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与那国島レーダーサイト


 今日の深夜ローテは若手のオペレーターである三島とベテラン古賀だった。彼らは画面に映し出された数え切れないほどの航空機の情報を細かくチェックしていた。


 突然、三島の目が一つの異常な信号に止まる。台湾東方の公海上空、東経123度、北緯24度、高度12,000メートルの位置に、予期せぬ反射信号が表示されたのだ。


 信号は明らかに大型機を示していたが、その識別コードが欠落していた。三島は即座に疑念を抱き、指先でスクリーンを拡大しながらデータをさらに確認する。周波数解析や飛行パターンの照合を試みたが、どれも一致するものがない。これが何か通常とは異なるものであることは明白だった。


「古賀さん、ちょっとこちらを見てください。」三島は、隣のデスクで作業をしていたベテランのオペレーター、古賀に声をかけた。古賀はその呼びかけに素早く反応し、三島のスクリーンを覗き込む。


「東経123度、北緯24度、高度12,000メートルで、大型機が確認されましたが、識別コードが見当たりません。」三島は報告しながら、解析データを古賀に見せた。


 古賀は数秒間画面を凝視し、すぐにその異常性に気づいた。彼は冷静な口調で答えた。「これはIl-76だ…。ロシア製の輸送機だ。こんな高高度で、しかも識別コードがない。これは単なる民間機とは考えられない。」


 古賀は、自分のコンソールでさらに詳細なデータを引き出し、飛行パターンを確認し始めた。彼の指はすばやく動き、レーダーの周波数と高度の変化を丹念に追跡していく。画面に表示されたデータは、異常な飛行が進行中であることを示していた。


「スクランブルの準備が必要かもしれないな。」古賀は三島にそう言うと、直ちに上級オペレーターへ報告するために、無線機を手に取った。


 これで今月入って、4回目の国籍不明機の防空識別圏への進入事案だ。今年はこれで、累計この与那国島レーダサイトのエリアだけでも、80回を超える。三島にとっては、感覚的には「またか」という気もしなくもなかった。


 ところが、今回の三島の感覚は大きくはずれることになった。


 探知から5分後、三島がモニターするレーダースクリーン上で異常な動きが検出されたのだ。大型輸送機Il-76のシグナルから、複数の小さな反射信号が分離し、画面上に新たな軌跡を描き始めた。

これまで安定して飛行していた輸送機から、予期しない動きが発生したことで、レーダールーム内の緊張が一気に高まった。三島から報告をうけた古賀も、画面に目を凝らし、瞬時に状況を把握しようとした。


「何だこれは?」古賀は冷静さを保ちながらも、その声には鋭い緊張が滲んでいた。

「分離信号。グライダーか?」


 三島オペレーターはモニターに集中し、分離したシグナルの詳細を解析し始めた。

古賀のモニターでもデータが次々と表示され、両者でリアルタイムで分析が進む。


古賀が興奮を抑えながらも、緊急連絡網でサイトの外にいる、レーダーサイト長の橋本2等空佐に第一報を入れた。


「サイト長、緊急報告です。22:20分、東経123度、北緯24度、高度12,000メートルで、識別コードがない国籍不明機の大型機が確認されましたが、各種解析データから、Il-76とみられます。」「問題は、22:25その不明機から、複数の小さな反射信号が分離し、画面上に新たな軌跡を描き始めました。Il-76からの発進グライダーと思われます。すでに高度を急速に下げて、滑空モードに移行しています。」古賀は一気にそこまで報告すると橋本二等空佐の指示をまった。


 しばらくの沈黙のあと、橋本レーダーサイト長は明確な指示を出した。「直ちに那覇基地および統合幕僚監部に報告する。警戒態勢を最大レベルに引き上げろ。全てのセンサーと監視機器を使って、彼らの進路を追跡せよ。」


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