陸上自衛隊 特殊作戦群 第三小隊 西表島 山中 ⑤
「加藤 2等陸曹 あそこの樹林下を確認してこい」
最後尾についていた、加藤2陸曹は、西村分隊長に犬にでも言うように命令された。
「支援はないのかよ」加藤はわざと西村に聞こえるようにつぶやいた。
「佐藤 お前が援護しろ」加藤はそれが聞こえたのか、同様の冷たいトーンで佐藤に命令した。
「ほぼ、佐藤は新兵だろう。それは酷じゃねぇか」加藤は今度ははっきりと西村分隊長に聞こえるように 毒づいた。
が、それ以上ごねることもなく、背中の背嚢に差し込んでいた短銃身のセミオートマチックのショットガンベネリ M4 スーパー90を抜き出し、胸前で構えて腰をかがめながらそのほうへと近づいていった。
佐藤も、その後に続いた。
樹林は、濃密な湿気と無数の生命の音に満ちていたが、何よりもその場の空気を支配していたのは死の匂いだった。おそらくこの匂いに西村分隊長の動物的嗅覚が「なにかいる」と反応したのだろう。
やがて先頭を行く加藤はすぐに何か異様なものに気づいた。密林の中で微かに漂う、焦げた臭い。彼はその臭いを辿りながら慎重に進み、やがて小さな空き地にたどり着いた。
そこには、何かが焼かれた跡が残されていた。焦げた地面、中央にはわずかに残った黒い塊。手袋をした手でその灰をそっと拾い上げた。灰の中には、完全に燃え尽きていない、炭化した何かが混じっているのを感じた。
加藤はその場にしゃがみ込むと、焦げた地面に目を凝らした。わずかに残された黒い塊は、通常の焼け跡とは異なる異様な存在感を放っていた。指先で慎重にその塊を拾い上げると、微かに伝わる硬さがあった。
灰は細かく、風に吹かれるとすぐに飛び散りそうなほどだったが、その中には、完全に燃え尽きていないものが混じっているのが分かった。加藤は手に取った炭化した塊は、細長く、不規則な形をしているのに気がついた。彼はそれをじっと見つめ、徐々にその正体に気づき始めた。
彼は深く息を吸い込み、再び周囲の地面に目をやった。焦げた地面には、不自然に黒く変色した部分が広がっていた。焼け跡は円形に広がり、その中心が最も深く焦げていた。そこには、骨や皮膚、そして他の有機物が燃やされてできた炭化物が、わずかに残されていた。
「これは…骨か…?」彼は心の中で呟いた。
塊の一部が白っぽく、他の部分よりも硬い感触があった。それは明らかに、完全に燃え尽きることなく残った骨の一部だった。さらにその表面には、焦げ付いた皮膚や筋繊維の残骸がわずかに付着している。皮膚は高温で縮れ、もはやその元の形状を認識できないほどに焼け焦げていた。
加藤はそれをそっと手のひらに置き、さらに詳細に観察した。骨の断片は細く、関節部分のように見える突起がかすかに残されていた。これは、指や手の一部である可能性が高いと彼は判断した。その周囲の灰には、焼けた布の微細な繊維や、衣服の金属部分が溶けてできた小さな塊も見つかった。
「これは…人間の遺体の一部だ」彼の脳裏に、身元を隠すために意図的に遺体を焼いた光景が浮かび上がる。
彼は立ち上がり、周囲をさらに慎重に見渡した。地面には何かを引きずった痕跡、が薄っすらと残っている。もう一体処理しているのか。少なくとも、ここで人が処理された証拠に違いない。加藤は訓練を通じて、焼却の跡を嗅ぎ分け、かすかな痕跡を探し出す技術を身につけていたが、この光景には背筋が凍るものを感じた。
加藤は通信機に手を伸ばし、静かに報告を入れる。「こちら加藤、焼却痕を発見。遺体の一部と思われるものが残っている。敵が証拠隠滅を図った可能性が高い。現場は注意深く捜索中…」
報告を終えると、再び現場を慎重に調べ始めた。炭化した残骸の中に、わずかに残された金属片や、焼き焦げた布の切れ端を見つけた。すべてが完全に消されたわけではなかった。彼はそれを拾い上げ、ポケットに慎重に収めた。




