でなぞった。そのあと林の奥へ指を動かし、大きく首を横へ振る。


奥へ入るな。


さらに何か大きな獣を示すように両腕を広げた。


ガロウより危険なものがいる可能性がある。


今回の仕事は畑周辺へ現れるガロウの討伐であって、林を探索することではない。


俺は頷いた。


こういう情報を聞き逃す方が、戦闘能力が低いことより危険かもしれない。


文字が読めないという問題は、単に依頼を選びにくいだけではない。注意事項や立入範囲まで自分では確認できないのだから、仕事を続けるなら早急に改善する必要がある。


また一つ。


文字を覚える理由が増えた。


◇


東門を出たところで、俺はガルドとリシェルを見る。


二人とも、そのまま一緒についてきていた。


前回の採取依頼では途中まで案内してもらい、その先は一人だった。今回も同じだと思っていたが、どうやら違うらしい。


俺は自分を指し、一人を意味する言葉を使ってみる。


ガルドは首を横へ振った。


続いて自分、リシェル、俺の順番に示し、最後に目元を指す。


見る。


確認する。


おそらく、そういうことだ。


初めての討伐依頼だから、俺がどう動くかを見るつもりなのだろう。


手伝うという意味ではないらしい。


俺としても、その方がありがたい。


自分では正しいつもりでも、この世界の探索者として間違ったことをしている可能性はある。最初のうちに修正してもらえるなら、その方がいい。


三人で東へ進む。


数日前にも歩いた道だった。


セルナを採った場所よりさらに畑側へ進むと、人家は少なくなり、代わりに広い耕作地が続くようになった。


見たことのない作物が整然と植えられている一方で、一部だけ酷く荒れている場所がある。


土が掘り返され、茎が折れ、何株かは根元から倒れていた。


ガルドがそこを指す。


「ガロウ」


なるほど。


これが被害か。


食われた量そのものより、掘り返されたことで周囲まで駄目になっている。何度も繰り返されれば、農家にとって無視できる被害ではないだろう。


俺はしゃがんで地面を確認した。


足跡が残っている。


四足。


前脚の跡が深い。


以前、セルナ採取中に見つけた小型獣らしい痕跡より明らかに大きかった。


林へ向かって続いている。


俺はすぐには追わず、一度周囲を見る。


畑の位置。


林。


逃げられる方向。


風向き。


ガルドもリシェルも何も言わない。


本当に俺へ任せるつもりらしい。


なら、自分で考える。


◇


ガロウが昼間にも動くのか、それとも夜を中心に活動するのかは知らない。


畑の被害がいつできたものかも正確には判断できない。ただ、掘り返された土は完全には乾いておらず、倒れた葉もまだ萎れ切っていない。


それほど古い痕跡ではなさそうだ。


俺は足跡を追い、林の手前まで進んだ。


境界付近には低い草と茂みが広がっている。


ここから先。


受付で奥へ入るなと言われたことを意識する。


依頼対象が畑へ出てくるなら、わざわざ危険な場所まで追う必要はない。


周辺を調べていると、草が何度も踏み倒されている一角が見つかった。


林から畑へ抜ける細い道のようになっている。


獣道。


おそらく。


俺は周囲を一度歩き、同じような場所がないか確認した。完全に一か所だけではないが、ここが最も痕跡が多い。


頻繁に使われている。


なら。


探し回るより待った方がいい。


俺は少し離れた場所へ移動した。


風がどちらへ流れているかを草の揺れで確認し、できるだけ自分の匂いが獣道側へ流れない位置を選ぶ。


後ろでガルドが僅かに眉を上げた。


間違っているのかと思ったが、何も言わない。


俺はそのまま待つことにした。


◇


思っていたより時間は掛からなかった。


茂みが小さく揺れる。


音。


俺は槍を構えた。


もう一度。


草が動く。


そして、一頭の獣が姿を現した。


ガロウ。


依頼書の絵で見るより大きく感じる。


身体の高さは俺の膝より少し上。太い胴は灰褐色の短い毛に覆われ、前脚は後ろ脚より明らかに太い。


口元から左右へ短い牙が伸びていた。


地球の猪に似ている。


ただし頭の形や脚の太さは違う。


一頭。


まだこちらへ気づいていない。


畑の方へ顔を向けている。


槍を構えたまま考える。


今なら背後から攻撃できる。


だが。


本当に一頭だけか。


依頼は三頭。


群れで動く生物なら、後ろにいる可能性が高い。


俺は攻撃せず待った。


数秒後。


二頭目が出てくる。


続いて、少し小柄な三頭目。


ちょうど依頼数。


――だからといって、三頭しかいないとは限らない。


さらに待つ。


予想どおり、茂みがもう一度揺れた。


四頭目。


さらに五頭目。


「……だよな」


群れだった。


依頼書に三頭と書いてあるのは、三頭倒せという意味にすぎない。


現地に三頭だけ用意されているわけではない。


当たり前の話だ。


一頭ずつなら問題なさそうに見えるが、五頭同時となれば別だった。そもそもガロウがどう攻撃するのかさえ、俺は正確には知らない。


牙がある。


前脚が太い。


突進。


可能性としては高い。


だが、推測だけで決めつけるのは危険だ。


先頭の一頭だけへ《解析》を使う。


【解析結果】

対象:四足獣


体長:約1.1

前肢筋力:発達

顎部・牙:攻撃用途の可能性 高


行動傾向:警戒低

周囲同種個体との距離維持


脅威判定:単体・低

複数個体時:上昇


詳細生態:情報不足


予想に近い。


ただし、《解析》でも群れとしての細かな行動までは分からない。


必要なのは三頭。


なら、五頭全部と戦う必要はない。


一頭ずつ引き離す。


できるなら、それが一番安全だった。


◇


地面から小石を拾った。


狙うのは群れの先頭ではなく、端にいる一頭。


一つ目を近くへ投げる。


小石が地面へ当たり、ガロウが顔を上げた。


もう一つ。


今度は身体のすぐ横。


一頭だけがこちらへ顔を向ける。


鼻先が動く。


低い声。


気づいた。


俺は少し後退した。


ガロウがこちらへ歩いてくる。


まだ走らない。


さらに距離を取る。


群れの残りは畑へ向かい始めている。


いい。


もう少し離す。


十分な距離になったところで、俺は槍の柄を地面へ軽く打ちつけた。


音に反応し、ガロウが一気に駆け出した。


速い。


だが、森で戦った大型獣ほどではない。


真正面から来る。


俺は少し横へ動く。


ガロウも進行方向を変えた。


思ったより曲がれる。


直線だけの突進ではないらしい。


槍先を低く構える。


狙うのは頭ではなく、前脚の後ろ。


近づいてくる。


三歩。


二歩。


一歩。


俺は半歩横へずれながら槍を突き出した。


手応え。


肩の後ろへ入った。


その瞬間、ガロウの勢いが槍を通して両腕へ伝わる。


止めようとはしない。


身体ごと横へ逃がす。


獣が俺の横を通り過ぎ、そのまま数歩先で倒れた。


しかし、すぐに起き上がろうとする。


浅かった。


俺は距離を詰める。


今度は急所を意識して突く。


一撃。


身体が大きく震えたあと、動きが止まった。


呼吸を確認する。


終わった。


森では何度も経験したことだ。


だが今回は食うためではない。


依頼された対象を、仕事として倒した。


僅かに違う感覚が残る。


それでも、その場で感傷に浸っている場合ではなかった。


血の匂い。


鳴き声。


残りの群れが反応する可能性がある。


俺は周囲を確認してからナイフを抜き、討伐証明に必要な牙を一本だけ外した。


◇


牙を布へ包んだところで、離れた場所から低い鳴き声が聞こえた。


顔を上げる。


残っていたガロウのうち二頭が、こちらへ向かってきている。


血の匂いに反応したのか、仲間の鳴き声を聞いたのかは分からない。


最初から一頭ずつ引き離し続けられるほど、都合よくはいかないらしい。


俺は槍を持ち直した。


二頭。


一頭より危険なのは分かる。


ただ、依頼を達成するならあと二頭必要だった。


ここで試す価値はある。


無理だと思えば退く。


後ろにはガルドとリシェルもいるが、最初から助けてもらう前提では意味がない。


二頭は真っ直ぐ並ばず、僅かに左右へ広がりながら近づいてくる。


意外と面倒だ。


片方だけを見れば、もう片方が視界の外へ回る可能性がある。


俺は後ろへ下がりながら周囲を確認した。


少し離れた場所に、畑の境界を示す低い石積みがある。


使える。


二頭の間に障害物を挟めば、同時に攻撃される可能性を減らせる。


俺は石積みの方向へ移動した。


先に一頭が加速する。


もう一頭は少し遅れている。


石積みを挟むように動く。


先頭のガロウが進路を変える。


後ろの個体も別方向から回り込もうとする。


完全には分断できない。


それでも、到達する時間はずれる。


先頭が来る。


俺は槍を突き出した。


避けられる。


ガロウが身体を捻り、槍先の外側へ抜けた。


思ったより素早い。


深追いしない。


すぐ槍を戻し、石積みの反対側へ移動する。


二頭目が来た。


挟まれる。


俺は低い石積みへ片足を掛け、そのまま向こう側へ越えた。


ガロウは飛び越えず、左右へ分かれて回り込む。


数秒。


それだけで十分だった。


先に回ってきた一頭へ正対する。


低く構える。


今度は突進が始まる前に動いた。


前へ半歩。


槍を胸へ向ける。


ガロウも加速する。


ぶつかる直前。


俺は身体をずらし、槍を押し込んだ。


深い。


獣が暴れる。


無理に押さえ込まない。


槍から手を離し、横へ逃げる。


ガロウは槍を刺したまま数歩進み、そこで崩れた。


すぐに次を見る。


もう一頭が来る。


武器は倒れた個体に刺さったままだ。


簡易ナイフ。


腰から抜く。


だが、短い。


正面から受けるには危険すぎる。


俺はさらに石積みを使って距離を取る。


ガロウが追う。


速い。


逃げ続けても状況は良くならない。


槍を回収する必要がある。


俺は倒れた個体の横へ回るように動く。


追ってきたガロウとの間に死体を挟む。


一瞬。


足が止まった。


その隙に槍へ手を伸ばす。


引き抜く。


間に合った。


ガロウが死体を越えてくる。


近い。


俺は槍を十分に引けない。


長さが邪魔になる。


実力確認のときと同じ。


握る位置を変える。


短く持つ。


ガロウが頭を低くする。


牙。


俺は横へ避けながら、槍の後端を首の横へ叩き込んだ。


致命傷にはならない。


だが、軌道がずれる。


獣が俺の脇を抜けた。


すぐに距離を作る。


振り返ったガロウが再びこちらを向く。


俺も槍を構え直した。


今度は十分な間合いがある。


突進。


待つ。


早く出しすぎない。


引きつける。


一歩。


さらに一歩。


牙が届く直前。


横へずれ、槍を前脚の後ろへ差し込む。


手応え。


深い。


ガロウが数歩進み、そのまま倒れた。


俺はすぐに近づかない。


動きを確認する。


一頭目。


二頭目。


どちらもまだ僅かに動いている。


必要なら止めを刺す。


仕事だからこそ、中途半端に苦しませる理由はない。


俺は順番に確認し、まだ息のあった一頭だけへ最後の一撃を入れた。


◇


呼吸を整える。


腕が少し重い。


最初の一頭と合わせて三頭。


依頼数は達成した。


残りの二頭を探す必要はない。


俺は林の方へ目を向けた。


姿は見えない。


戦闘の音で逃げたのかもしれないし、茂みの奥からこちらを見ている可能性もある。


追わない。


今回の仕事は三頭の討伐。


さらに倒せば報酬が増えるのかもしれないが、その条件は聞いていない。まして危険な林の奥へ入るなと明確に注意されている。


仕事を達成したあとで、余計な欲を出して危険へ近づく理由はなかった。


俺は三頭から討伐証明の牙を一本ずつ取り、数を確認する。


三本。


依頼どおりだ。


そこで背後から足音が近づいてきた。


ガルドとリシェルだった。


二人とも戦闘中は手を出さず、かなり離れた位置から見ていたらしい。


リシェルはまず俺の身体を見る。


怪我を確認しているのだろう。


俺は両腕を軽く動かし、問題がないことを示した。


実際、目立った傷はない。


ガルドは倒れたガロウを順番に確認したあと、俺が持っている牙へ目を向ける。


三本。


俺が示す。


ガルドが頷いた。


そして何か短く言った。


すべては聞き取れない。


ただ、その中に覚えた言葉がある。


良い。


さらに、林。


行かない。


依頼。


終わり。


たぶん。


三頭倒したあと奥へ追わなかったことを言っている。


俺が林を指し、首を横へ振ってから牙を三本示すと、ガルドの口元が少し緩んだ。


合っているらしい。


「必要な分だけでいいだろ」


日本語で言う。


意味は通じない。


それでもガルドはもう一度頷いた。


◇


問題が一つ残った。


倒したガロウの死体だ。


牙だけ取って置いていくのか。


肉や皮に価値があるのか。


俺には分からない。


俺が死体を指して首を傾げると、ガルドが説明してくれた。


全部は理解できない。


ただ、畑。


人。


持つ。


金。


いくつか拾える。


そこへちょうど遠くから二人の男が近づいてきた。


農作業をしていた者たちらしい。


倒れているガロウを見ると、何かを話しながらこちらへ来る。


ガルドが対応する。


男たちは俺の方も見た。


一本角で一度視線が止まったが、すぐにガロウへ戻る。


会話のあと、二人が獣の脚をまとめ始めた。


持っていくらしい。


少なくとも放置するわけではないようだ。


使える部分があるのか。


農家側で処理する決まりなのか。


今は分からない。


だが、牙だけ取って死体を捨てるよりは納得できる。


男の一人が俺へ何か言った。


聞き取れたのは礼を示す言葉だった。


俺も同じ言葉を返す。


発音はまだ向こうの方が自然だ。


それでも通じた。


男が笑う。


俺も軽く頭を下げた。


討伐したことで。


畑を使う誰かが助かる。


報酬だけを見ていたときより、この仕事の意味が少し分かった気がした。


◇


探索者協会へ戻ると、受付へ木札と金属板、それから三本の牙を提出した。


女性が一本ずつ確認する。


大きさ。


形。


根元の状態。


それから何かを書き込み、三本を別の箱へ入れた。


問題はないらしい。


続いて報酬が用意される。


これまで受けた採取依頼より明らかに多い。


危険がある分。


報酬も高い。


分かりやすい仕組みだ。


俺は硬貨を受け取った。


そこで受付の女性が何かを言った。


一度では分からない。


リシェルが横からゆっくり言い直してくれる。


ガロウ。


三。


良い。


さらに知らない言葉。


ガルドも一言加える。


どうやら依頼そのものは問題なく完了したらしい。


俺は金属板を受け取る。


これで。


初めての討伐依頼も終わった。


協会を出る前、掲示板へ目を向ける。


以前より分かるものが増えている。


採取。


荷運び。


討伐。


まだ文字を完全には読めないが、絵や数字、覚えた記号、依頼の形式を組み合わせれば、ある程度まで内容を推測できるようになってきた。


当然。


推測だけで依頼を受けるつもりはない。


分からないところは聞く。


読めるようになるまでは、それが必要だ。


だが、少し前まで何も分からなかったことを考えれば大きな進歩だった。


◇


協会を出ると、すでに日はかなり傾いていた。


俺は歩きながら、今日の戦闘を思い返す。


ガロウそのものは強敵ではなかった。


一頭なら、それほど苦戦しない。


だが二頭になれば状況は変わった。


位置。


障害物。


武器の間合い。


一頭を攻撃している間に、もう一頭がどこへ動くか。


森で大型獣と戦ったときとは、また違う難しさがある。


そして。


一番重要だったのは。


五頭いたからといって。


全部倒す必要はなかったということだ。


依頼は三頭。


林の奥へ入るなという注意もあった。


なら三頭で終える。


戦えるから戦うのではない。


必要だから戦う。


必要がなくなれば止める。


単純なことだ。


だが。


探索者として長く生きるなら。


こういう判断の方が、強さより重要になることもあるのかもしれない。


俺は腰の袋へ手を当てる。


中には今日受け取った報酬が入っている。


採取より危険だった。


その分だけ金も増えた。


このまま依頼を続ければ。


宿代と食費だけでなく。


装備にも金を回せる。


俺は手にしている槍へ目を向けた。


森で作った。


大顎を先端へ取り付けた。


ここまで生き延びるのに役立ってくれた武器だ。


ただ。


今日の戦闘で改めて分かった。


長さ。


重心。


耐久性。


人間が作ったまともな槍と比べれば、改善できるところはいくらでもある。


服も同じだ。


防具らしい防具は何もない。


靴も。


荷物を運ぶ道具も。


探索者として仕事を続けるなら、今の装備のままでは限界が来る。


金の使い道が。


少しずつ変わってきた。


食べる。


寝る。


それだけではない。


より安全に働き。


より確実に帰ってくるために使う。


必要なものを買う。


それも。


生きるための投資なのだろう。


俺はリュネールの通りへ目を向けた。


武器屋。


防具屋。


道具屋。


町へ来た初日は、何が売られているのか眺めるだけだった店がいくつもある。


明日は。


仕事を受ける前に。


少し見て回ってもいいかもしれない。


自分で稼いだ金で。


自分が使う道具を選ぶために。

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