陸上自衛隊 特殊作戦群 第三小隊 西表島 山中 ⑥
佐藤は、加藤と別れ、何かを引きずった痕跡に沿って、単独で、密林の中をさらに慎重に進んでいった。すでに嗅覚はそのなにかをとらえていた。腐臭だった。すぐに沢の淵にでた。彼は視界の隅に捉えたものに足を止めた。川岸にうちあげられるように、パンパンにふくらんだ人の形をした丸太状のものがあった。吐き気をこらえながら、彼は近づいた。一部焼け焦げた死体だった。特に顔面が炭のように黒く変わり果て、顔の形を留めていなかった。佐藤は、目の前が揺れるのを感じた。胃の中が激しく波打ち、彼は耐えきれずにその場で吐き出してしまった。
後ろから「おびえるな。噛みつきゃしないよ、こいつらは…」いつのまにか来ていた西村分隊長の冷ややかな声だった。
その光景を見た西村は、冷笑を浮かべながら佐藤の前にまわった。
彼の視線は死体にじっとそそがれ、まるでそこに感情など微塵もないかのようだった。
かつて傭兵として戦場で数えきれないほどの死を目にしてきた男だった。そんな彼にとって、佐藤の反応はあまりにも純粋で、兵士としてのある種の無力さを感じさせるものだったのだろう。
佐藤は苦しそうに顔を上げ、西村分隊長の言葉を受け止める。分隊長の言葉は、自分がまだこの戦場において無知であり、弱い存在であることを痛感させるものだった。
敵も死ねばおとなしいさ…」西村は軽蔑するように吐き捨てる。「ただ、仲間によってほうむりされれるってのは少し気の毒だな」ととってつけたように少しおどけたように付け加えた。彼にとっては、命を奪うことが日常であり、それが持つ重みを感じることはなかった。彼にとって戦場は、倫理も、情けも通用しない場所だった。
佐藤はその言葉に、恐怖と怒りが入り混じった感情を覚えた。しかし、彼は何も言い返すことができなかった。
西村の背後には、傭兵としての数多くの戦場での経験があり、その経験が彼を冷酷で強靭な兵士にしていた。そして、佐藤はその現実を、重く、苦い形で受け入れざるを得なかった。
佐藤分隊長はふと軽く鼻で笑い、すでに周囲に集まってきていた、分隊の面々に目をやる。「さあ、行くぞ。ここで立ち止まっている暇はない。」彼は冷淡に命じた。佐藤は、体を震わせながらも、その背中を追うしかなかった。
ジャングルの闇の中、死の匂いを背に、彼らは再び進み始めた。戦場は、彼らの心を冷たく、無情に変えていく場所だった。




