陸上自衛隊 特殊作戦群 第三小隊 西表島 山中 ④
片倉 剛 射撃手 一等陸士
「くそくらえだ」と炎城分隊長は吐き捨て、無線機のトークスイッチから手を放した。胸の内に込み上げる苛立ちを抑えられなかった。「あんなド素人の士官の命令をまともに聞いていたら、命がいくつあっても足りやしない。」
周囲を見渡しながら、両サイドに展開している風見陸士長と鬼塚一等陸士に向けて声を落とした。「敵がいるとしたら、今まさに推定危険区域に足を踏み入れたところだ。足元を注意しろ。何が仕掛けてあるか分からない。」
彼らの目が静かに頷いたのを確認すると、炎城はすぐに分隊系無線でポイントマンの剣崎にも同じ指示を送った。その指示はまたたく間に、ハンドシグナルを通じて機関銃手の烏丸とその助手の暁月にも伝わっていった。声には冷静さを装ったが、内心の恐怖は拭えなかった。地雷や罠が、この先の道を封鎖しているかもしれない。実戦を経験してきたからこそ感じる恐怖が、じわじわと体を締め付けてくるのが分かった。
突然、左側方に違和感が走った。炎城はすぐさまハンドシグナルで風見と高橋に停止を命じ、無線でポイントマンの剣崎にも同様に停止と左後方の警戒を指示した。心臓の鼓動が激しくなるのを感じながら、炎城は周囲を獣のように鋭く警戒した。後衛を務める片倉一等陸士がロザリオに手を伸ばし、その後、彼が銃のマガジンを抜いてヘルメットで叩きつけ、再装填する音がかすかに聞こえた。
周囲を見渡す彼の目には、疑念と不安が渦巻いていた。見えない敵が確実に潜んでいると感じながらも、それがどこにいるのかを見定めることができない。その不確かさが、さらに警戒を強める。
森の奥深くに目を凝らし、何かを見つけようとする。空気が一瞬にして張り詰め、他の兵士たちも息を飲んで炎城の動きを見守っていた。
密林の中では、風が微かに葉を揺らす音だけが耳に届く。炎城は、自分の手が銃を握る力で震えているのを自覚した。汗で滑るグリップを握り直し、次に何が起こるかを必死に予測しようとしたが、この密林ではすべてが予測不能で、致命的だ。
風が一瞬強く吹き抜け、木々の間にざわめきが走った。その音に反応して、兵士たちは一斉に銃を構え直す。心臓が早鐘のように打ち、緊張がピークに達した。しかし、その風が通り過ぎると共に、再び静寂が戻る。
炎城は、仲間たちを見渡した。「風見、高橋、側面を守れ。」彼らの間には無言の理解があり、言葉少なにその指示が伝わっていった。
「確かに、何かが…いる…」炎城は低く囁いた。




